不敗の魔術師、連合艦隊特務参謀になる   作:ジョニー一等陸佐

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第19話 出会い再び

 ヤンは暗い部屋にいた。

 ベットに腰掛けるヤンの耳に喧騒が響いてくる。外のデモ隊のシュプレヒコールだ。三週間前の空襲に対するデモ。

 差し入れの新聞もいまだ社説で海軍の責任を追及している。

 三週間前の本土初空襲。史実における「ドゥーリットル空襲」はやはりこの世界においても発生し、判明した司令官の名前から同じように呼称され、芦原全土に大きな波紋を与えた。

 空襲は横須賀のみならず帝都をはじめ六つの都市に及んだ。爆撃は軍事施設はおろか、住宅や病院、大学など明らかな民間施設にも及び、一部の爆撃機は中学校に対し機銃照射を浴びせ、児童が命を落とした。現在の当局の発表では死者四十五名、重傷者百五十三名、家屋全半焼が二百八十九個、全半壊が四十二戸。犠牲者の中には当然少なくない民間人が含まれている。実際の被害はさらに大きいだろう。

 芦原全土が衝撃と怒りと悲しみに包まれていた。

 

 「すっかりスケープゴートにされてしまいましたわ。本土の防空は陸軍の管轄ですのに」

 

 ヤンの目の前には海軍大臣兼軍令部総長の嶋野が椅子に腰かけマニキュアを塗っている。

 

 「ミッドウェー作戦も認めなければなりませんわね。当方に進出して太平洋上に哨戒線を敷くよう、政府・陸軍が強く言ってきていますし。あの渡辺とかいう子、中央の風向きが変わったのを利用して小賢しい」

 

 「そんなこと言って、内心嬉しいんじゃないですか?」

 

 嶋野の言葉にヤンは冷たく答える。

 外から響くデモ隊のシュプレヒコールは空襲に対する海軍の責任を追及するもの――さらに言えば連合艦隊司令長官である五十子に対するものであった。

 

 「山本出てこい!」

 

 「辞任しろ!」

 

 「腹を切って責任をとれ、山本!」

 

 外から響くデモ隊の喧騒とリズムは喧しいものだったが、繰り返される苗字は同じものだった。

 

 「あなたがそのように仕向けたのかどうかは分かりませんが、あの通り世間は五十子を責任者だと思い、非難している。おかげで海軍のトップであり責任者であるあなたは責任を押し付け、追及を逃れられるというわけです。まったく羨ましい限りだ」

 

 マニキュアを塗り終え、爪に息を吹きかける。

 

 「でも、けしかけたのは私じゃなくてよ?忌々しいですがこの国の国民は海軍のトップといえば大臣兼総長の私ではなく連合艦隊司令長官の山本五十子だと思い込んでいるんですもの、勝手にね。そうして普段は英雄だ軍神だと持ち上げておきながら、ことがあれば掌を返し袋叩きにする・・・まったく、節操がなくて馬鹿ばかりですわね」

 

 「その誤解をしている国民に説明し責任を果たすのがトップの役割であり責任でしょう。だがそのトップはこれ幸いと追及を逃れ呑気にマニキュアなんか塗っている。私はこんなトップを戴いている部下や国民に同情しますよ。もちろん、選んだ責任はあるでしょうがね。海軍大臣兼軍令部総長というのはどうやら楽そうな仕事のようです。今すぐ代わってほしいぐらいですよ」

 

 「・・・本当に口が減りませんわね、貴方は。忌々しい」

 

 ふん、と鼻を鳴らしヤンを睨む嶋野。

 

 「年上の、賢い殿方は嫌いではないけれど・・・あなたのように立場をわきまえず、口の減らないのはいただけませんわ。教育が必要ですわね」

 

 立ち上がり、怪しい視線を向ける嶋野にヤンはやれやれといったように首を振る。

 

 「そんなに気に入らないのなら私を辞めさせればいいでしょう?何なら私から辞表を出しますよ、喜んでね。こんなトップのもとで働かなきゃいけないなら辞めてやります、こんなところ」

 

