ガーリー・エアフォース 影の航跡   作:青ねぎ

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 宮鍋とN-0は連日の試験飛行を順調にこなしていった。

 訓練では同調を切り緊急時用の操縦桿での操作も行ったが、先にN-0を自分の体とした操縦を身につけた宮鍋にとっては思うように操ることが出来なかった。

 外部の目から見ている分には問題など無くむしろとんでもない技術で操っているようにしか見えないが、静的不安定さをより積極的に機動に活かそうとしてもAIが自動で補正してしまい、齟齬が生まれる。少しのすれ違いが有機的な操舵を無機質にする。文字通り動翼1枚を独立して動かそうとしたり、激しい空戦機動時に片側のノズルだけを姿勢の微調整として使おうと思ってもそれが出来ないということが引っかかるようになっていた。感圧式の操縦桿とスロットルレバーを動かすにしても、脳の思考から命令を腕に伝達し動かすわずかな間がもどかしい。

 そして最大の欠点は『人間の視界』に制限されること。意識を向けるだけで見えていた死角が、首と眼球を動かさないと見えない。F-15のときはそれが自然だった。しかしN-0はそれをも変えてしまった。

 自由が利かない、そうしたズレを感じるようになってしまった。

 慣れとは恐ろしいものだ、と宮鍋は思う。

 反対に宮鍋の操縦を学習するAIは、パイロットが何を考え、何をしたいのかを読み取り、限界域での微妙な加減のノウハウを蓄積させていく――。

 

 

 

 

 

 

             2017年6月21日 1305 百里基地

 

 

 

 

 

「好村さん、右エンジンの回転上昇がわずかに鈍いのです。インテークの作動差異が疑わしい。それと左後方カメラユニット(9番)の電子回路に一部導通抵抗が大きくなっている部分が有ります」

 普通の人間であればおよそ感知できないレベルの不具合が宮鍋には伝わる。

「おぅ、わかった。しかしお前さんそこまでわかるもんなのか」

「機体の隅々まで神経が届いてるのと一緒で、悪いところはN-0が教えてくれます。もしかしたら自分の身体よりも把握できるかもしれませんね」

「大したもんだ。気合い入れて直さなきゃ沽券に関わるな」

「よろしくお願いします」

 空対空ミサイル実弾発射試験をもって試験終了とされ、空対空初期作戦能力が付与されたN-0は正式に百里に配備となった。宮鍋もまた基地に馴染みつつあるときだった。

「皆さん、ちょっと集まってください」

 格納庫でN-0との調整を行っていた宮鍋とスタッフ、整備員や立ち合っていた他のパイロットにも構わずに堀内が声を上げる。珍しく駆け足で、いつものむすっとした表情に焦りをはらんでいた。宮鍋も調整を中断し堀内の元へ。

「ザイが能登半島沖に現れました」

 どよめく格納庫。宮鍋の表情も険しくなる。

「本当か!? 堀内」

 宮鍋は詰め寄りそうになる。

「はい。小松のグリペンの評価試験飛行を行っていた際に飛来したそうです」

「グリペンの。飛べたのか。で、無事なのか!?」

「結論から言えば無事です。ですが…」

「ですが?」

「グリペンは試験中昏睡し、オートパイロットで帰還。ザイは那覇基地から召集中だったイーグルが撃墜しました」

 F-15Jのアニマ。宮鍋はまだ会ったことはなかった。

大事(おおごと)じゃないか。ん? 召集? 2機体制になるのか?」

「そうだとどれだけ良かったことか…。以前からグリペンの評価は良くなく、戦力強化のため上層部がイーグルの配転を決定したようです。今回の件でグリペンがどうなるか…」

 宮鍋だけでなく、小松から移ってきたスタッフと整備員の表情が曇る。内情を知っているだけになおさら居た堪れない。

「それって、結構まずいってことじゃないんですか…?」

 宮鍋と堀内に質問が投げられる。

 第7航空団F-4EJ改パイロット、弐国堂 剛志(にこくどう たけし)二等空尉。TACネーム、ブル。

 宮鍋が百里に来てから最初の試験飛行の時に随伴機役として一緒に飛んだ。それからも度々試験飛行に立会い、行動を共にした時間は結局一番多い。

 後席は有栖川 太一(ありすかわ たいち)一等空尉が務めていた。TACネームはゴリラ。二人共体格が良かったが、有栖川はさらに大きい。空自パイロットの規定ギリギリなおかげで、弐国堂と有栖川の二人が乗るとコクピットの隙間がほとんど埋まってしまうという事態になる。

