拳と竜の尾が互いに弾き合い、喰と銀角が互いに背後に飛ぶ。
喰はルーシャの左側に着地する。
真紅の左目でルーシャをチラリと見てから銀角に向き直る。
「【崩】」
何処からか呪符を取り出して呟く。
直後に駆け付けた直後に木の葉に混じってばら蒔かれていた呪符が輝き、銀角の足元を崩壊させる。
「ぐぉ!?」
バランスが崩れた所に畳み掛ける。
銀角に飛び掛かり、首を斬り落とす様に岩融を左から右へ横薙ぎに振るう。
銀角が体勢を崩しながらも右腕で防ごうとする。
そこにタイミングを合わせて左の龍爪を振り上げる。
「っ!?」
一切予備動作の無い攻撃に銀角は驚いた様に目を見開く。
何故なら喰の左腕は金角に斬られたまま再生されてないからだ。
それなのに龍爪は動いている。
そう、龍爪は“独立”している。
左腕と連動して動いてはいたが左手から直接生えてるわけではない。
だから、左腕を動かす感覚で振るえば龍爪は動く。
鮮血が舞い、銀角の右腕が宙に舞った。
ついでに銀角の右腰にあった琥珀の浄瓶も宙に舞う。
「ぬぅん!!」
それを銀角は見逃さず、残っている右腕で浄瓶を掴み、喰へ叩き付けた。
浄瓶は派手に砕け、中の液体が喰にかかる。
「ガッ……………っ!?」
喰は輸血パックを裂いて、中身の血を銀角の目に浴びせて目を潰した上で龍頭と龍尾を叩き付けて吹き飛ばす。
その上で煙幕を撒き、体に付いた液体を払い、ルーシャを抱えて距離を置くのだった。
◆◆◆◆◆
「っ…………ガァァァァァァ!?」
喰の悲鳴が響く。
勿論結界を張っているので金角銀角に聞かれはしない。
喰は、全身を焼く様な激痛に苦しんでいた。
浄瓶は名前を呼ばれ、返事をした者を吸い込み溶かす。
その溶かす為の液体を浴びたのだ、ただで済む筈が無い。
加えて吸血鬼性を上げて再生力を増加している状態なのも苦しみに繋がっている。
溶かされた所から再生されてまた溶ける。
この激痛はその繰り返しが原因なのだ。
「だ、大丈夫かい?」
「俺は………まぁ大丈夫だ。それよりお前だ」
「僕は………骨やら内臓を少しやられたけど大丈夫ではあるよ」
ほとんど強がりである。
現在のルーシャは身体中に治癒用の呪符が張られていた。
まつろわぬ髪の怪力で地面に叩き付けられてこの程度済めばマシでるが、動くのもツライ状態だ。
だが、それでも、ルーシャは体を起こした。
「おい、ルーシャ。動くな、傷が酷くなるぞ」
「それよりも君に血を吸わせる方が先だ。新鮮で質のいい血の方がいいんだろ?僕から直接吸えば結構力を出ると思うよ?」
ロングコートの首元のジッパーを開き、中のワイシャツのネクタイを緩め、ボタンを外し、首元をはだけさせる。
それを見て、喰は本能的に喉を鳴らすが目をそらした。
「どうしたんだい?今更吸えないってわけでも無いだろう?」
「いや、吸うのはいいんだ。というか、むしろ吸った方が“お前の為”にもなる」
「どういう意味?」
「“今”吸えばお前の傷も治せるんだ」
「なら、“それ”をやればいいじゃん」
「ちょっとばかり………問題があるんだよ、ちょっとな」
「ウダウダと君らしく無いね。一体何だって言うんだい?」
いつの間にかルーシャが近付いて来ていた。
喰のすぐ側に。
息が耳に掛かるくらいの位置に。
「いやー・・・吸血鬼の“吸血”の意味って知ってるよな?」
「そりゃ、食事とせ…………ブッ!!」
今度はルーシャが顔を赤めて吹き出した。
「え、え、いやいやちょっと待ってよ…………此処でヤル気!?いや、僕としては大歓迎だけど……屋外でヤル覚悟はちょっと………で、でも君がヤルというなら………」
「待て待て待て!!勘違いするな!!そうじゃない、ある意味あってはいるがそうじゃない!!」
「へ?」
慌てて否定する喰に、ルーシャは露骨に顔を歪める。
どうもどうやらヤル気満々だったようだ。
喰の言葉で一瞬にして冷めたらしく、すぐに意味を悟った。
「えーと、君が言いたいのは“眷族作り”の方かい?」
「あぁ………そうだよ」
意識の奥の更に底で掴んだ何か、その“一部”である。
吸血による眷族作り、ある意味に置いて性交に等しい物である。
おそらく掌握が進んだという事だろう。
吸血鬼性を上げたらいきなりそんな事が浮かんだのである。
「それでそれは何か問題があるの?」
「“眷族作り”だからな。血を吸うだけでなく、お前が俺の物となる誓いを立てる必要がある上にお前の体にも影響が」
「なーんだ、そんな事かい。今更だね。僕は何時だって君の物になると誓うよ。それに君だって、さっき僕を“俺の女”って呼んだじゃん♪」
「いや、それはその……………勢いというか……………」
喰は顔を紅くする。
勢いでうっかり言った分、今更気恥ずかしさが出てきたのだ。
だが、ルーシャはどうでもいい様に指を噛むと血を流させて口に含む。
「まぁいいから、さっさと始めようよ」
そして、そのまま喰に口付けして血を喰の口に流し込む。