 「でも、そういうわけにはいきませんわ。海軍にとってあの坊やも含め、男である貴方の存在はイレギュラー。自由に好き勝手にさせるわけにはいきませんし、組織としても、個人的にも興味があるのよ・・・少なくとも、言うことを聞くようにさせたいと思うぐらいには。・・・さっきも言ったように私は年下が好みなのだけれど、貴方のような年上の殿方も嫌いではなくってよ」

 

 嶋野はヤンの隣に座ると身を寄せてくる。吐く息が熱い。髪の毛先がヤンの顔を刺し、嶋野の白く優美な手がヤンの体に触れ、押し倒そうとする。

 

 「貴方、山本さんの愛人ですわよね」

 

 「違います」

 

 即答するヤン。と同時に左手を見せる。薬指の指輪がきらめく。

 

 「この通り、伴侶のいる身です。遠く別れ、わけのわからない過去の世界に迷い込んでしまった私だが裏切って不貞を働くわけにはいかない。私は妻を愛しているんです」

 

 「ずいぶん誠実だこと。でも私ならその奥さまや山本さんに出来ないこと、なんだって差し上げますわ。貴方がずうっとここにいたくなるように」

 

 「申し訳ないが、私はあなたが嫌いです」

 

 「・・・あの坊やといい貴方といい・・・選り好み出来る立場だと思ってますの?」

 

 嶋野を押しのけようとするヤン。

 ヤンの腕をつかむ手を強め、鋭く爪を立てる嶋野。

 ちょうどその時、ドアが強くノックされる。

 

 「閣下、MO攻略部隊より緊急の報告です!会議室にお越しください!」

 

 嶋野は舌打ちしてヤンから身を離すとそのまま部屋を出ていく。

 残されたヤンはやれやれといったように首を振り、そのままベッドに寝転がる。

 拘束されて海軍省のこの部屋に閉じ込められてから三週間たつ。

 そういえば似たような状況に陥ったことがあったな、とヤンは思い返す。

 宇宙歴799年、バーラトの和約後ヤンは軍を退役しハイネセンで平和な時を過ごしていた。だが、彼に疑念を抱く帝国とその扇動を受けた同盟政府によりヤンは一時拘禁され暗殺されそうになった。あの時は妻のフレデリカとローゼンリッター連隊によって間一髪で救出されたが、さて今回はどうだろうか。

 フレデリカも、ローゼンリッター連隊もユリアンもいない。嶋野によって拘束されている今、ヤンの生殺与奪県は彼女が握っているといっても良かった。彼女の意志や気まぐれでヤンをどうにでもできるのだ。隣の部屋で拘禁されている洋平も同様だろう。

 不意に、外から鍵を開ける音がした。嶋野が出て行ってから二分もたたずだった。

 もう戻ってきたのか?顔をしかめながらヤンがドアの方を向くと、そこにいたのは嶋野ではなかった。

 

 「何だよいきなりその顔は。・・・いや、当然か」

 

 「・・・束?・・・洋平?」

 

 濃紺の第一種軍装に身を包んだ束。その傍らには隣室に閉じ込められていたはずの洋平もいる。束と違い、洋平はあの時と変わらない白い第二種軍装に身を包んでいる。

 驚くヤンに束はしっ、と口に人差し指をあてる。

 

 「聞け。ポートモレスビーに向かっていた艦隊が敵機動部隊に発見された。こいつの予言通りだった」

 

 洋平を見れば何とも言えない表情で歯噛みしていた。史実通りに始まった珊瑚海海戦に対し、史実を知っていながら何もできなかった自分が悔しいのだろう。

 

 「てめえらに責任はないってことだ。今からお前らを助ける。嶋野先輩のゴキが悪くなる前にここからずらかるぞ」

 

 「なぜ私たちを?」

 

 ヤンの疑問に束は自嘲するように笑った。

 

 「人間、一度裏切り者になったらもう後戻りできねえのさ。以前てめえらのことスパイって呼んだが、本当のスパイはこっちさ。軍令部から送り込まれた山本長官の監視役、それがあたしだ」

 

 その顔は死人のようで声は乾ききっていた。横須賀でヤンと洋平を拘束した時のように。

 