 弐国堂と有栖川は以前宮鍋に教導を受けたことがあり面識があった。

「あぁ。上層部が見ている前だとすると、なおさら」

「そして問題なのは日本の領空を侵されたことです。ということはすでに中国は…」

 堀内の言葉の前に皆固まってしまった。中国が陥落し韓国、台湾をザイが抜けてきたということは、すなわち日本は最前線という立場になった。

「間もなくザイがやってくる…」

「なら」

 弐国堂二尉が打開するかのように口を開いた。

「いつもどおりやるしかないですよ。俺達あれだけ訓練してるじゃないですか。今あるもので最善を尽くす、自衛隊の教えでしょう」

 ああ、そのとおりだ、やるしかないと次々沸き立つ。宮鍋も少し肩の力が抜けた気がした。弐国堂の肩を叩く。

「ありがとうな、二尉」

「湿っぽいのは苦手です。ところで一尉はアニマとどういった関係なんです?」

 少し冗談めかして弐国堂が言う。N-0を見ながら宮鍋が言った。

「N-0を操縦するためのヒントをくれた、俺の恩人だ」

 

 

 

 

 

 

          2017年6月24日 1048 百里基地

 

 

 

 

 

「この等圧線の間隔と気温、風向きだとこの辺りに大きな積乱雲が発生し、この航路だと雲を迂回しなければならない。その際の燃料消費もより多くなるため――」

 宮鍋は飛行隊作戦室にいた。弐国堂、有栖川の他数名の隊員たちと飛行計画を練っている。元教導群ということもあり教えることは多岐に渡る。

 百里に来て3週間、試験飛行とトレーニング、検査の毎日で早いものだと感じた。N-0は優先的に飛行プログラムが組まれ、都度百里のF-4EJ改と共に飛んでいた。そして好村や盛脇を始めとするスタッフも精力的に整備を受け持った。つい昨日交換すべき部品を全て交換、整備後の初飛行を目前にしていた。

 電話が鳴った。何事かと近くにいた有栖川が電話を取る。

 宮鍋を手招きした。

『宮鍋一尉ですね、緊急事態です。小松にザイが攻め込んできています』

 声の主は堀内だった。

「なんだって!?」

『数は20以上。重爆型も確認されました』

「小松のSC(スクランブル)は!?」

『F-15Jとドーターが上がってます。そして一尉にも命令が下ってます』

「ちょっと待て、俺は今、百里だぞ? 小松に? 何故だ?」

『本田空将補です。早く上がって落としてこいと。八代通さんが空将補に根回ししたそうです』

 越権行為甚だしいと思いながら、最後の仕上げの時がやってきた。

 実戦。いつか来るザイとの戦闘、N-0と宮鍋の存在する理由。

「すぐ上がる! 手配頼む!」

 電話を置くと宮鍋は出撃命令を受けたと他の隊員にこの事を告げ大急ぎで出て行った。ここからは時間との勝負になる。堀内は整備補給群の隊員にSC扱いで出撃する旨を伝え、武装と燃料の搭載を告げる。

 N-0で初めての実戦。いつもどおり。宮鍋に弐国堂の言葉が心強かった。

 着替えを終えヘルメットを装着しながらエプロンへ、息告ぐ間もなく目視プリフライトチェック。ミサイルは前後室を設けるウエポンベイ(兵装庫)を左右エンジン間に持つ。

 後側にAAM-4Bを4発、前側にAAM-5Bを6発が内包される。安全ピンが抜かれいつでも発射が可能になる。タラップを駆け上がり着座、自己診断開始。その間に酸素マスク装着、整備隊員がハーネスで身体を固定していく。通常機よりも激しい機動を行うのでより強固に、装着箇所も増えている。

 全てを装着し終わると、「ご無事で」と告げられる。宮鍋はこくりと頷いた。そして必ず帰ってくる、と伝えた。

 タラップは外され、エンジン始動可となる。キャノピークローズ、同調スイッチをLNK位置へ。JFSで右エンジンを始動、回転数20%で点火、JFS解除。掛かったらAPUで左エンジンを同様に始動。SC(スクランブル)時は両エンジンとも掛かった瞬間にミリタリーパワーまで回転を上げアイドリング領域まで戻す。異常なし。

