ガーリー・エアフォース 影の航跡   作:青ねぎ

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手直しや表現の変更がドツボに嵌ると大変・・・


3-2

 N-0は第一格納庫、通称一格に駐機とされた。以前の開発試験段階で五格にいた頃が懐かしい。昼時で人が少なめの中、N-0の整備員―メーカーからの出向、技官として従事している―が機材の移動に追われていた。相変わらずこの方々には頭が上がらない宮鍋。

「お疲れ様です、好村さん」

「おぅ」

 皺が深くなりかけている顔を向ける好村。到着からずっと動き続けているようで、若手顔負けの体力は細身の身体のどこにあるのか皆目見当がつかない。

「基本的な整備が出来るくらいには終わったんだが、まだ届かねぇものもあってな。本格稼動はもうちょい待ってくれ」

「いえ、こちらこそ時間とらせて申し訳ありません」

「気にすんな。おっと休憩時間だな。おい、休憩」

 待ってましたといわんばかりにスタッフが休憩に入る。少し遅めの昼食となりそうだった。

「施設隊ががんばってくれてよ、これでも予定より早くあがりそうなんだ」

「あまり無茶しないで下さいね」

「まだまだ若ぇのに負けやせんよ」

 にやりと笑うと好村も格納庫を出て行った。

 宮鍋はN-0にかけてあるタラップを上り、コックピットを覗き込む。

 電源が落とされているMFDの横の狭いスペースに貼られた写真のテープを補強した。これから激しくなる戦いに備えて、剥がれてしまわないように。

 

 

 

 結局、八代通の到着が不明のため限界まで粘ったが、ついぞ昼休憩中に戻る気配は無かったために宮鍋は昼を売店のゼリータイプの栄養ドリンク3本で、ものの15秒で済ませた。

 この後の予定が進まないのでドーター3機が置かれている三格へ向かう。身体改造からの復帰と機体の開発により本物のドーターを間近で見たことがなかったので良い機会だと思った。三格の入り口から中を覗くと舟戸と目が合う。

