自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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食えない老人(O)/末恐ろしい孫(G)

 

「ご注文は以上で宜しいですか?」

 

少々棒読み気味ではあるが、文句は言われない程度である。

ヴェーラはファミレスで接客中であった。

ふと、店の外を見ると草薙 護堂がエリカ達を連れて立っていた。

 

「相変わらずハーレムだね。ま、僕には関係無いけど」

 

小声で呟く。

そう言えば、日光に行くとか言ってたっけ?とかすかに思いつつ興味無さそうに仕事に戻ろうとする。

そこで同じく護堂達を見ている人影を見付ける。

バイト仲間の明日香である。

どういう関係?と首を傾げる。

更にクラスメイトにしてバイト仲間の宮間さんと澤さんが小声で話していたがそちらはある意味で何時も通りなのでスルーである。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「その話、僕にも聞かせて貰っていいかい?」

 

「あんたも城楠じゃなかったっけ?」

 

「僕は僕で転校して来てそう経って無いからね。“噂の人物”ってのは気になるんだよ」

 

シフトが終わり更衣室。

明日香、宮間さん、澤さんが草薙 護堂に関しての話をしていたので会話に割り込んだ。

他三人は着替え中ではあるが、ヴェーラは既に着替えは終えている。

黒のシャツに濃い青のネクタイにミニスカートと言った感じの格好である。

雪の様な金髪は仕事中はポニテにしているが、今は解かれている。

 

「あれ?でも、ヴェーラさんって割りと万里谷さんやリリアナさんと一緒にいることが多かったよね?」

 

「エリカさんともたまに話してたよね?」

 

「本人と直接話す事は少ないからね」

 

宮間さん、澤さんから尋ねられるが適当に流す。

ほとんど興味本意ではあるが、カンピオーネの弱味が握れれば儲け物である。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

とりあえず更衣室で話すのも何だから場所を変える事になった。

今は和風喫茶にいる。

そこから澤さんが眼鏡の似合う才女らしく、知的で明晰に語り、宮間さんは重い口調で語った。

語りの雰囲気から分かるのは彼女達から見た草薙 護堂の振る舞いがどれだけ常識外れという事である。

 

(まぁ…………カンピオーネな時点で常識外れもいいとこなんだけどね)

 

そこらへんは魔術を知らない彼女達には関係無い事である。

二人の話を聞いた明日香は、ちょっとやさぐれた笑みを浮かべていた。

まぁ………ヴェーラとしても分からないわけでは無い。

カンピオーネとしての面も見ているからこそ、そう思える。

 

「そっか……………。あいつ、高校に入ってからは量より『質』にシフトしたのね」

 

「り、量より質…………?」

 

明日香の呟きに宮間さんが反応する。

そりゃそうだろう。

ヴェーラとしては特に反応する事では無かったが。

 

(本人にしてみれば意識してないんだろうけど)

 

心の中で勝手に結論付ける。

そこから明日香が話し始める。

途中から何か熱くなったのか、テーブルを叩く。

 

「そ、それは凄いわね…………。ところで明日香さん、もしかしてあなたも草薙くんを……………」

 

「す、好きだったり………とか………?」

 

熱くなった明日香に宮間さんと澤さんがおずおずと尋ねる。

それは当然聞きたい事ではあるだろう。

 

 

「!? バカ言わないで!!誰があんなボンクラのことを!!あたしはね、ああいう学校や地元商店街の平和をかき乱すヤツが、幼馴染みとして許せないだけなの!!誤解しないで!!」

 

「うわあ、そういうことか。やるな草薙護堂…………」

 

「うん、ものすごいわかりやすいね…………。典型的って感じ…………?」

 

「…………そういう事だよね。大体分かったよ」

 

本当に分かりやすく激昂する明日香。

宮間さんと澤さんが訳知り顔になっている。

二人と一緒に明日香をマジマジと見つめる。

割りと似合っているツインテール。

たぶん気にしているであろう吊り目。

きつめと思える顔の造作。

そこらへんを注視してから頷き合う。

 

「ねえ明日香さん、あなた、好きな人の前でついツンツンしちゃって後悔したりしない?」

 

「そ、そんなことない!!変な言いがかりつけないでっ!!」

 

「ちょっとは素直にならないと気付かれないよ?」

 

「あんたはあんたで何を言ってるのよ!!」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

閑話休題。

話を草薙 護堂に戻そう。

明日香をいじるのは面白いには面白いがそれはまた今度でいい。

 

「でも根本的な疑問として、草薙くんがどうしてそんなにモテるのかしらね?」

 

「ものすごいイケメンでもないし、口が上手かったりマメでもなさそうだよね」

 

「本人、自覚が無そうだしね。あれでカリスマあったりするのかな?」

 

明日香が落ち着いて来たのでそこらへんを話し始める。

カリスマは…………あるにはあるんだろうけど何か違う気がする。

 

「違うわね。あいつはものすごい人たらしの背中を見て育ったから、そのおかげじゃない?最高の先生がすぐそばにいたおかげで、あいつが生まれながらに持っていた才能とか、永世モテ期の星回りとかが覚醒したんじゃって思っているんだけど」

 

何だそれ?と思いつつ、明日香は明日香で投げやりで答えている事を察する。

そこで明日香の視線が店の外に向いてるのに気付く。

人の視線を探るのは得意である。

その視線の先には端正な立ち姿の老人が歩いていた。

ちょっと通りを歩くだけで、あちこちの店の人間から声をかけられていた。

 

