fate/Tiba-si night   作:d d

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彼と彼女達の行く末は未だ知れず

「あら、遅刻とはいい度胸ね」

教室に戻ると既に雪ノ下は席についていた。

「特に時間は指定してなかっただろ、俺は悪くない」

「はあ、まあ良いわ。それじゃあ説明を再開するわね」

俺が席につくと雪ノ下は直ぐに話し始めた。

「まずはサーヴァントの性能について、サーヴァントの能力は大きく分けて基礎能力、スキル、そして宝具の3つ。全て各サーヴァントの逸話が元になっているけれどスキルは呼び出されたクラスの、基礎能力は呼び出したマスターの影響を受けるわ」

「宝具って何だ?」

「宝具はそれぞれの英雄が持つ奥の手よ、その分魔力を消費するから使いすぎるとマスターが干からびて死ぬわ。セイバーを召喚して気を失ったでしょ、それの酷い状態ね」

マジかよ、あれってそんなヤバイ状態だったのか。

「次に…唐突だけれど貴方サーヴァントに自力で勝てると思う?」

「無理だな」

即答だった。それほど目にした訳ではないが、それでも廃工場での出来事は俺の目に焼き付いている。

「そうね、たいへん遺憾だけれどそれは私も…いえ、貴方よりはましだけれど、弱ったサーヴァントなら倒せないこともないけれど、概ね…、大概…、まあ、同じね」

どんだけ認めたくないんだよ。雪ノ下は地獄の釜で茹でられているかのような苦悶の表情を浮かべていた。

「けれどそんなサーヴァントにも弱点がある、何だかわかるかしら?」

「まあ今までの話からするとそれも逸話が関わってくるんだろ?有名なところだとアキレス腱とか弁慶の泣き所とか」

「一つは正解。もう一つは?」

もう一つ、頭をひねるが答えは全くわからない。

「答えは……マスターよ」

とたん室内の温度が急激に下がったような錯覚に襲われる。

雪ノ下の氷のような視線が俺を刺しているからだろうか。

サーヴァントを呼び出したのがマスターなら、それが重要な鍵になっていることは想像に難くない。何故そんなことに思い至らなかったのか。いやそうではない。俺は恐らく考えないようにしていたのではないか。

雪ノ下の瞳はそれを見透かしているようだった。

そんな俺の動揺も意に介さず雪ノ下は説明を続ける。

「サーヴァントはマスターから送られてくる魔力によって活動している。そしてマスターはサーヴァントを現代に繋ぎ止めておく楔でもある」

だからマスターが弱点になる。サーヴァントに勝つのが難しい以上マスターが優先的に狙われるのは必然だ。恐らく俺はマスターの中では最弱、そうなったとき俺は文字通りお荷物でしかなくなる。

「けれど一蓮托生というわけでもないの。どちらか一方が敗退しても残ったもう一方は他の契約者を探して復帰することはできる」

思っていたよりはサーヴァントとマスターの繋がりは希薄であるらしい。つまりセイバーにとって俺は必ずしも必要ではないということだ。

「…ちょっと待て、サーヴァントはマスターの死後も活動するのか?」

「当然でしょう?サーヴァントも聖杯を求めているのだから。何の為に貴方のような浅はかな素人の下につくと思ってるのよ」

召喚されたら主を守るものだと思っていたがサーヴァントも一人の個人として戦いに参加しているのだ。

過去の英雄達が必ずしもハッピーエンドを迎えた訳じゃない。失意の中に生涯を閉じたものもいる。

きっとセイバーもその中の一人なのだ…。

正直そうまでして叶えたい願いなんて俺にはすこしもピンとこない。時代や立場が変われば常識も変わっていくので理解しようというのがそもそもの間違いなのかもしれない。

しかしあくまで目的のために俺を利用しているのならこっちも事務的に付き合えばいい。ようやくセイバーとの接し方がわかった気がする。

「じゃあ、マスターを裏切ることもできるんだな」

先程の二者共立的なルールは俺のように弱者側のマスターにとってはサーヴァントに利があるように思える。

さっさと乗り換えてしまいと思うのが当然である。

「そうねけれどマスターにもサーヴァントを制御する為の力が与えられるわ、手の甲に赤い痣のようなものができているのに気づいたかしら?」

「ああ」

「それは令呪といって三回だけサーヴァントに強制権を行使できるのよ」

何だその薄い本が厚くなる能力は。たいへん良いですね。ゲヘヘ。

「卑劣な妄想をしているところ悪いけれど、セイバー、ランサー、アーチャーの三騎士は魔術に対して耐性を持っているから貴方程度の力じゃ直ぐ切られて死ぬんじゃないかしら」

べ、別に妄想何かしてねぇーし。そんな大事な力を性欲処理の為に使うわけないだろ。ハチマンウソツカナイ。

「けれど令呪はサーヴァントを抑制するだけではないわ、刹那的で具体的であるほどその効果は強くなる。一時的にならサーヴァントとしての能力を上回る事もできる。どう使うかは貴方次第ね」