「ああ、あんたN-0のパイロットか。どうしたね」

「宮鍋久司一等空尉です。ドーターを見せてもらえますか」

「構わんよ」

 軍用機にあるまじき色の戦闘機が並んでいる。JAS39D、F-15J、そしてRF-4EJ。3機のドーター。対ザイ戦用に特別なチューニングを施した機体たち。

「RF-4EJは昨日小松に着いたんだ。午前中室長の命令でDACTをしていたんでな。今は3機とも整備中だ」

「そうでしたか」

 所々ハッチが開けられている。このくだりはN-0もドーターも通常の戦闘機と変わらないようだ。

 タラップをあがりコックピットを覗くと操縦桿が無かった。替わりに両サイドにパネルのようなものが見える。

「あれがNFI。アニマ達が直接機体を操縦してるからくりだ。あんたの場合は人間でありながら似たようなことをやってるんだろう? そのうちぶっ壊れたりしないかね?」

「わかりません。今はまだ直接的な影響は現れていませんが、長期的に見た場合、どんな影響が出るか…。俺自身は、あまり推奨しかねますよ」

 F-15Jのドーターを降りる。続いてJAS39Dのコックピットを見た。後部座席にはNFIのパネルではなく通常の操縦桿が備えられていた。

「フナさん、これは…」

「そいつは鳴谷君専用の装備だな。防衛戦の時、あの子はグリペンの操縦を代わって空戦したそうだよ」

「鳴谷君は操縦できるんですか!?」

「まあすぐにグリペンと交代したらしいがな。シミュレーターでも筋が良かったよ。中国でセスナを親御さんと一緒に操縦してたらしい」

「へぇ…」

 普通の高校生がいきなり戦闘機の操縦なんて仮想世界のものだと思っていたが、なるほど飛行経験が有るなら考えられなくも無い。

 三つ子の魂百までというが、むしろ小さな頃から経験を積んでいた方が将来的に伸びるのではないかと宮鍋は思う。

「末恐ろしいですね」

「ごもっともだ」

 次はRF-4EJへと向かうところで人影を見つけた。

「あら、覗きのご趣味がお有りでしたか、宮鍋久司一等空尉」

 コルセットスカートとブラウスという服装。エメラルドグリーンのおかっぱ頭、和人形を思わせる容貌、白くきめ細やかな肌、一瞬で人間ではないと感じた。

「アニマ、かな?」

「ええ。RF-4EJ-ANM、ファントムⅡです。ファントムとお呼びください。三沢より昨日付で配転となりました。以後お見知りおきを」

「ところで俺はまだ名乗ってないんだが、何故俺の名前を?」

「有名ですよ、あのN-0のパイロット、初陣となる小松防衛戦で9機のザイを撃墜しているなんて、並大抵のことではありません」

 詳しすぎるな。こいつは裏になにか抱えているなと宮鍋は思った。第一その時は百里所属、小松に派遣されたという記録も消されている。そしてザイの撃墜は非公式記録として表には出されていないはずだ。

「それに人間でありながらだいぶ無茶なさって。お身体に障りませんか?」

 このアニマは知っている。情報を掌握し相手を揺さぶってくるタイプだ。機体の偵察ポッド? を見るに恐らくは電子戦型。実戦と同じく、ある意味最も警戒しなくてはいけない。

「お気遣い痛み入るよ、ファントム。まるで何でもお見通しなようだな」

「この程度であればいくらでも。なんでしたら本田空将補の裏事情でもいかがでしょう?」

 博識というレベルではないなと思う。

 現代においても情報の重要性は計り知れない。その全てを手に入れようとでもしているのだろうか。

「いや、遠慮しておこう。他愛ないものだが、八代通技官が外出からいつ帰ってくるか知らないか?」

「お父様でしたら、先ほど技本棟に戻られました。なにか御用でしたらお伝えしておきましょうか?」

「直々に出向いて欲しいと言われてるのでね。情報ありがとう。機体はまた今度見せてくれ。フナさん、すまない」

「なに、いつでも大丈夫さ」

 くるりと執務棟へと踵を返した。

「宮鍋一尉の社会的な体裁と引き換えでよろしければ」

「それは手厳しいな。――それと、ファントム」

「はい?」

 頭だけ振り返りながら宮鍋は言う。

「あまり表情を張りつけといたままにしないほうがいい。魅力が台無しになってしまうぞ?」

 さっきから一度も微笑が崩れなかった。グリペンとは別の意味で無表情なのかと思っていたが、違うな、あれは警戒してるのだと悟った。

 じゃあなとばかりに歩いていく宮鍋。

 背後でファントムは虚を突かれた表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

           執務棟

 

 

 

 

 

「ああ、ちょうど良かった、今から呼びにいこうかと思っていたところです」

 堀内と再度出くわす。

「ファントムと接触した」

「おや」

「あのアニマは、なんだ、底知れないものがあるな」

「そうでしょうね」

「? どういうことだ?」

 室長室へ歩きながら話す。

「まあそれは室長へ挨拶が終わってからでも」

「そうだな…」

 ドアの前でノック。中から入ってくれと太い声がした。

「失礼します…!?」

 一度宮鍋が開けたドアを閉め、困惑の表情でこめかみに指を当てた。

「どうしたんです?」

「いや…」

 見間違えかと思いもう一度ドアを開ける。宮鍋がドアを開けると金髪の15~6歳くらいの少女が長椅子に寝そべって足をパタパタ揺らしていた。当然足をこちら側に向けながら。

 ここ自衛隊の基地だよな? と心の中でつぶやいた。

 そしてこの娘は――。

「イーグル、ちょっと席を外してくれ」

 白衣の巨漢、八代通が言う。『禁煙』の張り紙など眼中に無い、とばかりに灰皿は吸殻で埋め尽くされていた。座っている回転椅子は悲鳴を上げそうだった。

 やっぱりアニマか。

 イーグル、F-15Jのアニマだった。

「ぶー! せっかくお父様と二人っきりだったのに! ――んん?」

 ウェービーなロングヘアにリボン、宝石を思わせる碧眼、ぷっくりした唇が印象的だった。袖なしのデニムジャケットと短いスカートを揺らし、眉間に皺を寄せながらイーグルが近づいてくる。

