魔法科高校ヒロインを救うのはお兄様でも魔法でも無くギャルゲーマーだった件 作:ローファイト
ようやく書けました。
北山雫攻略3日目。
桂馬は学内の個室学習ブースでヘッドマウントディスプレイを装着し複数のゲームを同時攻略しつつ、エルシィの補修が終わるのを待っていた。
「個室学習ブース、快適ではないか。冷暖房完備。外部の喧騒も遮断。コンセントも多数ある。充電も可能だ。誰にも邪魔をされる事も無くゲームに集中できる。なぜもっと前から気が付かなかった」
桂馬はこんな事を独り言ちる。
そんな桂馬だが、正午過ぎにはエルシィとの待ち合わせ場所としている公園のように緑地化された校舎屋上にあるとあるベンチで、黙々とゲームを攻略しながら待つ。
「にーさま~、お待たせしました」
暫くし、補習を終わらせたエルシィは桂馬の元に、笑顔で駆けつける。
「北山雫の尾行を始めるか、羽衣で僕も透明に……」
そんなエルシィに目もくれずに、携帯ゲームをやりながら立ち上がる。
「え~神にーさま、先にお昼ご飯にしましょうよ~」
「済ませた」
「え~、神にーさま。朝お出かけ前にお弁当作ったって言ったのに~」
確かにエルシィは学校に出かける前に、弁当を作った事を桂馬に話していた。
だが肝心の桂馬は耳には入ってはいたが、返事もせずにあえてスルーしていた。
「ふん、どうせとんでもない弁当に決まっている。グロテスク、激マズ、それとも腹を壊す系の弁当か?」
桂馬が弁当の話題をあえてスルーした理由はこういう事だ。
エルシィの今迄の行動を見るに、真面に料理など出来るはずが無いと結論づけていたのだ。
エルシィの数々のドジ踏んだ所業には、そう思われても致し方が無いだろう。
「酷いです~。料理と掃除だけは得意なんです!にーさまも、絶対美味しいって言ってくれます〜っ!」
「お前のような迷惑系なんちゃって妹が真面な弁当を作って来るとは思えん」
「そんな事はないです~、一口でも食べてください~っ!絶対美味しいですから~」
エルシィは桂馬の罵詈雑言にもめげずに涙目で訴えかける。
「……ふん、一口だけだぞ」
桂馬はエルシィの必死な訴えに折れる。
普段から掃除意外の事には自信が無さげなエルシィが、これだけ必死に得意だというのだから、もしかしたら真面に料理が出来るのかもしれないと5%程頭に過ったのだ。
それに、桂馬は昼ごはんと食べたとは言っていたが、それはゲームの中での話であって、実際には昼食をリアルでとってはいなかったため、多少空腹を覚えていたのは確かであった。
「神にーさま~」
エルシィはその桂馬の返事に笑顔が戻る。
屋上に設置してあるテーブルブースで、風呂敷からだした弁当箱を笑顔で正面の桂馬の前に置く。
エルシィが置いた弁当箱は何時も使用している桂馬用のどこにでもある極一般的な弁当箱なのだが…、桂馬はその弁当箱から何故だか異様なオーラの様な物を感じ取る。
いや、明らかに弁当らしからぬ音が弁当箱の中から聞こえてくるのだ。
『カサカサ』と……。
「エルシィ……聞いていいか?僕の弁当箱からカサカサと何やら音がするのだが……」
「私のお弁当はお母様に作って頂いたサンドイッチで、にーさまのお弁当は私が腕によりをかけて料理した新鮮で生きのいいお弁当だからです」
笑顔のエルシィはこんな事を言う。
その言動には明らかに不穏な言葉が混じっている。
普通、弁当に新鮮とか生きのいいなんて言葉を使わないだろう。
「……エルシィ、弁当を交換しろ」
目の前のカサカサと中で何かが蠢く弁当箱とエルシィの言動から、既に顔色が悪い桂馬はエルシィに弁当の交換を要求する。
「何でですか~?新鮮でおいしいですよ?鮮度が落ちない内に食べてください~」
「エルシィ、一つ言っておく、カサカサ音をたてる弁当なんてものはリアルでもゲームの中でも存在しない。よってこれは弁当ではない」
「地獄では普通にありますよ。ほらー、にーさま。早くお弁当を開けてください」
この時のエルシィの笑顔が桂馬には悪魔の微笑みに見えたとか。
