ただでさえ遅延してるのにこれは痛い。
2017年7月25日 第1格納庫
頭の内側から這いずるものを感じる。アルコール分による血管の拡張と脱水による萎縮、脈拍の増大が脳にダメージを与えていた。
時計の針が天辺を越えたあたりまでは記憶があるのだが、その先がいまいち思い出せない。気がついたら自室の床で大の字になって寝ていた。
もう少し、と思いつつも起床ラッパの前に起きてしまい点呼で異常無しを申告する習慣ががこの上なく憎らしい。
一格に置かれるN-0γ。制御コンピューターに取り付けられた電力供給用と通信用のケーブルを見ながら頭痛をこらえる宮鍋は思う。完全に二日酔いだと。
「ひどい顔ですね、一尉」
「ああ…手荒い歓迎を受けた。というかイーグルは酒飲んでいいのか…?」
無精ひげが浮かびかすれ声の宮鍋。そして若干ながらアルコールの香りが残っている。
「問題ありませんよ。絵面は完全にアウトですが」
外見は未成年そのもの、まずくないはずがない。
「沖縄で飲み歩いていたとか言ってたな」
「毎回誤魔化すのに大変だったらしいですよ」
「だろうな…」
「なんだ? あの金髪の嬢ちゃんは酒飲めるのか」
機材のセッティングをしていた好村が聞き返す。
「ええ、人間ではないので問題ないです」
と堀内。
「堂々と白状するのか…」
宮鍋が二重の意味で頭痛を抑えながら言う。
「俺らが若いときは飲んでる奴は飲んでたぞ。見込みあるじゃねぇか」
はっはっはと好村。
「いえ、今のご時勢それは大問題です、好村さん…」
「世知辛い世の中になったもんよ。これであがりだな。できたぞ」
N-0駐機場所のすぐ側に置かれた装置群。基地内のシミュレーターにN-0の制御コンピューターを直結しデータのやり取りを行う。アニマ用のNFIともまた違う操縦形態なので、基地内シミュレーターの変更が最小限で済むようN-0自体を筐体として活用する。これにより普段乗り慣れた機体に居ながら仮想訓練を行うことが出来る。また、技本棟の堀内のパソコンと接続しデータのやり取りも行う。
「調整を行いますよ、一尉」
「わかった」
タラップを上りシートに座ろうとしたところで気がついた。ノートと筆記用具をそのまま近くの机に置きっ放しにしてしまった。
「悪い、堀内、忘れ物があった」
「どうしました?」
「日記だ。昨日持ち帰り忘れてしまった。ちょっと待っててくれ」
幸いにも誰かが保管してくれていたようだ。
急いで自室へ置きに行く。
帰り道、慧とグリペンに会った。
「おはようございます宮鍋さん。どうしたんですか?」
「おはよう。ちょっと忘れ物を置きに行ってたんだ。鳴谷君はどうしたんだい?」
「空いてる時間はシミュレーターを使わせてもらってます。これから行こうかと。――って、宮鍋さん隈ができてませんか?」
宮鍋の目元にうっすら浮かぶそれに気付いた慧。
「大人の付き合いってものがね…。あ、ちょっとだけ時間作れるかな?」
「大丈夫だと思います」
「今一格でN-0とシミュレーターを繋いでいるんだ。良かったら覗いていかないか?」
「ご好意は嬉しいんですが、俺、そんなに裏側見てしまって大丈夫なんですか!?」
「そう言ったところで鳴谷君はもう独飛の一員なんだろう? それに
「確かに…。お言葉に甘えて、ぜひ見させてください。大丈夫だよな? グリペン」
こくりと頷くグリペン。
一格へ戻ってくるとすでに隊員数名が珍しそうにN-0を見ていた。
慧も挨拶する。
「待たせた堀内、ギャラリー増やした」
「構いませんよ。どうぞ」
ヘルメットを手渡す堀内。シミュレーターモードの起動でもヘルメットだけは装備しなければならない。
コクピットに着座しサーキットブレーカーをONにし、外部からの電力供給を有効にするために制御コンピューターのスイッチのみを入れ通電させる。自己診断が始まりチェックリストが表示される。他の箇所への電力供給が無いためチェックリストにエラーがずらりと表示されるが構わず最後まで表示を送る。その状態でMFD横の小さな開閉パネルを開けると一つだけスイッチが有る。それを回し同調スイッチをLNK位置にセット。シミュレーターモードが起動し基地内の端末とデータ送受信が開始される。シミュレーターモードではキャノピーは開いたままである。
