自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

36 / 53
大きくなる影(S)/消え行く影(S)

翌日、日曜日。

骸は沙耶宮家別邸まで来ていた。

灰色のズボンに白の半袖Tシャツの上に黒の袖無しパーカーといった格好である。

現在は書斎に向かっている所である。

欠伸をしながら廊下を歩く背後には半月がいる。

薄手のシャツにロングスカートの彼女は周囲を観察する様にしている。

とは言っても、彼女の興味を引く様な物は無さそうな様子ではあるが。

 

「で、何の用だ?」

 

書斎に入るなり、骸は言った。

彼にとっては呼び出されるだけでも面倒ではあるが、それ以上に馨の要求は面倒な事が多い。

対等で仕事を軽く依頼出来るカンピオーネなど使わない手は無いからだ。

しかし、さすがに酷使までとは言わないが。

そんな事をして関係を崩す愚はおかさない。

 

「入っていきなりそれかい」

 

「どうせ面倒な仕事を押し付けて来るんだろ?」

 

「さぁ、それはどうかな?」

 

はぐらかす様に言う馨。

馨はエリカと似た様なタイプであり、骸としては相手にしたくは無いタイプである。

 

「今日は半月さんも来てるんだね」

 

「えぇ、ちょっと興味本意でね」

 

骸は馨と半月の視線が合わさった時に何か寒気を感じるのだった。

そこで馨は何かを思い出した様に言い始める。

 

「そう言えば、君は四つの権能を持ってる様だけど一つだけ使って無いよね。それがどんな物か良ければ見せてくれないかい?」

 

「それ仕事に関係あるのか?」

 

「いや、ただの興味本意さ」

 

「そう言えば、その権能は私も見て無いわね」

 

二人から視線を向けられる骸。

やれやれと言った感じで息を吐く。

 

「別に見せても問題無いが………地味だぞ?」

 

「それはそれで興味深いね」

 

「ラウムとか言う鴉みたいな悪魔から得た権能だ」

 

先にそれを言ってから呪力を高める。

既に呪符を放ち結界を張っているので、権能を使い気配隠しが消えてもカンピオーネとしてと気配に感付く者はいないだろ。

とは言ってもこの権能は“使用直後”以外はそういう心配は不用なのだが。

 

「我は天より落ちし者なり。我を呼びし者が望みし時、黒き翼が我包み、姿を変えん!!」

 

言霊を唱えると黒い羽が骸の身を包む。

黒い羽が光を遮る。

少しすると黒い羽が散って行き姿を露にする。

だが、そこには骸の姿は無かった。

 

「へぇそういう権能かい」

 

「これは面白いわね」

 

その姿を見た女性二人は面白そうに口を歪める。

彼女達の目の前には“女性”が立っていた。

黒髪長身、胸は少しの膨らみはあるが薄く、瞳は焔の様な色である。

そう、ラウムの権能とは変化である。

ラウムが召喚者が望んだ時に女へ姿を変える事から来ているのだろう。

 

「な?地味だろ?」

 

髪を払う様にしながら骸が言う。

髪の長さは元々骸が切らずに伸ばしっ放しにしていたので長い。

だが、顔が女性的になるだけでも印象は変わる物である。

 

「しかし、変装には役に立つんでしょうけど………戦闘では無意味よね」

 

「そりゃそうだ。しかも姿はこれ固定で髪の長さや身長は男の時と変わらねぇから変装としても微妙だぜ」

 

「それは不便だね」

 

鴉にも姿を変えれはするが、どの道使い道は少ない。

だから、ここまでほとんど使っていなかった。

 

「で、もういいだろ?戻らせて貰うぜ」

 

「いやいや………お楽しみはここからでしょ?」

 

半月が悪戯な笑みを浮かべて迫って来る。

明らかに嫌な予感しかしない。

面倒なのでさっさと変化を解く。

 

「あーもったいない!!」

 

「何がだよ……………」

 

残念そうな声を上げる半月に、呆れた様な視線を向ける骸。

 

「それでそろそろ本題でいいか?」

 

「そうだね」

 

馨はそう言うと机の上の封筒を手に取る。

おそらく何らかの報告書だろう。

 

「これらの解決を頼みたいんだ」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「何やってんのよ、あんた」

 

「ムニュゥ………」

 

いきなり声を掛けられ、ヴェーラが瞼を擦りながら顔を上げる。

声を掛けて来たのは徳永明日香だった。

彼女とは同じファミレスで働くバイト仲間である。

よくシフトが重なるので、それなりに話す仲ではある。

だが、今日はシフトが被っている日では無い。

 

「君がいるって事は………一時間程眠ってたみたいだね」

 

「よくこんな場所で寝れるわね」

 

「僕にとってはよくある事さ」

 

シフトを終え、更衣室で制服から私服に着替えてからそのまま更衣室の机に突っ伏して寝る事はよくあるのだった。

元々夜型なヴェーラは、日中は眠くて仕方ないのだ。

夜は夜で寝てたりするが、それでも日中も眠いのだ。

とはいえ、“仕事”の時は切り換えて眠気など一切出さないのだが。

これらから考えるに無自覚に寝溜めしている可能性もある。

そんな彼女はシフトを終え更衣室で休んでいると思わず寝てしまうのだ。

場所関係無く眠れるタイプなのだ。

 

