「【弾】、軟式五の型」
呪符で体を軽く弾いて立ち上がる。
砕け潰れた肩が激しく痛み、意識が飛びそうになるが何とか持ちこたえる。
吹っ飛ばされたおかげで周囲は木だらけ、この環境なら戦い様はある。
「随分と遠くに吹っ飛んだ物だな」
木々を薙ぎ倒しながら、ルシファーが現れる。
移動するだけで迷惑な事だ。
「はっ、今度はこっちのターンだ!!」
左半身を木に持たれ掛からせながら、喰は右手を振る。
それで、仕掛けは発動する。
木々に仕掛けた“糸”がルシファーに絡み付く。
「【弾】【弾】【弾】【弾】【弾】【弾】【弾】」
“糸”に絡めた呪力を込めたナイフを呪符で弾いて、ルシファーに突き立てる。
「【縛】、二式八の型」
呪符を絡めた“糸”を展開し、ルシファーを縛る。
更に呪符で縛りの魔術を発動し、拘束する。
しかし、相手は“まつろわぬ神”だ。
効くとは思っていない。
だが、一瞬の隙にはなる。
「【弾】!!」
背中と靴に張り付けた呪符で体を弾く。
その勢いに任せ、ルシファーの懐に飛び込む。
「これでおw
「ふむ、軽い縛りだ。我を二秒も縛れんとは」
一瞬で縛りを破ったルシファーは、飛び込んで来た喰に大剣を向け、その身を貫いた。
大剣は喰の右肩から左腰の一直線に完全に貫いている。
その刃は血に塗れ、少し振るえば喰の体を真っ二つにするだろう。
そんな状況でも喰は笑っていた。
「ゴフツ……ま…ダ、終わ……ちゃ、ねぇんだよ」
「まだ意識があるか。ならば、最後の足掻きを見せてみるがいい」
「焦らなくても、すぐ見せるさ………」
吐血し、口から血を垂らし、身を大剣で貫かれ、体が麻痺しかけている状況でも諦めはしない。
右手の指を少し動かし、最後の賭けに出る。
残された“糸”が喰とルシファーを纏めて縛り上げ、拘束する。
「こんな状況で何のつもりだ?」
「こんな状況だからだよ。絶対に外さねぇ為にもな!!」
力を込め、残った呪力を右手に集中する。
古傷が淡く光り、白い羽が周囲に舞い始める。
「我が身に宿りし、天使の力よ。闇を祓い、浄め、その救いの力にて邪を消し潰せ。清き魂に救いを、邪なる者に滅びを与えよ!!」
言霊を唱え、その力を限界以上に引き出す。
血管が破裂しそうになり、体が悲鳴を上げるが、この状況でそんな物は変わりない。
今、賭けに出なければ死ぬのだから。
「貴様……まさか!!」
「もう遅ぇ!!祓われ滅びろ、ルシファー!!」
右手を伸ばし、ルシファーの首を掴む。
そこから“天使の浄化”の力を流し込む。
人の身に扱えるレベルを越したそれの純度は天使のそれに匹敵している。
そして、ルシファーは天使に敗れた存在だ。
流し込まれたそれはルシファーを直接削って行く。
「ガァァァァァ!?我が削れていく!?この……忌々しい天使の力が!!」
「今更、悪魔長や、十の角七つ頭の竜の力を使おうが遅ぇぜ!!これはもう致命傷だがらな!!」
血を吐き、血管が破れた所から血を吹き出しながらも力を送るのを止めはしない。
ルシファーが拘束を破り、大剣ごと喰を投げ飛ばした時にはその身は散り始めていた。
「……ハッ、まさか我がこんな小僧に殺られる事になるとはな」
「油断し過ぎで………遊び過ぎたんだよ………人間を甘く見すぎだ………堕天使が」
その言葉を最後に意識は途絶える。
何かが体に流れ込む感覚を感じながら、意識は闇に消える。
◆◆◆◆◆
「なんだ………ここ?」
「こっちの台詞だ…………ダリィ」
彼らはよく分からない場所で目覚める。
「「つーか、何で各々体を持ってんだ?」」
骸と喰が同時に言う。
彼らは何もない灰色の空間で対面していた。
二重人格の人格同士がこうして対面する事は普通ならあり得ない。
「ハァ………本当にダリィ。どういう状況だ、これ?やっと死ねると思ったら、内側からお前が出てきて邪魔してきて、気付いたら此処にいたが。つーか、まさか今まで自殺失敗したのお前のせいじゃねぇだろうな?」
「正解。お前が死んだら俺も死ぬんだ。死なれてたまるかよ。それよりまずは状況の確認からだろ。此処は何処で、何で俺らが分裂してるか」
辺りを見回しても本当に何もない。
あるのは互いの体だけだ。
これが一番おかしいのではあるが。