宮鍋に入ってくる仮想現実。小松基地第一格納庫前、見慣れた風景のデータの海。
「宮鍋さんてああやって飛ばしてるんですか?」
「うん、頭の中で直接。操縦桿も緊急用で残してあるけど、訓練で操縦したら細かい操作ができなくて困ったと言っていたよ」
堀内と慧が宮鍋を見る。傍から見ると眼を瞑って寝ているように思える。しかし実際にはN-0が処理し宮鍋に翻訳した膨大な量の情報を扱っている。
「小松防衛戦でも一尉が飛んできてザイを撃墜してくれた。助かった隊員の人も多い」
N-0を見上げるグリペン。
「あれ? あの時って宮鍋さんはどこから来たんだ? 顔を合わせたこともないし、N-0も小松基地で見かけたことがなかった気がするぞ?」
カナード付き前進翼の無尾翼機。特徴的な構成は一度見たら目に焼きついているだろう。
「百里」
「百里って…他の基地から飛んできたってことか」
「もっと偉い人からの命令だって、ハルカが言ってた」
「鳴谷君はこれからシミュレーター動かしに行くんだろう? 動作チェックがてら宮鍋一尉と飛んでみるかい?」
堀内が提案する。
「いいんですか!?」
「後で他の隊員やアニマ達ともやるからね。誰が最初であってもやることは変わらないというわけだ。一度やりあってみるといいよ」
「坊主、あの一尉は元教導群だったからな、たっぷり教わってきな」
にやりとする好村。
「元?」
「そう、教導群からN-0のパイロットとして引き抜いたんだ。一尉には専用の身体改造を施して、N-0の真価を引き出してもらってる。僕が『こう出来たらもっと良くなるんじゃないか?』と思っていたことを実現してもらってるんだ」
「改造って…八代通さんはまだ要素技術の研究段階って言ってましたよ?」
「『人類側の』って意味だろうね。一尉のは『ザイ側の技術』という意味合いさ」
「それって…」
「身体ににザイの素材が入ってる。制御コンピューターにもザイのコアが入っていて、負荷がかかったときに身体を最適な状態に保ってくれるように『教育』したんだ。一尉はそのモデルの実験体ということになるね」
あっけに取られる慧。
自分の知らないところで思いもよらないことが起こっていた。
「慧も改造してもらえば高Gに耐えられるようになる。戦力増強、チャンス到来」
「えぇ…」
期待をこめた真っ直ぐな瞳を向けるグリペンとあまりにも現実味を帯びない提案に困惑する慧。
「まだ確立したとは言えないからね。グリペン、空戦機動中に精密に『中身』を制御してあげないと鳴谷君が死んじゃうよ。飛行姿勢制御演算と火気管制と身体制御同時にできるかい?」
「ぅく…」
「おい自分で乗り気だったのに何で自信無さ気なんだよ!?」
グリペンが引いている。同時に慧に悪寒が走った。
「そもそも隊員ではない一般人には施せないよ。それに改造から復帰まで一尉をもってしても一年くらい掛かってるしね。そのうち半年は病院で缶詰にされてたんだよ」
「ザイと戦うどころじゃないですね…」
「むぅ~…」
グリペンが代案を探しているようだった。
「僕は正直一尉にしたことが正しかったかは今でも分からない。けど、正しかったかどうかは全てが終わってから歴史が証明してくれるさ。もう一尉の準備はできたよ。シミュレーター室に行ってごらん」
はい、と返事をし慧とグリペンは歩き出した。
見送る堀内はしかしザイとの戦争が終わった後の世代には不要になっていることを願っていた。
こんな無茶苦茶な事例はザイが存在しなければ要らない。宮鍋に負わせた『代償』は、自分の一生を懸けても償えるものでは無かったから。
「おぅ来たか」
シミュレーター室にて作業している舟戸。
「すみません、遅れました。フナさん、シミュレーターで宮鍋さんと飛んでみろと言われたんですが――。いいんですか? 現職の隊員さんと飛んでも」
ここに来るまでの間に少し冷静になった慧。
「室長から許可も出てるから問題ないさ。ちなみにあの一尉も独飛の所属になってるからねぇ」
「じゃあ宮鍋さんはBARBIE05ってことになるんですか?」
「いや、ちょっと立ち位置が特殊でな。独飛所属なんだが、アニマでもなくかといって他の隊員とも立場が違う。配転してきた時から防衛省の装備品という扱いになってるんで別枠なんだとさ。で、それを独飛が借りている、と。コールサインはSHADOW01。影で支えてくれるって意味合いだな」
