魔法科高校ヒロインを救うのはお兄様でも魔法でも無くギャルゲーマーだった件 作:ローファイト
「ははははははっ!これで記念すべき11111人目のヒロイン攻略だ!」
彼は校内屋上でゲーム機仕様の最新型情報端末を片手に一人、静かに心の中で雄たけびを上げていたのだが、声として漏れ出ていた。
桂木桂馬16歳身長174cm53㎏誕生日は6月6日右利き。
頭脳明晰、容姿はメガネを外せば美少年と言っていいだろう。
しかし、彼は学校ではいつも一人だ。
自ら人との接触を断っていた。
彼はいつも言う。
「リアルはクソゲーだ」と……
今の彼にとってゲームの世界がすべて。
現実とは関心の無い虚無の世界だった。
学校でも、授業中だろうが通学中だろうが昼食中だろうが、四六時中ゲームに没頭している。
そして、現在昼休み。
サンドイッチを片手にギャルゲーヒロイン11111人目の攻略を完遂させた所であった。
彼はギャルゲー界では超有名人である。
その驚異的な攻略スピードとギャルゲーのすべてを網羅してるとされてる知識から、『落とし神』の名で知られ、尊敬と畏怖の念を集めていた。
自らが開いた攻略サイトには、絶えず迷えるギャルゲーマーが集い、その薫陶を得ていたのだ。
彼の天才的頭脳は、すべてギャルゲー攻略に捧げられていたのだ。
魔法が科学され現実のものとなり100年が経つ。
魔法が蔓延るこの世界では、魔法は国家の維持に欠かせないものとなり、軍事力の中核をなすものへ発展する。魔法の優劣が国の命運を左右すると言っても過言ではない。
各国は、優れた魔法の開発と優秀な魔法師の育成が命題となっていた。
日本には国策の魔法師育成機関である国立魔法大学付属高校が、全国に9校存在する。
その一つ、東京八王子にある国立魔法大学付属第一高校。
優秀な魔法師を育てるための学校。
卒業生の殆どが魔法大学又は防衛大学へと進学する。
そのカリキュラムは実戦的で、魔法による戦闘能力を意識したものとなっており、魔法の優劣こそがすべてだった。
桂木桂馬は今年第一高校に入学。
クラスは1年E組、要するに二科生だった。
この高校には明確な差別があった。
一科生と二科生と。
入学時の魔法適正の優劣で、一科生と二科生と振り分けられる。
二科生は一科生の補欠。劣った存在だと。
一科生は自らをブルームと呼び二科生をウイードと蔑んでいたのだ。
桂木桂馬はその二科生の中でも実技の成績は最底辺であった。
いや、魔法が扱えないと言っていいレベルの人間であった。
なぜ、そんな桂馬がこの魔法師を育てるこの第一高校に入学できたかは、後程語るとしよう。
しかしそんな事も、現実の世界を見捨て、ゲームの世界で生きている桂馬にとっては、どうでもいい話だった。
2095年7月2日
11111人目のギャルゲーヒロインを攻略した桂馬の下に、桂馬が運営するギャルゲー攻略サイトを通して、こんなメールが届く。
落とし神へ
どんな女でも落とせると噂を聞く。
まさかと思うが、本当なら攻略して
ほしい女がいるのだ。
自信があるなら【返信】ボタンを
押してくれ。
→(返信)←
PS:無理なら絶対押さないように!!