 「なのにそんなあたしのことを、長官は仲間だっていうんだ。横須賀から帰った後も、あたしがしたことを一度も責めねえ。平気なはずねえのに。それが・・・どんな針の筵よりも辛えんだよ」

 

 そういえば束はかつて軍令部で嶋野のもとで勤務していたと聞いた。彼女もまた、組織や人間関係におけるしがらみや暗部に翻弄され、苦しめられたのだろう。

 

 「組織のなかにいる者が、自分自身の都合だけで身を処することができたらさぞいいだろうと思うよ。私だって、海軍の首脳部には、言いたいことが山ほどあるんだ。特に腹だたしいのは、勝手に彼女らが決めたことを、無理に押しつけてくることさ。本当に責められるべきは向こうさ」

 

 ヤンの言葉に束はへっと笑う。その目はわずかに光を取り戻していた。

 

 「本当に口が減らねえなお前は・・・だから目ぇつけられるんだ。お前らしいし羨ましいけどな。・・・とにかくだ、渡辺は仕事しなくなって書類が溜まってるし、黒島はもともと仕事しねえからますます書類が溜まる。おまけにお前の部屋はクッソ汚いままだ。だからな、こいつは助けるためじゃねえ」

 

 二人に背を向けると束は手招きをした。

 

 「来いよ、源葉参謀、ヤン参謀。てめえらを、柱島泊地に帰す」

 

 

 

 

 

 外への脱出は意外にも容易だった。皮肉にもデモの喧騒が脱出を手助けしたのだった。束に言わせれば皮肉はもう一つあるようだった。

 

 「車の公用車がヴィンランド製のパッカード120なのさ」

 

 裏の駐車場には黒塗りで長いボンネットの車が数台停まっていた。大恐慌後のニューモデルらしいが、ヤンと洋平には年季の入ったクラシックカーに見える。

 敵国の車に乗り込み、発進させ未だシュプレヒコールが響く赤レンガを後にする。束が運転席に座り、ヤンと洋平が後部座席に座る。エンジン音とともに赤レンガと群衆が遠ざかっていく。

 

 「・・・束さん、僕は・・・今更戻って僕に参謀の資格があるのかな」

 

 不意に洋平が呟いた。

 あの爆撃のことを引きずっているのだろう。ゲーム仕込みとはいえ、未来の知識がありながら何もできなかった。あるいは自分の未来の知識が穴があり、完ぺきではないことを思い知らされ落ち込んでいるのだろう。ヤン自身、思うところがないわけではない。知識がありながら直前に思い出すとは、忘れていたのとほぼ同義だ。だが何にせよ、起きたものは起きた。となればやるべきはそれにどう対処すべきか、次何をすべきかを考え実行することだ。時は巻き戻せないのだから。それに、未来の知識を知っているからと言って、どうして何でもできる、対処できるといえるのだろう?預言者とはむしろ常に迫害されるものなのだ。

 

 「洋平、そう落ち込むことはないと思うよ。確かに君の知識は完全ではなかったろうし、そういう意味では私も同じさ。未来を知っているからと言ってその知識が完全とは限らないし、必ずその通りに進むとは限らない。むしろ未来が分かるからと万能感を持つのは分かるがそれではいけない。万能感を持つということはつまり、自惚れ慢心するのと同じことだからね。知っているということが、すぐさまある目的や行動を容易にしたり可能にするとは限らない。第一、人間一人に出来ること自体限られているんだ。頭は一つ、手足は二本ずつ、だからね。ちゃんと反省できている分、洋平は十分参謀の資格があると思うよ」

 

 「ヤンさん・・・」

 

 「月並みな言い方になるが、起きてしまったものはしょうがないし、失敗は誰でも、何度でもするものだ。大切なのは、失敗や困難に直面した時、しょげることじゃなく、そこでどうやって対処するか、どう局面を進めていくかを考え行動することだ。あらゆる物事に限らず、とりわけ軍事や戦争というものは思い通りには事が進まず、失敗やトラブルばかりだから特に重要さ。」

 

 「ヤンの言う通りさ」

 

 束が鼻を鳴らして笑った。

 