「またややこしいですね…。ただ、装備品って、宮鍋さんのことですよね?」
「あの一尉は死んだことになっている。そういう処置をしないと許されるものではなかったと堀内技官が言ってたよ」
「なんか…とんでもないことになってるんですね。外で話さないでくれって、そういうことだったのかと。そうまでして突き動かすものが宮鍋さんにあるんだって思うと、俺なんかまだまだだなって」
「そうでもないだろ。お前さんだってグリペンと一緒にザイと戦って中国の空を取り戻すんだろ。鳴谷君の
慧はいつもどおり筐体に乗り込む。
真紅の有翼獅子が電子空間に現れる。
『SHADOW01、小松の空はいかがですか?』
堀内の声がインカム越しに聞こえる。離陸完了、上空にて各操作の反応や計器類のすり合わせを行っていた。
「別段変わったことはないな。いつもと変わらないぞ」
『では、いつもとは変わったことをしましょう』
そう言うと右隣にJAS39D-ANMが出現する。
『宮鍋さん、よろしくお願いします』
「その声は鳴谷君か。そうか、変わったこと、確かにな。堀内、鳴谷君はもう基礎的なことは大体できるんだろう?」
『そう聞いています。BARBIE01、試しにSHADOW01から逃げ切ってみようか』
『了解しました。行きます!』
鳴谷慧操るJAS39D-ANMは90°右ロールから旋回に入る。小型機らしい軽快な反応を見せる。宮鍋のN-0はそれを一瞬だけ見て即座に追従体勢に入る。緩く上昇しながら右旋回。N-0が優勢位置に付けながら追う恰好になる。
慧はなおも操縦桿を引くが、N-0はぴたりと着いてくる。大型機らしくない旋回半径と滑らかな動作に驚きながら、このままでは逃げ切れないと判断すると反対方向に進路を向けようとするがN-0がすでに行きたい方向に機首を向けているのを慧が捉えた。
切り返す瞬間から実際には宮鍋が反応しわざと機体を滑らせまっすぐ進んでいるが、錯覚を起こさせるのには十分だった。たまらず慧は右ラダーを蹴りこみ、その隙にさらに高度を稼ごうと操縦桿を引き込もうとする。
まっすぐ進んでいるN-0にとって射線にまんまと入ってくる獲物同然だった。模擬戦であればここで撃墜判定。
上空に逃げようとする慧を追い越さないよう上昇しながらも周囲を巡る。エンジン排気速度を殺さず距離を保つ。その間も中心線が相手を捕らえ続け射線を外さない。機関砲弾を放つとしたらどこかしらに必ず命中する。慧の逃げ道は全て潰されている。
今度は慧は的を絞らせないように不規則に進路を変える。ドーターらしくあらゆる反応は速い。しかしN-0も同じ技術を用いて造られているため両者に差が無い。
慧は操縦桿を押し込みN-0の下に逃げ込もうとするが、宮鍋は速度を殺さずかつ最小限の動作で機首上げ、上昇直後に
慧はしかし相手の死角を取ったような恰好と思い、機首を相手方向へ向けようとコブラ機動を開始する。
真下が死角となる通常機であればもしかしたら状況は覆っていたかもしれない。
N-0、宮鍋はそれすらも機体のあちこちに備えられたカメラで『視認』し、わざと揚抗比を崩し吹き飛ぶように慧の視界から消え去る。N-0が背面になったときにはすでに天を向いたグリペンの『腹下』に移動しており、機首が下がってくるや否や急上昇し反転。結果、宮鍋は先ほどの状況を保持しつつ自由な機動を開始できるエネルギーを確保しており、反対に慧はその後の機動はほとんど何も出来ないほど速度も高度も消費していた。
「改めて見るととんでもないな、あの一尉は…。姿勢制御も何もかも一尉主導でやってるわけだろ? 人間技じゃないな」
「…」
グリペンが目を白くさせて口をあんぐりさせている。今までシミュレーターで訓練してきたどの隊員よりも明らかに別格の動きを見せつけた。
『なにやっても離れない…』
筐体から慧が呻くように言う。
「まあ実際のザイもこんなもんだろ。それに機体も通常機じゃない。一尉は教導群出身、それもアグレッサーなんて腐るほどやってるからな、いくらなんでも経験が違いすぎる。で、SHADOW01、レクチャーしてやってくれ」
