不敗の魔術師、連合艦隊特務参謀になる   作:ジョニー一等陸佐

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今回は短めです。


第10話 男子禁制

 女子、女子、女子。

 甲板を二千人以上の女子の群れが埋め尽くしていた。

 無数に並ぶ白い制服と黒髪が鮮烈なコントラストを描いている。

 この日、大和の全甲板には当直を除く戦艦大和のほぼ総員が集まっていた。

 「――というわけでえ、既にご存知の方もいると思いますけど、新しく皆さんの仲間になった未来・・・じゃない、ヤン・ウェンリーさんに源葉洋平さんです!分からない事が色々あると思いますから、優しく教えてあげてくださいねえ」

 ヤンと洋平を隣に立たせた朝礼台。いつも通りの緊張感の無い呑気そうな様子で締めくくった渡辺寿子。対して洋平は緊張でこわばった様子で、寿子のスピーチの内容も右の耳から左の耳へと流れほとんど頭に入らず、ヤンもまいったな、といった様子でおさまりの悪い黒髪をかいていた。

 二人がそのような様子になるのも無理はない。

 何しろ目の前には無数のうら若い少女達が並んでいる。数千もの女性の視線がヤンと洋平に一点になって集中している。視線というものは言いようのない力を持っているものだが、ここまでくると何かしらの物理的圧力が発生しているのではと錯覚しそうだ。視線が痛い、という表現は決して比喩ではないようだ。その上、浴びせられる視線に友好的なものがほとんど含まれていないのでなおさら圧力を感じる。

 「当たり前だけど・・・この場で性別男なの僕とヤンさんだけだよね・・・なんか、女子高に無断侵入して捕まった不審者みたいな肩身の狭さだよ・・・」

 「我慢ですよお、未来人さん!これは未来人さんが海軍乙女の一員として受け入れられるための第一歩なんですから!」

 「いやいや、乙女として受け入れられることはないだろう」

 ヤンは頭をかきながらやれやれと嘆息した。

 一応、この世界で葦原海軍軍人として生きることを決めたヤンだったが、いきなりこうも大勢の女子の面前に引き出されるとは。一応人前に出るのはそれなりに慣れているつもりだが・・・まぁ、幸い五十子が給料は出るといっていた。これも給料の内と考えることにしよう。

 「どういうことですか、渡辺中佐っ!」

 ふいに、寿子の名を呼ぶ聞き覚えのある声が響いた。

 最前列を押しのけて現れたのは、岩田雫軍楽長であった。前髪を一直線に切りそろえたまじめな委員長といった印象の軍楽長は部下の軍楽隊全員を引き連れている。朝礼前から練習していたのか全員フル装備、前衛にクラリネットをはじめとする木管部隊、後衛にトランペットをはじめとする金管楽器部隊が並び、みな等しくヤンと洋平を睨み付けている。

 「やっぱり男だったんじゃないですか! 特務で男装というのは嘘だったんですね!」

 初対面の時、彼女は寿子に、ヤンと洋平が男装であると騙されていたのだ。

 う、嘘じゃないですよお。『特務で男装』じゃなくて、『特務参謀』です。男装は参謀と発音が似てますし、多分聞き間違えじゃあないですかあ?」

 寿子の苦しい言い訳は、岩田をはじめとする軍楽隊員の不信不満に引火、誘爆させるのに十分であった。

 「納得できません! 男子禁制の伝統はどうなるんですか!」

 「そうよ、男は陸軍でしょ? 私達海軍の敵じゃん!」

 「それにヤン・ウェンリーなんて、明らかに葦原人じゃないですよね?なんで見ず知らずの外国人を海軍軍人にするんですか!?」

 「渡辺中佐、見損ないました! 中佐はこっちサイドだって信じてたのに、まさか裏切る気ですか! 男を艦に乗せるだなんて破廉恥です!」

 最後の発言は岩田自身のものである。こっちサイドという言葉にヤンと洋平は首を傾げた。

 「・・・軍楽長、私を疑う今の発言は聞き捨てならないですねえ。防空指揮所へ行きましょう」

 いったいどういうわけか怒りの感情を露わにした寿子が何かしらの棒を取り出した。その物騒な雰囲気に洋平は見覚えがあったらしい。彼の顔が引きつる。あれはもしや旧海軍の黒歴史である・・・

