「貰いましたッ!」
「そうは問屋が
一撃決殺。『紅式八極拳』の紅い拳撃が空を穿つ。空間を揺らし噛み砕く一撃。拳だけに留まらず、その先に座す空間自体を圧殺する門番の一撃に巻き込まれた満月の紅い影が掻き消えた。
「ふふっ、満月さん! 次も避けられますか? ただ避けてばかりではいつまで経っても我が門を開ける事は叶いませんよッ!」
「そう誘うな、誘いに乗ったところで甘いひと時などないだろうによ。それに俺を誘うなら、足腰立たなくなっても知らぬぞ美鈴殿」
「
「吐いた唾は飲めんぞ門の妖! 俺に手を出させるのだから先に寝てくれるなよッ‼︎」
『紅式八極拳、
『抜ケン術、
お互い僅かに首を捻った先を通過し、顔の横に突き出された腕を追って青い瞳が見つめ合う。生まれた一瞬の静寂は二つの小さな笑い声が埋め、二つの紅い閃光は離れるとすぐに再びぶつかり合う。
紅い館、紅魔館の周りを彩る紅色の衝撃波。空を揺らし地を砕き、弾かれた空間が生む風に強引に本のページを捲られて、久々に日光浴でもしようかと紅魔館のテラスで本を読んでいた『動かない大図書館』パチュリー=ノーレッジは、手にした本から視線を外して天を仰ぎ、真上で紅い拳撃の花火が開く様を見届けると、痛む頭を抑えて深い大きなため息を吐く。
「……咲夜、あの門番と執事長どうにかしてくれない? これじゃあゆっくり本も読めないわ。満月が帰って来てから毎日毎日よく飽きないわね。あれは……鍛錬なのよね? お互い口説いてる訳じゃないのよね?」
組手にしては口から出ている言葉が際どい。場所と雰囲気さえ入れ替えてやった場合、『悪魔の妹』フランドール=スカーレットには見せられそうもない。フランドールが友人と幻想郷の何処ぞへと遊びに出ている為、気にしなくていい事に感謝しつつ傍に立つ紅魔館のメイド長へとパチュリーが目を向ければ、
「あればかりは私にもちょっと……あれを止められるのはお嬢様だけです。時を止めようにもあの二人は止まりませんから」
組手の時は完全に満月と美鈴は二人だけの世界に埋没している。時を止め弾幕を咲夜が放ったところで、武人としての気質を隠さずに全面に発揮している二人は、丁度いい障害物とばかりにその中を縫うように動きそもそも当たらず、止まった中でナイフを突き立てようが、満月は死なぬ為気にせず動き続け、全身に気を巡らせている美鈴には刺さらない。よって咲夜に止めることは叶わず、下手に手を出し続けると、組手に混ざりたいのだと勘違いされて酷い目を見る。
咲夜とて紅魔館に来る前は欧州に名を轟かせたヴァンパイアハンターの一人ではあるものの、欧州での吸血鬼大戦を戦い抜き、
「……満月さんも私を誘ってくれればいいですのに、美鈴も。普段何も教えてくれない癖に組手だけは意気揚々と」
「あっそ、貴女も同類ね咲夜。最初はツンケンしていたのに、随分と執事長と仲良くなったようね。美鈴も昼寝する暇がないくらい楽しいようで何よりじゃない」
「それは違いますよ、美鈴と満月さんはたまに示し合わせたように二人で昼寝してますから。私の死角を突いて毎回毎回隠れるように、まったく、アレさえなければ二人に目くじらを立てる事もないのにッ」
それは昼寝自体ではなく、咲夜とのかくれんぼを楽しんでいるだけじゃないのかとパチュリーは当たりを付けて呆れるが、わざわざそれを口には出さない。それになんだかんだ咲夜は美鈴と満月に弱い。普段こそ仕事を真面目にしない二人に怒ってはいるものの、いざレミリアの始まりの従者としての顔を覗かせる二人の前では逆にやり込められてしまう。美鈴と満月にとって咲夜は可愛い妹分なのだ。なんだかんだと甘い三角形に仲が悪いよりはいいかと再び本へパチュリーが目を向けようとした目の前のテーブルが、急に横合いに吹き飛び砕け散った。
