不敗の魔術師、連合艦隊特務参謀になる   作:ジョニー一等陸佐

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ほかの作品も早く更新しなければ・・・


第5話 もう一つの世界

 0600時、総員起こしのラッパとともに戦艦大和の一日は始まる。

 海面を覆う朝靄がオレンジ色の日の出の光と混ざり合い、海面と空に独特のグラデーションを生み、幻想的な光景が生まれる。

 その中をセーラー服の少女達がデッキブラシ片手に檜の甲板を駆けてゆく。

 セーラー服とは言っても、学生が着るようなものではなく語源通りの水兵のセーラー服だ。

 「まわれえー!」

 少女たちに交じって艦の端まで来ていた洋平は、甲板士官の掛け声に合わせて体の向きを変えたところで見知った顔に出くわした。

 「もう未来人さん、またこんなところにいたんですかあ?」

 戦務参謀の渡辺寿子中佐だ。連合艦隊司令部の参謀の中では最年少であり、明るい黄色のカチューシャがトレードマークのふわふわした声を持つ可愛らしい少女だ。

 「今日は司令部のみなさんで未来人さんを大和に案内するから、お部屋にいてくださいって言ったじゃないですかあ」

 「ご、ごめん。泊めてもらってるのに何もしないのは、なんだか悪いなと思って・・・」

 頬を膨らませる寿子に洋平が弁解していると、水兵達が作業の手を止め洋平のもとに駆け寄ってきた。

 「聞いてください、渡辺中佐!この人のブラシ捌き、すっごく上手で。磨いたところ、私達よりピカピカなんですよ!」「陸にいる普通の男みたいに、『掃除は女の仕事だ』なんて威張らないし、優しいし!」「殿方が自ら進んで掃除を手伝ってくださるなんて感激です!」

 そう口々に褒める彼女たちは、ついこの前までは「捕まえろ!」とか「抵抗するなら殺せ!」とか言って洋平とヤンを追いかけまわしていた。それが、見事に180度態度が変わっている。

 「いや、そんな、全然大したことじゃ・・・」

 洋平が掃除に慣れているのは学校でクラスの女子にいつも掃除当番を押し付けられているからで別に特段掃除が好きというわけでもない。それで褒められたことも当然ない。世界が変わるとこうも違うらしい。真面目にやってよかったとしみじみ思う洋平であった。

 寿子がニコニコしながら洋平を見る。

 「兵達の心をがっちり掴んだみたいじゃないですかあ。未来人さんも隅に置けませんねえ。ところで未来人さん、ヤンさんは今どうしているかご存知ですかあ?」

 そう、今大和に乗っている未来人は洋平だけではない。もう一人、ヤン・ウェンリーもこの艦に客人として泊められている。

 だが、彼の姿はここにはいない。

 「そうだな・・・多分、自分の部屋だと思うよ。僕が起きた時、ヤンさんはまだ部屋で寝ていたから。まだ、ベッドの中にいるんじゃないかな」

 「そうですねえ、じゃあ一緒に起こしに行きましょう」

 洋平と寿子はヤンのいるであろう部屋に向かうことにした。

 

 

 

 

 二人が向かった先、ヤンの寝泊まりする部屋は惨状が広がっていた。

 一言でいえば汚い。

 ヤンの要求で用意された大量の新聞紙や書物が至る所に散乱し、無造作に置かれている。机の上には新聞の切り抜きや、疑問符を殴り書きしたノート、紙片が散らかり、丸められた紙などのゴミが所狭しと散乱している。運ばれた食事も、食器や皿がそのまま放置され積み重ねられ、魚の骨やらがそのままにしてある。人間がまともに歩けそうなスペースは少なく、人間ではなくゴミとホコリがこの部屋の主人のようであった。つい二、三日前にはきれいに整頓されていたはずの部屋がこうも簡単に汚くなるものなのだろうか。