そんな疑問に答える者が現れる。
「ここは[生と不死の境界]よ。簡単に言えば、[あの世の直前]みたいなかんじ?貴方達が分裂してるのもこういう空間だからある程度融通きくんでしょうね」
突如現れたツインテールの女の子が言う。
見た目的に十四歳。
しかし、言った事が本当ならただの少女では無いはずだ。
「私はパンドラ。そっちは骸と喰でよかったかしら?」
「あぁ、あってるよ。それであんたは何者だ?」
喰が聞き返す。
骸は興味無さそうに欠伸をしている。
「私は女神よ。“まつろわぬ神”とかじゃないちゃんとしたね。そして、貴方達の母親よ」
「「は?」」
二人同時に首を傾げる。
何言ってんだ、こいつ?って感じである。
そしてパンドラの名からその意味を察する。
「つまり、俺らはエピメテウスとパンドラの落とし子、カンピオーネになったと言う事か?」
「そういう事。特に私は神殺しの義母にして支援者。かなり気紛れで無責任だけどね」
「ハハッ……そうか。俺は神殺しになったのか………いいね、いいねいいね!!」
喰はその事実に歓喜する。
幾ら戦闘好きと言っても力が無ければ楽しめない。
そして今、最大級の力を手に入れたのだ。
歓喜しないわけがない。
一方の骸はと言うと、
「マジかよ……………ダリィにも程があるだろ。何でどんどん死が遠くなるんだよ!!俺はただ………死にたいだけなのに!!」
自身の運命に悲観し、落ち込んでいた。
絶望したとも言える。
骸が望むのは死。
カンピオーネはそれからかなり遠い存在である。
それはいらないにも程がある事だった。
とりあえず喰はそれを放っておく。
「それで……あんたは何て呼んだ方がいい?」
「ママでもママンでもマンマでも好きな様に呼んでいいのよ?」
「じゃあ、パンドラ」
「それで行くんだァ~何でほとんどの息子はこうなのかしら?」
パンドラはわざとらしく口を尖らせ愚痴る。
どうやら最近にも似た事があったらしい。
「それで、聞きたいんだが。俺の体は確かほぼ死体って感じだったが大丈夫なのか?」
「それに関してはサービスで治しておいて上げたわよ」
「そうか、ありがとうな!!」
「ふふん♪そうそう感謝しなさい」
嬉々とする喰と調子が良さそうなパンドラを他所に骸は負のスパイラルに陥っていた。
そんな中で何かを思い付いた様に顔を上げる。
「なあ、お袋」
「ん?それ、私の事?」
「あんた以外にいるか?母親なんだから、お袋でいいだろ?」
「いいわよ、いいわよ。どんどん呼んで!!」
「それで、聞きたい事があるんだが、八年前に俺が出会った神が誰か分かるか?」
「………それは答えられないわね。でも、ヒントはあげる。“すぐに分かる事になるわ”」
「それがヒントか?」
「そうよ」
「そうか。それだけ聞ければ十分だ」
骸は満足そうに立ち上がる。
◆◆◆◆◆
喰が目覚めた場所はルシファーに吹っ飛ばされたその場所だった。
何かと話していた様な気がするが、思い出せない。
何はともあれ、カンピオーネになったという事実が気分を高揚させていた。
「さて、まずは権能を確かめるか」
ルシファーより奪いし権能を確かめる為に立ち上がろうとする。
その時、
「グッ………ガァ、バァァ!?」
古傷が強く光を放って痛み始める。
体が仰向けになると、古傷から力が溢れ、体の上に魔法陣が現れる。
「我は楔なり。御身が再度現れし時の道標なり。我が身に宿りし物を標に現れよ。我の力を元に解き放たれよ!!」
口が勝手に動いて言霊を唱える。
周囲に白い羽が舞う。
そして、天から一筋の光が魔法陣に降りる。
魔法陣が強く輝き、呪力をごっそりと持っていかれた。
何かが体から欠けた感覚の中、崩れ落ちる。
視界に入る物は神々しい純白の翼だった。
◆◆◆◆◆
生と不死の境界。
「何か、初めて見た気がしないのよね~あの二人」
骸と喰が去った後にパンドラは呟くのだった。
ルシファー戦終了。
能力をほぼ使わず終わったけど人間相手に全力を出すかと言うとそうでもないわけで。
主人公がカンピオーネになりました。
とはいえもう一波乱ですが。
現れた存在のヒントは“宿敵”
それでは質問があれば聞いてください。
誤字があれば言ってください。
感想待ってます。