魔法科高校ヒロインを救うのはお兄様でも魔法でも無くギャルゲーマーだった件 作:ローファイト
エルシィと桂馬は、学校の武道場がある第二体育館の2階ベンチに座り、ため息を吐いていた。
昼休みなどとっくに過ぎ去り現在放課後だ。
「は~、近くに駆け魂が居るのに何もできないなんて……神様?何をやってるんですか?」
エルシィはベンチを立ち、眼下の1階武道場で練習指導を行ってる千葉エリカを横目にベンチ周りを箒で掃いていた。
「首が飛ぶ前にやっておくゲームのリストを作ってるんだ」
桂馬は不機嫌そうに答える。
どうやら、リアル女子千葉エリカの攻略を諦めた様だ。
「あ、そうだ!神様はゲームの落とし神様なんですよね。現実の女子も、ゲームのヒロインみたいに落とせないんですか?」
エルシィは笑顔で不機嫌そうな桂馬に聞く。
「リアルとゲームを一緒にするなーーー!!」
「ええっ、でもでも~女の子を落とすのは一緒じゃないんですか?」
「リアルとゲームでは精度が違う」
桂馬は落ち着いた口調でこんな事を言う。
「精度?」
「そこのリアルの剣道女子を見ろ!」
「はい」
「剣道女子!要するにだヒロイン属性で言うところの剣術小町だ!ギャルゲーの中でも古くから存在するメジャー属性の一つだ。剣術小町だけで完結するギャルゲーが存在するぐらいだ!基本属性の一つと言っていいだろう!……なのにだ!ここの剣道女子を見ろ!髪を括っていない!……剣術小町系の正ヒロインとは95%の確率でポニーテールに髪を括るもんなんだよ!!これだからリアル女子共は何も分かってない!!」
桂馬の言い分はとんでもないものだった。偏見の塊だと言っていい。
リアル女子の攻略をしたくないという口実なのだろうが……
「えーーー!?でも神様、赤い髪の子の隣の先輩っぽい人は髪を括ってますよ!赤い髪の子もほら、小さく括ってます!もっと髪を伸ばせばきっとポニーテールが似合います~」
「ふん」
桂馬はエリカを一瞥してから、その日は家路についた。
翌日の昼休みの屋上。
「神様、何をやってるんですか?早くあの子を攻略しないと」
エルシィは、ベンチに座り携帯端末の画面を注視する桂馬に、箒で辺りを掃除しながら聞く。
「この素人悪魔め。まずは相手の事を知らなければ、攻略も何もできん」
桂馬はタブレット端末を操作しながら答える。
「神様!!それじゃやる気になってくれたんですか!!」
「ふん。どう考えてもやらなければならないゲームが多すぎる。まだ死ぬわけにはいかないからな、仕方なくだ」
「ありがとうございます。神様!……それで神様は何をさっきからやってるんですか?」
「ヒロインを最短ルートで攻略するには、ターゲットとなるヒロインの情報収集が不可欠。趣味嗜好から、家族構成に友人関係、苦手科目から得意科目、さらには下校ルートから、休憩時間の過ごし方まで徹底的に調べる必要がある!」
桂馬は眼鏡を光らせながら力説する。
「それってストーカーではないんですか?」
「ばかもーーーん!!ギャルゲー攻略とは相手の情報をどれだけ得られるかで、攻略の道筋を作って行くものなのだ!女の子の情報とはすなわち、ギャルゲーマーにとっての武器だ!お前は武器無しで戦争するつもりか!!」
桂馬はエルシィに対し、拳を作りさらに力説する。
「そうなんですか?それであの赤髪の子の情報をどうやって?後をつけたりするんですか?」
いまいち理解していないエルシィは桂馬に聞き返す。
「ギャルゲーの基本は会話だ。相手と会話し言葉の端々から情報を得るのだ……しかし、情報社会が発達したリアルではある程度それをショートカットできる」
「ほえ?」
「まあいい。ターゲットは千葉エリカ。16歳。国立魔法大学付属第一高校1年E組二科生。身長162cm体重52㎏。魔法師族百家本流の千葉家現当主の次女だが、妾の子だ。父は千葉丈一郎、剣術千刃流道場の当主。千葉エリカ自身、千刃流剣術印可の剣術の使い手、剣技と魔法の一体とする戦闘スタイル。実の母アンナ・ローゼン・鹿取はドイツ人とのハーフ、継母と共に既に故人。長兄は千葉寿和、独身、警視庁の警部で次期当主。次兄、千葉修次。イリュージョン・ブレードの異名を持つ、世界屈指の魔法師。現在大学生で、道場の門下生で当校風紀委員長の渡辺摩利と恋人の仲だ。長女は千葉早苗、独身。剣術の腕は大した事が無いらしい、さらに早苗はエリカを毛嫌いしていると……妾の子である千葉エリカが千葉性を名乗れたのは、継母が亡くなってからの、つい最近だ」
「神様!凄いです!いつの間にそんな情報を集めて来たんですか!」
「なんだこの設定は?ヒロインにこんな重いバックボーンなんて求めてない!クソゲーでもなかなか見かけないぞ!こんな重い女子を誰が好き好んで攻略せにゃならん!!ゲーム会社にクレームもんだ!これだからリアルは!!」
