自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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舞い散る黒い羽(F)/目覚める鏡像(B)

 

状況を確認しよう。

朝、宿の自室で目覚めたら部屋が血塗れになっていた。

否、血塗れというよりは肉片が飛び散り破裂した様な光景だ。

 

「……………ダリィ。何度目だよ、これ」

 

骸にとってこれは初めての出来事では無かった。

たまにあるのだ。

夜襲を仕掛けた連中が何故か肉片に変わっている事が。

骸の装備でやれない芸当ではない。

意識が無かろうが罠として仕掛ければ問題は無い。

問題は仕掛けてもいないのに襲撃者が肉片になっている事だ。

そして、一番面倒なのが証拠隠滅である。

普段なら出来るだけ証拠が残らない様にしているので問題は無い。

だが、このほぼ冤罪と言っていい程の状況はそういうわけにもいかない。

この光景を見れば、誰もが自分が犯人と思うだろう。

それは面倒臭い。

普段から正当防衛と言ってはいるが、過剰気味なのは自覚がある。

その場合は襲撃者の運が悪かったと内心で片付けるだけである。

そして、考えた末に結論を出す。

 

「…………面倒くせぇ………部屋ごと吹き飛ばすか」

 

三十分後。

かなり大雑把な考えの結果で部屋は爆破され、綺麗に骸が使っていた部屋のみ消し飛んだ。

骸は三十分の間に荷物を纏め、部屋を出ていた。

住居の屋根を走り渡りながらオトラント方面へと進む。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

電車に飛び乗ったり、飛び降りたり、を繰り返し目的地へと近付いてきていた。

現在は人気の無い海岸付近を歩いている所である。

今頃、ドニは七人目のカンピオーネと決闘している所だろう。

 

「さて、どう海を渡るか……」

 

そんな事を思いながら海岸線を眺める。

 

「ガッ!?」

 

突如、古傷が痛み始める。

古傷とは神と神殺しの戦いに巻き込まれた時の物である。

左肩から右腰までの大きな傷は今も跡を残している。

それが痛み始めたのだ。

胸を押さえ、うずくまる。

痛みはどんどん大きくなる。

まるで何かが近づくのを感じる様に。

何かを感じ、空を見上げると“それ”を見付ける。

黒々しく闇を放つ“それ”を。

 

「おいおい……マジかよ」

 

“それ”は骸の近くに墜落する。

まるで隕石が堕ちた様に粉塵が舞い、周囲に衝撃波と爆音が響く。

衝撃波に巻き込まれ、骸も吹き飛ぶ。

 

「我が宿敵の気配を感じ、来てはみたものの………何もないな」

 

落下してきた“者”がその中心で呟く。

“男”の周囲には黒い羽が舞う。

その“男”は周囲の惨状など興味が無い様に辺りを見回す。

 

「んん?此方か?」

 

“男”は何かを感じ、吹き飛ばされ、倒れている骸の方を向く。

そして、“男”の背に生える、十二枚の漆黒の巨翼を広げる。

それだけで“男”の背後に爆風が起こる。

 

(……神獣じゃねぇな。あのレベルは“まつろわぬ神”以外あり得ねぇ)

 

骸がそんな事を考えている内に、“男”は目の前に立っていた。

 

「やはり貴様から我が宿敵の気配を感じるな。何者だ?」

 

「……ただの一般人だよ」

 

「そんなわけがあるまい。貴様に宿っているのは“天使”の力だ。ただの小僧が持っているわけがない」

 

「十二枚の翼……天使を宿敵扱い……お前は堕天使か、しかもその長であるルシファーだな」

 

「いかにも、我こそが神に反逆し、堕とされし者、堕天使ルシファーだ!!」

 

高らかと名乗るルシファー。

骸は興味が無さげに、無気力に言う。

 

「そんな堕天使様が俺に何の用だよ」

 

「小僧、貴様に宿りし“力”、どうやって手にした?」

 

「………知るかよ。手に入れたくて手にした者じゃねぇ。勝手に宿ってた“力”だ」

 

「ふむ………なるほど。ならば、消しておいた方が良さそうだな」

 

どういう事だよ、と思いながら骸は笑う。

やっと死ねるのだ。

これ以上はない程、喜ばしい。

そんな事を思いながら、ルシファーの手に収束する黒い力を眺める。

 

「グッ……ガァァァ!?」

 

今度は頭に激痛が走る。

古傷が原因では無い事は察せれる。

何かが……何かが自分の奥底から出てくるような感覚の中で頭を押さえる。

 

「どうした?死に恐怖したか?」

 