ルーシャは喰の左目の真紅が更に濃くなるのを感じた。
「うっ、く……………アァァァ!!」
「え?ちょ、キャ!?」
喰が小さく叫びを上げると勢いのままにルーシャを押し倒し、その上に乗っかる形になる。
ルーシャの顔がどんどん紅くなるが、正面から喰を見て一旦落ち着く。
「今から俺はお前を“俺の物”にする、いいな?」
「だから言ってるだろ?僕は何時でも“君の物”になるって。それに、君は僕の“王”だ」
「そうか」
「アァ………」
返事を聞くなり、喰はルーシャのはだけさせた首元に噛み付き、血を吸っていく。
「ん……くぅ」
「あぁ……ひゃ、ぅぅぅぅ…………」
ルーシャが体を悶えさせるが押さえる様に手を掴む。
喰の髪は完全に白く染まり、再生が始まる。
左腕が生え、真紅の両目が輝く。
「うっ………ァァァァァァァ!!」
いきなり、ルーシャの叫びが大きくなり、苦しむ様に体が跳ねる。
しばらく叫びが続くがその間も喰は血を吸い続けた。
そして、喰が口を離した時にはルーシャの瞳は真紅に染まり、口からは牙が見えていた。
「これで終わ……うぉ!?」
そのまま離れようとした喰だが、逆に腕を回されて抱き寄せられた。
そして、耳元で呟かられる。
「終わりじゃないよ…………今度は僕の番だ」
「は?………ウムッ!?」
直後にルーシャが喰の首に牙を立てた。
そのまま吸血を始める。
だが、それは短かった。
すぐに口を離して喰の方を見た。
「ハハハッ………吸血ってこういう感覚なんだ。それに君の血は美味しいね」
「ったく………しょうがねぇな」
互いにニッと笑うと互いに牙を立てて代わる代わる吸い合うのだった。
◆◆◆◆◆
10分後。
互いに吸い合っていた二人は互いに背を向けて座っていた。
両方とも顔は赤い。
二人とも割りと後悔していた。
例えるなら酔った勢いであれこれやった後の気まずさである。
あれから二人は我に戻り慌てて身を離して今の状況になった。
ルーシャは、喰に背を向けながらも服の乱れを正すのだった。
そこで体の違和感に気付く。
体が痛まないし、傷が見当たらないのである。
「ねぇ、喰」
「な、なななんだ、ルーシャ!?」
いきなり声を掛けられて慌てる喰。
気を取り直し、心を落ち着かせて改めてルーシャの方を見る。
「君はさっきのを“眷族作り”と言ったけど、“眷族化”した影響ってどうなんだい?」
「知識として知ってるのなら…………再生能力の強化、身体能力の強化……」
「(それで傷が直って力が湧くわけだね)」
「それと、体質の変化だ」
「どういう事だい?」
「つまりだ、“眷族化”したという事は“吸血鬼”となったわけだ。つまり体質の方もそれ相応になる。ようは、“神獣”や“神祖”に近い感じだな」
「へぇ………それなら」
ルーシャは首から下げている竜骨を握り力を解放する。
ルーシャの体が白い光に包まれ、光が装備へと変化していく。
狐面に黒のロングコートの上に白鳥の髪飾り、西洋鎧の籠手とブーツ、軽くて動きやすい胸当てが現れる。
「どうやら、体質が“神”に近付いた分、これも強化されたようだね」
とはいえ、外見の支離滅裂さは変わらないが。
ルーシャが動きやすさを確かめる中で、喰は結界を解除する。
「さて、休憩は終わりだ。そろそろ決着と行こうぜ、金角銀角」
殺る気満々に呟くのだった。
◆◆◆◆◆
「………っ!?」
何か妙な寒気を感じ、半月は周囲を見渡す。
しかし、何も見付かりはしなかった。
「気のせいかしら?………………いや、違うわ。骸か喰が“何か”やったわね。私がこんな暇な役目をやってる間に“何か”したわね…………まぁいいわ。あとでこれの支払いを含めて色々して貰えば」
勝手ではあるが、割りと外れでは無い推測を呟いていく。
幾ら推測を重ねようと半月は此処から離れるわけにはいかない。
だから、後で請求するのだ。
「ゴホッ…カハッカハッ」
咳の後に掌を見る。
そこには自分の血がべったりとついていた。
龍脈結界の負担…………では無い。
さすがにここまで連続して吐血する程ではない。
では、原因は何かと聞かれれば答えられない。
だが、心当たりはある。
“疑似土地神化”の時は気にならなかったが、今回ここまで大規模な地脈の力を使い気付いた。
自らの体に何か変化が起きている事を。
どういう変化かは分からない。
しかし、何はどうあれまるで何かに引っ張られる様に、何かに適応する様に体が変わっていく感覚があった。
気のせいと思いたかったが否定する材料は無かった。
そんな事を思いながら半月は結界を維持していた。
ほぼ吸血でした!!
眷族化は大雑把に例えるなら吸血鬼風少年の権能です。
吸血鬼の権能に関しては多少特殊な部分はありますが無意識の内に前世が扱っていた段階まで近付いています。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。