 タワーにSC(スクランブル)であることを告げる。周囲に民間機は無し。いつでも離陸できる。

 滑走路の途中から進入しそのまま離陸するのでこの段階で動翼とノズルチェック。異常なし。翼端灯を3回明滅。輪止めが外され、誘導される。

 ランウェイ03側へタキシング。滑走路へ躍り出たN-0はそのまま速度を上げ、ギアアップしながら急な角度で上昇していった。ハイレートクライム。周辺の民家に配慮しながら、ある程度高度を稼ぐとリヒート使用。音速の壁を易々と破っていく。

 宮鍋の後を追って出てきた弐国堂は地上から見上げていた。あっという間に見えなくなったN-0に対して「速え~な~」と漏らしていた。

 

 

 

 高度40000フィートでレベルオフ、対気速度計がM2.3を越しなおも加速する。民間機の航路とは重ならない。帰りの分は小松基地で補給すれば良い。

 レーダーとマスターアームオン、全ての武装が使用可能になる。レーダー素子に膨大な電力が流れ扇状に広がる範囲を走査していく。N-0に積まれた最新のAESAレーダーは最大探知距離が180マイルを超え、EPCM下で少々短くなっていたとしても従来型と比較して遠く、広範囲を索敵していた。

 ほどなくしてザイと、小松から発進していたF-15Jを捉え始めた。海上には海自の護衛隊群。EPCMの影響か放たれる対空ミサイルは虚空に消えるばかりだった。

 カメラから流れる外の景色に電子の目が捕らえた反射波を受信、合成しリアルタイムで更新していく。首振り式とは異なり走査範囲内であれば瞬時に複数の目標を定められる。EPCM補正。乱戦となっていた空域でも宮鍋は的確に敵と味方を識別していった。チェックマーカーにFRD(友軍)ENM(敵機)が振られていく。

 味方の数が少ない。レーダーで捕らえたものの手持ちのミサイルの射程はそこまで長くはない。ミサイルのMAXレンジを瞬時に計算したN-0は宮鍋に知らせる。まだ少し遠い。味方の中で明らかに違う機動をしているのはおそらくF-15Jのドーターだろうと宮鍋は思った。実際に通常のF-15Jとは感覚的に異なってレーダーに視えていた。そしてザイも。N-0を通して対峙するのは初めてだった。

 ロックオンしている敵機のマーカーがボックスに変わる。ミサイルのMAXレンジを割り込み、十分な命中が見込める距離まで近づいたという証拠だ。

「SHADOW01.ENGAGE.FOX1」

 後室の扉が開きAAM-4Bを4発すべて発射。

 機体から落下と同時にロケットモーターに点火。燃焼剤の尾を引いて加速していくそれらは、一定距離を進むと前方で跳ね上り高度と速度を乗せる。やがてモーターの燃焼が終わると滑空していく。

 本来はアクティブ誘導だが対ザイ戦中射程以遠においてはEPCM対策でセミアクティブ誘導として運用する。遠距離ではN-0のコアによる自律誘導にも限界があるからだ。しかしこうしたことでAAM-4Bの本来の射程が活かされた。

 リヒートカット、中間誘導のため減速。レーダー照射を継続しほぼリアルタイムで4目標の位置情報を更新し続ける。そして終末誘導に移る。

 

 

 

 くそっこいつらめ!!

 F-15Jを駆っていた串谷はザイの予想以上の機動性とEPCMに翻弄されていた。隊列を組んでいた味方機も落とされていき、残りもそう多くない。

 ミサイルは撃ち尽くし機関砲だけで戦う。時折F-15Jのドーターがザイを落としていくが多勢に無勢、圧倒的に不利な状況は変わらない。

 また1機味方が墜ちたのを見た。しかしそれを気にしている余裕も無いほど追い立てられる。高Gを掛け最大限の旋回率を維持してもザイの後ろを捕らえられない。逃げるので精一杯だった。その横を紅い鏃のような機体が抜けていく。

 あれは…あいつか?

 しかし今までまともに飛べなかったのが嘘のように鋭い。1機、また1機とザイを落としていく姿を回避機動の中で見た。そして重爆型のいる方へ向かっていった。

 奴め、1機で向かうのは自殺行為だろ、やめろ。

 そう思っていた矢先に通信が入る。

『SHADOW01.ENGAGE.FOX1』

 なんだと? SHADOW01? 宮鍋のコールサインじゃないか。なぜ戦域に居る? どこだ?