 そしてこの部屋の主であるヤン・ウェンリーは布団にくるまって、しっかりと熟睡していた。部屋の惨状などお構いなし、よくこんな汚部屋で熟睡できるものである。

 「ちょっとヤンさん!起きてくださいよお!こんなにお部屋を汚しちゃってえ!いくら何でも汚すぎますよお!」

 「起きてくださいヤンさん、今日は皆で『大和』の案内をする日ですよ!」

 洋平と寿子がヤンの体を揺らすも、彼は抵抗を試みる。

 「・・・うーん、ユリアン。あと5分、いや4分30秒、4分15秒でいいから・・・」

 知らない人名が出てきて誰ですかそれはと内心突っ込みたくなったが、とにかくやたらに具体的な寝言からして当人はしっかり起きているようだ。とりあえず、肩をつかみ、強く揺さぶり、ヤンの名前を繰り返す。

 そのうち、ヤンは布団から抜け出しそのパジャマ姿をあらわにした。

 「ううん、分かった、分かったよ・・・今起きるから・・・まったく、非常時でもないから、もう少しゆっくり眠らせてくれてもいいだろうに・・・」

 ヤンがぶつくさ文句を言いながら黒のジャンパーに黒のベレー帽の自由惑星同盟軍の制服に着替える一方で洋平と寿子は出来る範囲で簡単にこの汚部屋を片付けようとする。

 「当直の兵士から、部屋が汚いとの苦情は聞いていましたがここまでとは・・・掃除する立場にもなってみてくださいよお」

 「うん、いくら何でも生活力無さすぎだと思うよ・・・」

 紙くずや、食器を片付けながらため息をつく寿子に洋平は同意した。

 ヤンから自分は軍人だと聞かされていた洋平だったが、2、3日で部屋をあっという間に人が歩く隙間もない汚部屋に変え、しかもその中で平気で暮らし熟睡できる、このだらしない人間が軍人だとは信じられなかった。

 「ところでさっき寝言で呟いていましたけどユリアンって誰ですか?」

 片づけをしながら質問する洋平に、ヤンはおさまりの悪い黒髪をかきながら答える。

 「ユリアン?ああ、私には被保護者・・・息子がいてね。といっても血のつながった実の息子というわけじゃなくて養子、里子でね。私には勿体ないぐらいよくできた子でね。身の回りの世話から紅茶淹れに至るまで何から何までしてもらっていたのさ。特に紅茶を淹れることにかけては名人だったよ」

 「・・・なるほど、確かによくできていると思いますよ」

 こんなだらしない大人をきっちり世話をし、紅茶まで淹れてあげるなんてそのユリアンという養子は多分、きっと、偉大な人物に違いない。ごみを片付けながら洋平は本気でそう思った。

 

 

 

 

 ヤンの居室の片づけを済ませた後、三人は戦艦大和第一艦橋のエレベーター内にいた。

 「自分のお部屋ぐらいちゃんと管理してくださいよお。兵達からも『だらしない』とか『部屋が汚い』って苦情が出てたみたいですしい」

 唇を尖らせながらふわふわした声でヤンに囁く寿子。声以上にふわふわしたバストが腕に当たり、ヤンは思わずぎくりとした。慌てて身を離そうとして壁に頭をぶつける。

 エレベーター内部は大和の巨大なその艦体からは信じられないほど狭く、三人乗った時点でかなりぎゅうぎゅうだった。まして全長900メートル近くある宇宙戦艦ヒューベリオンや1キロ越えしている宇宙戦艦パトロクロスなど大和よりはるかに巨大な艦艇に乗りなれているヤンからすれば、巡航艦や駆逐艦ほどの全長の大和はさらに狭く感じた。勿論、大和がこの当時においては世界最大の戦艦であり、一人の人間からすれば途方もないほど巨大であるということに変わりはなかった。

 やがてエレベーターが停止し、目的の第一艦橋に到着する。狭いエレベーター内部から解放されるように三人は一気に艦橋内に飛び出した。

 「艦は女の子で、私たち海軍乙女の仲間なんです。だからみんなで毎朝綺麗にしてあげてるし、未来人さんが手伝って大和もきっと喜んでくれていると思いますよお」

 寿子の言葉通り、大和の艦内はどこを見ても塵一つなく、靴で歩くのが躊躇われるほど磨き上げられていた。計器類の真鍮は顔が映るほど磨き上げられ、兵士の艦に対する愛情と士気練度の高さが伺えた。

