魔法科高校ヒロインを救うのはお兄様でも魔法でも無くギャルゲーマーだった件 作:ローファイト
雫ちゃん編ですね。
「北山雫、今回の攻略ターゲットか……」
桂馬は携帯端末の眠そうな目の少女の写真が添付されてるプロフィール画面をじっと見つめていた。
このプロフィール画面は桂馬が作成したものだ。
千葉エリカ攻略の際に必要性を感じていた。
ゲームでは、攻略に必要な情報はクリック一つで掲示され、いつでも見る事が出来る。
しかし、現実はそうはいかない。
ターゲットのプロフィール、それに関係する人間のプロフィールや相関図、マップや出現場所情報など、ゲーム攻略に必要不可欠な情報が、現実世界ではクリック一つで出すことができない。
現実を生きる人間にとっては当たり前の話なのだが、ゲームに生きる桂馬には不自由極まりない仕様なのだ。
そこで桂馬は「リアルめ、メニュー画面すら出せないとは、8ビット時代のゲーム以下だ」などと文句を言いながら、駆け魂攻略用のゲーム風画面のオリジナル情報ソフトを作成してしまったのだ。
「北山雫15歳身長158cm体重47㎏国立魔法大学付属第一高校1年A組一科生。SSボード・バイアスロン部所属。魔法実技成績は学年2位、魔法理論は10位。文武両道だ……。父親は北山財閥総裁北山潮。母は北山紅音、十師族に匹敵するといわれた生粋の武闘派魔法師。弟は小学生の北山航。北山雫本人の魔法適性は母親譲りの振動・加速系魔法を得意とする。
超金持ちの令嬢で、魔法師血統もサラブレットか、絵に描いたような生まれながらの勝ち組設定だ。チートもいい所だ。
交友関係は、幼馴染で同じクラスの光井ほのか、高校に入ってからは特に司波深雪と仲が良いようだ。その繋がりで司波達也、千葉エリカ、柴田美月や西城レオンハルトとも友人関係。
魔法実技成績通りの実力があり、九校戦新人戦2種目、アイス・ピラーズ・ブレイクとスピード・シューティングで代表に選ばれる。
顔立ちも悪くない、美少女の部類に入るレベルだ。噂情報網では、口数が少ない優等生タイプ。悪い噂などはほぼない……、
……金持ちでサラブレット、そして文武両道の実力を兼ね備えている。悪い噂が流れない事から、このパターンでありがちなプライドが高い高飛車タイプではない。むしろ逆な感じだ。
一歩も二歩も引いた大人しいお淑やかなお嬢様タイプの可能性が高い。が……これだけではまだ足りない」
「北山雫さんの事をもう調べたんですか?流石です~、神にーさま~」
「お前も情報を集めてこい!」
「え~~?ぱそこんとか携帯端末?いんたーねっと?そういうのは全然わかりません」
「そんな事をお前に期待していない。生の情報がほしい」
「ほえ?」
「直接北山雫の行動を監視しろ」
「え~?なんでですか?神にーさま?いんたーねっとで全部調べる事ができるんじゃないんですか?」
「確かに調べる事は出来る。プロフィールなどの簡単に入手できる情報は、特に公表しても不都合ではない情報だ。だから正確性が高い。だが、僕が欲しい情報は、性格や噂や周りの評価などだ。それらの情報はゲームとは違い、リアルでは個人の主観がどこかに入り正確性に欠ける。さらに噂レベルに至っては、先ずは疑ってかからなければならないレベルだ。それらの情報は事実とのズレを大なり小なり起こしている。そのズレを見極め修正するためにも本人を観察する必要性がある。ふん、これだからリアルは面倒だ!」
桂馬は千葉エリカ攻略の際、この事について、痛いほど理解していた。
ネット上で飛び交う情報だけでは、エリカの本当の性格や内なる思いを把握しきれなかったのだ。エリカとは直接接し、ようやく攻略の糸口が見えたのだ。
「神にーさま!何を言ってるのかわからないです~」
エルシィには桂馬の言動を何一つ理解できなかった。
確かに桂馬の言動はゲーム目線ではあるが、かなり前向きな視点を入れた現実的な意見だったのだが……