「あんなに明るい感じなのに苦労してるんですね。というか神様と同じクラスの女の子だったんですよね?なんで知らなかったんですか?」
「リアル女子など興味がない」
桂馬は眼鏡に手を掛け、自信満々に答える
「神様、普通にしていたら女の子から声を掛けてもらえそうなのに」
エルシィはボソっとそんな事を言う。桂馬は顔が整っている。眼鏡を外し、鋭い目つきをやめれば美少女に間違えられてもおかしくない顔立ちだ。
「続きだ……千葉エリカは学校では明るくムードメーカー的存在。男子にモテる。二科生だけあって魔法力は少々弱い。しかしそれを十分補えるぐらいの剣術の技量でカバーしてる。実際の戦闘力はかなり高い。妾の子という事で、不遇な少女時代を過ごし、父親に認められたい一心に剣術に磨きをかけてきたようだ。……交友関係は、特に親しいのは同じクラスの柴田美月、西城レオンハルト、司波達也……吉田幹比古は幼馴染か、後は司波達也つながりで1年A組の達也の妹、司波深雪、その友人の北山雫、光井ほのか。なかなか豪華な面子だ。一応テニス部に所属してるが、幽霊部員。剣道部にたまに顔をだして指導してるらしい。ほぼ帰宅部と同じ。
噂サイトや学内のチャット、この辺の個人チャット履歴からは、どうやら渡辺摩利を毛嫌いしている事がわかってる。兄の恋人相手を嫌う……なるほどブラコンだな。この情報だけだと、ブラコン指数7と見た。これは使えるレベルだ。……明るくムードメーカーでブラコンで赤髪ショートカットに戦闘力が高い剣術小町か……73%の確率ツンデレ属性を持っている。リアルの癖にやるではないか」
「なんでそんなことまで……神様本当にストーカーじゃないんですよね?」
「誰がリアル女子に付きまとうか!!そんな暇があれば、ゲームヒロインを攻略した方が何億倍もマシだ!!」
「だって、こんな詳しい情報どうやって調べたんですか?神様、お友達居なさそうだし……」
「リアルでは情報は電子化され、そこら中に蔓延っている。それを拝借したまでだ」
これらの情報を昨晩自宅の自室でネットを使って調べ上げたのだ。
桂馬自身自覚は無いが、天才的なハッカーでもあった。
世界最強と言ってもいいだろう。
あの『電子の魔女』藤林響子の強固なブロックも軽く突破できるぐらいの腕前なのだ。
桂馬の自室には固定ディスプレイ12枚、立体映写機4台、据え置きゲーム機8台、パソコン8台。携帯端末型ゲーム機4台が、まるでドラムセットのように置かれ、両手両足を使って同時に操る事が出来るのだ。
これもすべて、ゲーム攻略のためだけのために。
その天才的能力をフルに使った桂馬は自らを神モードと呼び、その状態の桂馬に突破できないセキュリティなど存在しないのだ。
「ほぇ~」
エルシィはイマイチわかっていない様だ。
「千葉エリカは情報通り、明るくムードメーカーでブラコンで赤髪ショートカットに戦闘力が高い剣術小町で、重い過去があり、さらにツンデレ属性だった場合。ゲームでは97%以上の確率で、剣術勝負を挑んで勝てば、即恋に落ちる……」
「凄いです神様!じゃあ、直ぐに実行しましょう!」
「僕には無理だ……よりによってこのルートだと」
「何でですか!?」
「リアル女子を攻略したことが無い!その上!千葉エリカと剣術で勝負し勝たないといけないんだぞ!!千葉エリカに剣術で勝てるはずがない!!魔法師は一種の戦闘兵器だ!しかも千葉エリカは噂通りかなり強いはず!先の第一高校襲撃事件じゃ、警棒一つで、銃を持った人間を何人も倒してるらしいんだぞ!もしツンデレ属性じゃなくて、ただ単に暴力系女子属性だったらどうする!首がもげる前に僕の命が危うい!!」
「でも神様も、その魔法の学校に通ってますよね」
「僕はリアルでケンカとかした事が一切ない!!魔法も使えない!!」
「ほぇ?」
「僕は魔法が使えないんだよ!!魔法適正はあるが、一般人とそう変わらない!!魔法実習はすべてサボった!!」
「神様は、なんで魔法の学校に入ったんですか?」
「自由な校風と実力がすべてと入学案内に書いてあった。テストさえ好成績ならば、授業中にもゲームが堂々と出来ると思って……。それは正解だった。成績さえ良ければ、小うるさくする教師もいない。ゲームしていても怒られない。ゲーマーにとって夢の高校生活」
因みに桂馬の入学試験成績は座学は満点で総合1位、実技は最下位だった。
「……神様、そもそもなんで学校に行こうと思ったんですか?」
「親が高校位出ておけとうるさいから、仕方なくだ」
「もったいないです神様、頭いいのに……私なんて勉強も運動も、魔術も苦手だから」
エルシィは地獄では超がつく落ちこぼれだった。300年間掃除係をやらされていた。
駆け魂隊の深刻な人手不足により、急遽配属されたのだった。
「ふん」