「もしかして、あの人かい?色々教えたって言うのは?」

 

タイミングが良すぎだと思ったが、ここらへんが草薙 護堂の家の近くと気付きおかしくは無いと片付ける。

その上で訊ねた。

 

「そう。一朗おじいちゃん…………あいつの祖父にあたる人」

 

「確かに………人気はかなりありそうだね」

 

「それで人たらしって、たとえばどんなところが?」

 

「うーん…………何て言えばいいのかなー」

 

ヴェーラの呟きの後に澤さんが問う。

その問いに明日香は頭を悩ませてるようだった。

その時、件の老人___草薙 一朗が和風喫茶のすぐ前を通りがかった。

彼はこちらに気付くとウインクしてきた。

おそらく明日香に向けてだろう。

しかし、何故かヴェーラはそのウインクにイラッとした。

あの年齢の日本人男性とは思えないほど絵になる、洒脱な挨拶。

鬱陶しくもなければ素っ気なくもない、絶妙な案配。

だからこそ、ヴェーラはイラッとしたのだろう。

そういう事を自然とやってのけるタイプは何かイラッとするのだ。

 

(何だろうね……………根本的に性質的に気に入らないのかな?)

 

そんな事を考えていると、和風喫茶の電話が鳴り、カウンターのおばさんが応対していた。

少し経つと、おばさんが近付いて来て、栗ぜんざいをテーブルに載せた。

 

「おばちゃん、あたしたち頼んでないよ」

 

「ふふっ。いいの、一朗さんに今、電話で頼まれたヤツだから♪」

 

「一朗おじいちゃんに!?」

 

「うん。何だか難しい顔をしていたから、差し入れだって。もしかしたら孫のことで迷惑かけてるんじゃって気にしていたわ♪」

 

どうやらあの一瞬でそこまで読んでいたらしい。

食えない老人である。

しかも、ツケで注文されて嫌な顔をせず、むしろ頼み事をされて喜んでさえいる様子である。

それだけで大体分かる物である。

ついでに栗ぜんざいは四人分。

そこらへんもしっかりしている。

 

「とまあ、こういう事が余裕でできちゃうところで察してもらえないかな、おじいちゃんがとんでもない『たらし』だって」

 

「……何となく理解出来たわ」

 

「………あの孫にして、ってヤツなんだね」

 

「……………これはまぁ………恐ろしいね」

 

「あのおじいちゃん、護堂のヤツを子供の頃から面倒見てきた人なの。いろんなところに護堂を連れて歩いていたから、どんな人と会ったときにどう振る舞っていたか、幼心にしっかり刻み込まれてたみたい」

 

それを聞いて大体理解する。

子供時代の刷り込みという物はかなりの影響力を持つ物だ。

気付かれない様に顔をひきつらせながら栗ぜんざいをつつく。

そして、明日香が恐ろしい可能性を語り始める。

 

「あのバカさ、じいちゃんのたらし技を子供の頃から間近で見ているのよ。『門前の小僧、習わぬ経を読む』っていうじゃない?…………あいつが将来、女の子に慣れてきて、自分からモテたいとか思うようになったら___」

 

明日香が口ごもるが、そこから先は大体察せる。

同じく察したのか、宮間さんがあとを継ぐ様に言う。

 

「そ、そっか………。これだけできちゃうおじいさんのノウハウが、草薙くんの中には刷り込まれているわけで、それを自分の意思で使いこなすようになったら___」

 

勘がいい彼女は恐る恐ると言う感じに言った。

そして、澤さんが切迫した口調で言う。

 

「い、今でさえ魔王級の女たらしだってのに、そこにあれだけモテそうなおじいさんの手練手管が加わるわけ!?正真正銘の化け物じゃない、それじゃあッ」

 

まぁ…………ある意味で今でも正真正銘の化け物ではあるので的を得てはいる。

それはこの中でヴェーラしか知らないが。

 

「これ、あたしだけじゃなくて、あいつの妹の静花ちゃん、あと亡くなった草薙のおばあちゃんも、ずっと前から心配していることなのよね…………」

 

おそらく澤さんと宮間さんは明日香の感じていた恐怖を理解しているのだろうが、ヴェーラは別の事を考えていた。

彼女の頭に浮かんでいるのは喰の顔である。

 

「………全く、喰もその十分の一くらいは持って欲しい物だよ」

 

「ん?」

「へぇ?」

「ほぉ~?」

 

どうやら思わず声に出してしまっていたらしい。

それを聞いた三人が顔色を変える。

澤さん、宮間さんは恐怖を誤魔化す為の新たな話題として、明日香は先のお返しとばかりに反応してくる。

 

「まさか、ヴェーラさんも好きな人がいるの?」

 

「それはちょっと気になるわね」

 

「確かにヴェーラさんがどんなタイプが好みなのか想像つかないし」

 

「い、いや…………僕は別に」

 

否定する様に言うが澤さんと宮間さんの顔は既にニヤニヤと面白そうにしている。

どうもどうやら顔に出てしまっている様だ。

最近は素を出しているとはいえ、感情が顔に出にくい(らしい)のだが、“こういう”のはその範疇では無いようだ。

こうなったら仕方が無い。

ため息を吐きながら三人の追求に答えるのだった。

 

 

 





ヴェーラのメイン回でした!!
最新刊の短編に割り込む形でしたけど!!
主人公出てないけど気にするな!!です。


それでは質問があれば聞いてください。
感想待っています。


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