「君はこれからかい?」

 

「そうよ、見れば分かるでしょ?」

 

明日香は私服から制服に着替えている最中であった。

ヴェーラは一度伸びをしてから立ち上がる。

 

「さて、それじゃあ僕はそろそろ帰るかな」

 

明日香に挨拶してからヴェーラはファミレスを後にするのだった。

ミニスカートのポケットから携帯を取り出して時間を確認する。

 

「まだ次のバイトまで時間はあるし、昼食でも食べに行くかな」

 

そのままフラフラと街を歩いていくのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

その夜。

 

「それで今日はどういう話だったんだい?」

 

「ん?あぁ……面倒くさい仕事を押し付けられただけだ」

 

「そうかい」

 

喰とヴェーラは夕食を食べていた。

骸は面倒だ、面倒だと煩かったので喰が意識の奥へと押し込んだ。

 

「まぁ早急に片付ける必要は無いタイプだがな」

 

「へぇ……神絡みかい?」

 

「そうとも言えるし、少し違う感じでもあるな。ところで、お前は来週の三連休は空いてるか?」

 

「残念だけど初日にバイトが入ってるから手伝いは無理だよ。それ以外なら大丈夫だけどね」

 

「そうか、なら半月とやるしかねぇか」

 

そんな事を話しながら食を進める二人であった。

彼らは護堂周辺や中国の魔教教主の企みには一切合切全く持って把握していなかった。

それが自身達にも降り掛かりかねない事だとしても。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「何か地脈の流れに違和感があるわね…………事件の前兆かしらね?」

 

半月は寝室で何かを感じ取っているのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

三連休の初日。

骸と半月は長野県に来ていた。

骸はほとんど何時も通りの格好であった。

半月の方は動きやすい様にロングスカートではなく、ズボンであったが。

彼らは山中を歩いていた。

 

「そう言えば、裕理達もどっか出掛けてるんだっけ?」

 

「確か日光辺りとか聞いたけどな」

 

話しているのを盗ち(ry…聞いた限りでは万里谷の妹関連の話ではあるらしい。

神にも関係あるとか言っていた気はするが、巻き込まれると面倒なので詳しくは聞かない事にしていた。

ただでさえ、馨に押し付けられた仕事で面倒なのに他の面倒事まで抱えるつもりは無かった。

 

「ったく、ダリィ…………本当に場所はここであってんだろうな……………」

(報告書にあっただろうが間違いねぇよ)

 

「私としてはただで旅行出来てラッキーってだけどね」

 

そんな事を話していると、彼らは妙な気配を感じる。

気配の許を見付けた直後に、彼らの前に影法師が立ち塞がる。

 

「当たりか……」

 

「みたいね………足が麻痺してる様な感覚が出てきてるし」

 

「そうか?」

(俺らはカンピオーネなんだから影響を受けるわけねぇだろ)

「それもそうか」

 

適当に話しながら目の前の影法師を見る。

視線を上に向けるとどんどん影法師も巨大化していく。

 

「…………こりゃ間違いねぇな。えーと、何だっけ?」

 

「…………『見越し』よ」

 

「あぁそうだ。それだ、それ」

(あんまり見上げてると命取られるぞ)

 

これが彼らに押し付けられた仕事の一つだった。

日本各地で目撃される怪異情報の中でかなり怪しい部類、まつろわぬ神か神獣の可能性がある情報の確認と始末。

それが仕事の内容である。

どういう存在か確かめる為に彼らは目線を上へと向けていく。

それに合わせる様に影法師も更に大きくなっていく。

 

「確定として、対処法は何だっけ?」

(視線を下にして“見越した”と言えば終わりだ)

 

「“見越した”!!」

 

骸が喰に言われてやる前に半月が視線を下に降ろし、“見越した”と叫んでいた。

そして、影法師は声にならない悲鳴を上げて消えて行くのだった。

 

「………………こんな物が本当に神獣とかまつろわぬ神なの?」

 

「というかそれらのなりかけだろうな。詳しくは知らんが」

 

かなり適当であるが、彼らはそういう知識をそこまで持っているわけでは無いのだから仕方無い。

骸は以前死ぬ為にそういう情報を漁った事があるが、それでも心許ない。

 

「というか力業じゃダメだったの?」

 

「それこそ面倒くさい。無駄に力を使わず対処出来るならそれでいいだろ」

 

面倒そうに言う骸。

ここでの目的は果たしたので彼らは次の目的地に足を向けるのだった。

 

 

 





六巻分に入ってはいますが、護堂組にはほぼノータッチな展開でした。
ヴェーラは複数のバイトを掛け持ってる感じです。

最後のあれは『見越し』『見越し入道』『のびあがり』と言った類いの妖怪です。
とは言ってもそれに近い“何か”ですが。
神獣のなりそこないとか、濁った呪力や怨念の集合体的に思ってくれればいいです。


それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。