あの後、玉依姫は消滅して行った。
光の粒子となり、その姿は消えていった。
消える前に玉依姫はある物を残していった。
「これでいいんだな?」
「この終わり方なら妾も満足じゃからな」
体の端々から光となって消えいく。
骸はただそれを見ていた。
想いは十分に伝わった。
受けとる物は受け取った。
あとは見送るだけである。
と、考えていると玉依姫は何かを思い出した様に懐を探る。
「あった、あった。汝、これを受け取れ!!」
「?」
玉依姫は懐から取り出した“それ”を骸へと投げ渡した。
「何だこれは?”鈴”か?」
「そうじゃ。その“鈴”は妾が近くにいると鳴る様になっておる」
「そんなもんをどうして?」
もう玉依姫は消える。
ならば、そんな物は渡す必要があるのだろうか。
「“契約”したじゃろう?あの日、創造した“魂”の半分程は妾の成分じゃ。おそらくその“鈴”も反応するじゃろうし、上手く使っうんじゃな」
「そういうことか。分かったよ。大事に使う」
「なら、良い。そろそろ妾は消える。任せたぞ?」
「あぁ、“契約”は必ず守る。だから安心しろ」
直後に光が強くなり、玉依姫は完全に姿を消した。
死んだ、というわけでは無い。
まつろわぬ神はそういう存在では無いのだから。
それでもあの人格としての玉依姫は消えた。
満足そうな表情で消えていった。
◆◆◆◆◆
数週間が経って“彼ら”は現在、ギリシアにいた。
玉依姫に渡された“鈴”を道標に探し回った結果、ギリシアに辿り着いた。
とはいえ、地名などは全く把握していない。
適当な地図を買って、周囲を把握し、宿を転々としている。
カンピオーネとしての気配は権能によって隠し、一般人の気配を放っているので面倒な者達に見付かる事も無い。
「しかし、見付からねぇな」
(“鈴”の反応からしてこの街にはいそう何だがな)
「そもそも外見も分からねぇ、名前も分からねぇ、性別も分からねぇとなると探し様がねぇからな~」
(頼りの“鈴”もこの街まで導いてくれたはいいが、それ以降全く反応しないしな)
宿の自室で愚痴る。
“彼ら”の現在の格好は伸びたままボサボサで放っておいている黒髪を後ろで適当に縛り纏めている。
服は黒系の色の半ズボンに、灰色系のフード付きの半袖という感じである。
髭は一応剃ってはいるが雑である。
「そろそろ髪を切るか?」
(確かに伸ばし過ぎて後ろに纏めるにも長くなり過ぎてるしな)
その後、食事を取ってシャワーを浴び、明日は路地裏を中心に回ると方針を定めて眠りについた。
◆◆◆◆◆
翌日。
骸は路地裏を中心に街を回って、とある違和感を覚えた。
「何か妙な気配があるよな」
(確かに人払いや、結界に似た臭いはするな)
“彼ら”はその出所を探って行き、一つの教会の近くへと辿り着いた。
地図を見てみると、その施設は教会兼孤児院と言った感じらしい。
いざ、踏み込もうと思うが目の前に結界が張られている事に気付く。
否、教会を包む様に結界が張られていた。
「気配隠しに、人払いまで組み合わせてあるな」
(結構な大物がいそうな感じだな)
「と言うかこの結界は魔術を知ってる程、影響を受けやすくなってるな」
(通りで俺達も気付きにくかったわけだ。つーか、この結界に気配隠されてるから“鈴”も反応しないんじゃねぇか?)
「だろうな。見逃した故にダリィ事になったな……………」
喰の考えに頷きながら、骸は結界をどうするか考える。
そして、何故こんな教会を結界が包んでいるか考える。
そして、結論を出す。
「ダリィし、無視して進むか」
(それで笑えねぇ事になったらアレだがな)
カンピオーネの体質を使えば、結界を破るくらい簡単である。
魔術が効かないのだからそのまま進めばいいだけである。
骸がダルそうに歩を進めると、結界は多少抵抗する様な動きを見せるが、カンピオーネの体質の前に砕け散る。
「しかし、何でこんな教会に結界を張る必要があるんだ?」
(案外、孤児院の面がメインな理由かもな)
そんな事を話しながら進んでいると、チリーンと“鈴”の音が響く。
“彼ら”が思わず振り向くと、背後では修道服を着た“彼ら”と同年代と思われる少女がレイピアと思われる剣を持ち、斬り掛かってきていた。
その剣の軌道は正確に“彼ら”の首を狙っていた。
◆◆◆◆◆
「っぶねぇな!!」
“彼ら”は膝を思いっきり曲げ、倒れ込む様な形でその剣を避ける。
完全に避け切れたわけでは無く、巻き込まれた髪がパラパラと落ちていく。
少女はもう片方の手に持っていた剣を振り降ろしてくる。
「殺………(駄目だ。殺ったら駄目だ)」
骸は“糸”で剣を受け止め、ナイフを取り出した所で思い止まる。
そこで止まっていなければ少女の首に突き刺していただろう。
護堂と戦ってから、骸は即殺を封印していた。
とりあえず殺すかどうか見極めてから殺ると戦闘スタイルを変更していた。
喰もそれに合わせていた。
とはいえ、“彼ら”の本領が発揮されるのは敵の死角をあらゆる方法で突く殺り方だ。
真っ正面からの戦闘もそこそこ以上には出来るが、即殺を封印した馴れない状況では話が別だ。
戦いにくくてしょうがないのだ。