 「私のいた世界でも艦は女性扱いだったね。艦を呼ぶときShe(彼女)という代名詞を使っていたしね」

 ヤンはそう言って合わせてみたものの、彼のいた世界とこの世界では大きく異なる点がある。

 ラ・メール症状。

 この世界では、男性が海に入ると船酔いや宇宙酔いをひどくしたような症状を発症し、意識を失い最悪死に至る。女性でも大人になると気分が悪くなり、結局海入っても大丈夫なのはうら若い少女のみである。それ故、瞬時の判断と行動が生死を、ひいては戦争の勝敗を決める海軍軍人は十代の女子に限られている。それが彼女達、海軍乙女である。

 (海軍乙女、ねぇ)

 この世界に来て、海軍乙女というものの存在を知り、ヤンは若干憂鬱になっていた。

 海軍乙女とは、要するに少女が、子供が軍人となって戦い殺しあう存在になるということなのだ。海に入っても大丈夫なのが少女だけだからその少女しか海軍軍人にできない、というのは一見理屈が通っているように見えるが、それでも年端もいかぬ少女が軍人として殺しあう、という事実に変わりはなくヤンとしては何ともやり切れない、なんと世知辛いことなのだと思わずにいられなかった。ヤンの元居た世界、自由惑星同盟軍や銀河帝国軍にも少年兵というべきものはいるにはいるが、それはあくまで士官学校の生徒だったり、軍属だったり、入隊したての新兵だったりで全体から見ればごくわずかな割合の存在であり、違う次元での話だった。この世界では海軍が皆少女で――子供で構成されているのだ。海に入れる人間がごく限られているから海軍の存在がなかったり、規模が小さかったり・・・というのではなくその限られた人間である少女を、子供をかき集めてまで軍人にし、殺し合いをさせるとは・・・そこまでするほど人間は戦争を好むのだろおうか。人類の歴史はすなわち戦争の歴史であり、中には人は本質的に争いを好むものだと主張する人間がいるがそれは世界が違えど変わらぬということか。

 (・・・こんな年端もいかない少女をかき集めてまで海軍を作って殺し合わせる・・・なんて世知辛い話なんだ。やれやれ、私はもしかすると、とんでもない世界にやってきたかもしれないな)

 黒髪をかきながらヤンはため息をついた。

 「すごい・・・!全部本物だ・・・!」

 ヤンがため息をついている一方で、洋平は大和の第一艦橋とそこから見える光景に興奮していた。当然のことであろう。海戦ゲーム『提督たちの決断』をこよなく愛する海軍オタクである洋平にとって、大和や連合艦隊は憧れの存在。それがゲームでも映画でもなく、現実に存在する本物の光景として確かに眼前に広がっているのだ。

 艦の頭脳である第一艦橋には景勝地にあるコイン式のような巨大な双眼望遠鏡、ラッパのような伝声管、航海用の羅針盤が無数に並ぶ。

 窓からは瀬戸内海を一望できる。

 「呉軍港を要する広島湾は大小無数の島々に守られた天然の要害なんです。ここはその外縁にあって、北の柱島はじめ十以上の島に囲まれています。柱島泊地って呼んでいるんですよお」