エルシィが地獄の学校で成績が底辺だったことも頷ける。
「何でもいい、生の情報が欲しい。直接北山雫を知らべて来い。」
「はい、わかりました!神にーさま、最初からそう言ってくれればいいのに~」
エルシィには単純な言葉を選んだ方が良い様だ。
「………」
桂馬はエルシィの理解力にもはや期待していないため、反論せず沈黙を保つ。
「でも、前のエリカさんの時はそんな事をしてませんでしたけど?今回は何でですか?」
「千葉エリカは同じクラスで、派手な行動する奴だ。しかも前回はラッキーにもあいつから接してくれた。だが、僕と北山雫とは接点は全くない。さらに北山雫は大人し目の無口系キャラだ。いきなり接してスタート地点を間違えると、修正が困難になり厄介なパターンに陥る」
「なるほど?です~、あそうだ!いい方法が有ります。ふふふふっ、神にーさま期待してくださいね」
エルシィは桂馬の言葉を半分も理解していない様子だったが、何やら思いつき、笑みを浮かべながら、桂馬から離れ、北山雫を尾行しに行く。
桂馬はそんなエルシィの後ろ姿にため息を吐き、自身は九校戦用の練習場観覧席に移動し、練習風景を見て、何らかの情報を得ようとしていたのだが……
「そこのお前、何をやっている。関係者以外立入り禁止だ。そう通達されていたはずだ」
背の高いショートカットの女性が桂馬に注意をする。
この学校の体操服を着ている事から当校の生徒だろうが、その堂々とした仕草から大人っぽく見える。
彼女はこの学校の3年生であり、泣く子も黙る風紀委員会の委員長渡辺摩利だった。
風紀委員とは、学生が自主的に学生の不正や荒事を取り締まる学校の自警団のような存在だ。
一番大きな取り締まり項目として、魔法の不正使用だ。
魔法科高校では、魔法実習や魔法系部活動以外での普段の学校生活において魔法の使用を禁止されている。
よって、魔法実習や魔法系部活動以外では魔法を起動させるCADの携行が許可されていないのだ。
魔法による余計ないざこざを避けるためのでもある。
但し、CADの携行が常時許可されてる生徒がいる。生徒会執行役員と風紀委員会だ。
それ以外の生徒は許可申請が必要あり、正当な理由が無い限り傾向は許してもらえない。
それでも、魔法による荒事は絶えないのは、魔法科高校ならではと言っていいだろう。
詳しくはここでは語らないが、魔法師の家系はエリート意識が強い人間が多いのだ。
「……そうなんですか、じゃあ僕はこれで」
桂馬はそう言って、この場を立ち去ろうとする。
桂馬も流石に風紀委員に睨まれるのは良しとはしない。
もし危険人物のレッテル等張られようならば、間違いなく指導が入るだろう。
下手をすると、学校で好き勝手ゲームをやって来た事も問題視され、自由にできなくなる。それは桂馬にとって死活問題となるからだ。
「1年E組桂木桂馬、当校の生徒と確認した。九校戦も近い、スパイ活動と勘違いされるような行動は慎め。以上だ」
渡辺摩利は携帯端末で桂馬が第一高校の生徒だと確認し、居丈高ではあるが軽めの注意を促すだけで済ませる。
九校戦は全国にある魔法科高校が参加する魔法競技の体育大会のようなものだが、プライドの塊のような魔法科高校の生徒達は各校の威信をかけて参加する。
さらに、九校戦は実戦を模した競技も多数ある。この大会の成績優秀者は国防軍や警察組織の目に留まり、スカウトや、将来のエリートコースを約束される事もあるのだ。
そんなこともあり、過去には勝つために当然の如くスパイ活動等も行われてきたのである。
特に第一高校はここ数年優勝し続けているため、他校からの一番警戒される立場なのだ。
桂馬は、観覧席から出て行き、何時もの屋上へと足を運び、当然のようにゲームを行う。
暫くすると、エルシィが元気よく屋上に上がって来る。
「神にーさまっ!戻ってきました~」
「エルシィ、風紀委員に止められたか。僕もうかつだった。練習中は接触や尾行は無理だ」
