自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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妙な寒気(C)/一時的な停戦(C)

ヴェーラが偵察した感じだと、金角銀角は何やら力を蓄える為にあの場から動いてないらしい。

恐らく存在を安定させる為だろう。

童子も周囲の警護程度しかしてないようだ。

それならちょうどいいので三人はとある“準備”をしてから護堂のいる温泉旅館に向かうのだった。

GPSを仕掛けているので場所は容易に分かる。

許可はとっていない。

当然だ。

言ったら拒否するに決まってる。

隙を見て仕掛けておいたのだ。

 

「しかし、本当に猿だらけだな」

 

「変な気を起こさないでよね?あれは一応元一般人なんだから」

 

「まぁ僕がここらへんを見ていた時は襲って来なかったし大丈夫だと思うよ」

 

とは言っても人間の真似をしている様な動作は見ていて気味が悪かった。

手に持ってる物で此方に襲って来ないか警戒させるには充分である。

骸達は魔術で飛び交っていたので比較的に明るい内に温泉旅館に辿り着く事が出来た。

時間的には午後六時辺りだ。

 

「これで一晩は休めるといいけど」

 

半月が愚痴る様に言う。

よほど疲れが貯まっているのだろう。

念のために結界などが張られてないか確かめる。

もし、張られていたら一応破る手順を踏んでおかないといけない。

カンピオーネの体質を使って強引に破ればアニー・チャールトンに正体が気付かれてしまう。

 

「相変わらず面倒ね~」

 

「正体隠すには細かい事が大事なんだよ」

 

「あんたは黒コートに仮面と、かなり単純だったでしょうが」

 

「僕は素顔が広まってないから別に単純で構わないのさ」

 

半月とヴェーラの言い合いを聞きながら骸は作業を終える。

どうやら大丈夫のようだ。

旅館の入り口の戸に手を伸ばした時、ゾクッと何か嫌な気配を感じる。

 

「…………何だ、この気配は?」

(…………寒気に近い感じだな)

 

喰としては今の感覚は何か天敵が近くにいるような感覚であった。

首を傾げながらも骸は旅館の中に入っていく。

彼らは知らない。

現在、この旅館の男湯で彼らが最も会いたくないカンピオーネである、羅翠蓮が護堂と話している事を。

 

「よく無事だったわね、貴方達」

 

突如声を掛けられ、慌てて声のした方を向く。

気配を感じたのだ。

先程とは何か違うが何処か似ている様な気配を。

しかし、声が聞こえた方にいたのはアニーだった。

 

「ゴドーなら今はお風呂に入ってるわよ」

 

その台詞と共に何かを思い出したのか、アニーの表情が一瞬完全に冷え切った。

そして、骸に対しては何か疑いの眼差しのような物を向けてくる。

 

「………?俺に何か?」

 

「貴方………“上月”でしょ?」

 

「…………チッ、やっぱり知ってたか!!」

 

舌打ちし、呪符を構えようとする。

背後の半月とヴェーラはまるで興味が無いと言った感じである。

骸としてはカンピオーネとバレてないのは幸いではあるが、自分が何者かを気付かれるのもそれなりに厄介だった。

善の魔術師とも、邪術師とも言えない立場なのだが、それは中立という意味でなく両方を引っ掻き回したという意味である。

善の魔術師であり、米国のカンピオーネの協力者であるアニーに知られたらかなり面倒なのである。

 

「待って。“今は”貴方と戦うつもりは無いわ」

 

だが、止めてきたのはアニーの方だった。

“今は”というのが気になるが、一応話くらいは聞く気になる。

 

「どういう意味だ?」

 

「そのまんまよ。今は貴方達も私達も相手にするべき者が別にいる。本命の前に同士討ちするのは得策では無いわ」

 

「そういう事ね。大体分かった」

 

適当な調子で頷く。

面倒にならないならそれでいい。

後々面倒そうだが、それはそれでどうにかすればいい。

 

「でも、一つだけ確認させて」

 

「何をだ?やってきた事ならお前らの知る通りだぞ?」

 

「それは関係無いわ。いえ、ある意味関係はあるわね」

 

「?」

 

「私が聞きたいのは、貴方達が何でこの国で傭兵たなんかやってるという事よ」

 

「あー・・・・それか。まぁ………理由は単純だよ。そうした方が“得”があるからだ」

 

それは答えになってない回答だ。

だが、あえて骸はそう言う。

どう受け取ろうがアニーの自由ではある。

 

「………まぁいいわ」

 

納得はしてないが、まともに答える気が無い事くらいは察したようだ。

何はともあれ骸達の敵は孫悟空では無い。

おそらく戦場は別になる。

だから、逃げ方さえ間違えなければ面倒になる前に離れられるだろう。

 

「そういや、名乗っては無かったな。まぁ知ってるだろうが。上月 骸だ。それで後ろの二人が俺の式g

 

「「誰があんたの式神だ、誰が!!」」

 

冗談を言おうとしたら二人に遮られた。

それ所か、背後から蹴りを入れてくる。

どうやら式神扱いは気に入らないらしい。

そりゃそうだ。

 

「私は神宮 半月よ」

 

「僕は………“エリン”だ」

 