“彼ら”の戦法は微妙に違いはあるのだが、基本的には対人特化型である。
カンピオーネになってからもそれはほとんど変わっていない。
まつろわぬ神相手なら戦い方はそれなりにあるのだが、同類を相手にする時にかなり相性が悪くなるのだ。
しかし現在の相手は人間である。
戦いにくくはあるが殺さず止めるくらいは出来るであろう。
ただし、相手が並の相手ならばだが。
「ハァァァ!!」
「うおぉぉぉ!?」
少女は剣を一旦手放すと、スリットの入った修道服の太股辺りに手をやると、隠してあった小銃を手に持ち、至近距離で発砲する。
狙いは完璧に脳天と首だった。
「あら、これも避ける?貴方は結構やりそうね」
「この女………」
骸は顔をひきつらせながら距離を取る。
少女は小銃を太股にセットすると、再び両手に剣を持つ。
ブーツに、ニーソに、スリット入りの修道服と、修道女らしさの欠片も無い。
「さてさて、侵入者さん。一応聞いておくけど、院長の結界を破って堂々と侵入してくるって何が目的かしら?」
「人を探してるだけだよ」
「あっそ」
興味無い様に呟き、少女は凄まじい勢いで懐まで飛び込んで来た。
骸は“鬼切丸”を取り出して応戦する。
「ん?」
刀と剣が打ち合う中、骸は“鬼切丸”の様子に違和感を感じる。
明確な意思は持ってないが“妖刀”として本能と言う物は持っている。
その本能が何かを感じているのか、骸は使い心地にズレを感じる。
「(それはともかく………喰、変わってくれねぇか?)」
(俺は駄目だな。殺しかねない)
「(そうかよ)」
なら、仕方ないと骸は少女の方を見る。
彼女が剣を引くタイミングに合わせて、強めに打ち込む。
「っ!?」
少女は何とか受け止めるが少々後方へと吹っ飛ばされる。
骸はその間に懐から輸血パックを取り出し、中身を飲む。
すると、骸の左目が紅くなり、髪の三分の一が白くなる。
血を飲む事により、発動するクドラクの権能ではあるが血の質、量、鮮度によって少々変化する。
質と量によって強化される度合いは左右され、量と鮮度で発動する時間が左右される。
玉依姫の場合は“彼ら”の呪力そのものが強化されたが。
「(一パックだと持って三分か)まぁ十分だ」
「何の話よ」
「こっちの話だ!!」
再び向かって来た少女の左の剣を避け、刀を打ち込むが右の剣に防がれる。
怯んだ所で剣を蹴り上げる。
少女の両の手から剣が離れた所で押さえ込もうとするが、予想外の行動を取ってくる。
「剣を奪ったら終わりだとでも思った?」
カシャンと言う音がしたと思うと、ブーツの爪先部分から刃が出てくる。
どうやら仕込み武器の様だ。
そして、そのまま顎を蹴り上げる様にしてきたのをギリギリ避ける。
「グッ!?」
次の瞬間に口を狙って、蹴りが飛んできた。
勿論、刃が展開した状態でだ。
「さっきまで“隠してた”様だけど、この気配はカンピオーネとか言う存在ね。カンピオーネの弱点は口だったわね?」
何処で聞いたか知らんが、それは一部間違ってると言う前に蹴りが到達する。
だが、今度は少女が驚く。
骸は刃を噛んで止めていた。
そして、そのまま噛み砕く。
「ペッ……ダリィな(他の権能使ったら気配隠しが消えるの忘れてたぜ……)」
(というか歯で受け止めるとか止めろよな………笑えねぇくらいに歯が痛むじゃねぇか)
喰の文句を聞き流しながら欠片を吐き出す。
「なら、これならどうよ!!」
シャコンと言う音がすると少女は右の足で回し蹴りを放って来ていた。
後ろに跳び下がり、避けるがよくブーツを見ると踵の部分に改造がされていた。
まるで銃口の様な改造が。
「!?」
空振りの筈の蹴りが顔の前に来た瞬間に発砲される。
どうやら呪力を注ぐ事で発砲する仕組みの様だ。
銃弾が顔面へと迫る。
「(こうなったら奥の手だ)」
骸は舌を出す。
直後に舌に刻まれた何かが浮き出る様に光り、魔法陣となり、銃弾を受け止め、【弾いた】。
「ったく、弱点の対策をしないと思うか?」
実際には事情が違うが舌に刻み発動する魔術。
これが奥の手であった。
元々は捕縛された時の奥の手であったが、カンピオーネになった後も都合がいいので残していた。
五回使うと使用不可となり、再調整が必要なのだが、様々な魔術を使用出来るのが利点である。
「さて、どうする?」
「ふふ………なら、私も見せてあげるわよ。奥の手ってやつをねぇ……」
少女が何かをしようとした時、この戦いを止める者が現れる。
「貴方達は何をしているのかしら?」
凛とした声が響く。
して彼らの間に呪力による壁の様な物が出来る。
少女はその声の正体を知ってるからこそ恐怖し、骸は本能的に恐怖し、声のした方をゆっくりと見る。
そこには少女の様な改造された物でなく、キチンとした修道服を来た女性が立っていた。
修道女らしく表情は微笑みを浮かべていた。
しかし、目は笑ってはいなかった。
それを見た瞬間、骸は色んな意味で敵わないと悟るのだった。
新章開幕!!
やっと女登場!!
玉依姫とか、エリカ達は別枠です。
いきなり襲って来た理由については次回です。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。