 窓の向こうには桜と新緑の混じった島々が浮かんでいる。一見のどかだが目を凝らせば対空砲等が見え、要塞化されているのが分かるであろう。

 そしてなによりも・・・

 「ここが柱島泊地かあ、ゲームで聞いたことがあるな・・・あっ!長門と陸奥!」

 思わず子供のように窓に顔を押し当てる洋平。

 彼らの眼下には本物の連合艦隊の誇る戦艦群が錨を下し厳かに佇んでいた。

 東隣のブイには連合艦隊司令長官直率の第一戦隊を構成する戦艦長門と陸奥が。

 その向こうに目をやれば第一艦隊の伊勢、日向、扶桑、山城の艦橋が連なっている。

 全て、本物として眼前に存在している。

 自分の知る連合艦隊が、日本海軍が、確かに、厳然と存在している。

 映画でもゲームでもない本物の光景に見惚れる洋平。ヤンも、資料映像でしか見たことのない光景が現実として広がっているのに若干感銘を覚えた。

 「・・・まさか、古代地球の大日本帝国海軍を生で見ることになるとは、ねぇ」

 「ああ・・・本当に、この時代の日本に来られて良かった」

 「にっぽん?」

 寿子がきょとんと首を傾げた。

 草加と洋平は目を合わせた。もしや・・・

 「渡辺中佐、世界地図を見せてもらえないかな」

 寿子でいいですよお、とふんわりと笑いながら寿子は二人を壁際の机に手招きした。

 三角定規やコンパスが置かれた机に地図を広げる。

 そこに描かれていたのは、一見すると日本列島を中心としたごく普通の世界地図(宇宙歴の人間であるヤンからすれば歴史資料で見たことのある古代地球の地図)だ。日本列島をはじめとした島々や大陸、海の配置に違和感はない。洋平がいつも見ている世界地図や、ヤンが歴史資料で見る古代地球の世界地図と何ら変わらない。ある一つの点を除いては。名前である。

 日本列島の上に『帝政葦原中津国』という文字が印刷されている。

 太平洋を隔てた巨大な大陸、ヤンや洋平の世界ではアメリカ大陸と呼ばれていた所には『ヴィンランド合衆国』。欧州大陸に目を転じれば中央の、本来ドイツと記されているべきところには『トメニア第三帝国』と記されている。その国からは四方八方に黒い矢印が伸び東の『ルーシ連邦』を本来の国境を越えて浸蝕。フランスと思しき地域もトメニアの支配下に置かれている。その下、地中海に突き出た長靴のような半島国家は『ナパロニ』。ドーバー海峡を越えた先の島国には『ブリトン連合王国』と記されている。

 「なるほど・・・やはりそうか」

 「OK、大体把握した」

 「未来人さんの知っている名前とは違うんですかあ?」

 寿子が首を傾げる。洋平は頷いた。

 「ああ、うん。例えば僕のいた世界では、このブリトンのことをイギリス、トメニアのことをドイツと呼んだんだよ。そうですよね、ヤンさん」

 「ああ。そしてヴィンランドはアメリカ、ルーシはソヴィエト連邦と呼称していた。新聞や書物を探っていたが、やはりこの世界の歴史や世界観は名前が違うだけで私たちのそれを全く変わらないらしい。例えば、今このドイツもといトメニアという国はソ連もといルーシを侵攻しているけど、それが始まったのは去年の1942年6月22日のことじゃないかな」

 ヤンの指摘に寿子は頷いた。

 「ええ、その通りです、よくご存じですねえ」

 史実では――ヤンと洋平の世界ではヒトラー率いるナチス・ドイツは1941年6月22日対ソ侵攻作戦『バルバロッサ』を発動、突如としてソ連邦への侵攻を開始し独ソ戦が勃発した。どうやらこの世界でも同じらしい。

 「そしてこのトメニアを率いているのはアドルフ・ヒトラーだろう?」

 「ええ、そうです。トメニアを率いる独裁者です。そもそも今起きている欧州大戦もトメニアがお隣のポルスカに侵攻を始めたのがきかっけで・・・あとこの葦原の同盟国でもありますねえ。ナパロニも含めた三国同盟を結んでいるんですが・・・もしかして未来人さんの世界でも同じですかあ?」

 「ああ・・・」 

 「寿子さん、ちなみにブリトンはどんな国なの?」 

 洋平も質問に加わる。ブリトンといえば、先日のセイロン沖海戦で戦った相手である。

 「ブリトンは今こうして敵味方に分かれて戦っていますけど、私たち葦原海軍にとっては先生みたいな国ですねえ。昔は艦もブリトンから買っていました、金剛なんかがまだ現役です。それにティータイムを発明した紅茶の美味しい、偉大な国でもあります。・・・ただ、料理のほうは正直ちょっと微妙かも・・・」

 「・・・どうやら違うのは国名だけのようだね」

 ヤンと洋平は地図を離れ、改めて艦橋の窓の向こうに広がる海と居並ぶ艦艇の光景を眺めた。

 この世界では海を男性が泳げず、代わりに海軍乙女が存在する。国名や地名もヤンと洋平の世界のそれと違う。だが違うのはそれだけである。この世界の世界観や歴史の流れ、文化に至るまで全てヤンと洋平の世界と同じ。山本五十子をはじめとする海軍乙女も、ヤンの知る日本海軍の軍人達を置き換えたような存在だ。

 ふと、ヤンは背中に悪寒を感じ身震いした。ある考えが頭に思い浮かんだのだ。

 この世界の歴史がこの先も、自分達の世界と同じ歴史をたどり進むとしたら?