 宮鍋は顔を覗き込まれる。

「…な、なにかな?」

 変なものでも見えるのだろうか。

「おじさんと会うの初めてな気がしないんだけど?」

 おじさん。

 一尉が石像になったと隣で聞こえたが、宮鍋は白眼を剥いて意識が一瞬遠のいた。

 33歳、妻子持ち。

 うん、何も間違ってない、間違ってないのだが。改めて向けられるとダメージが大きい。

「どうしたのおじさん?」

「い、いや、心の準備が…」

 壁に手をつき項垂れる宮鍋。

「いつかはそんな日が来るもんだろうよ、一尉。まあ自己紹介くらいは済ませてくれ」

「み、宮鍋久司、一等空尉…本日付で配属です…」

 傷が深かったのか白眼での挨拶。いまいち締りの無い挨拶になった。

「F-15J-ANM イーグル。ザイなんて全部イーグルが落としてやるんだから」

「以前小松の空で会っていると思うよイーグル。顔合わせは初めてだけどね。あと一尉を地上で撃墜しないように」

 おい、堀内、援護射撃するな。

 刺すような視線と歪めた唇を向ける宮鍋。

「なんかよく分からないけどイーグルの勝ち~!!」

 満面の笑みで高らかにVサインしているイーグル。

「みんなに自慢してくるー!!」

 勢いよくドアを開けて出て行ってしまった。

「…嵐のようなアニマだな」

 と宮鍋。ああ、串谷二佐が言っていたことはこれか、と宮鍋は理解した。

「単純なもんさ、喜怒哀楽がはっきりしている。空戦処理能力を向上させるため余分なキャッシュは常時クリアするようにしたせいもあるのかもな。外見はあんなだが精神年齢は幼稚園児くらいか。あんたにとっては子供がもう一人増えたと思ってもらっていい」

「俺は父親ではあるが、保育士のライセンスは持ってないぞ」

「なんなら斡旋しようか? 資格を取る奴もいるしな。冗談は置いといて、本題だ」

 雰囲気が真面目なものになる。

 八代通は煙草に火をつけ、肺いっぱいに吸い込んだ煙を吐き出しながら言う。

「あんたを百里から呼び寄せたのは他でもない独飛に編入するためだ」

「独飛?」

「独立混成飛行実験隊。略して独飛。指揮系統は防衛省のままだから安心してくれ。各飛行隊に分散しいていたアニマを集中運用し、即応体制を確立するのさ。あんたもご存知だろうが、通常機と性能差の隔たりで同時運用が難しいし、整備体制も合理化できる。こっちとしても好都合だ。そのために俺も少しばかり無茶はしたが、なんとかしてみせる」

「よく第7航空団を丸め込んだものだ」

「統合幕僚長の決定だからな。先日の小松襲撃で目が醒めたんだろう、あの後大慌てだったろうさ」

 再び八代通が煙草を咥え紫煙を吐き出す。

「で、だ。あんたの所属は独飛になるわけだが、アニマとは違う空自の極秘対ザイ戦特殊作戦機及びそれに付随する装備品という扱いでもあるから、防衛省とメーカーから独飛が貸与を受けているという体で活動してもらう。表向きはな」

「裏は?」

「現自衛隊員とアニマの橋渡し役さ。同時運用は難しいとはいったものの防衛においても小松にアニマ3体、那覇に1体だけじゃ全体としては成り立たない。各隊との連携もしなきゃならんし高性能なアニマもこればかりは容易じゃない。ファントムはともかくグリペンとイーグルには期待できんからな。現にあんたと隊員たちのパイプラインは太いから俺の負担も多少減る。加えてN-0とあんたをアニマ達の殿役としたい」

「なるほどな。そのファントムならここに来る前に三格で接触した」

「ほう」

「あのアニマは、なにか抱え込んでるんじゃないのか?」

「堀内から聞いたかもしれないが、自衛隊初のアニマがあいつでな。俺の処女作ということで過度の期待をかけすぎてしまったのかもしれん。あいつの価値観、最優先事項は『人類の救済』だ。あいつ一人で全てを背負い込もうとしたのさ」

 人類、裏を返せば日本人だけではない。人という種全体の事だ。

「無理だ、そんなの」

 宮鍋の眉間にしわが寄る。

「ああ。だが、そう思ってしまった。結果あいつが動きやすいよう環境を作ろうとする。三沢でアニマ関連のトラブルを聞いたことがなかったんだが、その答えが最近ようやくわかった。ファントムの奴、見事な情報の操作をしでかしていやがった。誰にどう伝わるか完璧に計算して無数の対立を作り上げアニマに構うどころではなくなっていたらしい」