ドクロウ・スカール
「なんだこれは、挑発のアロマ漂うメールは!?僕を誰だと思ってる。…神は逃げない」
桂馬はこんなよくわからないメールを、ギャルゲーの攻略挑戦状だと判断し、絶対の自信をもって返信ボタンをクリックする。
すると、今まで晴れていた屋上の空が、急にどす黒い雲がどこからともなく現れ、辺りは暗転する。
そして、一筋の強烈な雷光が桂馬の目の前に降り注いだのだ。
「うわぁーーっ!?」
桂馬はその雷光の余波で座っていたベンチから数メートル吹き飛ぶ。
桂馬は雷光のが降り注いだ場所を辛うじて目をやると……
そこには箒を片手に羽衣を纏い、ポニーテールのような髷を結い、古めかしい恰好をした一見天女のような様相の美少女が、まるで雷光と共に降り立ったかのように、その場の地面にふわりと足をつけていたのだ。
そして、黒い雲は一瞬で晴れ、空から太陽が照り付ける。
桂馬は驚きで目を見開き、その美少女を見上げる。
美少女は明るい笑顔で桂馬に頭を下げ、何故か桂馬を神様と呼び、手を取る。
「ご契約ありがとうございます。神様。それでは参りましょう!」
「え?」
桂馬はその笑顔に一瞬ドキッとする。
「さあ、駆け魂(かけたま)狩りに参りましょう!」
その美少女はそう言って、桂馬の手を引っ張り、空へと飛んだ。
「うわああああっ!」
美少女は桂馬を片手に空を飛びまわり、人の居ない三階の教室に降り立った。
そして、その美少女は教室から窓の外に顔を出し、キョロキョロと何かを探している風だった。
(はぁ、はぁ、何なんだこいつは?現在開発中だと噂される飛行魔法か?いや、まだ正式にロールアウトして無いハズだ。それにしても術式展開もしてなかったぞ?……落ち着け…落ち着け…リアルに飲み込まれるな!!)
桂馬は心を落ち着かせるために携帯端末を取り出し、ゲームをしながら思考する。
「よし整理しよう、先ずお前は何者だろうか?」
桂馬は落ち着きを取り戻し、美少女に声を掛ける。
すると美少女は満面の笑みで自己紹介をする。
「わたし、エリュシア・デ・ルート・イーマっていいます。皆はエルシィって呼んでます。地獄から派遣された駆け魂(かけたま)隊の悪魔です!」
「……よし、今日は火曜日かゲーム買って帰るか」
桂馬は何事も無かったように教室を出ようとする。
桂馬はこの地獄の悪魔だと名乗る美少女を、頭のおかしい人間だと判断し、関りをこの場で絶ったのだ。
エルシィは駆け寄り、桂馬の腕を取ってこんな不穏な事を言う。
「待ってください!気をつけないと、首、とれちゃいますよ?」
「首?……何だこの首輪は?」
桂馬はその言葉に首辺りを触ると、いつの間にか金属製の首輪が首にはめられていたのだ。
「神様は悪魔と契約されたんですよ?契約書を返信しましたよね。ドクロウさん宛てに」
エルシィは神妙な顔で何かを語りだす。
「契約書?……あのメールか」
桂馬に心当たりがあった。
ギャルゲーの挑戦状だと思っていたあのメールだ。
確かに桂馬は返信ボタンを押していた。
あのメールの中には契約条項や解約等の各種手続きに必要なものは、一切添付されていなかった。
巷に流行っている如何わしいネット詐欺商法とほぼ同じだ。
悪魔との契約にそんなものが適用されるかは、また別の話だが……
「悪魔との契約は厳しくて、契約を許可なく破棄したり、達成できなかったら、その首輪が首をもぎ取ります」
「……ふざけるなーーー!!こんな物騒な首輪を直ぐに外せーーー!!」
桂馬は怒りをあらわにしエルシィに迫る。当然の反応だ。
「大丈夫ですよ神様!駆け魂を捕まえれば、ちゃんと外れますから~」
エルシィは笑顔で軽い感じでこんな事を言う。
「駆け魂を捕まえる?駆け魂ってなんだ?」
すると、エルシィの頭についてる髑髏の形をした大きな髪飾りが、ドロドロドロドロドロという微妙に可愛らしい音と共に、髑髏の目の部分が赤く点滅しだす。
どうやら、この髑髏の髪飾りは何かのセンサーらしい。
「来ました駆け魂です!神様!こちらに来てください」
エルシィはそう言って窓の外を見渡してから、手に持つ箒で辺りを掃除し、桂馬を窓まで促す。