 この先の歴史をよく知るヤンにとっては、あるいは同じく先の歴史を知る者にとってはそれを思考し想像することは容易で、恐ろしいことであった。

 多くの海戦での無残な敗北とあまりにも多大な犠牲、玉砕に次ぐ玉砕、神風特攻隊、本土への無差別空襲、原爆投下、そして無条件降伏――今乗っている大和、海軍乙女である少女達の運命は過酷で悲惨なものにしかならない。いや、それどころかこの日本いや、葦原を待つ歴史も残酷で惨憺たるものでしかない。

 「どうしました、未来人さん?お二人とも顔色が悪いですよお?」

 見ると洋平も青ざめた表情をしている。ヤンと同じことを考えていたようだ。

 寿子が心配そうにヤンの顔を覗き込む。

 「足の傷がまだ癒えていないんじゃないんですかあ?」

 「いや、足の傷なら大丈夫さ。少し痛むこともあるけど、問題ない」

 ヤンは笑ってごまかした。

 洋平も笑ってごまかす。

 「・・・大丈夫。夕べ興奮してよく眠れなかっただけだよ」

 これは嘘ではない。何しろ、本物の戦艦大和に泊まったのだ。しかし寿子は何故か顔を赤らめて、数歩後退った。

 「や・・・やっぱり未来人さんも殿方なんですね。乙女だけの艦に乗ると、あんなことやこんなことを考えてしまって、それで眠れなかったと・・・」

 「ちっ違うよ!興奮ってそっちじゃないから!僕が興奮する対象は艦艇とかで」

 誤解を招いていると気付いた時には、もう後の祭りである。

 「擬人化ですか! 確かに艦も女の子だって言いましたけど、まさかそんな目で艦を見て、こ、興奮するだなんて! 喫水線下が赤いスカートに見えちゃったりするんですか? 未来人さんの考えることは未来過ぎてついていけないです!」

 「僕は、寿子さんについていけないよ・・・」

 なんだか漫才の様相を見せてきた洋平と寿子の様子にポリポリと頭をかきながらヤンが苦笑する。

 「・・・私も話の内容がよく分からなくてついていけないんだが」

 「あ、すみません・・・それで、未来人さんはこれからの戦いについてどうお考えなんですかあ?」

 こちらが少し緊張を緩めたところですかさず寿子が本題に戻す。

 ふわふわしたしゃべり方に惑わされるが、戦務参謀だけあってしっかりしている。あるいは抜け目がない。参謀三人組の中で唯一ヤンと洋平を未来人と主張したのも彼女だ。

 「確かに、私は軍人だけども、部外者が口出ししていいのかい?」

 「僕もただの海戦ゲーム好きで、ヤンさんみたいな専門家じゃないし・・・」

 構いませんよお、と促されヤンはベレー帽を指でくるくる回したり、手でもてあそびながら口を開いた。

 「・・・そうだね、正直、この時期にセイロンまで行ったのは手を広げすぎたと思う。イギリス、もといブリトンは本国がトメニアに脅かされてアジアで攻勢に出られないからね。堂々と戦い惨敗したマレー沖海戦で懲りているし、これから攻勢に出る様子も今のところ見受けられない。ただ逃げ回っているだけだ。だからブリトンとの闘いは本当は後回してよかった。そもそも全体的に手を広げすぎている。確かに今のところは日本もとい葦原が電撃的に勝利をおさめ、オーストラリアまであと少しというところまでその勢力圏を広げているけど、それを維持できるかとなるとまた別問題だ。伸びきった補給線や占領地や勢力圏を維持するのに必要な兵力や国力があるかとなると正直非常に怪しい。いや、無いだろう。敵のヴィンランドの国力は此方の何十倍、何百倍もあるんだろう?今は勝っていてもその内、息切れを起こし、攻勢終末点、戦力転換点を迎え、逆転されるだろう。そして後に来るのは圧倒的な国力を背景にした大規模な物量作戦、高速機動戦術による逆襲・・・全く、ゾッとするね。でも打てる手がないわけじゃない」

