interlude 2-1
「くそっ、何処に行ったんだ遠坂の奴」
土地鑑のない道を目を凝らしながら走る。
ほんの数分前に拠点としている借屋から出たはずの遠坂は探せども探せども見つからない。
ひょっとすると徒歩ではなく、サーヴァントの脚力に任せてどこぞのビルの上にでも飛んでいったのかもしれない。だとするとこの間抜けっぷりを一方的に見られている可能性もあるわけだ。
そう考えて少し憤慨する。
遠坂に見られるのは今さらかまわない。
問題なのはその隣にいるであろう弓兵の存在だ。あいつにこんな姿を見られたら、きっとろくでもない嫌味を聞かされる事だろう。
「たくっ、遠坂のやつ、何もあいつを召喚しなくたっていいじゃないか」
確かにアヴァロンを彼女に返した今、今回の目的も含めてあいつが適任だというのはわかるし、今さら文句を言っても仕方ないのだが、相手が相手なのでそれも仕方がない。
「ふう、…しょうがない、戻るか」
あまり一人で歩き回るのは危険だ。今夜は夜食でも作って待っていることにしよう。
そう思い、振り返った時だった。
「お兄さん、何してるの?」
声は幼く少年とも少女とも判断できない。
けれど目の前に在ったのは肉の壁だった。
interlude out
俺はあらかじめ用意していた靴を履いて自室の窓から外に出た、勿論、セイバーに担がれる形でだ。
「でどうすんだ?」
「とりあえずこの辺を見て回るか。何処か見ておきたい場所とかあるか?」
「面白いとこ」
面白い…ちょっと遠いがディスティニーランドとか?
「本気で言ってんのか?」
「冗談のわからねえ奴だな、とりあえず高いとこ行けばそれなりに見渡せんだろ」
「じゃあ、頼む」
俺は両手をあげ万歳のポーズをしてみせる。それを見たセイバーがうへぇーと嫌そうな顔をする。
しょうがないだろ、俺も見た目女の子のセイバーに担がれるのは恥ずかしいが、この辺りの高いところなんて高層ビル位だし、一般人が簡単に出入りできるところじゃない。
そうゆうわけで俺はセイバーと夜の町を自由飛行する。これがメチャメチャ怖い。
「おい、あんまくっつくな気持ち悪ぃ」
そうしてとあるビルの屋上に辿り着く。
「どうだ?セイバー」
「人が蟻んこみてえに多いな。よくこんなとこで聖杯戦争なんざ開こうと思ったもんだ」
確かに夜中といっても人影は絶えることはない、むしろ昼より夜の人口密度が高いベッドタウンであるここ千葉はこれからこそ人が帰ってくる時間帯である。
魔術師は自らの秘術が外に漏れるのを嫌う。だからこそ夜を狙って戦うのだろうが、聖杯戦争を仕掛けた奴は何故ここで開こうと思ったのか。まあ、昔はそこまで発展していなかっただろうし、魔術の事情など俺には知る由もない。だがどちらにせよ、これでは戦える場所はだいぶ限られるだろう。
interlude 2-2
驚きよりも恐怖が上回った。だが修練の成果か、体は何とか戦闘体勢に移行してくれた。
けれどサーヴァント相手に生身の人間がいくら態勢を整えたところで何の意味もない。
しかし意味がないというのなら、俺に話しかけてくる意味もわからなかった。
声は続く。
「お兄さん魔術師だよね?何でこんな所にいるの、危ないよ?」
声は何処からともなく響いてくるようで、方向も距離も判別できない。こちらから姿は見えないが、向こうからは見えているのだろう。
「お兄さん?あれ、もしかして聞こえてないのかな?聞こえてるなら返事をしてほしいなぁ。言うことが無いなら、ウーン、…手を上げてくれても良いよ」
口調には幼さが見てとれる。
どうしてだと?そんなこと言えるものか。
俺は今回選ばれなかったが遠坂はマスターの一人だ。
しかし答えなかったところで見逃してもらえる訳でもないだろう。
かくなるうえは。
「お、俺はおこぼれを狙いに来ただけだぁ!もう帰るから見逃してくれぇ~」
どうだ?さすがに厳しいか?
「そっか、うん良いよ」
良いんかい?!
なんだろう、この幼さに一方的に振り回される懐かしい感じは。目の前にいるのバーサーカーだし。
そうバーサーカー、あのバーサーカーなのだ。
こういうことも起こりうるのだろうが、やはりイリヤがマスターではないバーサーカーは違和感がある。
「見逃すのはいいけど、その前に一つだけ聞いてもいいかな?」
どうせノーと言える立場じゃない。
「何だ?」
「うん、あのね?イリヤスフィールって子を知らないかな?」
ナニ?
聞こえる筈の無い名前が聞こえた。
いやそんな筈は無いのだが、どうしても脳が拒んだのか、俺にはそんなふうに聞こえた。
「悪いがそんな奴は知らない」
「そっかー、知らないかー」
よせばいいのにこの口はもっと多くのことを聞き出そうとして止まらない。
「ちなみにそいつを見つけてどうするんだ?」
「殺すの!」
「それは…マスターだからか?」
「うーん、それもあるけど、あいつはしなないといけないんだよ、私達を裏切ったんだから」
シナナイトイケナイ??????―――――――
イリヤが裏切った?何を、誰を?
いったいこいつは誰なんだ――――――
「ひぃーーー!!」
突然左側から悲鳴が聞こえてきた。
とっさに目の前の怪物から目を離してしまう。
そこには腰を抜かして尻餅を着きながらも、必死に後退る人影があった。
しまった!一般人に見られたのか!?
