少し歩くと、半月が歩を止めた。
「どうした?」
「…………………」
答えない。
何かを集中して『視て』いる様だ。
「骸、ごめん。ちょっと用が出来たわ。荷物は送っておいてくれる?頼むわよ」
それだけ言うと半月は走り出して去っていった。
その表情は獲物を見つけた獣の様に獰猛な物であった。
半月は興味を示した物には異常な反応を示す時がある。
「何なんだ、一体?」
(何かを『視て』たのは確かだな)
“彼ら”が立ち尽くしていると背後から声を掛けられた。
「Алло」
「Или я п роверю вы моя судьба король или не?」
振り向くといたのは黒いフード付きロングコートに無地の白い仮面を付けた人物___ルーシャだった。
相変わらず男か、女か分からない声であったが今回は更に分けがわからない。
「何語だ?」
「分からないならいいよ。特に意味も無いから」
「じゃあ、何の用だよ。半月が消えた途端に現れて」
「だって彼女がいたら面倒だろ?だから君と僕で二人きりになれる時を狙っただけだよ」
はっきりと言ってくる。
正直に言えば正体が分からない奴を相手に話す事は無いのだが。
(此処は一旦、俺に変われ)
「(何でだよ)」
(お前よりこういう奴の扱いは馴れてるつもりだ)
「(まぁいいや。正直ダリィし。変わってくれるなら変わるよ)」
髪が一房白くなり、表に出ている人格が切り替わる。
「あれ?変わるんだ」
「お前の相手は俺の方が向いてそうだからな。つーか、知ってんのかよ」
「そりゃ態度の違いとかで気付くよ。そういう見分けは得意だからね」
「まぁいい。それで何の用だよ?」
「僕としては話をしたいだけさ。話さえ出来れば僕としてはどうでもいいのさ」
「そうかよ。まぁ此処にいると言う事は半月に手を出すつもりも無さそうだし話くらいはしてやるよ」
渋々了承して場所を移動する。
こんな明らかに不審者と一緒にいる所とか目撃されても面倒だ。
◆◆◆◆◆
ビルの屋上を跳び移りながら半月は地脈を視る。
半月はどちらかと言うと『魔女』より『媛巫女』に近い性質を持つ。
『媛巫女』が先祖に神祖を持つ様に、彼女は血筋自体は普通ではあるが“魂”は違う、半分は“まつろわぬ玉依姫”の物である。
下手したら『媛巫女』より濃い力を持っているのだ。
彼女の力は地脈、龍脈に干渉する類である。
その関係によって彼女はその流れを視認出来る。
骸の元から走り去ったのも地の流れを“視て”、何らかの歪みが生じたのを感じたのだ。
歪みの場所に向かって半月は走っている。
場所は大体検討は付いてる。
「いや~何で学校に仕掛けるかな!!向かうのが面倒じゃない!!」
愚痴りながらも目的地は見えて来ていた。
元々そこまで遠出はしてないし、身体強化の術を使っているので予定通りではある。
少々遅くなったのは目的地の周囲から嫌な気配がするからだ。
それを警戒していた為に到着するのが少々遅かった。
着いた時には正体不明の“闇”が消えかけていた。
急いで飛び込めば間に合いそうではあるのだが思い留まる。
「さすがにアストラル界に踏み込む勇気は無いのよね~」
推測として地脈の歪み方からしてそういう類の物だと考えていた。
彼女の魂の半分は“まつろわぬ神”の物だ。
アストラル界に行ったらそれがどうなるか全く予想が出来ない。
体は普通に人間だ。
魂の影響が多少出ているかもしれないが、最悪力が暴走した時に耐え切れなくなる事があり得る。
「さて、問題は誰がこれを開いたかなのだけれども………最近起きた事から考えて清秋院恵那でしょうね。巻き込まれるとしたらあのカンピオーネでしょうけど………その場合は清秋院恵那がこの場にいないのが気になるわね」
何はともあれ手掛かりが欠片も無くては推測しようも無い。
とりあえず誰か来るのを待つ事にするのだった。
どうせ正史編纂委員会が動くだろうと決めつけて。
◆◆◆◆◆
とあるビルの屋上。
喰とルーシャは人目を避ける為にそこにいた。
「それで話って何だ?」
「個人的な興味から聞きたいんだけど、君はどうやってカンピオーネになったんだい?僕としては君がカンピオーネという情報そのものは持っていても何の神を何時どうやって殺したかはさっぱり分からない。だから気になるんだよね」
「答える義理はねぇな」
「だろうね。手の内を明かすわけが無いもんね。聞いてみただけだよ」
全く気にした様子も無く言う。
「じゃあ、本題だ」
話題を切り替える様に言う。