「「あっ」」
間の抜けたような男女二つの声。床に散らばる木片と、砕けたティーセットを目にテラスの柵の上で門番と執事長は動きを止めて無言で顔を見合わせる。
「…………満月さん」
「安心せよ、こんな事もあろうかと、外の世界を旅していた時ふらんすで買ったてぃーせっとを隠し持っておる。いぎりすのも、なんならるーまにあの物もの。美鈴殿は?」
「こんな事もあろうかと幾つかテーブルの在庫を倉庫に置いてあります。つまり──」
レミリアに、お嬢様には怒られない。
「仔細ないの」「
「問題ありよ」
すこんッ、と美鈴と満月の頭に銀ナイフがぶっ刺さり、二人の体が柵の上から転げ落ちる。気で傷を塞ぎながらナイフを抜く美鈴と、関係ないと血を噴き出しながらナイフを抜く満月を咲夜は睨み、怒れるメイド長から逃げるように顔を背けて、満月と美鈴は顔を寄せた。怒っている時の咲夜が二人は苦手だ。
「不味いぞ、咲夜殿が怒髪天ぞ。機嫌を取るならどうすりゃいい?」
「どうでしょう、昼寝にでも誘います?」
「頭に刺さるないふの数が増えるだけよな、組手にでも誘うか?」
「組手で壊したのに駄目じゃないですか? 満月さん咲夜さんの事褒めてあげてみてくださいよ、今日は綺麗ですねとか、意外といけるかもしれません」
「正気か? 美鈴殿は俺に褒められて嬉しいか?」
「満月さんに? 私と満月さんは何年の付き合いだと思ってるんです? 今更褒められても、お嬢様じゃないんですから」
「じゃあ意味ないな」
「「あっはっは!」」
「聞こえてるわよ?」
全く会話を隠そうともせずに笑う二人の頭に再び幾つかのナイフが刺さる。わざとらしく死体のようにテラスの上に転がる二人に咲夜は大きなため息を吐き、全く気にされずに放って置かれているパチュリーも同じようにため息を零して手元の本を転移魔法で消した。椅子にだけ座っていても面白くはない。折角外に足を伸ばしたのにただ図書室に戻るのも面白くなく、頭にナイフが刺さっているのをいい事にそのまま昼寝に移行しようかという程動かない美鈴と満月を見下ろして、パチュリーは椅子に座りなおした。
「それにしてもよく飽きないわね貴方達。毎日毎日組手組手、武術に対して私はそこまで詳しくはないけれど、レミィに会う前から貴方達はそうだったの?」
純粋な疑問。本や文献を漁り理論を組み立て、己が工房から出ずに研鑽を積むパチュリーとは異なり、美鈴も満月も今でこそ絶対の主としてレミリアに仕えてはいるものの、元は二人とも戦人。戦場を駆けていた修羅である。その気質の発散場所を求めているからこそ美鈴と満月は毎日飽きずに弾幕ごっこよりも危険な組手を嬉々として続けている。頭に刺さったナイフを抜き、柵に寄り掛かかるように二人は立ち上がると満月は取り出した煙管を咥えて紫煙を吐き、一口吸えば美鈴に手渡す。ありがとうとも言わずに一つの煙管を回して吸う二人の姿は、かつての旅のワンシーンを切り取ったかのように自然であり、咲夜もパチュリーも目を丸くした。
「まあ、そうだな。戦場の記憶は忘れんよ。昔は色々な者と手を合わせた。西へ東へ刀を背負い旅をしたの」
「武力こそが正義の時代でしたからね、私も今より無茶をしました。満月さん程手に取れない方も珍しいですけどね」
「美鈴殿程の
「……どんな方がいらしたのですか?」
少し畏まった咲夜の言葉に、美鈴と満月は僅かに目配せして視線を外した。レミリアの父親やそれに類する吸血鬼達の話をするのは、レミリアが紅魔館にいる為勝手に話のは
「……なんの顔なんですかそれ」
「果てしなく嫌そうね」
咲夜とパチュリーからも微妙な顔を返され、美鈴と満月はこれ見よがしに大きく肩を
「……話せる相手と言われましても……どうです満月さんは誰かいますか?」
