「いいや、第二ラウンドは必要無い。“もう終わるからな”」
「あ?……ッ!?」
銀角の言葉を怪訝に思うが、直後に周囲一帯が影に包まれる。
寒気を感じて真上を見るとそこには“山”があった。
「スケールが違い過ぎるだろうが」
冷や汗を流しながら骸は銀角の方を見る。
銀角は口をニィィィと歪ませている。
そして、すぐに思い当たる。
銀角がまず三蔵一行にした事を。
三つの山で孫悟空を押し潰し、動きを封じたのだ。
つまり、“山”はあれだけではない。
「察したようだな。ほら、すぐにあと二つ降ってくるぞ」
影が更に大きくなる。
吸血鬼の再生力があろうがさすがにあれは無理だ。
骸は苦笑いをしながら真上を見上げて呟く。
「こりゃ………死んだか」
(ふざけんなぁ!!)
意識の内から喰の叫びが響き、主人格が入れ換わる。
骸と喰、両方が表に近くなった為、“彼ら”は入れ換わりやすくなっていた。
「何があろうと俺はこんな所で死ぬ気はねぇんだよ!!」
叫びながら両手の爪を全て剥く。
その爪を黒い靄が包んでいく。
「我は身を捧げたり、捧げし身を代価に顕現せよ!!天に歯向かいし、その力を我の手に!!地を裂きし、爪よ!!我が元に現れよ!!」
言霊を唱えながら、喰は意識の奥深くの更に深い部分に何かを感じ、手を伸ばす。
ドス黒い何かを感じながらも力任せに“それ”を引っ張り上げる。
黒い羽が舞う中で、喰は竜の尾を地面に叩き付け、その勢いで跳び上がる。
「砕けろぉぉぉぉぉ!!」
中央の“山”はとりあえず無視して先行する左右の“山”に向かって龍爪を叩き付ける。
“山”にヒビが入り、龍爪が突き刺さる。
同時に両腕に落下エネルギーが掛かり、骨が砕ける。
幾らカンピオーネの骨とはいえ、この質量に対して正面からぶつかればこうなるのは当たり前である。
そこら辺はあらかじめ口にくわえていた輸血パックから血を吸い、強引に再生していく。
髪の二分の一が白く染まる。
今までなら腕だけでなく龍爪も砕けていただろう。
それが耐えたという事は掌握が進んだという事であろう。
喰は金角、銀角の方をチラッと見るが手を出そうという雰囲気では無かった。
◆◆◆◆◆
「全く何が何やら僕には分からないよ」
ヴェーラは森の中を歩いていた。
龍脈結界の起点である杭を童子達から防衛していたが、何故か童子達は苦しみ始め、土に還っていった。
まるで何かを吸われたかの様な苦しみ様だった。
だが、それは今問題ではない。
問題は頭上にある巨大な物体×3である。
あれが何かは分からない。
とはいえ、排除する必要があるのは確かだった。
ヴェーラは胸元の竜骨を握り締める。
竜骨に呪力を流し込む。
それに反応してヴェーラの体に竜骨から何かが入ってくる。
『死を忘れるなかれ』
「Не забывайте о смерти」
『死は何時でも私と共にある』
「Там со мной в любое время смерти」
『神々の残しき聖遺物よ』
「Святые мощи товаров оставит богов」
『その身に宿りし加護を分けたまえ』
「Жемчужной реки делится убежище этой убежище тепа」
『我は遺りし物を振るう者なり』
「Мы Нари, кто обладает какой вы Ши остаток」
言霊を唱える声が二重に重なる。
片方の声は明らかにヴェーラでは無い女性の物だ。
ヴェーラの体に竜骨から溢れる力が収束する。
フードが外れ、耳元の近くに白鳥の髪飾りが現れる。
腕には西洋鎧の籠手が現れる。
「中途半端って事は……まだ竜骨が僕に馴染んで無いって事かな」
現れた装備を見ながら呟く。
狐面を付け、黒のロングコートで先程の装備である。
格好としては支離滅裂にも程がある。
「まぁこればっかりは竜骨を遺した神に影響されるから仕方ないんだけどね。“召喚”アンチマテリアルライフル」
対物ライフルを召喚すると頭上の物体に向ける。
本来、地面に付けるタイプの代物ではあるがそんなものは関係無い。
「込めるは羽。放つは魔弾。貫くは巨石。必殺の魔弾よ。我が目標を撃ち砕け!!」
言霊を唱えると、ライフルに呪力が集まっていく。
そして、装填された戦乙女の羽が魔弾へと変換される。
狙いは喰が手を出していない真ん中の“山”である。
魔弾が完全に形成されると引き金が引かれ、魔弾が放たれる。
「へぇ………この状態で放つとああなるだ。でも、ライフル一つ駄目になるのは痛いね」