「味方であろうと容赦なし、ということか」

「ああ。鳴谷君も憤っていたな。三沢と同じことはするなと釘を刺しておいたが、正直どうなるか判らん」

 少しくたびれた様子を見せる八代通。

 宮鍋は顎に手を当て少し考える。

「どうした?」

「いや、そう考えるとファントムなりに救おうとしてたのかもな。『そんなことをしなくても、私達に任せておけ』と。意外と不器用だな」

「本人に聞かせてやってくれ。俺も反応を見てみたい」

「一途だって言っておく。それにしても人類の救済とは壮大なテーマだ、恐れ入る。だが一つ安心したこともある」

「どういうことだ?」

「一人で突っ走って歯止めが利かなくなるようなタイプではないな。やり方はどうあれまとめ上げようとしているわけだ。参謀役として適任だ」

「突っ走っていくのはイーグルの方だ。あいつはザイ見つけた、落とすを地でいくからな。単一目標相手ならいいんだが、周りが見えなくなる。丁度いい手綱役が増えて俺も溜飲が下がるよ」

 吸殻と化した煙草を灰皿に押し付け、もう1本に火をつける。

「適当に八代通技官の名前を使えばコントロールできるか」

「あんた、ファントムと同類か?」

「そんなわけないだろう? ちなみにファントムはどこまで人の情報を掴んでいるんだ?」

「恐らく全部知っているだろうな」

「やっぱりな。あの様子ならそうじゃないかと思ったんだ。俺に関しては開けっ広げにしておいて正解だった」

「は?」

 八代通の予想の斜め上の意見だったようで、なかなか聞く機会が無いようなトーンだった。

「以前にF-15で小松に巡回教導で訪れた時、飲み会で妻と娘のことは言いふらした。隠すものも無いからな。俺の、もとい隊員の情報なんて入隊時にとっくにすっぱ抜かれているよ。情報保全隊にな。身内の素性からキャッシュカードの履歴までなにもかも把握されてる。堀内が俺と東を選抜したのだって、そういうことだろう。隊にいる限り俺たちのプライベートなんてないも同然だ」

 そうだろう? と言わんばかりに宮鍋が堀内を流し見る。堀内は眼鏡を直した。

「ファントムにネタを握られていようがなんの痛手も無いさ。むしろ電子戦型というならそのくらいやってくれた方が安心できる」

「これは傑作だ。人によって見方がこうも変わるとはな。さすがに鳴谷君(未成年)よりも人生経験豊富なだけあって懐の深さが段違いだ。少し肩の荷が下りた。堀内があんたを選抜したのだって経歴を調べ上げて各所にどう伝わりどう動くのか精査したんだったな。じゃなきゃこんな無茶苦茶な計画なぞ通らん。俺としたことがすっかり失念していた」

 心底愉快そうに笑みを浮かべる八代通。

「まあ、今更という感じがする。俺のことは配転直後の隊員でもなければみんな知ってるからな」

「そこまで割り切っているなら、あんたにはなにも心配しなくていいか。では、あいつらと鳴谷君の面倒でもみてやってくれ」

「できる限り善処する。ところで、俺のコールサインはどうするんだ?」

「あんたはそのままでいい。自衛隊員とも行動する以上あいつらと別行動になることも多いからな。影のまま動いてくれ」

「了解」

 

 

 

 

 執務棟を出ると西の空が赤く染まりかけていた。

 小松にアニマ3体が集結している。日本海側の最前線基地となったここに戦力の集中配備が行われるのは当然の采配だろう。そして自分も配備された以上はザイと戦い貫く。生き残りを賭けて。

 整列し、礼。日章旗が下ろされ自衛隊の1日が終わる。有事であるが故に各隊員に即応体制が敷かれるが、事務関係の後方支援部隊で非番のものは基地の外に―といっても遠くには出られないが―出る者もいる。

