ガーリー・エアフォース 影の航跡   作:青ねぎ

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命名は趣味全開です。


2-2

 隣の棟に設置されたモニタールームの画面にN-0と宮鍋の状況が映し出されている。パイロットのバイタルチェックの項目が追加されているため情報量が通常よりも多い。

 今のところ目立った変化は認められない。飛行姿勢も安定している。

 不機嫌そうな堀内も内心はほっとしている。だからこそ人間の制御が追いつかず墜落したβが頭から離れなかった。ましてγは未知の操縦系統なのだ。異常が検出されればオートパイロットにしてでも帰還させるつもりだ。

 宮鍋に託したN-0に期待を持ちつつ、自らの欲望を実現しようと彼の自由と未来を奪った良心の呵責が鬩ぎあう。それを押し殺してでも今は前に進むしかなかった。

 恐らく地獄に案内されるのは間違いないな、と自嘲する。地獄がザイに焼く尽くされていなければ――。

 

 

 

 

『ホテルよりSHADOW01、まずはおめでとうございますといったところですか。調子はいかがです?』

 モニタールームからの無線。

「堀内か。最高だと言いたいが、慣れてない分正直怖いさ。もう少し高度を稼ぐまで現状維持したほうが良さそうだ」

『慎重で結構です』

メーカー(六菱)のシミュレーターと大分違うな。データが合ってたのか疑わしいくらいだ。乖離といった方が近いんじゃないか? 離陸だけでもあんな加速したかわからないぞ。F-15Jよりも短距離で浮いた」

『シミュレーターはあくまで仮想ですしデータベースがF-15Jですからね。現実世界ではエンジン出力が想定を上回ったんでしょう。開発時よりも高出力であるのはうれしい誤算です』

「開発者が誤算といってほしくないな、減棒ものだ。高度12000フィート到達」

『SHADOW01、そのまま出力を上げ27000フィートまで上がってください』

「了解」

 宮鍋は再びドライ最大推力を発揮させる。途端に速度が跳ね上がり、機体がわずかの振動を発し安定する。音の壁を越えるのはいくらもかからなかった。ドーター化技術が使われているせいか通常機よりも反応が鋭い。

 サブインテーク閉鎖。擬似ターボジェットを再現。排気速度が上昇しリヒート無しで超音速巡航(スーパークルーズ)。どんどん海面は遠ざかっていき、ついには雲間の上に躍り出る。

 明暗違う青の境界が見える。いつかそこにたどり着き、そして超えていく日が来るのだろうか。

 直線飛行に移るため水平へ戻そうとするが、狙った位置よりもずれてしまう。微修正を繰り返す。思っていた以上に反応が過敏だと思った。

『方位290へ進路を変えてください、ゆっくり』

 ゆっくり。

 これが意味することを宮鍋はすぐに味わうことになる。

 少しバンクしピッチ修正しようとしたが、横転するかのように1回転近く回ってしまいあさっての方を向いた。

 ひゅっ、っと息を呑む。

 なまじ速度が出ているぶん一つ一つの動作ミスが致命的になりかねない。

 同時に、田中三佐が墜落した原因を理解した。

 修正が修正ではなくなってしまったのだ。挙動に一切の遊びが無いどころか、わずかな入力でも大きな動作になった。増幅する動作に全てが破綻をきたし脱出も手遅れになった、そんな状況が容易に想像できた。

 スロットルを戻すイメージ。燃料投入量減、サブインテーク開放。バイパス路を通る空気が排気流を遅くし速度が緩まる。亜音速域へと移行。

 なだめるよう丁寧に、と心がける。

 なんとか予定のコースへ乗せる。冷や汗がどっと滲んで全身にまとわり付いた。

「堀内、とんでもないものを造ってくれたな。今コントロール不能になるところだった。これは人の手に余るぞ」

『僕はこれからのザイとの戦闘には必要だと思っていますよ。ドーターと対等たる戦力のためにも。それでは機動試験に入ってください』

「骨の折れる話だな…」

 試験開始。微細な入力を心がけるもロール半回転のつもりが二回転になり、切り返すも今度は反対へ一回転半。ピッチ操作はすぐさまクルビットへ移行―前転もした―、ヨーに至っては慣性で真横にスピンしかけた。もしかしたらしていたのかもしれない。