 「精神注入棒じゃないか! せっかくこの世界の海軍は体罰が無くていいなって感心してたのに!」

 ヤンも体罰という言葉と雰囲気で察し、寿子を止めようとする。

 「寿子、寿子いけないよそれは。体罰で部下を統制しようだなんて。そんなことが必要なことだ美徳であるだなんていうなら、軍隊とはまさに人類社会の恥部であって・・・」

 寿子が不思議そうに首を傾げた。

 「ちょっと未来人さん、やめて下さい女の子が大勢いる前で注入棒だなんて。殿方のとは違うんですから何も注入できませんよお。それにこれは体罰じゃありません、れっきとした教育です」

 「えっ、なんで僕がおかしなこと言ったみたいな流れになってるの? ていうかその棒何に使うつもりなの?」

 「さあ覚悟はいいですか軍楽長! 乙女と乙女の愛の理想郷、乙女共栄圏の建設こそが私の不動の信念であるということを、その身体にじっくり実技で」

 

 「渡辺の戯言はさておきだな」

 

 危ないスイッチが入っていた寿子を、束が黙らせた。

 好き勝手に野次を飛ばす少女の群れを睨みながら、

 「これもう、規律が乱れてるってレベルじゃねえぞ。仮にも連合艦隊旗艦なんだ。引き締めないか、艦長」

 朝礼台の隅でおとなしそうに立っている、猫背に牛乳瓶のような分厚いメガネを掛けた自信なさげな少女がびくりと震えて首を横に降った。

 「そんな、無理です参謀長。私、動機のなかで砲術の成績が一番だったからと言う理由だけで大和の艦長にさせられたんです。大勢の前でしゃべるのは・・・その、ちょっと苦手で・・・」

 「情けねえな、それでも鉄砲屋か!」

 ちなみにヤンはともかく人前におけるメンタルでは、洋平も高柳艦長をとやかく言えるレベルではない。

 「反対です! 男子ダメ絶対!」

 「ケダモノー! 乙女の神聖なくろがねの城から出て行けー!」

 「どうしても乗艦したいなら、モロッコへ行って武装解除してきなさいよ!」

 「おっとりしたお兄さんに、可愛いショタ・・・次の同人誌の題材が決まったわ、グフフ・・・」

 もう無茶苦茶だ。何やら不穏なことを口にするものまで現れている。

 どうやって収集すればいいのだろうか・・・

 ヤンはベレー帽を手でもてあそびながら考え込んだ。

 要するに彼女達は、うら若い少女しかいない実質的に男子禁制であるこの海軍に男性であるヤンと洋平が加わるのが気に入らないのだ。その上、彼女達からしてみれば洋平はともかくヤンはその名前からして明らかに外国人である。

 その点をどうやって彼女達に納得させるべきか。

 男性でも十分海軍軍人としての任務を務め得ること、外国人でも十分信用できること・・・要するに彼女達に信用を勝ち取ることだ。ではどうすれば彼女達からの信頼を勝ち取れるようになるのだろうか。

 ヤンは周囲を見渡した。

 束や寿子をはじめとする居並ぶ幕僚達、整列する軍楽隊に水兵、その一方で甲板の向こうでは自分達には無関係、興味無いとでもいうようにのんびりしている水兵もいる。読書をする者に日向ぼっこをする者、そして釣りをする者・・・釣りか。