突然のことに失念していたが、ここは普通の一般道。何時人が通っても不思議じゃない。
俺はそこまで神秘の秘匿を気にしている訳じゃないが、バーサーカーのマスターがどうするかはわからない。
すると人影は何故か後退をやめ、その場でごそごそと何かをし始める。そして何かを取り出すとカシャっという音と共にフラッシュがたかれた。
なっ!?あいつ写真を撮りやがった。
今どきインターネットで簡単に情報が広められることぐらい、科学に疎い魔術師でも知っている。
あいつが写真をどうするかはわからない、だが可能性があれば充分だ。
あの少年は殺される。
だからそれを防ぐために走る、それだけの事だ。
―――「
右手に莫夜、左手には干将。
何も無い所から魔力を糧に白黒一対の剣が現れる。
魔術の原則を無視して、とある世界からこぼれ落ちてきた代物だ。
二振りの剣を手にバーサーカーの前に立ちはだかる。
遠隔会話だったせいかバーサーカーは初動が遅れたようだが、既にすんでのところまで迫っている。
秒も数えぬうちに吹き飛ばされるか、殴り殺されるだろう。どちらにせよ俺に勝つ未来など最初から無い。
ならなぜこんなことをしたのだろう。
そんな事今さら考えたところで意味がない。
当たれば人体なんて簡単に引きちぎれる人形の台風がもう目前まで迫っている。
その直後。
バーサーカーの頭部が切り落とされた。
interlude out
「地形はだいたい判った」
どうやらセイバーはあの一瞬で千葉市一帯を記憶したらしい。戦闘だけでなく頭脳も遥かに優秀だ。
俺は本当にただマスターという位置に収まっているだけで、犬とかその辺の木でも大した違いは無いんじゃなかろうか。
「でどうする?」
「お前の好きに行ってくれ」
けれど今さらそんな事を考えても仕方がないので、修学旅行でも一歩後ろを行く大和撫子タイプの俺は今夜もセイバーの後ろに着いて歩く。
小町の制服を返したセイバーは今は俺の中学の頃のジャージを着ている。粗っぽい髪型だと運動部の女の子のようでちょっとかわいい。
黒を基調としていて夜の闇によく溶け込んでいるのだが、金色の髪がそれを無駄にしている。
ちなみに俺も全身真っ黒で完全に気配を殺している。恐らく普通の服でも大して変わらないとか言わない。俺は気配遮断のスキルを保持しているのだ。俺はサーヴァントだったのか!
平塚先生からのクラスとスキルが書かれたメールを反芻していると不意にセイバーが足を止めた。
「どうした?」
「敵だ」
その言葉に俺は意図せず身構える。
セイバーが気づいたのだ、相手も気づいているのが道理だろう。
わかるのはアサシンでは無いことくらいか。いや、もしかするとわざと気配をたれ流している可能性もあるか?敵は二人いてもう一体がこっちを狙っているのかもしれない。
様々な可能性が頭の中を駆け回る。けれど今までの経験がどうにか俺を冷静に保たせてくれた。
「…来ないな、様子を探ってるのか?」
誘っているのだろうか?
「わからねぇ、微動だにしねぇ」
「もう少し近づけるか、うわわ?!」
するとセイバーは俺の腕をつかんで走り出す。
そして曲がり角のところで急停止した。
「なんなんだ…」
「その奥にいるぞ」
言われるがまま俺は塀の角から様子を探る。
「?!」
あまりの光景に絶句してしまう。
そこにいたのは2メートルを悠に越す巨漢。その体は鋼のような筋肉に覆われていて、一つの腕がセイバーよりも太い。
暗闇に光る両の目は人の意思など意に介さぬようにギラギラと輝いていた。
あれは人の形をしているだけの怪物だ。出会えば抗うまもなく蹂躙されるだろう事が俺でさえ易々と感じられた。
うっすらと見えるステータスも、その形相に反せずどれもセイバーより上を示していた。
であるならば、その異形を前にいっさい臆する様子なく立つあの青年は何者なのか?!
「あいつがあのデカブツのマスターか?」
「ちっ、がう」
乱れる呼吸を製し、何とか返事をする。
仕組みはわからないが右手の令呪が先程からマスターの存在を訴えている。しかしあの青年の事では無さそうだ。
だからこそその光景の不可解さが際立っている。
ならばきっとあいつはバーサーカーの味方なのだ。
「どうする、マスター?」
「っ~、、」
どうする?!あれと戦うのか?あの怪物と?!無理だ、勝てるはずがない。しかし無事に逃げられる保証はない、いやここまで来てしまったらもう一度は刃を交わすしかない。嫌そうじゃない、聖杯戦争に参加している以上いずれはあの怪物と戦わねばならないのだ。完全に失敗した。完全になめていた。せいぜいランサー位が相手だと錯覚していた。
「おい、オレがお前のサーヴァントなんだぞ。負ける訳ねぇだろうが」
ビックリした、急に声かけんなよ。
よくもあの怪物を前にそんな事が言えたものだ。けれど今はそれがありがたかった。
「戦うぞ、けど正面からは無しだ」
「ああ」
「狙うのはサーヴァントの方だ、俺が囮になるからその隙に倒せ」
「はあ?お前は弱っちいんだから隠れてろよ」
「駄目だ、お前の場所はばれてるんだから奇襲にならない、何よりこの町に絶対安全な場所なんて無い。せいぜいお前のそばくらいだ」
「っ~~、…わかったよ」
そう言ってセイバーは霊体化して消えてしまう。
どっと夜の闇が押し寄せてきた。
けれど頭は冷えていくのを感じる。ボッチは一人の方がやり易いものだから。
意を決し俺は曲がり角から飛び出した。