 それらを複合したときには空間識失調を起こし自分がどこを向いているかすら判らなくなった。生きた心地がしなかった。

 流れ込む情報を整理しようやく水平に戻せたときには荒い息遣いがこだましていた。

 どこをどう通ったかあやふやだが、南西を向いている。ダイビングの許可は下りなかったらしい。

 ふと今の内容を振り返っていると違和感を感じた。激しい機動につきもののグレーアウト、ブラックアウトも、マイナスGをかけた時のレッドアウトすらも記憶から抜けたかのようだ。肺が押し潰され横隔膜が動かなくなる感覚も無い。

 正確には少しあった。僅かに、しかし今まで経験した中で最も少ないと感じる。あの半年にも及んだ入院生活と全身の縫合痕は無駄にはならなかったようだ。

 そしてパイロット保護という観点では、コア本体は良く教育されていると感じた。

 

 

 

『SHADOW01、大事をとって本日の試験は終了しましょう。帰投してください』

「了解した。状況終了、RTB」

 宮鍋の挙動を察した堀内が大事を取り試験終了を宣言する。

 進路を帰投コースに乗せる。修正を繰り返しながら。暴れ馬な性格がやっかいである。

 水平飛行をする限りN-0は先ほどの試験からすると驚くほど穏やかな表情を見せる。

 不安定な重心を安定させる制御そのものはおそらく問題ない。何がこんなにも過敏な反応にしているのだろうと宮鍋は思う。

 カナードと前を向いた主翼、コンピューター補助無しでは一秒たりとてまっすぐ飛ばない静的不安定性さ、3次元推力偏向ノズル、VFC、HiMAT化、どれも当てはまるのだろうが根本的なところが違うように思えた。

 何かがひっかかっている。

 小松基地へ戻る間に自問自答するが、ついに結論は出なかった。残り10マイルの時点でタワーへ交信する。

「Komatsu Tower,SHADOW01, 10miles north at 3000 feet. Request Landing」

『SHADOW01,Komatsu Tower,make straight-in Runway 06. SQUAWK XXXX』

「Roger,SHADOW01,straight-in 06.XXXX」

 微妙な入力を繰り返す宮鍋の強い緊張は続いていた。

 あれだけの機動力を見せつけられ、着陸にまで神経質にならざるを得なかった。操作が少しでも狂えばひっくり返るのではないかと戦前恐々である。

 緩やかに速度と高度を落としていく。残り2マイルでギアダウン、フラップ展開、アプローチに入る。

 方位292から3ノットの風。左前方からの向かい風の分を考慮してほんの少し左よりの進入になる。

 5度の迎角でさらに減速、130ノットで進入し適正な降下率を維持。タッチダウン。主脚接地時に少しタイヤを押し付けブレーキ作動。スロットルをアイドリングまで落としエアブレーキ作動。コクピット後側の二畳ほどの鋼板がせり上がり、半遊動式のラダーを左右とも外側に向ける。機首上げ姿勢のまま減速し前脚が接地したらカナードを前に倒す。さらに強くブレーキがかかり、やがて停止する。

 滑走路後端から半分に届かないくらい。

 そのままタキシングして格納庫前まで戻ってくる。エンジン停止、甲高い音が静かになっていく。

 輪止めがされ、全てが沈黙したところでキャノピーロック解除、装甲キャノピーが持ち上がり新鮮な外気と内気が混ざり合う。

 タラップが掛けられ、帰ってきた宮鍋に祝福を掲げんとするスタッフや整備士たちは一向に降りてこない宮鍋に様子が変だとざわめき立つ。

 専属整備士の好村がタラップを上がり中の様子を見ると、コックピットに身体を預ける宮鍋は目を閉じたままである。

 大丈夫か、と肩を揺らすとはっとした様子で目が開く。

 同調用スイッチを切り宮鍋が再び人間の感覚を取り戻したところで強烈なめまいが襲った。胃からこみ上げるものと格闘し、酸素マスクを外す。渋面を浮かべると胸のポケットを探りエチケット袋を取り出し、口元に当てると、そのまま吐いた。

 

 

 

 

 

              技本棟 検査室

 

 

 

 

 