「まあ幾らかは、ただどうしても戦の話にはなるがな、あれは落とし穴のようなものぞ。戦人だけが落っこちるな」
「困った事に這い上がれないんですよね落っこちると、いやぁ、紅魔館に居るとよく思い出しますよ。長江の赤壁を」
軽く呟き口に咥えた煙管を揺らす美鈴見て、満月は強く口端を落とした。珍しく話に乗り気らしい美鈴。『話すの?』『たまには』と目だけで会話し、満月さえ聞いた事がない古の戦を美鈴は口遊む。
『
中国後漢末期の二〇八年、長江の赤壁にて起こった魏呉蜀の戦い。華北をほぼ平定した曹操は,中華の統一を図りさらに南下した。数十万の魏の軍勢を率いた『曹操』と相対したのが、呉を率いた『孫権』に仕えていた『周瑜』と蜀を率いていた『劉備』達の連合軍。戦力差五倍から十倍と言われた軍勢を連合軍は長江の赤壁で迎え撃ち、見事これを撃退したのである。
「
「……美鈴殿、それは二千年程前の戦ではないのか?」
「
「おや、女性に歳を聞くとは野暮ですね。
「俺に言うな俺に……」
煙管を美鈴に手渡され、満月は不機嫌そうに紫煙を燻らす。美鈴と満月は生きた歴史の集積だ。咲夜の何十倍も生きてきた軌跡は広大であり、語るなら一日では到底足りない。美鈴がそんな軌跡の一欠片を口にしてしまったものだから、パチュリーと咲夜の期待の眼差しが満月へと向き、満月は困ったように小さく身動ぐ。そんな満月の肩を美鈴は小さく小突いた。
「私は是非とも島原の話が聞きたいですね。それが満月さんの全てでしょう?」
「おいおい、早速藪を突ついているぞ?」
「なんなら私が話そうかしら?」
動かない大図書館が己が潤沢な知識をひけらかして
「……謀略家なら俺が上げられるのは二人ぞ。
「満月さんが?」
「気になるのか咲夜殿?」
満月に見つめられて瞳を大きく泳がす咲夜を目に、満月は微笑むと煙管を叩き火種を落とす。雇われ妖精メイドなどとは違い、咲夜も紅魔館に骨を埋めると決めた者。そんな中で誰より年若いからこそ、紅魔館ができる前のその軌跡を知っておきたい。面白い話でもないだろうにと首を捻って想いを巡らし、可愛い妹分のために少しばかり口を開いた。
「千々石殿*1はな、緻密にして計算高いこんぴゅーたーのような御仁だった。表情乏しく声も荒げんかったが、あれ程情熱を秘めた男も少なかろうよ。俺と原城の大江丸という場を守っていてな。
「……冗談?」
珍しく話に耳を傾けて目を瞬くパチュリーに、満月は笑う。ノーレッジ卿の面影を残す幼い少女の驚きの顔は、美鈴と満月には何より新鮮だ。こんな顔が見られるのならとつい口が軽くなる。
「さてな。宗意軒殿*2はな、日ノ本の術と切支丹の秘術を混ぜたけったいな術の使い手じゃった。敵の術師の多くを破ったのが宗意軒殿ぞ。陰影の戒術の担い手、陰陽師との術勝負は化物同士の喰らい合いぞ。ありゃあ幻想郷でも滅多に見れんな」
悪夢の式神と禁術の怪物。あまりの禍々しさに誰も手出し出来なかった。宗意軒の弟子さえも「気色悪いのぅ、夢に見そうじゃぁ」と呆れる始末。これには
「その戦、新免何某という極東最強の剣豪も居たのですよね! 満月さんやり合いました?」
「……嫌なこと思い出させるの。言いたくないぞ」
「えー、いいじゃないですか。
「じゃあ美鈴殿も趙雲殿だか雲長殿だかとの話をしてくれるか?」
「さあ次に行きましょう!」
調子良さげに話を流す美鈴の姿に、満月は鼻で笑い煙管を噛む。満月含めて数人がかり、それでようやく死なずに済んだ二刀を握る天下無双。そんな話はしたくない。軌跡も十字架も何でもかんでも一刀の元に弾き飛ばした豪剣の達人。鬼よりも鬼らしい剣聖。二度と死合いたくないとは正にあれのことだ。
「でも貴方が居て智慧者がいても多勢に無勢で負けたんでしょ? 籠城戦でも四倍近い戦力差でよく二ヶ月以上保ったわね」
