学校から家へと帰り、自室のベッドへと横たわった。マットレスに体を預けると体のあちこちが重いことに気付く。
どうやらあの短時間でだいぶ疲れたようだ。
雪ノ下雪乃、総武高校一の美少女にして秀才、そして7人のマスターにうちの一人である魔術師。
ふと、伸ばした腕の手の甲を見た。そこにはセイバーとの主従の証である令呪が、まるで初めからそこにあったように肌に馴染んで刻まれている。
弓形に中央が膨らんだ線が3つ、円を画くように連なっている。これは全員同じなのだろうか?それとも何か意味があるのか。
「お兄ちゃん、いる?」
「ああ」
ドアを叩く音がして、次に妹の小町の声が聞こえてくる。返事をすると直ぐに制服姿の小町が入ってくる。
ハッと、ここで小町は昨日の事をどう理解しているのかと疑問に思う。
しかし朝食を用意してくれていたところをみると問題ないようにも思える。
「どお?サンドイッチ美味しかった?」
あれはサンドイッチだったのか。
「ああ、小町の愛情がこもってるものが不味いわけないだろう」
「え、そっそかー。じゃあ小町戻るねー」
どうやら特に気にしてはいないようだ。
「期限きれそうなやつを処分しただけって言ってたぞ」
ついでセイバーが霊体化を解いて部屋に現れる。
何で誰も幸せにならない事を言うかなーこいつは、俺も薄々気づいてたけど。
そしてセイバーはあいも変わらず小町の制服を着ていた。
「なあ、それ脱いでくれないか?傷とかつくと困るし」
するとセイバーはいきなり目の前で脱ぎ出した。
まあ、騎士何て男社会だろうし特に気にしないのかもしれない。
だが俺は現代を生きる思春期の高校生である。目の前でストリップショーでも始められたものならもう色々といたたまれない。
「セイバー、その、お前は気にしなくても俺は気になるんだが」
「あ?そりゃどういう意味だ?」
いきなり脱ぎ出したのはセイバーなのに何故か俺が睨まれる。怖い、それと怖い。
仕方ないここは紳士である俺が部屋を空けよう。別にビビった訳ではない。中学レベルの体に興味ないからだ、俺はロリコンじゃないからな。全く世話のかかるサーヴァントだぜ。
一度部屋を出てmaxコーヒーを飲みながら時間を潰し部屋へと戻る。
既にセイバーは着替えを終えていて妙に露出の高い服を着ていた。あんまり変わらねえじゃねえか!?
「これでいいんだろ?服は返してきてやったぞ」
確かに俺が小町に服を返すと色々と面倒だ、そういうところは気が利くらしい。
しかし肝心なところに届いていない。いやむしろ肝心な所しか隠れていない。しかも俺のベッドに座っている。
しかし繰り返すが俺は女子中学生に興奮するロリコンではない。
意を決して俺はセイバーの隣に腰を降ろす。
そこにあったのは女の子の肌だった。
成る程剣士のクラスだといわんばかりに鍛えられてはいるものの、そこにはシミ一つなく、しっとりと瑞々しさを感じさせるはりにあふれ、透き通るように美しい。
そして胸部には、小さいながらもしっかりとした膨らみが見てとれる。しかしその肉感に吸い寄せられるように視線を動かしても、もはや宿命といわんばかりに申し訳程度のサイズの布が双丘に股がって横たわっており、頂上を目指す俺の前に立ち塞がっていた。
「何だ?精神攻撃か?」
セイバーの剣を抜く動きに俺の思考が引き戻される。
「いや、少し疲れてるだけだ」
危ない、危ない。ついセイバーの体に意識を奪われてしまった。きっと疲労のせいだろう。ていうか精神攻撃だったら切るつもりなのかよ。
早急にセイバーの服を用意しようと俺は決意した。
「それで、これからどうすんだ?」
「作戦会議だな、俺の魔術師としての素養はどんなもんだ?」
「雑魚も雑魚、全力の30%位しか出せねえ」
マジかよ、期待はしてなかったがそこまでとは。
「お前よくそれで雪ノ下の誘いを断ったな」
「二度は言わねえよ」