「身体に異常はありませんね。脳も問題なし」

 検査結果のコピーを手に取り読み上げる堀内。なんの面白みも無い、といった顔でベッドに寝る宮鍋を見下ろしている。

 担ぎ込まれるように運び込まれた宮鍋は、この1年少々で見慣れた光景に辟易しながら天井を見上げている。

 身体改造を施しても結局は負担が減るわけでもなく、G限界まで無茶した分はきちんと返ってくるのだ。さらに機体と同調した分、脳の負担は確実に増える。

「βと違ってずいぶん安定してるように見えましたよ」

「そうか? 実物を動かすとなると感覚が違うな。自分で言うのもなんだが、先行き不安だ」

 声の調子は重く、体調の嘘はつけない。

「どこか不具合でも?」

「いや、なにかしっくりこないんだ。慣れとかの問題かもしれないが、なんだろうな…」

 額に手を当て考え込む。常識を打ち破ったにしては『らしくない』のだ。操縦桿を使わないとはいえ違和感が残るものなのだろうか。

「処女飛行ですからね。これから磨いていくのが良いかと」

「ザイが目前まで迫っているのにあまり悠長なことは言っていられないだろう」

「いざ実戦の前に潰れてしまう方がよっぽど迷惑です。これでも調達に苦労したんですからね。パイロット共々再調達は難しいんですよ。βを失っている以上、頼みの綱は一尉だけです」

 堀内が嘆息しながら椅子に腰掛けた。

「とにかく一歩一歩確実に仕上げないと、量産化なんて夢のまた夢です」

「…」

 宮鍋の胸中は複雑であった。

 対ザイ戦において有用となればなるほど、長期戦に陥れば陥るほど自分のような境遇のパイロットが増えることになる。

 今の技術では元の身体に戻ることは出来ない。銃後の生活を送るのは諦めることになる。共に身体を張って戦おうとはとても言い難いものだった。

 ザイを退けるまでに技術革新でも起これば良いのだが。

「実際に飛ばしてみたが、N-0は刃物で空気を裂いていくような特性だな。風の切り方がF-15のように穏やかじゃない。剃刀みたいだ」

 宮鍋が話題を変えた。

「設計の段階で意識はしましたが、風を感じるんですか」

「パイロットはみんなそうさ。だが、機体と同調した分もっと近くに感じたよ」

「N-0γ KAMISORI。変な感じがしますね」

「あくまで例えだ」

「冗談です。終始剃刀じゃなかったはずですよ。ギアダウン時はあえて高機動にならないようにプログラミングしてあります。日本刀、KATANAでいいんじゃないですか?」

「N-0γ KATANA…か、悪くないな」

 そんなやり取りをしていると白衣を着た眼鏡の巨体がのそっと入ってくる。

「初飛行でパイロットが殺されかけたと聞いたが、ここにいるところを見ると意外に平気そうだな」

「あれだけのことをやった甲斐がありますよ、室長」

 椅子から立ち上がる堀内。対ザイ戦特別研究室長の八代通だ。昨年の偵察任務に宮鍋と東の派遣にも関わっている。選抜したのは堀内の方だったが、それを宮鍋が知ったのは大分後になってからだった。

 宮鍋と八代通の目と目が合う。

「あの時のデータは役に立っているかい? 八代通技官」

「ああ、十分すぎるほどの収穫だったさ。おかげで戦略の方針転換が容易になった。さっさとドーターの開発予算をよこせとせびれる。それとアニマ達の教育に役立っている」

 アニマ。既存の機体をザイのコアと適合させHiMAT化、EPCM耐性を持たせドーター化、そのコアを培養することによって生み出された自動操縦装置。人間の、それも女性を模しているという。