半月が軽く名乗る一方、ヴェーラはどう名乗るか悩んだ末に偽名を名乗るのだった。

本名を言って自分の元々の立場に気付くような事を避けるためだろう。

だが、ヴェーラの名はヴェーラ・イヴァーノヴナ・エリンであるので別にまんま偽名というわけでもない。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

アニー、護堂、エリカ、裕理、リリアナ、恵那、骸、半月、ヴェーラと結構な人数になったので調理場はそれなりに騒がしかった。

裕理、リリアナ、半月がメインで調理し、護堂と骸で手伝いといった形である。

エリカ、恵那、ヴェーラは戦力外扱いである。

アニーはお客さん扱いである。

 

「この場合は俺らもお客さんの方じゃないか?」

 

「お前達は、お前達でそれなりに人数いるんだから用意くらいは手伝えよ」

 

「分かってるって。だから、ダリィがこうして手伝ってるんだろうが」

 

骸は骸でそれなりに料理は出来るのだが、さすがにリリアナと裕理程では無いので護堂と共に副菜を作っていた。

一通り作り終えると、喰が変われと言うので渋々変わる。

髪が一房白くなる。

 

「どうした骸………じゃないか、喰」

 

護堂が訊ねて来るが無視して棚を漁る。

そこで目的の物を見付ける。

 

「こりゃ良さそうな日本酒だな」

 

ニッと笑う。

良さそうな酒を見付けた為に入れ換わったのであった。

 

「お前も未成年だろ………」

 

「別に少しくらいならいいだろうが」

 

「それ以前に戦いの前に飲む気か?」

 

「戦いの前だろうと関係ねぇよ。飲みたい時に飲むだけだ」

(………二日酔いで苦しむのは俺だけどな!!)

 

骸が叫んでくるが喰はスルーする。

喰は酒好きではあるが、体としては酒にそこまで強いわけでは無かった。

すぐに酔い潰れる骸と比べたら強いがそれでもだ。

そして、必ず二日酔いが襲ってくる。

とはいえ症状はどちらが表だろうと関係無く出てくる。

よって、普段は骸の方が表にいるのは長いので必然的に二日酔いで苦しむのも骸なのだ。

その後、夕食を食べ終えて片付けとなった段階で護堂達は孫悟空についての対策を話し始める。

機密漏洩を防ぐという名目でアニーと喰達は部屋を離れるのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

喰は自室でくすねて来た日本酒を飲んでいた。

チビチビと飲みながら同じくくすねてきたツマミを摘まむ。

そして、窓の外に輝く月を眺める。

 

(これからどうする気だ?)

「仕掛けるタイミングはまだ決めてねぇよ。孫悟空とかと接触しちまう可能性もあるしな。護堂達の動きを見て考えるさ」

 

明かりをつけていない暗い部屋の中で、喰は月の光を浴びながら目を閉じる。

 

「(俺の権能は四つ。ルシファー、ミカエル、クドラク、ラーム。だが、まだ“使える”だけだ)」

 

そう、まだ掌握はそこまで進んでいない。

それはつまり完全に力を引き出しているわけでは無いという事だ。

今まで適当に振るってきた権能ではあるが、初めてその力に意識を向ける。

自分の奥へと目を向ける。

 

「(力がいるんだ。今のままでは何時か死ぬ。だから、生き残る為の力が………)」

 

奥へ、奥へと手を伸ばす。

自らの力の深い深い所へと。

更なる力を得る為に手を伸ばす。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

ヴェーラは首から下げていた“竜骨”を握る。

そこに宿る力を感じ取る。

その力に体を慣らしていく。

 

「何回やってもやっぱり慣れはしないね、これは」

 

自分の体が何か別の物に染まっていく様な感覚。

それを感じながらも彼女は自我を安定させる。

戦いの場で即座に使える様にするには慣らしておく必要があるのだ。

 

「でも、以前とは何か違うんだよね」

 

喰と出会う前にも“竜骨”の力は何度か試した。

しかし、今感じる力はその時の感覚とは何か違う物だった。

まるで素顔を見せた彼女に、“竜骨”の方も顔を見せた様に。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

半月は床に手を当てて地脈の流れを感じ取る。

 

「“流れ”自体は正常ね。馬鹿猿が余計な事をして乱れてたら面倒だったけど、仕掛けた“あれ”もちゃんと発動しそうね」

 

“疑似土地神化”は使えない。

それは仕方ない。

しかし、骸と喰の力になれない状況というのも中々にモヤモヤするのだった。

それよりも更に半月の心を曇らせるのは、あの“神祖もどき”の存在だった。

骸の“姉”らしい彼女を、半月は気にいらなかった。

彼女の瞳は、過去に囚われた者の色をしていた。

そういう奴は、半月としては気に入らないのだ。

何より骸を復讐の対象としている癖に明らかにそれ以外の感情もありそうな様子だった。

 

「今度会ったら教えて上げるわよ。私達を狙うというのがどういう事か、骸は“今”誰の物かをさ」

 

何かを企む様な笑みを浮かべながら半月は戦いに備えるのだった。





決戦前の準備回でした!!
次回辺りから戦闘開始です!!


それでは質問があれば聞いてください。
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