「え?止められませんでしたよ?ちゃんと雫さんを見てきました!」
「ふん。冗談はよせ。ドジっ子、トラブルメーカー持ち属性のお前が、風紀委員の連中に見つからないはずが無い。どうせ大騒ぎしてこってり絞られたのだろう」
桂馬の反応は当然だろう。風紀委員による警備は厳しい。
さらに言うと、風紀委員の殆どが、九校戦の代表に選ばれる実力者なのだ。
そう簡単に、風紀委員の監視の目を逃れられるわけが無いのだ。
特にエルシィのように要領の悪そうな人物は……
「何の事ですか?神にーさま。雫さんは飛んでくる円盤を銃で撃つ練習した後に、調子悪いみたいで帰っちゃいました」
エルシィが言う円盤を銃で撃つ練習とは、きっとスピード・シューティングの事だろう。
と言う事は、エルシィは風紀委員に止められることなく、雫の尾行に成功し、雫の練習風景を見て来た事になる。
「風紀委員には見つからなかったのか?どんな手を使った!まさか、天然ドジっ子補正持ちか?どんなにドジを踏んでも必ず良い結果に転ぶというあのチート設定持ちか!?リアルの分際で卑怯だぞ!」
桂馬はエルシィが本当に雫の尾行に成功したことは間違いないと判断したが、どうやって、風紀委員の監視の目を掻い潜って成せたのか理解できなかった。
だが、ある結論に達し、訳が分からない事を言い、悔しそうに迫る。
「卑怯なことなんてしてませんよ。ほら神にーさまっ」
エルシィは纏っている羽衣の一部を袋状に膨らまし、それを頭から被る。
するとエルシィの姿が消えたのだ。
「な!?消えた?」
「はい、羽衣を被れば姿を消す事が出来るんです~」
エルシィは羽衣を取り、姿を現す。
「そんな便利な事が出来るなら、なぜもっと早く言わなかった!?」
桂馬はエルシィを睨みつける。
姿を消す魔法は確かにある。光を屈折させる光学迷彩の魔法だ。
だが、やはり動くと景色とのブレが起こり完全には姿を消せないのだ。
だが、エルシィはものの見事姿を消し去ったのだ。
「え~、言いましたよ。羽衣を変化させることが出来ますよ。だから透明にも変化出来るんです!」
エルシィは何故か胸を張って自慢そうにする。
確かにエルシィは羽衣を色々な物に変化出来るとは言ったが、こんな芸当が出来るなんてことは一言も言っていない上に、誰も予想できないだろう。
「……まあいい。地獄の羽衣の性能はすさまじいな」
「にーさま!私を褒めてくださいーぃ!」
エルシィは羽衣を褒めて、自分を褒めてくれない桂馬に不満の声を上げる。
「その透明化は1人までか?」
桂馬はエルシィのそんな主張を無視して話を進める。
「えーっと、羽衣の大きさですと、一緒にだったら2人まで出来ます」
「リアルの癖にやるではないか、これで随分と攻略の幅が広がる」
「どうですか。神にーさま。私も役に立つんですから!」
「ふむ。さっきお前が言っていた北山雫が調子が悪そうだというのはどういう事だ?」
桂馬はエルシィの報告に気になる点があり、その事を聞いた。
「え?うーん。表情が余り変わらないからわからないです。お友達の子、えーっと、ほのかさんという子にそう言って先に帰りました」
「何かありそうだが……事前情報を集めるにも限界があるな。夏休みで、北山雫は学校に九校戦の練習に来る時のみ……九校戦本番前には決着をつけたい……明日の様子見次第で大胆に行った方が良いか……」
桂馬は北山雫の攻略の方向性に考えを巡らせていた。
通常の学校生活の方が、何かと北山雫の生の情報を手に入れやすいが、雫と接点の無い桂馬にとって、夏休みという特殊な環境下では困難だった。
但し、雫は九校戦の練習で、夏休みでも学校に通ってくるため、まだましではあった。
「神にーさま!明日は私がお昼のお弁当を作りますね!絶対美味しいですから!」
「お前もちょっとは考えろ!」
駆け魂攻略の事等すっかり忘れているかのような呑気なエルシィに、声をつい荒げるのは仕方がない事だろう。