「無駄にならなくてなにより。3体配備されたのは堀内から聞いたことがあるが、防衛に足りるのか?」

 先ほどまでよりだいぶ楽になってきた宮鍋が身体を起こす。八代通がふん、と鼻を鳴らす。

「絶対数は足りないさ。だから堀内があんたみたいなのを増やしたがっているんだけどな。それともう4体目がいる。ここ、小松にな」

「なんだって?」

 復帰訓練とメーカーでシミュレーターに明け暮れていたおかげで知らなかった。RF-4EJ、F-15J、F-2A、そこまでは知っている。

 他に自衛隊にあった戦闘機はF-104とF-1だったはずだが、すでに退役している。

「何を適合させたんだ? AH-1Sなわけないよな?」

「JAS39D グリペン」

「グリペン」

 スウェーデン製のマルチロール機だ。一時期自衛隊にメーカーから打診があったのは知っているが結局性能未達で不採用になった。なにかの因果だろうか。

「南米の輸出型を買い取ったのさ。新たなコアの適合機を探していた時にちょうど出回っていてな。買い付けて試してみたら上手くいったんだ。俺のセンスの良さが光るだろう」

 自分で言うのか、と呆れていると八代通は煙草を取り出し火をつける。

「せめて誰もいない時に吸ったほうが良いんじゃないか? 『室長』」

 宮鍋が指摘する。実際ここは禁煙である。

「明日のことが判らんご時勢に細かいことは気にしないほうが良い。後悔先に立たずってな」

 八代通が紫煙を吐きながら答える。携帯灰皿は持ち歩いているようだ。

「さて、あんたの無事も確認できたし、俺はぼちぼち退散するとしよう」

「グリペンの調整ですか?」

 堀内が聞く。八代通は頷く。

「あのポンコツの覚醒がいまだに不安定なんでな」

「いまだに、ですか」

「覚醒時間が他のアニマと違って極端に短い。最長5時間、最短で2時間ってところか。あとは眠りについてしまう。あいつだけやけに動作が不安定なんだ。何度検査しても異常はない。この俺ですらさっぱりわからん。これでは戦力として数えられん。初飛行もまだだ」

 短くなった煙草を携帯灰皿に押し付ける。

「しばらくは原因究明だな。だが上からの圧力もある、金もかかる、ザイはすぐそこ、ずっとこのままというわけにはいかない。しばらくして駄目だと判断されたら――」

 あまりその先は聞きたくはない。

 せっかく適合したアニマをみすみす潰してほしくない。しかし時計の針は止まってくれない。

「八代通技官」

 宮鍋が制すように言う。

「なにかの足しになるかもしれない。ここにいるというのなら、そのアニマに会うことはできるか? 聞きたいこともある」

 

 

 

 

 

 

 

            2017年5月28日 0950 技本棟 検査室

 

 

 

 

 

 翌日、宮鍋は朝の検査が終わるとそのまま待たされる。昨日の眩暈はもう無い。一晩ですっかり回復した。

 いったいどんなのがやってくるのだろう。

「おう、待たせたな」

 白衣の巨体が入ってくる。八代通だ。続いてもう一人入室してくる――少女?

「こいつが対ザイ戦の切り札だ」

 白のポンチョブラウスとショートパンツという出で立ち、灰色の瞳、白絹のような肌、飴細工めいた唇、桃色の髪。小柄な少女は一目見てまるで人形のようだと思った。

「はじめまして、私はJAS39D-ANM グリペン」

 一礼するグリペン。まず困惑が浮かんだ。こんな少女が制御ユニット? 髪の色以外は人間と変わらないじゃないか。少し呆けていると堀内が肩を小突いてくる。

「――ああ、すまない。宮鍋久司一等空尉だ」

 思わず立ち上がってしまう。

「一尉が私に用があるって、ハルカから聞いている」

 無表情で見返してくる。ハルカ、八代通か。咳払いして宮鍋が返す。

「君がアニマであるのは間違いないんだな」

「肯定。JAS39D-ANM グリペン、ただの兵器」

「俺には女の子と話してるとしか思えないんだが…。ただの兵器、ねぇ。狐につままれた気分だ」

「あなたもあなたで大概だと思いますよ、一尉」

 堀内が割って入る。グリペンが小首を傾げた。

「それはお前さんたちのせいでもあるんだがな。これだけ改造しておいてよく言えたものだ」

 ため息混じりの宮鍋。

「改造?」

「彼にザイ由来の部品を使って身体強化を図ったんだ」

 堀内の言葉にグリペンが「えっ?」という顔をする。表情が無いわけではないようだ。

「身体の至るところに部品が入り強化されている。細い血管まではできなかったけれど。操縦方法も変えて、アニマのダイレクトリンクよろしく機体と同調するんだ。半年以上の期間を費やして――」

 そこまで言ったところでグリペンが必死な表情で訴えかける。

「一尉、いけない、そんなことをしたら戻れなくなる! 今すぐ修復すべき!」

 突然のことに堀内も宮鍋も固まってしまった。しかしすぐに穏やかな声で宮鍋が答える。

「気を遣わせてしまったか。すまないな、もう戻れないんだ。現段階では元に戻す術が無い。それを見つけるのも開発計画のうちに入っているんだ」

「そんな――」

「医療がさらに発展すれば、人工器官になるだろうが、戻せる可能性も出てくる。今はザイをどうにかしないと、な。それに、後任ができた時はもっと良い方法が見つかっているかもしれない」