『Roger』
両機が隣り合う。
『まず、基礎的な操縦に関しては問題無い。むしろここまでできるとは思ってなかったくらいだ。グリペンのパートナーなだけはあるな。だが、もう少しグリペンの小型・軽量な機体特性を活かせるはずだ。小回りが効いて動作そのものは通常機に比べても軽いけど、エンジンパワーがそれほど大きくないから力技でどうにか食らいつこうとせずに急な操作を控えて失速が起きないように注意するべきだ。そうすればザイとの格闘戦でも決して引けはとらないと思う。――その際の生身に関しては、まず出来る限り基礎体力をつけておく事』
常に鍛えている隊員との比較になってしまってちょっと申し訳なさそうな宮鍋。
『それと最後のコブラだけど、あれは無闇にやっちゃだめだよ。
『そんなところまで見てるんですか…。いい経験になります』
『練習あるのみ、生き残るには必須だよ。じゃあもう一度おさらいしよう』
宮鍋は真紅の機体の上方に機体を動かす。両機の位置関係が再現される。
『情況開始。この場合鳴谷君はスロットルを全開にして、単調にならないように左右に動いてごらん。この時迎え角過多にならないように注意すること』
『こうですか!?』
慧は忠実に動いた。振り切れはしないものの速度が回復し徐々にN-0との高度差が埋まっていく。そのまま真下に重なろうとしたとき、宮鍋が次の指示を出す。
『右旋回、左ラダー蹴り込み桿を引け』
JAS39D-ANMは一瞬
『おおお…!?』
N-0がつんのめるような恰好となり慧の画面にすっと
『うん、その速度域が一番旋回性能を引き出せるみたいだね。俺がオーバーシュートしたとき一瞬だが中心線が重なったんじゃないかい? そこでトリガーを引けばN-0に砲弾が命中して俺は撃墜される』
2機が再び翼を並べる。
すべてが見透かされているような感覚が慧を襲った。同時に相手の後ろにつくという感覚も。
『すごい…。宮鍋さんなんでわかるんですか!?』
『教導群は仮想敵の動きを再現するから、機体特性は大体わかるよ。F-15でできるよう俺もさんざん仕込まれた。通常機同士でならみんなできるよ、JAS39としての動きも』
底知れぬ技量に慧は震えるが、しかしザイとの戦いにおいて心強い存在なのもまた確かだった。
『鳴谷君、一つ覚えておいてほしいのは、これはあくまでシミュレーターの一例であって実戦ではいくらでも状況は変わる。今やったことが通じないこともあるし乱用すれば見切られる。その時その時で最善な手段をとることが出来るようになってほしい。このご時勢俺も、他の人だってもしかしたら明日にはいなくなってるかもしれない。俺達がいなくなったとしても鳴谷君の大切なものを守れる力が付くことを願っている』
宮鍋の頭には東が浮かんでいた。自らが駆るF-15DJの後席でどうすることも出来ずザイのミサイルに命を奪われた男。彼の無念と重ならないように。
そして愛する妻と娘の元にはなんとしてでもザイを1機たりとも通してはならないのだ。
『宮鍋さん、俺は中国の空をザイから取り戻したいんです。その日が来るまで俺は戦います。グリペンと一緒に』
「お疲れさん」
筐体から出てきた慧に舟戸が労う。
「どうだった、と聞くのもなんだかって感じだな」
「異次元の体験でした…。教導群の人って、相手のことが全て見えてるような気がしましたよ」
「かもしれんなぁ。まあ要するに先生だ。敵役として務めて、隊員たちが戦死しないように各飛行隊員みんな教導群に鍛え上げられる。癖や悪手は瞬時に見分けて矯正する部隊だからなぁ。的確だったろ」
ええ、と慧が頷く横で宮鍋の手ほどきを見ていたグリペンが固まっていた。
「お~いグリペン…?」
肩を揺すると正気に戻った。
「慧、これは一大事」
「どうした?」
「一尉が人間かどうか疑わしい。堀内技官にソースコード開示を要求したい」
「お前は一体何を言ってるんだ…」
信じられないものを見たというようなグリペンに慧が半眼になっていると、白衣の巨漢がやってくる。
「あれでもまだ手の内全てを見せてないと思うぞ」
「そう思いましたよ…。ところで八代通さんはなにしてたんですか?」
