カードに宿る精霊を実体化できる人たちを、人々はスタンド使いと呼んだ(呼びません)。


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スターダスト・ドラゴンとスターダスト・クルセイダースって似てますよね


取り憑いた悪魔

 東京都公暁町、その郊外には空条という表札がかけられた屋敷がある。そこには空条夫妻とその息子が暮らしているのだが、今は空条ホリィ1人しか住んでいない。

 

 彼女の夫はジャズミュージシャンで、今は世界を周る船上コンサートツアーに参加しているため家にいないのだ。

 

 では息子はどこへ行ったのか。彼女の息子は、空条承太郎は、もう数週間も都内の留置所から帰ってきていなかった。

 

 

 

 

 承太郎は帽子を深く被り直し、焦る気持ちを落ち着かせる。彼は覚悟を決めると自身の背後へと視線を向けた。そこには何もなく、周りから見れば彼が官房の壁を凝視しているようにしか見えない。だが、承太郎の目は背後に佇むそれ(・・)を確かに捉えていた。

 

 それはまさしく異形。全身は鉱石のようで純白に輝いており、また背中から生える骨張った羽が目を引く。他にも色々と異質な点はあるが、重要なことは今見えているこの生物が地球には存在していないであろう事と、承太郎の一部であるかのように離れないことにあった。

 

 承太郎はどうしてこんなことになったんだと溜息をつく。そんな彼の手には、1枚のカードが握られていた。

 

 

 

 

 承太郎がこの存在に纏わりつかれるようになったのは今から数週間ほど前のことだった。

 

 承太郎は不良で、喧嘩なんてものは日常茶飯事だ。その日も他校のムカつく野郎をボコボコにして終わりの筈だった。承太郎がトドメの一発を叩き込もうとした時、喧嘩相手が承太郎を罵倒し始めた。

 

 男気溢れる承太郎だが、実は結構根に持つタイプであり、かなりキレた。もっとボコボコにしてやろうと拳を振りかざし、喧嘩相手が殴り飛ばされた。承太郎の腕は上がったままだ。誰かが承太郎の背後から喧嘩相手を殴ったのだ。

 

 喧嘩に横槍を入れられた形となった承太郎は邪魔したやつの面もぶん殴ってやろうと振り向き、絶句した。彼の背後には異形、バケモノ、昔読んだ本に出てきたドラゴンに似ている気もするが。とにかく現実に存在してはいけない生物が控えていた。

 

 大抵のことでは動揺しない承太郎も、流石に混乱した。そんな承太郎の様子を知ってか知らずか、その生物はすでに気絶している喧嘩相手をタコ殴りにする。

 

 承太郎がある程度落ち着いて「それ以上やったら死んじまうぞ!」と制止するまでそれは続いた。

 

 

 

 

 そうして喧嘩相手は意識不明の重体で病院に搬送され、承太郎は留置所に入れられた。その後も留置所で過ごす承太郎がイラついたり同じ官房の相手と喧嘩をし殴られた時にそいつは現れた。

 

 そいつが自分の感情や危機に反応して出てくると気づいた承太郎だったが、そいつは自分の言うことを素直に聞くわけでは無く、いつもやりすぎるのが悩みであった。

 

 まるでいつ爆発するかわからない不発弾を持たされた気分の承太郎は、それが何なのか、制御出来るものなのか。少なくとも今いつもの生活に戻るのは危険だと判断し、釈放となった今も留置所の官房に留まっているのだった。

 

 

 

 

「オレはまだ、帰ることは出来ねぇ」

 

 承太郎は自身を迎えにきたホリィにそう告げる。承太郎を溺愛しているホリィは自分が拒絶されたと思い檻越しの承太郎に擦り寄る。

 

「どうして帰れないの承太郎? 私のこと嫌いになっちゃった?」

 

「……オレには悪魔(・・)が取り憑いている、そいつはオレに何をさせるか分からん。喧嘩の時も、オレはその悪魔を必死に止めたんだ。だからオレをこの檻から出すな」

 

「悪魔?」

 

 悪魔、息子を疑う訳ではないが早々信じられる話でもない。だが承太郎の周囲には官房の雰囲気とはかけ離れたジュースやラジオ、漫画が置かれておりどこから持ち込んだのか? と聞けば悪魔と答えるのだろうし、承太郎がここから出てないのなら彼の言うその悪魔とやらの仕業としか考えられない。

 

 ホリィの横では警官が官房の様子を騒ぎ立て、報告に行こうと離れるのを承太郎は引き止める。

 

「待ちなッ! この程度のことじゃあまだ釈放されるかもしれん。悪魔の恐ろしさを見せてやる。オレを外に出したら、どれだけヤバイかを教える為には……」

 

 承太郎が檻越しに警官の前に立ち腕を突き出した次の瞬間、ホリィは確かに承太郎の背後から伸びる、白いナイフような爪が生えた異形の手を見た。

 

 その手は警官の腰にかけられた拳銃を引きちぎり承太郎の手に置くと消えるように背後へ溶け込む。警官にはその手が見えなかったのか何が何だかと言った感じだ。

 

「テメーら、見えなかったのか? 今のオレの悪魔が! 見えないのなら……」

 

 承太郎は何とその手に持った拳銃の撃鉄を起こし、自身の頭に突きつけたのだ。突然自殺の姿勢を取った承太郎をホリィや警官は咄嗟に止めようとするも、承太郎は檻の中。

 

 ズドンッッ!!!! 

 

 発砲、発射された弾丸は承太郎の頭蓋を貫通し脳をぶちまけて……はいなかった。至近距離で発射された弾丸は、まるで内側から破壊されたように承太郎の足元に散らばっている。

 

 その直後に先程ホリィが見た爪が承太郎の背後から現れ、主人への危険に過剰に反応する番犬のように、拳銃をバラバラに切り裂いた。

 

 見えているホリィとは違い何が起こったのか何も分からない警官たちは恐怖のあまりへたり込んでしまう。そんな警官の様子を見ながら承太郎は口を開く。

 

「わかっただろ? オレの背後には得体の知れないバケモノが取り付いてる。そして、これだ」

 

 承太郎が持っていたのは一枚のカードだった。子供のやるカードゲームに見えるそれは、8つの星と絵の抜けた空白が特徴的だった。

 

「これは悪魔が取り付いたその日に、ポッケに入っていやがった」

 

 承太郎は手に持ったそれを、官房のトイレに流した。困惑するホリィと警官だったが、次の瞬間トイレに流した筈のカードが承太郎の手の中に現れたのをその目にする。

 

「最近こんなことばかり起こる。オレはこの悪魔と得体の知れねぇカードがなんなのかわかるまで、こっから出るわけにはいかない」

 

 話は終わった、承太郎はそう言うかのようにベットで横になった。

 

 悪魔、ナイフのような爪、謎のカード。訳の分からないことばかりで混乱するホリィ。だがそれ以上にそんな事態に巻き込まれている息子を助けたい。

 

 そこでホリィは自分の父、ジョセフがそういった不思議な力や出来事に詳しいことを思い出した。

 

(パパなら承太郎のことがわかるかも!)

 

 ホリィは急かす警官たちに連れられ、後ろ髪を引かれながらも官房を後にするのだった。



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