 もしその時が訪れたら改良されているだろう、と思いたい。

「八代通技官、本当に不調なのか?」

「今はまだいい。機体の方にも目立った異常は無くてな。そこが悩みどころなんだ。まぁ続けてくれ」

 今までの会話からはとても不調とは思えなかった。

「では――君に起こっていることを教えてくれないか?」

「自己診断でも検査でも異常なし。私にもよくわからない。でも、何かが欠けている気がする」

「何か?」

「パズルのピースが足りないような感じ。ダイレクトリンクもうまくいかない」

「うぅむ…」

 正直その何かというのが思い浮かんでこない。人間と戦闘機の関係なら一つずつたどっていけるのだが。

「私は飛べない。けれど私は戦いたい。人類のために最後の最後まで戦いたい」

 なんだ、一つしっかりした芯を持ってるじゃないか、と思った。まっすぐ向いた視線は、宮鍋に本物だと伝えている。

「欠けているものか。それは人間でも難しい問題だ。たぶん多くの人たちが、同じものではないが抱えていることでもある。時間が解決してくれることもある。いつの間にか埋まっていたりな。地道に探すことができれば良かったんだが、すまない、正直それはどんなものか思いつかない。あまり力になれそうにないな」

「ううん、構わない。私自身でも判っていないから。でも教えて欲しい。一尉はなんで飛べるの?」

「なんで…ってもな。設計が飛べるようになっているとしか」

 機体に関してはそういう他なかった。しかし別の重要な部分はとてもシンプルだ。

「後は『気持ち』じゃないかな」

「気持ち?」

「そう、『飛びたい』って気持ち。子供の頃にすごいな、気持ちよさそうだな、って思っていた。最初に飛行機に興味を持ったのはそんなだったな。で、将来パイロットになって自由に飛びたいって決めてたら自衛隊に入隊していた。飛びたい、今でもその部分は変わってないよ。そしてザイからみんなを守りたい。単純だけどこれが一番大きいな」

 宮鍋の本心だった。グリペンはというと、うんと意気込んでいるように見えた。

「ハルカ、いつでも飛べる。準備万端」

「こんな状態でどうやって飛ぶって言うんだ、このポンコツ娘」

 と八代通。これでこの娘が飛べるようになれば宮鍋としては言うことなしなのだが、と宮鍋は思う。

「少しは足しになってくれればそれで良いんだ。俺も一つ聞きたい」

 ん? とグリペン。

「アニマってどうやって機体を操縦するんだ?」

 自動操縦機構であろうとなにかしらの操作を行っているはずである。操縦そのものに関しては知識が無かった。自身の違和感を払底する近道になるのではないだろうか。

「NFI(神経融合インターフェース)でドーターの制御系と自分の感覚器を繋げている。人間が自分の腕や足を動かすのと同じ」

 宮鍋がはっとする。感覚を繋げる?

「アニマとドーターは不可分。人間が自分の脳と身体を区別しないのと同じ。右旋回したければラダーが動作するし減速したければエンジン出力が下がる」

 区別しない。つまり自分自身ということだ。アニマ=ドーター、目の前にいる少女は機体と同等、そういうことか。口元に手を当て考え込む。

「一尉?」

「…度々すまない。俺も実のところN-0に関しては不安だらけなんだ。だが、大きなヒントをもらったと思う。力になるつもりが逆に助けられてしまったな」

 ううん、とかぶりを振るグリペン。

「私はそれが本望。人類の力になれるなら構わない」

「俺も君が上手く飛べることを願う」

「ありが――」

 そこまで言いかけて突然グリペンが気を失い床に倒れる。まるで前兆がなかった。

「お、おい!? 大丈夫か!?」

 あわてて駆け寄る宮鍋。堀内も近寄り腰を落とす。

「一尉、グリペンを検査ベッドまでいいですか?」

「持ち上げるぞ」

 復帰に向けて身体を鍛えていた宮鍋だったが、あまりにもあっけなく持ち上がってしまい余計に動揺してしまう。軽いな、と思った。ベッドに寝かせると八代通が口を開いた。

「2時間半、少し短めか。日によってこうぷっつり途切れることもあれば徐々に眠りに入ることもある。厄介なものだろう。技術屋としてはこの状態を打破したいところだ。あんたと接触させてみれば解決の糸口になるかと思ったんだがな」

 堀内はすぐにグリペンの検査にとりかかる。

「俺はどうやらこの娘の足りない部分ではないようだ。役に立ったかどうかも怪しい」

「ほんの少しだが前進した、俺にはそう見えたがな。今までグリペンがああも必死な形相を見せたことは無かった。なんらかの刺激にはなっただろうよ」

 そう言うと八代通は煙草を取り出し火をつけた。

 宮鍋はそれをどこか歯がゆい気持ちで見ていた。

 

 

 

 

 


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