パチュリーの言う通り、一揆勢約三万七千対、徳川幕府側約十二万五千の戦。しかも籠城戦。圧倒的に数で劣る中でよく保った。寛永十四年十月二十五日、有馬村のキリシタンが中心となって代官所に強談に赴き代官、
上げる多くの名前の中で、『聖人』天草四郎時貞を除き、特に異様であった怪人達。これまで名を挙げ連ねた者以外で、特に際立っていた七人。七つの指をパチュリーと咲夜の前へと満月は差し伸ばす。
「
「今呼び捨ての方混ざってませんでした?」
「あぁ、俺や四郎と歳が近かったのよ。咲夜殿と博麗の巫女殿と魔法使い殿、庭師殿、風祝殿みたいなものよな」
島原に集った者で重要な役職に就いた者の殆どが浪人だ。関ヶ原の戦に参加し、大坂の陣にも参加した者が多く島原には集まった。そんな中で特異な技能を持った若い者というのはどうしても限られ、集まればなんだかんだと馴染んでしまう。最年少の四郎を筆頭に、満月も合わせて五人。『天草若人六人衆』の結成であった。
「刑部は宗意軒殿の弟子でな。でかい十字槍を担いで二ノ丸出丸の大将をしておった。五百人ばかりで軍勢を押し返せていたのは奴のおかげよ。島原の鬼などと呼ばれていたぞ。切支丹であったから四郎から貰った御守りをいつも首から下げておったよの」
「ワシぁ旗奉行じゃぁからのぅ、戦場で迷ったならワシを見つけよ」などと宣い、目立つ十字架を決して手放さなかった男。戦場の中で血溜まりの中に沈まず天に掲げられた十字架を何度も満月は目にしている。
「玄察は医者でな、毎回俺達の治療をしてくれた。頭が回る男で蘭学に明るかったの。薬箱を背負った小太刀術の達者ぞ。人体を知り尽くしておったから小太刀一つあれば人をバラせるとの。我らが長く戦えたのも玄察が居たからよな。島原の
「私が居れば死なせばせんね、死人じゃって蘇りゃあな」と振り切れた笑みを浮かべて蘭国のパイプをふかしていた男。忍よりも忍びらしく、満月達六人の中では相談役でもあった悪たれ。大麻を栽培し幻覚世界に敵を叩き込んでいたガチやべえ奴であった。杏林*9は勿論皮肉である。そんな男を思い出し口端を歪めながら、満月は気怠そうに紫煙を零す。
「左京進は夜廻奉行よ、誰よりも夜目が効きおった。夜でも安全に過ごせたのは此奴のおかげぞ。その代わりに夜行性で昼はいつも眠そうだったな。我ら側の数少ない忍びでのぅ、幕府側の忍や暗殺者を数多く仕留めた。島原の
「眠いぞな」、この台詞で全てを表すことができる男である。常に眠たげで目の下には隈があり、鎧を着ることもなく、なんでもない平服に身を包んでいた男。寝ていると思い目を移せば、いつの間にか消えていた。勝てない勝負はしない主義を公言しており、負ける前に逃げると言いながら逃げた試しがない。サボり癖が身に付いたのは此奴の所為だなと罪を押し付け満月は笑う。
「右馬助は鉄砲奉行ぞ、島原で出会った
「おいらにゃぁ無理だよ」と口にしながら無理を通していた鉄砲撃ち。「無理じゃないわ」と金作に小突かれながら、二人で精密な狙撃を繰り返していた。駆ける馬より速く敵を討ち味方を助ける『馬撃ち右馬助』と恐れられた弱気な男。人当たり良く、潤滑油だったのは間違いない。
「まあそんな奴らが島原には居たの。特徴ある奴が多過ぎて話してもキリがない」
「その方達は……」
咲夜の言葉に満月は口を閉ざして肩を竦め、美鈴も小さく目を伏せ口を閉ざす。思い入れがないパチュリーが、ただ文献に残されていた事実を口にする。「全滅したわ」と。天草軍三七〇〇〇全てが死んだ。唯一生き残ったのは、ただ一人の裏切り者*10。その事実に何も言えない咲夜の代わりに、誰より速く満月が言葉を沈黙に挟む。