 宮鍋は外に出ることは出来ないが、特に気にした様子も無く基地で生活している。

 夕食後、自室からノートと筆記用具を持ち、格納庫へ向かう。落としても何とかなるように紐を付けた鉛筆と消しゴムである。タラップをかけコクピットに着座。そこで日記を書くようにしている。他にはN-0に感じたこと、簡素ながら戦技研究もイラスト付きで書き込むようにしていた。すでに5冊目になって久しい。

 N-0、とりわけ宮鍋駆るγ(3号機)は独特な機構のせいで基本的な操縦マニュアルがあっても半分しか、それも大体既知のものしか役に立たない。後の半分はパイロットである宮鍋が造っているようなものだった。机上の空論の正誤を埋める感じ。実証機のα(1号機)でもシミュレーション上でも現れない過敏とも取れる反応を知り、自らの支配下におくことは重要である。

 普通は順番としては反対なのだが、ザイの襲撃とまだ誰もやったことのない例がそれを狂わせてしまい実戦投入が先になってしまった。まだ見ぬ後世のために、もしこれが必要になったときに少しでも負担が軽くなるように、役に立ってくれるように祈りながら。

 描き終えた後は残っていれば自衛隊用の書類の作成、ランニングやトレーニングをこなす。従来機とは一線を画したN-0を運用するためにも基礎体力維持は欠かせない。そして他の隊員とのコミュニケーションや衣服のクリーニングなど。ここまでやるとあとは就寝時間を残すのみとなる。アラート待機が無いときはほぼこれの繰り返しである。やることが多いので他に何かやる時間が無いとも言う。

 しかし今日はそのルーチンが日記を書き終えたところで崩される。

「ここにいたか。ちょっと付き合え」

 残務を終えた串谷であった。

「少々お待ちください」

 タラップを降りる。手近な机にノートと筆記用具は置いていくことにした。

「珍しいですね」

「そんな日もある。厚生棟いくぞ」

 この展開は大体その後の流れが決まっている。厚生棟にしかないもので、隊員の数少ない娯楽の一つを提供できるもの。

 酒だな、と宮鍋は思う。だが昔から串谷が誰かを誘って飲んでいるところはあまり見たことが無い。

「積もる話もある」

「はぁ…」

 目的の場所に着くと異様な熱気と視線が宮鍋を囲った。

 垂れ幕に宮鍋一等空尉歓迎会の文字。これは長丁場コースだ、と悟る。

 宮鍋自身はあまりアルコールが強くない体質である。

「よしお前ら、歓迎してやろう、盛大にな」

 乾杯の音頭から当たり前のように酒とめくるめく質問攻め。百里でも同じような目に遭ったが、こちらもこちらで酒と肴はなんでもいいようだ。

「一尉、撃墜王連れてきました!」

 ほろ酔いの隊員が引っ張ってくる。

 ところどころはねた長い金髪に大きなリボンを結った少女がいぇ~いと、泡盛片手に出てきた。宮鍋がむせる。

「イーグル、なんでいるの!?」

「だって那覇で米軍と飲み歩いてたんだもん。こっちでもいっぱい飲むよー!」

 アニマって酒は大丈夫なのかという突っ込みが心の中で浮かんだが、この場でそれを言うのも野暮というものだろうか。八代通が大丈夫とでも言ったのだと言い聞かせる。

「で、おじさんに勝ったからイーグルの分はおじさんが奢ってくれるんだよね?」

 どっと笑い声が上がった。昼間の件は本当に広まっているらしい。

「地味にダメージ大きいんだから『おじさん』はやめろ! 笑ってる奴も俺と変わらないからな!? せめて一尉にしてくれ!」

 さらに大きな笑い声。

「というか何に勝ったのか判ってるのか!?」

「わかんない!!」

 腹を抱えたりばんばんと机を叩いてるのが数名。アホだ、というのも聞こえた。

 いつの間にかイーグルが中身を飲み干したコップがどんどん増えている。呼応するように他の隊員たちが盛り上げ、赤ら顔の宮鍋がイーグルと積まれたコップを交互に見て驚愕を露にする。

 おい、ちょっと待て、どれだけ飲むつもりだ。明細見るのが怖いんだが。

「少しは自重しろ!」

「やだ! 泡盛もういっぱーい!」

 夜は更けていった。

 

 

 

 

 




最後だけちょっとガス抜き

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