自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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星降らしの尾(S)/触れてはいけない者(N)

 

「さーて、こりゃどういう状況かしら?」

 

「見れば分かるだろ。磔にされてるんだ」

 

目を覚ました半月は身動きが取れなかった。

木か何かに縛り付けられ、リリアナの言う通り磔にされているのだ。

どうにか縄を抜け様とするが無理だった。

服装はそのままボロボロの修道服だ。

辺りを観察していると、ブリュンヒルデが二人の前まで歩いてきていた。

 

「貴女達を捧げるのは月が昇り切ったら……………それまでは大人しくしてて…………………主へと捧げられる程名誉な事は無い」

 

「悪いけど死者の軍勢に加わる気は無いわよ」

 

「私もだ。私には既に草薙護堂という主がいるからな」

 

「………関係無い。捧げる事には変わり無い。それが私の役目……なのだから…………」

 

気絶する前の様な狂った様子でも無い。

ただぶつぶつと呟くだけだ。

二人の言葉なんて全く気にしない様子である。

 

「もうすぐ月が昇り切る…………そうなれば貴女達は…………」

 

「させるかよ!!」

 

何処からともなく男の声が響く。

直後にブリュンヒルデの喉元に向けて突きが繰り出される。

ブリュンヒルデは慌てて防ぐが咄嗟の事で力が入り切らずに吹っ飛ばされる。

 

「我は力を欲する。天の星を履き寄せ、地に落とす尾よ!!我が元に来たれ!!」

 

そんな言霊が聞こえた直後に赤い竜の尾が顕現し、ブリュンヒルデへと伸びていく。

ブリュンヒルデは槍を手に持つと軽く上に弾き飛ばす。

ブリュンヒルデはかなり怪力を持っている。

これくらいは容易いのだ。

が、尾を弾かれたくらいでは終わらない。

 

「星よ、落ちろ!!」

 

天の星の光が数ヵ所に集まったと思った直後に、流星がブリュンヒルデへと降り注ぐ。

流星の正体は膨大な呪力の塊である。

それが連続で複数降り注いでいるのだ。

ブリュンヒルデは受け止め切れずに流星を受けていく。

多量の土煙が舞い上がり、光が瞬く。

 

「これで少しは動きを止めれただろ。そっちはどうだ?」

 

「こっちも終わりだ」

 

二人の男の声がする。

片方は龍尾を操っていた男、髪を真っ白にし、瞳を真紅に染めた喰である。

輸血パックを五袋ほど飲み切り、吸血鬼の権能の力を高めた結果である。

もう片方は草薙護堂である。

彼は喰がブリュンヒルデの気を引いてる間にリリアナと半月を解放していた。

作戦は簡単だった。

喰が不意討ちでブリュンヒルデに大技を叩き込んで隙を作り、その間に護堂が半月とリリアナを助けると言った感じである。

作戦は上手くいった。

問題はこの後である。

流星が落ちた後には巨大な穴が開いていた。

おそらく中にブリュンヒルデもいるだろう。

しかし出てこない。

これが不気味と言えば不気味である。

 

「(しかし、龍尾の星落としの威力がかなり上がってるな。権能を掌握し始めてるという事か?)」

 

(だろうが、ダリィな。掌握を進める程に面倒な戦いに巻き込まれてる気がするぜ)

 

「(気のせいだ、気のせい)」

 

心中で話す骸と喰。

龍尾顕現の代価は全身に激痛が走る事だ。

しかし掌握が進んでいるからか“彼ら”は何とか耐えていた。

 

「草薙護堂、助けに来て頂きありがとうございます。信じていましたよ」

 

「俺が仲間を見捨てるわけが無いだろ?」

 

護堂とリリアナのやり取りを無視して、半月は喰の近くに来ていた。

体はかなりフラフラである。

 

「来るのが………遅いのよ……………」

 

「悪い、悪い。調整に手間取ってな」

 

言いながら喰は右手に持っていた大薙刀を振る。

銘は“岩融”。

“鬼切丸”の後釜とも言える“彼ら”の武器である。

刃身だけで約105センチあるそれを喰は片手で扱う。

だからこそ、調整も時間が掛かったのだろう。

 

「とりあえず治療が先だな」

 

「そんな物は別にいらないわよ」

 

「そんなボロボロで言われても説得力無いけどな。というわけで万里谷、頼んだ」

 

「はい。分かりました」

 

そうして喰は半月に治療用の呪符を張った後に万里谷に任せるのだった。

 

「さて、護堂やるぜ」

 

「あぁ、そうだな」

 

喰と護堂。

二人のカンピオーネはブリュンヒルデが埋まっている穴の方を見る。

直後に穴から黒い闇が溢れ出る。

それは鴉だった。

ただの鴉では無い。

死肉を喰らう鴉である。

それが隙間無く溢れ出る。

鴉は近くに人を見付けるとそこへ向かい全速力で飛んでいく。

それは即ち喰達を狙ってるという意味である。

 

「「ハァ!!」」

 

向かって来た鴉は二人の騎士によって弾かれていく。

エリカとリリアナが次々と人喰い鴉を斬り刻んで行く。

 

「こんな獣の相手は私達で十分よ。だから貴方達は本命に集中しなさい!!」

 

「悪い。助かった」

 

「護堂、お前が切り札なんだから死ぬなよ!!」

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

二人のカンピオーネはブリュンヒルデに向けて駆け出す。

道を阻む鴉は喰が“岩融”で斬り倒していく。

その間に肉を抉られていったりするが吸血鬼の力を解放している今なら抉られたくらいなら即座に再生出来る。

再生力を上げてるのは吸血鬼の力だけでは無い。

赤い竜の力も加わってかなりの再生力になっているのだ。

 