 「釣りをしようか」

 ヤンはベレー帽を被り直しそう口を開いた。

 「・・・え?」

 唐突に出た言葉に周囲の人間が首をかしげる。

 ヤンは再度、全く変わらぬ口調で言った。

 「釣りで決めようか。私たちの処遇を釣りで決めよう」

 「いや、ヤンさんいきなり何を言い出して・・・」

 「いいね!皆、釣りだよ、釣りをしよう!」

 府とヤンの突然の提案に賛同する元気のよい声が響き渡った。声のしたほうを見れば、そこには釣り道具一式にバケツを携えた五十子が立っていた。

 「あの、長官実は・・・」

 寿子が歩いてきて五十子に状況を説明した。

 「分かった!大丈夫、ヤンさんの言う通り釣りで決めよう」

 何が大丈夫なのだろうか。洋平も周囲の海軍乙女たちもヤンと五十子の意図が読み取れず困惑している。

 「いや、何でいきなり釣りなんだよ」

 束が割って入った。

 「あたしたちは軍人だ。戦時下で遊ぶのはいけないだろ。少数の兵が釣りをするのは大目に見てもいいが、トップが率先してやるのは」

 「いや、私が言っているのは釣りで遊ぼうということじゃなく、次いで私たちの処遇を決めようということさ。どうだろう、五十子」

 五十子は頷いた。ヤンの意図を察したようである。

 「うん、そうしよう。それに束ちゃん、そもそも釣りははただの遊びじゃないよ。釣りは命を懸けた戦いです。いわば、軍事演習。魚を敵艦隊を見れば、釣りとはすなわち敵艦隊をいかに索敵迎撃するかの軍事演習!立派な演習だよ!」

 何やら話がどんどん進んでしまっているが、束は軍事演習といわれ何も言えなかった。

 五十子はヤンと洋平に反発する軍楽隊に向き直る。

 「二チームに分かれて釣果を競うの。ヤンさんと洋平君のいるチームが青、いないチームが赤。賭けるのは~もし青チームが勝ったら二人を仲間として認めること。でももし負けたら・・・」

 その代わり、といたずらっぽそうな顔で五十子がほほ笑んだ。

 「その時は、二人を大和から降ろそう!」

 少女達が呆気にとられた。「そんな、男に釣りなんてできるはずが」とどこかで聞いたようなフレーズが飛び交う。

 洋平は慌ててヤンと五十子に言った。

 「ちょっと待ってよ!五十子さん!参謀にしてくれるっていう話は!ヤンさんもそれでいいの?」

 「大丈夫さ」

 「大丈夫じゃないよ!僕全然釣りなんてできないよ!」

 「私もできないよ」

 「え」

 唖然とする洋平にヤンは微笑んだ。だがその笑顔の裏には何かあるように見えた。

 「大丈夫。ただの釣り勝負をするわけじゃないよ。そもそも、最初から負けるつもりで戦争をする人はないさ」

 その様子だと何か考えがあるようである。

 ヤンは五十子と軍楽隊に向き直った。

 「みんなも考えているように私達は釣りの初心者だ。このまま釣れた魚の数を競って勝負を行っては明らかにこちらが負けることは目に見えている。正直、このまま勝負するのは不公平だ。それは君たちとしてもあまり気持ちの良いものではないと思う」

 ヤンの言葉に軍学長は頷いた。

 「・・・確かに、本来勝負や賭けというものは公平な状況の下で行われるべきです。戦争ならともかく、普通の勝負で一方的に弱い相手を叩くのは・・・」

 「だから、勝負のルールを少し変えてもらいたいんだ。こちらにも勝ち目が十分あるようにするためにね。どうだろう五十子、雫」

 「確かにヤンさんの言うとおりだね。そうしよう」

 「分かりました長官もそういうのであれば・・・それでどういう風に?」

 「うん、それはね・・・」

 ヤンは口を開くとその提案を示した・・・

 




次回予告(CV:屋良有作)

ある変わったルールのもと行われることとなった釣り勝負。ヤンと洋平の出処進退を賭けた戦いに臨む二人は勝負の最中、黒島の過去や、岩田や宇垣の海軍にかける思いを知る。果たしてそれは二人にどのような思いを抱かせるのか、そして勝負の行方は・・・次回、「不敗の魔術師、連合艦隊特務参謀になる」第11話「釣り勝負」。銀河の歴史がまた1ページ・・・
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