 「あたしは未来人なんて与太話だと思ってたし、空襲の件も気にしちゃいねえ。てめえが一度の失敗でしょげてんなら、とんだお笑いだ。いいか源葉。うちら鉄砲屋は百発百中の精神なんて教わるけどな、実際には百発打って十発当たれば儲けもの、夾叉だってたいしたもんだ。てめえはその謎の特技で、この時代の人間が知りえねえことを何度も言い当てたじゃねえか。一度の失敗がなんだ」

 

 普段はぶっきらぼうな束がこんな風に励ましてくれるなんて少し前までは考えられないことだった。同時に、洋平は不意に思ったことを恐る恐る口にした。

 

 「その・・・だったら束さんも、失敗を気にすることはないんじゃ・・・」

 

 「あ?」

 

 「いやだから、自分は裏切り者だとか何とか言ってたけど、昔のことを気にしすぎじゃないかって・・・ヤンさんもさっき言ってたじゃないですか。組織の中で自由に動けたらどんなにいいかって・・・うわっ!」

 

 ふいに束が急ハンドルを切り、洋平とヤンは頭をガラスにぶつけそうになる。束はバックミラーを鋭く睨んでいた。

 背後を見ればこの車と同じ丸いヘッドライトがいくつもこちらを追ってくる。

 

 「お客さんだ。飛ばすぜ!」

 

 束がアクセルを勢い良く踏み込む。

 洋平やヤンの時代の車には及ばないがそれでも市街地で出していいスピードではない。

 

 「うひゃあ!束さん、危ないって!」

 

 「うーん、士官学校の戦闘艇の操縦訓練を思い出す・・・」

 

 大きく揺れる車内で、大きく揺れるヤンと洋平。何度も車内のあちこちにぶつかり、必死につかまる。

 束は顔色一つ変えることなく見事なハンドルさばきで狭い路地をジグザクに曲がっていく。減速すること無しにだ。タイヤの焦げる臭いが車内に入り込んでくる。

 やがて後部の追手が見えなくなる。

 

 撒いたか、と思い束が車を大きな通りに出した時だった。

 突如大きな衝撃が響いた。

 黒のパッカードが真横につけていた。思い切りぶつけられスピンを超しそうになる。アクセルを踏み相手にぶつけ返す。

 その一瞬、向こうの車の運転席に見知った顔が浮かび上がる。

 

 「伊藤静・・・!」

 

 嶋野の側近の一人だ。赤レンガであの五十子を無視した海軍乙女。

 

 「知っているんですか?伊藤、ってあの赤レンガで五十子さんを無視した・・・?」

 

  洋平の言葉にしばらくの沈黙ののち、束が苦い声で答える。

 

 「・・・伊藤さんはもともとは山本派だ。長官が次官をしていたころ、海軍省で井上に次いで長官を慕っていた。多分、今でも内心は慕っているだろう」

 

 「じゃあ・・・」

 

 「踏み絵だよ。嶋野先輩はいつもそうやってあたしたちの忠誠を試すのさ。」

 

 絶句する洋平。ヤンもため息をつく。

 陰湿だ。いじめグループのやり口と全く同じだ。まったく、トリューニヒトとどちらがましなのやら。

 再び車内が激しく揺れる。

 伊藤車が斜め後ろから衝突してきた。

 束の車が路肩に乗り上げる。正面に街灯。さらに激しい衝撃と共に、天地がひっくり返る。街灯にぶつかり車が横転したのだ。

 

 「ヤン!源葉!しっかりしろ!」

 

 もうろうとする意識が戻った時に窓をたたき割った束が洋平をつかんで車から引きずり出していた。

 

 「そこまでです」

 

 乾いた声が横合いから響く。束が小銃を構える。

 へし折れた街頭の向こうから、瘦躯の海軍乙女が姿を現す。伊藤だ。右手には拳銃が構えられている。

 束の顔を見て、伊藤の顔が暗闇の中でもわかるくらい青ざめた。

 

 「宇垣さん・・・悪く思わないでください。私はその少年を連れ戻すことで嶋野さんにもっと信用されて、中央で生き残らなければならないんです」

 

 「・・・何のために、ですか」

 