 頭を振り回し周りを確認すると後方にザイが貼り着いていた。振り切れない、しまった、やられる。

 串谷の思考とは裏腹にザイは串谷を追うことを突然止めて回避行動に移った。左右にジグザグに―とても常識的なものではなかったが―動いたが次の瞬間爆発とともに砕け散る。残存する味方機の後ろに着き狙いを定めていたザイも撃ち落とされていった。

 ザイに混乱が走る。

 助かったのか…? だが、あの紅いドーター(グリペン)だけで重爆型とやりあうのは無理だ。   

 SHADOW01、宮鍋はどこにいる!?

 

 

 

 ミサイルは4発全て命中し、敵性マーカーが4つ消滅した。JADGEとのデータリンクでも確認。その最中に真紅の機体が駆け抜けていくのをN-0に搭載されているカメラは望遠モードで捉えていた。それは宮鍋の頭の中にしっかり映し出されていた。

 あれはグリペンだ。飛べなかった? それを全く感じさせることなくザイを落としている。

 リヒート点火、N-0は再び速度を上げる。相対距離が瞬く間に縮まっていき戦線へ到達する。AAM-5Bを選択。シーカー作動、制御部にあらゆる情報を叩き込み、味方機に追いすがるザイめがけて放つ。

「FOX2」

 前室から4発。まちまちな方角と高度にもかかわらずザイの排気炎を捉え、上から、横から、後ろから、狙いを定めた目標に誘導を切らすことなく最短距離でザイに当てていくN-0。残り2発。ミサイルアラート。2発来る。チャフ、フレアを散布と同時に吹き飛ぶようにバレルロール。ザイのミサイルを欺瞞、誘爆させる。自機の真横、3時方向からからF-15Jを狙っていたザイが転進し機関砲を撃ち込まんと突っ込んでくる。

 それすらもN-0の全周囲を見渡さんと配置されたカメラは捉え、宮鍋は見逃さなかった。

 カナードが上を向きノズルが下を向く。同時に背面のVFCから高圧の空気を噴き出すと、姿勢はそのままに負圧となった空間に瞬間的に飛び上がる。慣性そのままに即座にノズルとラダーを右に向け右エンジンの推力を減らす。さらに機関砲の弾道をザイの予測進路に向けありとあらゆる制御部位を微調整。左から右、真横に発生する水蒸気。既存機では到底実現し得ない領域の操作をする。

「FOX3!」

 ザイの放った機関砲弾は一瞬前の位置を通過し、弓なりの軌跡を残しながらヘッドオン状態となったN-0はその機動と同時に放った20mm航空機関砲弾はザイの胴体を食い破り残骸へと変えた。超音速から亜音速への極一瞬の出来事を処理したN-0は元の進行方向に機体を1回転させ何事も無かったかのように体勢を整え、再びザイを追わんとする。

 マッハコーンが即座に発生するほどの加速は暴力的と言えた。遷音速域において吸気はバイパスを通さず、全てコンプレッサーから燃焼室に導かれる。恐ろしくエンジンのレスポンスが良い。

 宮鍋の9時方向で一際大きな爆発。途端ザイが翼を翻し空域を離脱していった。

 重爆型をやったのか?