放たれた魔弾は、まるで槍の様に空を駆け、オーロラの様な光の線を描く。
魔弾を放ったライフルは煙を上げて完全に壊れていた。
どうやら魔弾を放つには耐えれなかったようだ。
◆◆◆◆◆
光の線が喰の顔の横を通り過ぎ、“山”を貫いた。
貫かれた“山”には全体的にヒビが入る。
「ルーシャか!!ちょうどいい時に助けてくれるじゃねぇか!!」
言いながら龍爪の刺さった左右の“山”を中央の“山”に叩き付ける。
既に全体にヒビが入っていた“山”は粉々に砕ける。
左右のも更にヒビが広がった所で龍爪を引き抜き、体を回転させ、竜の尾を叩き付ける。
左右の“山”もそれがトドメとなって砕け散る。
それなりの大きさの破片が地上に降り注ぐがそこは気にする事ではない。
「やるではないか、神殺し!!」
「………………」
金角の言葉には返事はしない。
瓢箪の蓋が開いてるので当たり前である。
無言で金角に向かって突進していく。
「ふむ、さすがに引っ掛からんか」
「オラァ!!」
龍爪を振り降ろすが、それと合わせる様に金角は扇を取り出す。
寒気を感じ、喰は咄嗟に身を退けぞらせた。
直後に金角が扇を扇ぎ、火炎が放たれる。
「グッ、ガァァァァァ!?」
咄嗟に身を退けぞらせたおかげで直撃は避けれた。
しかし、左腕と左足の一部は避け切れず、炭化した。
さすがに芯まで炭化していんわけでは無いが、激痛は半端無い。
そこへ、金角が休む間もなく七星剣で斬り掛かってくる。
右手の龍爪で応戦するが上に弾き上げられ、左腕を斬り落とされた。
「…………さっきより動きが良くなってねぇか?」
「童子に使っていた分を回収したまでよ」
「なるほどな」
喰は左肩を押さえながら周囲を見回す。
確かにうろちょろしていた童子の姿が消えていた。
そこでもう一つ忘れていた事に気付く。
「テメェ……銀角は何処に行きやがった!?」
「フフ……今頃気付いたか」
すっかり失念していた。
おそらく半月かルーシャの許に行ったのだろう。
完全に油断していた。
まつろわぬ神は人間など無視するだろうと甘く見ていた。
「今頃気付いた所で遅い。貴様の僕は銀角が殺している所だろう」
「「うるせぇよ」」
一つの口から二つの声が響く。
同時に右目が潰れ、赤い竜の頭部が一つ現れる。
「「テメェはちょっと…………引っ込んでろ!!」」
「ぬっ………ぐおぁ!?」
金角はそのまま龍頭に吹き飛ばされた。
そして、“彼ら”はそれを気にするまでも無く駆け出した。
「「間に合え!!」」
◆◆◆◆◆
「(さて…………こりゃマズイね)」
ヴェーラは木の陰に隠れ、出来る限り気配を消していた。
冷や汗を浮かべながら気付かれてないか確認する。
「何処に消えたぁ!!」
ヴェーラの近くでは銀角が暴れていた。
銀角が単独で行動しているのを見掛け、このままでは半月の所に行きかねなかったので気を引くように狙撃をしたら一発で気付かれたのだ。
仕方なく今の逃走状態にあるわけだ。
「“ ”」
銀角が何かを呟いた。
しかし、それに気付いた時には遅かった。
銀角の縄が独りでに動き、ヴェーラを背を預ける木ごと縛り上げた。
「見付けたぜぇぇ!!」
「あっ……くぅぅぅ」
縛り上げられているだけで息が苦しくなる。
それだけ縛りは強かった。
銀角は縄を思いっきり引っ張り、木を引き抜き、木ごとヴェーラを地面に叩き付けた。
「グガァァァァァァァァ!?」
ヴェーラの叫びが響く。
竜骨の力を使っている状態で無ければ確実に死んでいた。
それでも全身の骨は砕けるなり、ヒビが入るなりし、内臓も傷がついてるだろう。
口から多量の血を吐き出す。
「ゴボォ………ガハッ……………」
「まずは一人ィィィ!!」
縄がほどかれる。
木々の破片が散らばる中に横たわるヴェーラに向けて銀角が拳を振り降ろす。
(………ゴメン、喰。僕、死んだかも)
ヴェーラが覚悟を決めて目を閉じる。
だが、銀角の拳はヴェーラまで届かなかった。
何時まで経っても拳が振り下ろされ無いのを怪訝に思い、目を開くとそこには竜の尾で銀角の拳を防ぐ喰の姿があった。
「テメエ…………“俺の女”に何をしてやがる!!」
真紅の左目を光らせ、怒りの表情で喰が叫ぶのだった。
ほとんど“山”への対処でした。
掌握が進み悪竜の権能も強化されています。
竜骨使いに関しては後々。
魔弾の術は込めた物を魔弾に変換する感じです。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。