呼び方が気に入らない、こいつはそんな理由で優劣をひっくり返してしまう奴なのだ。
「お前ホントに聖杯がほしいのか?」
「勘違いすんなよ、オレはオレのやりたいようにするだけだ」
いつものようにものすごい剣幕で睨まれる。
雪ノ下はサーヴァントは聖杯の為に戦っていると言っていたが案外そうでも無いらしい。それは雪ノ下が嘘を言っているわけではなく、きっとあくまで前提の一つだということだ。
しかしだとすれば聖杯という目標がわかっていれば、接しやすいと思っていた俺にとってはだいぶ痛い事柄になる。
「そう言うお前はどうなんだ?巻き込まれただけなんだろ?」
セイバーは俺の覚悟の程を聞いているのだろう。「ちょっと男子、真面目にやりなさいよー」のもっと酷いバージョンだ。
「そのままだ、巻き込まれたから、死にたくないから戦う」
叶えたい願いなんて俺にはない。細かいものならいくらでもあるが、それでこの戦いに興じようなんて死んでも思わないだろう。
「そうかよ」
セイバーのぶっきらぼうな返事は俺にその心境をよませない。
はたしてこの回答が正解だったのか否か、いずれ自分の身で確かめることになるかもしれない。
例えば今もっとも身近に控えている問題は俺のマスターとしての(ここ重要)スペックが低いことでセイバーが満足に力を発揮できない事だ。であれば魂食いなるものをしなけれなならないかもしれない。お前の魂いただくよ!
「セイバー、魂を喰うと食われたやつはどうなるんだ?」
「程度にもよるが、全部食えば死ぬ少しなら一日眠るくらいで、回復もする」
雪ノ下の言うことがどの程度を指すのかわからないが、あまり悠長に進める余裕はなさそうだ。
「した方が良いと思うか?」
「マスターはお前だろ?」
俺が決めろということか…。殺人は普通に犯罪だし、雪ノ下を敵に回すのは痛い。何より俺は自分のために戦っている、彼の者は言った「撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ」と、しかしこちらが先に撃って、尚且つこっちにはサーヴァントがいる状況で、はたして撃たれる覚悟があると言えるのだろうか?
「セイバー、さん付けで呼ばれるのと魂喰うのどっちが嫌だ?」
「あ?ちっ、いけすかねえ奴。あの根暗そっくりだな」
何だよ、そっちだって質問で返しただろ?あと俺は根暗じゃない、騒ぐと引かれるから静かにしてるだけだ。
「魂喰いはしねえ、なんか汚そうだし」
しかしその言い分はなんか府に落ちた。
「それじゃあ、質問は終わりだ。10時くらいになったら出るから、それまでは好きにしててくれ」
「ちょっと待て、オレの正体を聞かないのか?」
俺が部屋を出ようとするとセイバーが呼び止めてくる。
「ああ、身バレの元はなるべく減らしたいからな、戦闘はお前に任せるつもりだし」
「あっそ」
そうして一度お花つみをして部屋に戻ると俺のベッドにセイバーが眠っていた。
夜の戦いに備えて仮眠でもとろうと思ったのだが。
仕方がないので俺はカーペットの上で眠ることにした。
……………
ゆらゆらと迫る藁人形を、手に持つ剣で、足で、体でなぎ倒していく。倒すたびにバラバラに散った藁は寄り集まって、再び彼女めがけて押し寄せてくる。
前後左右、時には上から覆い被さってくる藁人形を、直感とでもいうべき反射でものの見事に打ち倒していく。
あれからどれだけの時が流れたのか、少女の身長は少しのび、体格もがっしりした気がする。
金色の髪もしなやかに延び、後ろに無造作に纏められている。動くたびにそれがゆらゆらと揺れていた。
すると突然全ての藁人形が動かなくなる。と同時に部屋に人影が入ってきた。
いや人影ではない。全身黒い鎧に包まれた一人の男騎士である。その顔は常に深いシワが刻まれている。
「人形が人形遊びとは酔狂な事だな」
「ああ?ぶっ殺されてぇのか!」
部長面の騎士は事も無げに彼女に語りかける。