「(もういいよな?半月も助けたし、もういいよな?)」

 

(まぁいいんじゃねぇか?好きにしても)

 

「あぁそうだ。もう我慢しねぇ!!思いっきり楽しく殺り合ってやる!!」

 

そして、喰も枷を外す。

口が獰猛に歪む。

今までは半月を守る為に押さえる必要があったが今は必要無い。

骸に比べて多少はまともに見える喰ではあるが、戦闘に関しては別だ。

戦闘狂に近い部分があるのだ。

生存欲が強い癖に戦闘狂。

その矛盾こそが喰の本性である。

消極的の癖に自殺願望持ちの骸の対になるかのような人格。

それが喰だ。

そしてカンピオーネの本質に近いのも喰だ。

喰は懐から多量の呪符を取り出し、ばら蒔く。

 

「【風】【縛】【裂】三色重ね」

 

風が吹き、鴉が縛られ、裂かれていく。

呪符は魔術をかなり簡略化した結果である。

特定の効果しか発揮出来ない代わりに即座に発動。

それが呪符のコンセプトである。

 

「(まぁ完全なオリジナルじゃねぇんだが)」

 

かなり自己流に手を加えているとはいえ、ベースは人に習った物なのだ。

鴉の軍団を抜けた先にはブリュンヒルデが何かをぶつぶつ呟いていた。

 

「見つけたぜ。とち狂って想い人を殺した戦乙女さんよぉ!!」

 

「っ!!」

 

「ガバァ!?」

 

「喰!?」

 

喰が呟いた直後に、ブリュンヒルデは大きく目を見開き、槍を喰に投げつけてきた。

喰は咄嗟に避けようとするが避け切れずに脇腹を抉られる。

直後にブリュンヒルデは喰の目の前に現れたと思うと顔を掴み、地面に叩き付けた。

 

「ぐはぁ!?」

 

 

「………………イウナ、イウナイウナイウナイウナイウなイうな言うな!!それは言うな!!わた、私はか、か、かれ、彼を殺し、殺し殺し殺して………………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

そのまま怪力に任せて喰を殴り、蹴り、骨を砕き、肉を潰していく。

明らかにまともな状態では無い。

どうやら喰は触れてはならない部分を触れてしまったようだ。

 

「我は最強にして、全ての勝利を掴む者なり。人と悪魔、全ての敵と敵意を挫く者なり。我は立ちふさがる全ての敵を打ち破らん!!」

 

隣の護堂が言霊を唱える。

どうやら今のブリュンヒルデには、護堂すら認識していない。

ひたすら喰を叩き潰している。

それを護堂は利用する。

 

「輝ける黄金の角を有す牛よ、我を援けよ!!」

 

化身を発動させる。

条件は整っている。

今から使う“雄牛”の化身の使用条件は、敵が並外れた剛力の所有者であること。

ブリュンヒルデはその条件を十分に満たしている。

護堂は近くの大岩を掴み、ブリュンヒルデへと投げ付ける。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「……イウナ!!イウナ!!イウナ!!ぐっ!?」

 

大岩が当たるまでブリュンヒルデは喰にだけしか見ていなかった。

その間ずっと攻撃され続けた喰は血塗れだった。

内臓も、骨もかなりやられているだろう。

が、現在進行形で傷は再生している。

既に立ち上がれる程である。

 

「俺はいいからどんどんやれ」

 

「分かってるよ!!」

 

最初の大岩以降も岩を投げ付けているが、最初以外の岩はまともに当たっていない。

全て槍で砕かれている。

その間にもブリュンヒルデは何かをぶつぶつと呟いている。

 

「………二人の神殺し…………敵、敵は排除…………足りない。力が足りない!!」

 

急激にブリュンヒルデの呪力が爆発的に増した様に感じた。

まるで二人目のカンピオーネを認識したのが引き金の様に。

 

 

「……我らは主神に仕えし者なり。我らが身は主神の為にあり、我らが使命は主神に捧げる者なり。我ら姉妹は同じ腹から産まれし者なり。白き馬!!戦いの槍!!兜の揺りかご!!剣の支配者!!切っ先のリンデ!!戦場の勇気!!勝利の神聖ルーン!!仮面の親衛隊!!我らが姉妹よ、今ここに集まりて使命を果たさん!!使命を阻害する者を斬り伏せ顕現せよ!!」

 

 

そのまま高らかに言霊が唱えられる。

天から八つの光が降りる。

光そのものが呪力を帯びている。

光の中で徐々に人影が形成され、オーロラに包まれる。

オーロラが晴れ、その姿が露になる。

 

「ロスヴァイセ、ここに」

「ゲルヒルデ、ここに」

「ヘルムヴィーグ、ここに」

「シュウェルトライテ、ここに」

「オルトリンデ、ここに」

「ヴァルトラウテ、ここに」

「ジーグルーネ、ここに」

「グリムゲルデ、ここに」

 

「「「「「「「「我らが姉上の元へ、助太刀に馳せ参じました!!」」」」」」」」

 

現れたのは八人の乙女だった。

まつろわぬ神……では無い。

格としては神獣クラスである。

それでもこの人数はあり得ない。

 

「ワルキューレ九姉妹集合とか、ガチで笑えねぇ…………」

 

喰は目の前の絶望的な光景に顔をひきつらせながら呟くのだった。

 

 





九姉妹集合です!!
ノリとしては孫悟空が豚と河童呼んだ感じです。
あれと違って神ではなく神獣クラスですが。
記述少ないし、そこらへんが妥当かと。


それでは質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。

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