桂馬は素直にエルシィに従い窓まで歩く。
「えっと~、あっ!あの子です!」
エルシィは窓の外のグランドを指さす。
エルシィが指さす先には、グランドで体育の授業中の女子を……赤髪の快活そうな美少女を指していた。
「……最近どこかで見たような」
桂馬は、その女子に見覚えがあるが名前まで覚えていないようだ。
彼女の名前は千葉エリカ。桂馬と同じクラスメイトであり、学年でも3本の指に入る美少女で、明るい性格からもクラスのムードメーカー的存在だった。
そんな彼女だが、リアルに一切興味を持たない桂馬にとって、モブ同然の存在だった。
しかし……その千葉エリカから、何やらおどろおどろしい煙のようなものが、全身から吹き出るように立ち昇っていた。
だが、そんなものが体中から吹き出れば、本人や周りの生徒も気づくようなものだが、まるで見えていないかのようだ。
「な……なんなんだよ。あれは?」
桂馬もその不気味に吹き出る煙のようなものが、ただ事ではない事を感じさせ、身震いをしながらエルシィに聞く。
「あれは地獄から抜け出した悪人の霊魂です。駆け魂(かけたま)です。奴らはまた悪事を働くべくこの地上にやってくるんです」
「じゃあ、とっとと捕まえろよ!」
「そう簡単にいかないんです。なにせ駆け魂が隠れてる場所が人の心の隙間なんで」
「心の隙間?……捕まえようがないだろ!!そんなもの!!」
桂馬は教室の机を叩き、エルシィに訴える。
確かにそうだ。心とは何処にあるのかという、哲学的問題だ。心の隙間など物理的に存在しないものなのだ。
「そこで、バディ…人間の協力者の出番です!駆け魂が隠れてる人間の心の隙間を埋めちゃえばいいんです!そうすれば心の隙間がなくなちゃうので、駆け魂は出てきちゃいますから!で!!人の心の隙間を埋めるには!!……恋が一番!!」
エルシィは笑顔でまた軽い感じでこんな事を言う。
「!?僕にリアル女を口説けと言うのか!!」
エルシィが言わんとしている事を桂馬は瞬時に理解し、抗議する。
「まあ、そうです。その口づけ程度で良いので……」
エルシィは恥ずかしそうにもじもじと答える。
そう、地獄の悪人の魂である駆け魂は人間の心の隙間に入り込む。その駆け魂を取り除くには、心の隙間を埋める必要があり、それは恋心という心によって補完されるという事なのだ。そして、それは桂馬に女の子を口説き落として、キスをしろと言っているのだ。
「馬鹿野郎ーーー!!お前は大きな勘違いをしてる!!ゲームの世界の女子は1万人以上落としてきたが!僕はリアル女に口づけどころか、手も握った事がない!!………僕の世界にはゲーム女子しか必要ない」
桂馬はエルシィに一通り怒鳴り散らしてから、冷静さを取り戻し、眼鏡を光らせながら決め台詞のような感じでこんな事を言った。
桂木桂馬16歳。生まれてこのかた彼女や女友達どころか男の友達すらいなかった。
当然リアル女子との接触などあろうはずがない。
エルシィは持っていた箒を愕然とした表情で取り落とす。
エルシィはその桂馬の言葉で理解したのだ……勘違いだと。
「ふぇ?……ふ、ふぇー――ん。酷いです神様!!神様はお遊戯の神様だったなんて!!」
エルシィはようやく桂馬が落とし神は落とし神でも、リアルの女性ではなく、ゲーム内女子の落とし神だと理解したのだ。
「とにかく勘違いだってわかったんだから、この首輪を外せよ」
桂馬は携帯端末を取り出し、ゲームをやり出していた。
「ふぇーーん。クスン。すみません。できません」
エルシィは泣きながら頭を下げる。
「なんだと!?」
「クスン。せめて私も一緒に死にますので…クスン…契約は対等バディが死んだら悪魔も死にますから」
涙をぬぐいながら、桂馬に説明をする。
要するにだ。一度契約を結ぶと、契約履行するまではこの首輪は外れないという事だ。
そして、契約が失敗、または破棄すると、契約した人間と悪魔共に首が飛ぶという。
かなりブラックな契約内容だった。
「………そんな設定クソゲーもいいところだ!!」
桂馬は絶望の底に落ちる思いだった。