「ああ、そうするよ」

「話は以上よ、何か質問はある?」

しばし頭をひねり、比較的重要度の高い質問をぶつける。

「魔力…を他所から持ってくる方法は無いのか?」

サーヴァントの活動には魔力を消費する。ならたくさんあるに越したことはない。

だがこの質問はヤブヘビだったらしい。雪ノ下の視線の温度が急激に落ちていく。

「無いことは無いわね」

しかし質問には肯定を返す。

「サーヴァントに人の魂を喰わせればいい」

成る程、冷たい視線の理由はこれか。

「けどこの方法はお勧めしないわ」

「どうしてだ」

「もし関係ない人を襲えば、私が始末しに行くから」

自信と覚悟に裏打ちされた一匙も疑問を抱かせない声。魂を喰って魔力を補充した敵をそれでも正面から切って落とすというのだから相当なものだ。

だが今回ばかりはそんな強情さが儚く思える。

「こんな殺し合いをしてるのにか?」

「勘違いしない方が良いわね、これはあくまで私の信条だから。他のマスターはそこまで甘くないわよ」

こいつ、自分を甘いと評するのか。実際甘いのだろう。それは隙に他ならないのだから。

「わかった、質問はもうない」

すると雪ノ下はスカートの裾を払って姿勢を正し直す。

「それではこちらから質問よ、貴方本当にこの戦いに参加する意思はあるの?」

「…そんなこと聞いてどうするんだ?」

「もし貴方が望むならセイバーさんを引き取っても良いと言っているのよ」

成る程、合点がいった。どうやらこの交渉をするために今日の説明は在ったらしい。律儀なもんだな。

だがこの申し出には疑問もある。

「雪ノ下、お前もマスター何だろ?」

「ええ」

「なら既にお前はサーヴァントを従えているはずだ」

そして恐らく聖杯を手に出来るのはどちらか一人だけ。

「最後まで生き残ったら一騎討ちで決めてもらうわ。セイバーさんもそれで問題ない筈よ」

引き取った上で始末するのではなく、あくまで協力するのが目的なのか。

どうやら雪ノ下はセイバーの性格を多少知っているらしい。

今の言い方だと一騎討ちに挑まないのかと挑発しているようにも聞こえる。

もしセイバーがこれを受け入れるのなら俺が拒む余地はない。

「オレはお前らとは組まねぇぞ」

突然横に現れたセイバーが雪ノ下の勧誘を断った。

良かった、格好は朝の鎧姿だ。

もし小町の制服で現れたらさらに話がややこしくなっていたところだ。

「その男につくメリットが貴方には無いと思うのだけれど?」

雪ノ下の言う通りだ。俺の方が勝っている点など正直思いつかない。

いったいどんな理由で誘いを蹴るのかと、俺は次の言葉を神妙な心持ちで待つ。

「セイバーさんとかいう呼び方が気に入らないからだ」

何だそれは。これを聞いた雪ノ下もだいぶ腹に据えかねたようで、まるで燃えるがごとく剣呑な眼差しでセイバーを睨み付けている。

「貴方の意見は聞いてないわ、比企谷君、貴方が令呪を使えば済むことよ」

何故かその剣先が俺に向けられた。いや完全にセイバー話してましたよね、雪ノ下さん?

「おい、令呪を使いやがったら殺すぞ」

そしてセイバーまでもが俺を問い詰めてくる。

まさに前門の虎(雪ノ下)後門の狼(セイバー)だ。

「そしたら貴方のマスターはいなくなるわね、私はそれでも構わないけど」

いやいや良くねーよ、どっちにしろ俺は死ぬんですけど。

二人の視線が同時に俺を突き刺す。針の筵とはこの事か。ハチマンオウチカエリタイ。

「…悪いが雪ノ下、セイバーは渡せない」

結局、俺にはこう答えるしかなかった。

「そう…、やっぱりサーヴァントの考える事はわからないわ」

そう言って雪ノ下は溜め息をつく。大丈夫だぞ、俺もわかんねーから。

「それでどうするんだ、ここで戦うのか?」

交渉は決裂した、なら俺と雪ノ下はただの敵同士だ。

「戦闘はさけるのが平塚先生とセイバーのマスターを紹介する時の約束よ、そっちがその気なら私は構わないけれど」

平塚先生に目配せする。先生は申し訳ないというジェスチャーをしていたが、今日の説明があっただけでも万々歳だ。

「どうする?マスター」

「いや、今はやめておこう」

この教室はいわば雪ノ下のホームだ。何が仕掛けてあるかわからない。

「それじゃあな、説明は素直に感謝してる」

「強者が弱者に施しを与えるのは当然でしょう?」

ノブリスオブリージュとかいうやつだったか。雪ノ下はフフンと微笑む。なまじ顔が整っているものだからとても様になっているように見える。

「お前、友達いないだろ」

「そうね、まず友達の定義をはっきりさせてくれるかしら?」

「もういいわ、それは友達いない奴の台詞だ」

ソースは俺。

俺と雪ノ下はそのまま睨み合う。

しかしそれもほんの数秒のことで俺は踵を返し教室を後にしようとする。

「せいぜいセイバーの影で怯えていることね」

「初めからそのつもりだ」

その憮然とした態度が妙に清々しささえ感じさせる。

こんな争いが無ければ、もしかしたら、とそんな事まで考えてしまう。

が、自らの考えを否定する。

それならこの出会いすら無いのだから。

そのまま俺は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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