「最後は全員散り散りだったからの。俺のように生きながらえた者もいるかもしれんし、そう暗くなるな。生憎俺は島原の乱の後に会った事はないが、四百年も前の話ぞ。無事であっても、もう生きとらんよな」
「この歳になると生きている友人より、亡くなった友人の方が多いですからね。そんなの気にしてられませんよ」
「そもそも気にしてやるような奴らじゃないしな! ただの馬鹿たれどもぞ!」
「そうそう! 好き勝手やって死んでるんですから気にするだけ損という奴ですね!」
「「あっはっは!」」
「貴方達大分薄情ね……」
気にしないなどと言いながら、なんだかんだでしっかり名前まで忘れずに覚えている。満月と美鈴の軌跡を作り上げた者達。どれだけ時が経とうとも、その影達は薄れない。珍しく本も読まずに話を聞いていたパチュリーの顔を美鈴と満月は覗き込むと、面白いものを眺めるように嫌らしい笑みを口元に浮かべ、パチュリーは少し引いた。
「な、なによ」
「いやいや、俺も美鈴殿もノーレッジ卿にはかなり長らくからかわれたからな。『ノーレッジ』が目を丸くしていると思うと愉快ぞ!」
「そうですねー、しかも子育てならぬ孫育てが分からないと私に押し付けて、パチュリー様のオムツを替えた話でもしましょうか?」
笑顔の美鈴の言葉がパチュリーの耳を貫き、激しくパチュリーは噴き出した。同じく満月も噴き出し腹を押さえて床に崩れ、精霊魔法が執事長に降り注ぐ。
「笑い転げてるんじゃないわよ満月ッ! ちょちょ、ちょっと美鈴、少しお話ししようじゃないの!」
「美鈴殿俺も聞きたいぞー」
「不死身は黙ってなさいッ‼︎」
「美鈴私も聞きたいわね」
「咲夜ッ⁉︎」
悪戯っぽく微笑を浮かべる咲夜に向かい満月がサムズアップする。突き立てられた満月の親指は、パチュリーの魔法に削ぎ落とされたがすぐに生えた。不死身だからと遠慮のない暴力が満月に降りかかるが、不死身だからこそどうにもならない。普段物静かで声を荒げないパチュリーの息を荒げる姿に満月と美鈴が満足に笑う背後。夜に向かって日が落ちた黄昏時の世界に足音が落とされる。
「楽しそうね、なんの話をしていたのか聞かせてくれるかしら?」
青い髪を揺らして微笑む小さな主。レミリアの姿を目に、もはや呼吸をするような慣れた動作で全く同時に三者三様の優麗なお辞儀で迎える従者達にパチュリーは大いに呆れた。ふざけていてもやるべき時はきっちりやる。満足そうに柔らかく微笑むレミリアと、レミリアの持つ紅魔館より麗しい従者達を眺めて、パチュリーは思い付いたように指を弾く。
「美鈴と満月からレミィと会う前の二人の話を聞いていたのよ」
「はぁッ⁉︎」
たったの一手。その一手に優雅さは崩れ去る。パチュリーだって『ノーレッジ』。レミリア一行をからかう事など造作もない。一手で王手、一手で詰み。彫像のように固まる満月と美鈴へ、レミリアは錆びたブリキ人形のようにぎこちなく首を動かすと強く手を振り上げ牙を剥いた。
「ちょぉッと⁉︎ 従者の軌跡は追うものではないとか言ってたの誰だったわけッ⁉︎ ずるくないッ! ずるいでしょうがッ‼︎ なぜそうなったのッ⁉︎ 吐きなさいこら満月ッ! 美鈴ッ‼︎」
「咲夜殿が……」「咲夜さんが……」
「貴方達咲夜に甘すぎよッ! 咲夜ぁぁぁぁッ」
「ちょ、普通ここで私を売りますかッ⁉︎ 勝手に話したのは貴方達でしょ!」
「これは説教ね! 久々にお説教よ! 行くわよ満月美鈴ッ! 今夜は寝かさないから覚悟なさいッ‼︎」
「「ああぁぁぁぁ……れみりゃお嬢様ぁ」」
「れみりゃ言うなッ!」
レミリアに襟首を掴まれ引き摺られて行く従者二人に、いい気味であると大変良い笑顔で手を振りパチュリーは見送る。慣れた三人セットの去る姿にパチュリーと咲夜は顔を見合わせ小さく笑う。
そんな紅魔館の日々。