桂馬は何故だかその笑顔に逆らえずに、唾をゴクリと飲み込みながら目の前のカサカサと音をたてる弁当に手を伸ばし開けようとするが……。
「な、なななななななんだーーーー!?」
桂馬は珍しく驚き慌てふためく。
目の前の弁当箱の蓋の隙間から、クモかカニの様な足が左右に10本程飛び出し、更にその小さな目のようなものが8個、こちらを見てきたのだ。
そして、隙間から覗き出る目が桂馬と目が合うと蠢く弁当箱はカサカサと音をたて、逃げ出したのだ。
「にーさま!新鮮だって言ったじゃないですか、早く食べないから。まて~~」
エルシィは桂馬に不満そうにそう言って、逃げ出した蠢く弁当箱を箒片手に追いかける。
「そ、そんな物食えるかーーーー!」
流石の桂馬もこのエルシィの弁当は予想外だったようだ。
不味いとか見た目がグロテスクとかは予想していたのだが、流石に足が生えて逃げ出す弁当には面喰う。
地獄の弁当、いやエルシィの弁当は桂馬の斜め上を逝っていたのだった。
余りの状況に心臓の音が早鐘のように鳴りやまない桂馬は、携帯ゲームを取り出し、心落ち着かせるためにゲームをやり始める。
「お、落ち着け…、り、リアルに飲み込まれるな」
一時間後……。
「エルシィ、本当にこれで外部から誰にも見えないのか?」
「はい、大丈夫です」
「足音や声はどうだ?」
「普通にお話するぐらいだったら全然大丈夫ですよ。よっぽど大きな音とか声じゃないと隣に居てもわかりませんよ」
「防音性能も高レベルで備えているという事か、今の現代魔法では再現不可能だ。やるではないか地獄の羽衣」
「にーさまは意地悪です。私を全然褒めてくれないです」
桂馬とエルシィは袋状に整形し透明化した地獄の羽衣の中に入り込み、九校戦の競技練習をしている北山雫の元へ向かっていた。
桂馬は素直に高性能な地獄の羽衣に感心するが、自分に対して誉めてほしいエルシィは少々拗ねていた。
先ほどの弁当も結局桂馬に食べて貰えずじまいであったのも拗ねる一因だろう。
桂馬とエルシィは地獄の羽衣の透明化のお陰で、厳重な警備網を難なくすり抜け、九校戦の種目の一つであるスピード・シューティングの練習場潜入に成功する。
スピード・シューティングという競技は、平たく説明するとクレー射撃の魔法版である。
5分間に上空に100枚射出されたクレーを魔法で破壊した数を競う競技である。
準決勝以降は対戦方式で、紅白100枚のクレーが射出され、自分の色のクレーを破壊しスコアを競う。
対戦方式とあって、相手のクレーを壊しスコアを稼がせないという方法もあるが、自分のスコアとはならないため、自分の決められた色を正確に破壊することがセオリーである。
またこの競技、大規模魔法は全くと言って向いていない。
3秒に一度射出されるクレーは相手のクレーも含め射出空間に4枚程度であり、大規模魔法を放つ溜めやスタミナ等を考えると、一枚一枚確実に素早く撃ち抜く魔法を行使する方が圧倒的に効率がいいのだ。
どれだけ正確に素早く魔法を発動させるかが競技の肝である。
透明化した桂馬達が会場に入ると、北山雫は丁度スピード・シューティングの練習に入る所だった。
競技用ゴーゴルに第一高校の緑のジャージ姿の雫は、ライフル型のCADを構え、射出されるクレーを、魔法を発動させ狙い撃って行く。
暫くその様子を透明化した桂馬とエルシィは伺う。
「わ~、凄いですね」
エルシーは雫が次々にクレーを落としていく様に感嘆の声を上げる。
「確かにスピードは申し分ない。だが、命中精度は大したことはない、細かな魔法コントロールが苦手なのかもしれない」
桂馬も雫の練習風景を注視しながらエルシィに言葉を返しこう評する。
「ちゃんと当ててますよ?ほら、飛んできた的を殆ど落としてますし、隣の人より落とした数は多いですよ」
エルシィが言うように、落とした数は100枚射出されたクレーのうち、96枚を落とし、隣の二年生の選手よりも4枚多いスコアだ。
「確かに当たっている。それは北山雫が放った魔法が広範囲だからだ。隣で練習している奴の魔法とは異なっている」