 宮鍋は燃料供給を制限しバイパス経路へ空気を流していく。エンジンブロックの冷却と燃焼効率の良い巡航状態に戻した。

 撤退した敵を深追いせず、周辺を索敵する。空域クリア。

 重爆型がいた方角には真紅の鏃が飛んでいた。JAS39D-ANM、グリペン。

 グリペンと合流し平行に飛び機体を左右に揺らす。

「久しぶりだな、こちらSHADOW01、小松では世話になった。何と呼べば良い?」

『私はBARBIE01。向こうの子がBARBIE02』

「Roger。飛べたな、BARBIE01。欠けていた物は見つかったか?」

『うん、見つけた。とても大切なもの』

「そうか、おめでとう」

 そんなことをやりとりしていると山吹色に輝くF-15が近づいてくる。装甲キャノピーが装着されていることからドーターであることは明白だった。

『えーなにこれ!? 主翼が前向いてる!? 変なの。こんな子いたっけ?』

 グリペンと違って実にあっけらかんとした声が返ってきた。F-15のアニマは明るい性格なのだろう。

「初めましてだ、こちらSHADOW01、百里基地所属機だ」

『BARBIE02、イーグルだよ。ん?? ドーターだけどドーターじゃない???』

 幾何学的な模様が浮かぶが、ドーターのように発光しないN-0を見たイーグルが不思議そうに言った。

「申し訳ないがここで詳しいことは話せないんだ」

『ふーん。ま、いっか』

 ある意味助かる反応だと宮鍋は思う。

『タイガーよりSHADOW01、応答しろ』

 通常のF-15Jが1機寄ってくる。空自の使用する周波数帯のチャンネルから聞き覚えのある声が流れてくる。

 コクピットから手を振る人物は串谷だった。

 公式には死亡している現在の宮鍋にTACネームは無い。コールサインがそのまま宮鍋のことを示す。

『よう、見えているか? 百里からわざわざご苦労だったな。ボスの命令か?』

「ポジティブ。まさか小松に派遣されるとは思いもしませんでした」

『こっちも寝耳に水だ。だが助かった、飛行隊を代表して礼を言う。今頃上層部は混乱しているだろうが、まあ後処理はどうするか見ものだな』

「穏便に済ましてほしいものですね。それでは戻ります。RTB」

 機体を左右に揺らす。帰投を宣言し離脱。緩上昇から旋回し小松を離れていく。

 武装を格納式としたことでミサイル満載だったにもかかわらず抵抗は増えない。宮鍋が思った以上に燃料はまだ余裕があった。

 N-0の初陣はこの上ない戦果だった。

 あの時の任務からはとても想像できない、怖いくらいに。

 しかし同時に、もし小松にいたらもう少し被撃墜機は少なく出来たのではないかとも思う宮鍋であった。

 

 

 

 

 

 百里の格納庫に戻ってくると開発スタッフに整備員、そして航空団の半数はいるんじゃないかというほどの出迎えがあった。宮鍋は驚いてしまう。

 宮鍋は高G機動と実戦の緊張から開放される。同調を切った途端、かつて味わったことのないGが掛かった身体があちこち痛み出した。夢の世界から現実に引き戻されるような感じがした。

 質問攻めに遭い、やっかみをかけられながら今夜は飲み明かそうという者まで出る始末だった。

 筋肉は痛めつけられ臓物が重い。関節も悲鳴を上げていたが、お手柔らかに、と返すのが精一杯だった。

 航空自衛隊、宮鍋久司一等空尉とN-0は生還を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

「先日の交戦記録は以上です、本田空将補」

 堀内は受話器を左手に持ちながらも右手はキーボードとマウスを往復する。

『うむ。一時期は計画の破棄すら危ぶまれたが、宮鍋一等空尉は覆した。各方面に作った借りも無駄にならずに済みそうだ。今日まで頑張ってくれている君にも、支え続けてきた全ての者に感謝してるよ』

「光栄です。しかしザイが攻め込んできたというのは実に特効薬たりえます。八代通室長もさぞ次の手、さらにその先を張り巡らせているのではないかと」

 パソコンの画面を見つつ手を止めることはない。

『刺激的な特効薬だ。副作用が大きすぎるがな。現在の宮鍋一等空尉はアニマとの接触に問題が出そうかね?』

「いいえ、問題ありません。他の者と比較して友好的であります。あの時から継続して観察していますが、一尉が持っている生来の性格であると考えられます」

『ならば問題ない。八代通技官がアニマの集中運用部隊を設置した。独立混成飛行実験隊という。アニマとドーターで構成された対ザイ戦特別部隊だ。今回の件でN-0の戦闘が有効であるとして防衛省の決定により君達もこれに合流してもらう』

「後方で腐らすよりも前線で存分に力を発揮してもらう方がより今後のためになる。ようやく上は理解しましたか」

『腰が重いのは昔からの悪い癖だよ。事が起こってからようやく動き出す』

 電話の向こうで自嘲気味のため息が聞こえる。

『どのみち前線が突破されればザイがなだれ込むのを止められまい。大臣は水際で食い止めるよう防衛線を厚くする方針を水面下で出した。戦力補充として君達にはまた小松へ異動してもらうことになる。正式な書類は後ほど送る』

「了解しました。我々の存在意義を、引いては日本を守る駒としての役割を果たすこととしましょう」

 エンターキーを押した手が止まる。

 僅かに口角が上がるのを、誰も知ることはなかった。

 

 

 

 

 




原作1巻分終了。
アニメ放映から1年経ちましたね。
それまでガーリー・エアフォースの存在を知らなくて、知ったときには11巻発売前だったという・・・。
なんにせよ、この作品に出会えてよかったと思っています。
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