「お前に報せがある。明日、城で入隊の儀が行われる。早く出世したいのならそこで結果を出すことだ。それと、それに伴って…母上からお前に贈りたい物があるそうだ、上に上がってこい」
そんなことを淡々と話すと騎士は少女の返事も聞かず階段を上がっていってしまう。
少女もケッと吐き捨てた後、階段に消えていった。
………………
揺れながら鳴るケータイを右手で制止する。
「うをぉ?!」
床で寝た筈の俺はいつのまにかベッドにいて、横でセイバーが寝ていた。例の露出過多の服で。
現在時刻は8時ちょい。
そのまま部屋を出てキッチンへと向かう。そこでは小町がエプロン姿で晩飯を作っていた。
「あ、お兄ちゃーん、もう直ぐできるよー」
「ああ」
どうやら今日は親の帰りが遅く小町が料理当番を任されているようだ。
「何か手伝うことあるか?」
「んんー?じゃあ洗い物お願い」
「あいよ」
寝起きのおぼろ気な頭に冷たい水が心地いい。
全く料理と関係無い事に思うが、こういうのはこまめに洗うのが溜めないコツなのだ、料理関係ねーな。どうやらまだ意識が起ききっていないらしい、むしろ皿洗いが適当なのだ。
包丁やらまな板やら、切った野菜を置いといた皿なんかを洗い、ついでに切れはしを捨てておく。最後にフライパンを洗って終了っと。
それで横を見やるとそれはそれは見事なカツ丼が出来上がっていた。
「何でカツ丼なんだ?」
「んー、何となく?あ、お兄ちゃんこれ持ってって、小町コーヒー容れるから」
「カツ丼にコーヒー?巷ではそんな物が流行ってるのか?」
「そんなわけないじゃん、コーヒーはお兄ちゃんの分。自分のにはお茶容れるし」
そう言ってこぽこぽお湯を注ぎ始める。まあいいけどコーヒー好きだし。
「練乳忘れんなよー」
「あいよー」
暫く待っていると小町が2つのカップを持って席につく。
「いただきまぁーす」
「いただきます」
二人でこの世全ての食材に感謝してはしを進める。
「ふふ」
「何だ?気持ち悪い」
「なんか新婚さんみたいだったなーって、あ、今の小町的にポイント高い!」
いきなり何を言い出すかと思えば、かわいいなこんちくしょう。
ポイントなら既にカンストしているまである。何に使うのか知らんが。
「バッカ、それなら料理は俺の仕事だろ、専業主夫的に」
「えー、小町の堪忍袋を掴もうなんて、百万光年早いよ」
「それを言うなら胃袋だろ、それと光年は距離の単位だ」
お前はニビジムのトレーナーか。
「やれやれ、お兄ちゃん、愛があれば言葉なんて些細な問題だよ」
「小町ちゃん、お行儀悪いわよ」
小町は手を広げてどうしようもねえなあというポーズをとってみせた、まるでおっさんである。
しかし専業主夫的には正しいのかもしれない。
俺の心は既につかまれていた!
そんなどうでもいい会話をしながらカツ丼を食べ進めていく。
「ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
「俺が洗っとくから小町は戻ってていいぞ」
「うんわかったー」
さてここからが問題だ。手早く済ませてしまおう。
部屋に戻るとセイバーは未だに俺のベッドで眠っていた。もういいや…何も考えないようにしよ。
「セイバー、メシだ」
「メシー?」
セイバーは腰を上げると目を擦りながら俺から容器を受けとる。
「なんか雑じゃねぇか?」
「しょうがないだろ、いいからさっさと食べろ」
小町に見つからないようにしないといけないのであまり手間のかかる物は作れない。
しかし一度口に入れるとセイバーは夢中になって食べ始めた。やっぱり、卵かけご飯は最高だぜ!
「うめー、やっぱ飯はこっちの方がいけるな」
そう言ってセイバーは至福の表情を浮かべる。気分は異世界転生者である。正直卵かけご飯程度でここまで満足されると恥ずかしいが喜んでいるので良しとしよう。
そんなこんなで時刻はもうすぐ10時になろうとしていた。