「??」
エルシィは桂馬の説明が理解出来ずに疑問顔を浮かべていた。
エルシィでなくとも、桂馬のこの説明だけだと理解は難しいだろう。
「通常のクレー射撃は単発銃で一発づつの弾丸でクレーを撃ち落としていくゲームだが、北山雫は複数の弾丸を込めたショットガンを使いクレー射撃を行っているようなものだ。
一見、広範囲に弾丸をまき散らすショットガンの方が優位に見えるが、使用する火薬量や弾丸の消費も激しい上に撃った反動も大きい、効率も悪い上に狙撃手の負担も大きい。
それを魔法に置き換えても同じ事だ。
北山雫はその有り余るサイオン量と振動系の系統魔法や高出力魔法を得意としている事からこそ実現可能な方法だ。だから狙いが甘くともクレーの破壊に至っている」
桂馬の説明は実に的を得ていた。
雫はその身に内包している強大なサイオン量を利用した大規模魔法や出力の高い魔法を得意としていた半面、細かなコントロールを苦手としていたのだ。
桂馬は僅かな時間で雫が発動させていた魔法を、計測機器等を使用せずに見ただけで見抜いたのだ。
桂馬の分析力は並外れている事がこの事からもわかるが、こんな能力も全てギャルゲーに捧げているのだ。いや、ギャルゲーを最速で攻略するために取得した能力なのかもしれない。
何れにしろ、宝の持ち腐れもいい所だ。
「よくわからないですが、それはそれで凄い事なんじゃないですか?」
「そうだな。元々のポテンシャルは非常に高い上に、スピードシューティングという競技内容を熟知し、自分の魔法特性の得手不得手を知った上でのこの手法だ……」
珍しく桂馬は素直にエルシィの賛辞に同意するが、鋭い目つきで雫の様子を伺っていた。
「あれ?雫さんもう練習やめちゃうみたいですよ。他の人達はまだやってるのに」
雫は3セットを行ったところで練習をやめ、会場を引き上げようと荷物をまとめ出していた。時間にして20分も無い練習量だ。
「やはりな。この魔法の弱点だ……いや、この競技を行う事に限っては弱点とまで呼べないか……。北山雫が行ったショットガンの様な振動魔法は、他の選手が使用する魔法に比べてサイオン消費が激しく演算処理の負荷も高い。いくらサイオン保有量が高いと言えども、この魔法を長時間使い続ける事は出来ない。今の北山雫は要するにスタミナ切れだ。ただ、スピード・シューティング新人戦試合本番は順当に勝ち進んでも予選も含め5試合だ。しかも二日かけて行う、仮に3セットしか持たないスタミナでも十分試合を勝ち進める事が出来る」
これも凡そ桂馬の予想通りだった。
但し雫のスタミナは6セット、要するに6試合分あった。もし試合を一日で終わらせても十分勝ち残れるスタミナはあるのだ。
エルシィが昨日の単独で様子を伺った際、やはり直ぐに練習をやめて帰ったのだが、その際は倍の6セット程練習を行っていたのだ。
雫が今日3セットで切り上げる理由があった。
「あれ?にーさま。雫さんが他の練習場に行っちゃいますよ?」
「先日北山雫の資料を渡しただろ?まあいい。北山雫が九校戦で出場する競技はスピード・シューティングだけじゃない。アイス・ピラーズ・ブレイクにも出場する。そっちの練習の為に体力温存と言ったところか……」
雫は次の競技の練習を行うためにスタミナを残していたのだ。
先日はエルシィが尾行した際は、雫はスピード・シューティングの練習のみしか行わなかったため、その分練習を長めに行ったのだろう。
「そのすみません。にーさまから頂いた資料を見てたら眠くなっちゃて……」
「…………」
エルシィの予想通りの言葉に、エルシィに期待するだけ無駄だろうと思う桂馬。
アイス・ピラーズ・ブレイクの会場に透明化の羽衣で桂馬とエルシィは忍び込む。
「あれ?雫さん練習しないで帰っちゃいましたよ」
しかし何故だか、雫は先に始めていた選手の練習風景を見ただけで、帰ってしまったのだ。
桂馬はそんな雫の様子を見て思案をする。
「……まさかな」
雫編の内容もようやくまとまりました。