「君と飛んでいたN-0の標本を採ってたんだ、といえば洒落てるか。N-0がこっちのシミュレーターで他機と一緒になった場合の挙動が安定しているか確認しときたかったんで堀内に写させたんだ。こうしておけば一尉が不在でもシミュレーターで再現できるからな。行動ロジックを詰めれば仮想敵として戦うことも出来るし、友軍機として援護してもらうことも出来る。丁度制御コンピューターと直結させてるからオリジナルがどう動くか見てみるか。グリペン、こけら落としでやってみろ」
「お安い御用。今こそ私の本当の実力を見せつけるとき」
アニマ用のNFIが搭載されたシミュレーターに乗り込むグリペン。モニターでそれを見守る3人。
「武装は機関砲のみ。交差した後に開始だ。3,2,1、開始」
30秒後、達観したグリペンが筐体から出てくる。
「ハルカ、まだまだデータ処理が甘い。設定が上手く反映されていない。あんなのを私の実力と思われても困る」
「なんか前にも聞いたような台詞だな…」
あきれたように慧が言う。
真紅の機体が圧倒された光景に外野が黙り込んでしまう。
「八代通さん、これちゃんとデータ取れてるんですよね?」
「そりゃもちろんだ。しかし取ったばっかりだからってこれはちょっとな…。SHADOW01、見ていたか? N-0のパイロットとして今の出来になにか感想は?」
『八代通技官か。ああ、接続は生きてるからな。初めてN-0対アニマ戦を見たが…シミュレート上は俺はこんな動きするのか。正直見ててえげつないなとは思った。なかなか外から見れないから俺も勉強になったよ』
相手よりも有利な位置をいち早く押さえ、行動を封じ、逃げ道を潰す。ただそれだけのことなのにひどくザイのように見えた。
俺がもしザイになってしまったら総力を挙げて撃墜してもらわないといけない。隊の育成は急務になるだろう。
同調を切断し宮鍋が機体から降りてくる。
「お疲れ様です一尉。データは保存しましたから、今後は他の隊員やアニマ用に使用します」
「しかしあれは…俺が考えていた次の一手を忠実に再現していた。ドッペルゲンガーみたいだったな」
「僕としましてもここまで学習しているとは…」
「ん? どういうことだ?」
「基本データそのものは製造時のものを反映させています。これが開発初期段階であれば自律思考させても結果は違うものになっていたでしょう。今回の結果から推測しますと、今まで蓄積してきた経験と一尉の動かし方に基づいて最適な動きを判断していると読み取れます。ディープラーニングするような設計ではあるんですが一尉の潜在的な意識まで汲み取っているのかもしれません。できるものはできるものとして使用する、小松防衛戦で一尉がやったことまで再現するとは思いませんでした」
ザイを相手に予測進路に偏差射撃を行い撃墜した宮鍋。同様にグリペンを相手にシザースに持ち込んだあげくすれ違いざまに未来位置に砲弾を『置いて』撃墜したN-0。その後普通なら復帰不能なほどのスピンを立て直したところまでそっくりだった。F-4でやろうものなら100%
「じゃあ、今のって…」
「N-0が一尉に習ったことの結果ですね」
「…」
ケーブルが接続されキャノピーが開いたままの機体を見上げる。
互いが互いを補完する? いや、もっと違う何かがある。兵器とはいえ負荷が掛かりすぎなければ良いが――。
「あの高校生はどうでした? 宮鍋一尉」
小松基地第306飛行隊所属の
ちなみに昨日の飲み会でイーグルを連れてきた張本人でもある。
「正直驚いた。苦も無くグリペンを動かしていたよ。きちんと学んだらいいパイロットになると思う。うかうかしていられないぞ」
「宮鍋一尉が見込んでるってなるとそれ相応に腕の立つ奴ですね。ちょっと妬けますが、俺たちも負けてられないですからね。返り討ちにしますよ」
「良い意気込みだ。ただし張り合いすぎて本来の目的を見失うなよ? 俺たちはザイから日本を守ることが目標だからな?」
「もちろんですとも」
胸を張る小峰二尉。
「私も手解きお願いいたします」
「そのつもりだ。二人だけじゃなく、俺はみんなに生き残って欲しい。そのためにはどんな汚れ役でもするつもりだ。覚悟しておいてくれ」
二人から敬礼を受ける。
宮鍋は守りたいものが増えたことを実感した。同時にファントムが抱え込んでいるものも理解した。