特に最初から興味が無かった様に。
「“間払”って知ってるかい?合間の間に、支払の払で“間払”だよ」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
急に喰の声が冷える。
何か触れてはいけない物を触れた様な雰囲気が漂う。
「その事を俺に聞くという事はつまり、俺……否、骸と“あいつ”の繋がりを知っているという事だ。それとも“男”の方を聞いてるのか?」
「さぁ?僕としては話が聞ければそれでいいよ」
しかし、ルーシャは雰囲気の変化を全く気にせず言う。
まるでどうでもいいかの様に。
まるで、話を聞くという目的だけを果たすかの様に。
「どの道、話す気はねぇけどな」
「そうかい。別に構わないよ。それくらいは予想済みだから。けど、話さない理由は気になるんだけど教えてくれるかい?大方、僕が信用出来ないからだろうけど。しょうがないよね。こんな怪しい僕を信頼する何て無理だろうからね」
「違う。信頼とかそういう話じゃない」
「へ?」
そこでルーシャは驚く様に、そして分けが分からないといった様に首を傾げる。
そんな様子に全く気にせず、喰は続ける。
「俺は基本的に自己を晒す奴は信頼する。どんなに怪しいかろうがな」
自己を完全に晒す奴なんてほとんどいねぇからほとんど信用してないに等しいがな、と付け加える。
そういう点ではドニは信頼出来るのだ。
「だがな、お前からは一切自己を感じない。だから信頼するとかそれ以前に俺はお前を判断出来ないんだよ。そんな奴に話す事は何もない」
「………何それ、理解が出来ないよ。僕は僕だ。それ以外何でも無いよ」
「いいや、違うな。今のお前は全く自分の意思で行動してねぇ。ただ流されてるだけだ。抗いもしねぇで諦めてるだけだ」
「君に何が分かるというのさ」
「分からねぇよ。だから聞きたいんじゃねぇか、お前の本音を。お前という物を見たいんだよ、俺は」
「何?僕が自己とやらを見せれば信頼するとでも言うのかい?」
「そこはお前次第だ」
「勝手な事だね」
「勝手で結構。お前みたい奴は一回人と腹を割って話すべきなんだよ」
ルーシャが何か言い返そうとした時、携帯の着心音が鳴る。
「ちょっと悪いな」
断りを入れてから出る。
ルーシャに背を向けて話し出す。
背を向けてである。
「(僕が最初に出会った時に何をしたか忘れたのかい?)」
ルーシャは拳銃を懐から取り出して喰の背に向ける。
引き金を引けば殺せはしないだろうが傷を負わすくらいは出来る距離である。
「(何で僕に無防備に背を向ける?)」
その疑問がルーシャに引き金を引くのを躊躇わせた。
何を企んでいるのか検討が付かない。
カンピオーネを相手にそれは不気味でしか無かった。
そうこう考えている内に一つの可能性を思い付く。
「(まさか…………僕が撃たないと信じている?馬鹿な。そんなわけがあるはずない。くだらない)」
考えを振り払う。
そんな事はあり得ない。
自分が信頼される何て事はあり得ない。
「(まぁいいや。興が冷めたし、わざわざ手を出す事も無い)」
小さく息を吐き、拳銃をしまう。
そして、無言でその場を去るのだった。
◆◆◆◆◆
『…………という事で頼んでいいかい?』
「分かったよ。そっちはそっちで何とかしとけよ」
それで通話を終える。
相手は馨だった。
どうやら清秋院恵那関連で何か起きてる様だった。
それは置いておき、振り返るがそこには誰もいなかった。
「ったく、一言くらい言ってけっての」
呟き。
気を取り直す。
あの時、何かを『視て』去っていった半月が気掛かりであった。
「ちょっと急ぐか」
目的地に向けて、魔術で身体を強化し、ビルを跳び移りながら向かうのだった。
◆◆◆◆◆
去って行く喰をルーシャは物陰で眺めていた。
「もしかして、本当に彼が…………いや、そんなわけはない。あるはずが無い」
「でも、否定するのもまだ速い」
何かを思うかの様に呟き。
今度こそその場を去って行くのだった。
ルーシャとの会話(?)でした。
“間払”とか、その他諸々は後々です。
半月に関しては体質的にアストラル界に入るとどうなるか予想出来ないという状況です。
冒頭の「Алло」辺りは後々。
それなりに意味が合ったりします。
骸が意味が分かってればルーシャに対する対応が少し変わってました。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。