 もてあそんでいたベレー帽を被りなおしながらヤンは地図上のヴィンランドを指さす

 「もし私が指揮官なら、ブリトンを後回しにできる以上、私達は対ヴィンランド戦に集中することにする。さて、ここで洋平君に二つ問題だ。葦原軍は真珠湾を奇襲したけれどそれによってられたものは何だろう。そして、首都ワシントンDC以外にヴィンランドにとって攻撃されたり占領されたりしたら困る重要地点はどこだろう?」

 「ええ?」

 突然ヤンに問題を出され、洋平は少し動揺する。ヤンの穏やかな笑みから見るに意地悪からそうしているのではなく、自分と同じ考えを持っていると期待されているからヤンは洋平に問題を出したのだろう。

 「・・・時間だと思う」

 戸惑いながらも洋平は問題に答える。

 「真珠湾奇襲で得られたのは時間だ。ヴィンランドに致命傷を負わせたわけじゃなくて、何ターンか動けなくなる状態異常をかけただけなんだから、畳み掛けてとどめを刺さないと。それを放置して、虎の子の機動部隊を反対方向の遠いインド洋まで出張させる意味がよくわからない。貴重な資源の無駄遣いだし、ヴィンランドに回復の時間を与えてしまう。それよりもヴィンランドに対する攻撃やとどめをどうするかを考えないといけない。それで、二つ目の質問の答えになるけど、ヴィンランドにとって攻撃されたり取られたら困るのはやっぱりハワイだと思う。大規模な艦隊が駐留する基地があって、太平洋方面を統括する提督や参謀達が多数存在する、いわば心臓や頭脳のようなところだ。その攻撃と占領に集中すべきだと思う・・・」

 慣れ親しんだゲーム『提督たちの決断』の攻略セオリーを語りながらヤンを見る洋平。ヤンは笑いながら頷く。

 「その通り。二つとも正解だ。国力が劣っている以上、私たちが取るべき戦法は速戦即決、そし敵の頭脳部の攻撃と占領、無力化だ。そしてまさにハワイはヴィンランドにとって太平洋方面の作戦を取り仕切る心臓部、頭脳ともいうべき場所だ。そこを取られれば太平洋方面での作戦行動は困難になるだろう。とにかくこちらにとってある程度有利な展開を得られる可能性がある。そうなれば後はこの国の外交手腕次第だが、講和やでなくとも休戦に持ち込んで平和を獲得できるだろう・・・とまぁ、それが私達の考えだが、ちょっと言い過ぎたかな」

 率直に考えを述べたヤンと洋平に対ししかし、自軍の作戦を批判されたというのに、寿子は嬉しそうだった。

 「ふふっ・・・未来人さんの言ってること、長官や黒島先任参謀とそっくり同じです」

 「え、同じなの? それならどうして・・・?」

 どうしてそうしないんだ、と言いかける洋平に寿子は笑いかけた。

 「そこが海軍という組織の難しいところなんですよお。さあ未来人さん、艦橋はこの辺にしておいて、次は主砲を見に行きましょう!。」

 (組織の難しいところ、か。彼女達も私と同じ苦労をしているのかもしれないな)

 ヤンと洋平の腕を取りエレーベーターへ連れていく寿子を見ながらヤンは一人そう思った。

 

 

 

 

 

 




次回予告(CV:屋良有作)

大和の主砲で落ち合った連合艦隊司令長官山本五十子と共に大和の日常を見て回るヤンと洋平。戦時下とは思えない平和な日常を見る一方で、ヤンと洋平は五十子の二人に対する思いを知る。次回、「不敗の魔術師、連合艦隊特務参謀になる」第6話「大和の日常、五十子の思い」。銀河の歴史がまた1ページ・・・ 
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