 思わず洋平が口をはさんでいた。彼の脳裏には赤レンガの廊下で彼女が五十子を無視した時のことを思い浮かんでいた。またあの痛みがやってくる。

 

 「・・・束さんから聞きました。五十子さんと仲が良かったて。今でも本当は好きなんじゃないんですか?あなたも・・・縛られているんですか?組織の中で・・・」

 

 伊藤の拳銃が震えた。これまでの無機質さが剥がれ落ちていく。

 

 「・・・私だけじゃない。みんな縛られています。嶋野派が台頭する前は、開戦反対派も力があった。嶋野大臣は、戦争の拡大・長期化を自身の権力を強化する手段にしています。部内の不満を抑えるために、総理や陸軍に近づいて・・・このままだと海軍は操り人形になる。どころか、この戦争も泥沼化する。そうなる前に、この戦争を終わらせないといけない。それが、山本さんの志だったから」

 

 「どうやって」

 

 「前総理の近衛侯爵や政友会総裁だった鳩山先生らと秘かに接触しています。陸軍の専横を快く思っていない重臣たちを動かし、陛下に三国同盟離脱と対美鰤講話を上奏する。それが私たちの終戦工作です」

 

 それまで黙っていた束が馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

 

 「口だけ達者な政治家ばかりよく揃えたもんだ。憲兵隊に一睨みされればしっぽ撒いて逃げ出すような奴ばかりじゃねえか」

 

 「貴方には分からない!」

 

 伊藤が目を血走らせて銃口を束に向ける。

 

 「中央で表立って嶋野に逆らった子はみんな予備役か最前線送りにされた!こんなの海軍じゃない!山本さんが次官だったころの、あの輝いていた赤レンガを返して!」

 

 「・・・銃を下ろせ」

 

 「貴方が下ろしなさい!」

 

 ヒートアップしだす二人。伊藤はもちろん、束も内心興奮しているだろう。

 まずい、このままだと発砲しかねない。

 何とかして二人をなだめねば、止めなければ、と思ったヤンと洋平だったが、二人が何かを思いつくことも、伊藤と束が引き金を引くこともなかった。

 

 「っ!?」 

 

 次の瞬間、新たな光が四人と車と、道路を照らした。

 突然差し込んできた光に思わず手をかざしたり、目を細める。

 車のヘッドライトの光だ。

 追手か、と思い光源の方を見る。確かに一台、黒い車が止まっていたものの、それは追手の車や海軍の公用車とは違っていた。運転手らしき男が驚いた表情でこちらに何かを言っている。

 突然の闖入者にヤンも洋平も、全員が反応できずにいた。誰かがアクションを起こそうとする前に、車の後部座席が誰かが降りてきた。

 

 「おいおい、こりゃどういうことだい?帰宅していたら車が横転しているし、海軍さんが銃を向け合っているし・・・ただの事故じゃないな。いったい何なんだね、何が起こっているんだい?」

 

 降りてきた男の声にヤンは覚えがあった。確か、この声は道に迷っていた時の・・・

 

 「・・・!」

 

 「・・・おいおいまじか」

 

 どうやら伊藤と束も男のことを知っているようだった。

 車や街頭の光に照らされ男の姿が明らかになる。

 そこで洋平も男の顔に見覚えがある事に気付く。確か彼は歴史の教科書に・・・

 出っ歯に、瓜のような形の顔、仕立てのいいスーツに身を包んだ、活動的な印象の男。

 男の視線がこちらを向き、ヤンと目が合う。

 

 「おや、君は・・・」

 

 「あなたは・・・あの時の」

 

 三週間前、ヤンがホテルへの道に迷っていた時偶然出会い、親切にも連れて行った男。話をし、不思議な印象を覚えた大臣を名乗った男。

 現れた男は岸信介その人であった。

 

 

 

 

 




次回予告(CV:屋良有作)

追手から逃れるため、一旦岸の自宅に身を寄せることになったヤン一行。ヤンと洋平に興味を寄せる岸に対し、二人は何を語るのか。
次回、「不敗の魔術師、連合艦隊特務参謀になる」第20話「未来と、現状と」。銀河の歴史がまた1ページ・・・
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