「ガッ……ハァハァ……なわけねぇだろ!!むしろ大歓げ………ッァァァァァ!!」

 

叫び、息を荒げて、天を見上げると形になる。

 

「……ハァ、感謝するぜ、ルシファー。やっと主導権を奪えた」

 

顔を降ろし、ルシファーを見るその目は先程までとはうって変わって、獰猛な目だった。

黒一色だった髪にも一房分の白髪が混ざる。

ルシファーはその様子を怪訝そうに眺め、察する。

 

「貴様は……先程までの小僧ではないな」

 

「あぁ、そうだぜ。俺は上月 喰。簡単に言えば、裏人格って所だ」

 

「せっかく出てきた所、悪いのだが死ぬがいい」

 

「やなこった!!」

 

ルシファーが振り降ろして来た黒い槍をギリギリ避け、その余波に吹き飛ばされながらも笑う。

まるでカンピオーネが敵を前にした様に笑う。

 

「ハハハハハハハ、聞いてた通り、神は桁が違う。襲撃してくる雑魚とは大違いだ!!」

 

喰は歓喜していた。

強敵と戦う、それも喰が望んでいる事だった。

そんな戦闘狂な部分を持ちながら、喰は生き残るのに貪欲である。

今までも、例えば今朝の様に自殺志願の骸が無防備に寝ている時に主導権を得て、敵を排除したり、

自殺しようとして気が緩んだ時に主導権を奪い、自殺を阻止したり、

自殺志願の人格とは真逆に生にしがみつく。

今まで喰が主導権を奪っている間は、骸にとって意識を失う程度の認識だったが、現在は違う。

完全に体を奪っている。

おそらく骸も喰の存在に気付く。

だが、今の喰にはそんな事はどうでもいい。

まるで、これが“初めて”では無い様な感覚であった。

確かに失った記憶の中で“まつろわぬ神”と出会った事はある。

しかし、それとは違う。

まるで“魂”が既に何度も神と戦った事があるかのような感覚だった。

両手で合わせて、十本のナイフを構え、呪力を込め、ルシファーへ向けて投げ付ける。

当然あっさり避けられる。

 

「そりゃ避けられるよな……」

 

「例え当たった所で我に効くとでも思っているのか?」

 

一瞬で距離を詰められる。

懐から大量の呪符をばらまく。

その全てが“糸”で繋がっている。

“糸”は呪力を送る血管の様な役割も果たす。

それを伝って、最適なタイミングで魔術を発動させる。

 

「ハァ!!」

 

「【弾】の三式、上d

 

言い切る前にルシファーの蹴りが、喰の左肩を捉え、蹴り飛ばす。

魔術自体は発動していた。

“弾く”方向を調節し、攻撃を上にズラすつもりだったが、神相手には然程効果は無く胸を狙った蹴りを左肩にズラす程度で終わる。

喰の体は軽々飛んでいき、木々を薙ぎ倒しながら吹っ飛び、数m先でやっと止まる。

左肩は当然砕け、身体中が痛む。

おそらく何本か骨が折れ、ヒビが入ってるだろう。

無事な骨がどれだけあるかも分からない。

額から血を流し、左腕は動かない。

 

「こりゃ……絶体絶命ってか?さすが“まつろわぬ神”だ。人間で対抗出来る相手じゃねぇ」

 

状況は絶望的。

実力差も絶望的。

しかし、手は無いわけでは無かった。

敵はルシファー、堕ちて邪悪な存在となった者だ。

それが相手ならばやり方はある。

 

「骸の奴は嫌ってるようだが、有効活用させて貰うぜ」

 

破れた上着から見える古傷を見ながら呟く。

何処まで有効かは分からない。

おそらく普段使ってる程度では駄目だ。

全力………人の身に耐えられるかどうかギリギリなラインを越えなければいけない。

結果的に自分がどうなるかは分からない。

それでもやるだけ意味はある。

賭けに出るだけの希望はある。

 

「仕込みの方も終わってるし、後は運次第だ」

 

戦いはまだ終わってない。

結末も決まっていない。

諦めるにはまだ早いのだ。

さぁ、反撃の始まりだ。

 

 





堕天使ルシファー登場。
基本的になめて掛かってるので能力をほぼ使って無かったりします。
正確には堕天使って属性に留まって無かったり。

そして主人公に変化が。
上月 喰
読みはかみつき じきです。
裏人格というより、表に欠けてる生存欲とかの部分だったり。
人格入れ替わって、髪が一房分変化しているのにも多少が意味あったりします。


では、質問があれば聞いてください。
誤字があれば言ってください。
感想待ってます。

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