四人の勇者と同じく、異なる世界からの降臨者。
悪側の首魁である七大魔王の一柱。暴窮飛蝗という渾名を有する、魔将達の頂点に君臨する絶対悪。
二メートルを超える体躯と桁外れの筋肉を持つ、灼炎のごとき蓬髪の男性。
男の名はバフラヴァーン。
「俺のほうが強い」
魔王が地に降り立つ。
男を中心にして、周囲の草木が瞬く内に燃えていった。先の幽霊船のボスを倒すのに巻き込まず攻撃しておきながら、今は塵も残さず消し去っている。徹底的に容赦なく、放散する鬼気の波動で根ごと滅ぼし尽している。そこに慈悲や手心といったものは寸毫たりとも見当たらず、この世に己以外の生命など認めぬと、狂気に等しい自負だけが猛っていた。
俺を見たな。俺を知ったな。同じ空気を吸い地に立ったな。
であれば敵だ。いざどちらが強いか証明してやる。逃がさないし降伏も聞かん。生き残りたければ俺と戦い勝ってみろ。
物言わぬ草木にすら全力で叩き付け、完膚なきまでに踏みにじる最強への執念。男の求道は森羅万象を滅殺し、最後の一人として頂点に立つまで終わらない。
故に第三位魔王バフラヴァーンを目前に、殺意と敵意を向ける行いは、男を喜ばすスパイス。
「いいぞ、おまえらは素晴らしい」
戦いのゴングが鳴ったのだと理解したマシュは、シールダークラスとして恥ずかしくない反応速度で三人の前に立ち、最強を証明する拳を正面から受け止め後方へ吹き飛ばされた。
「ッツ!!」
円卓の盾がどれだけ頑丈でも、生身であるマシュは無事ではすまない。
マシュが稼いだコンマ数秒を三人は攻撃に転じる。
「神鳴る裁きよ、降れい雷ィッ!!」
甘粕正彦が繰り出した創形。数十万の衛星によるロッズ・フロム・ゴッド。本来黄錦龍の万仙陣によって生み出された数億のタタリに対抗するための絨毯爆撃を、魔王バフラヴァーンへ叩きつける。
「
クリストファー・ヴァルゼライドによる邪悪を滅ぼす死の光。数十万の超密度ロッズ・フロム・ゴッドの中を駆け、光刃と化した刀剣は概念破壊の性質を激烈に帯びている。放つ刃はあらゆるものを両断して存在意義ごと踏み躙る。
「聖槍……
ラインハルト・ハイドリッヒが持つ聖槍真名解放による爆発的な出力上昇。
一撃が核爆発を超えるDies iraeの大隊長クラスさえ殺せる威力を、甘粕正彦のロッズ・フロム・ゴッドを浴びながら連撃を繰り出す。
並みの相手……どころか、そこいらのラスボスや主人公級を呼んでも来てくれない三人を相手に戦っている男は、いつくしみ深き眼差しを向け――――――全霊で応える。
「「「————―ッツ!!??」」」
それぞれへ放たれた拳は、まずお前からだとヴァルゼライドへ振り下ろされるも回避され、その肌に傷を刻む。最強の我力使いであるバフラヴァーンの我力の鎧を突破する放射光極限収束・因果律崩壊能力は恐ろしいと言える。
この脳筋の極みにいる男が使う『我力』とは、我の強さで荒唐無稽な現象を無理矢理に実現させる特殊能力の事。
彼の世界における
この男の『我力』を突破し肉体にダメージを与えるとはそれ程凄い事なのだ。
互いにカバーし合うラインハルトとヴァルゼライド。
ロッズ・フロム・ゴッドの衝撃で動きが鈍るバフラヴァーンに聖槍の連撃が炸裂する。
空間を破裂させる音を轟かせる聖槍。
横なぎの風圧で町が消し飛ぶ一撃はバフラヴァーンの肉体を破壊する。
「なんだ……違うぞ」
そんな圧倒的不利な状況にいる男は、あまりの矛盾に困惑する。この違和感はバフラヴァーンの戒律にも抵触する恐れがある。だが、彼にとって当たり前のこと故に気付くのが遅れる。
「すみません!マシュ・キリエライト再戦します!」
バフラヴァーンの拳を盾ごしとはいえ受け止めて軽傷で済んでいる違和感。
相手の攻撃をくらう度に、己が攻撃をする度に、無限に成長していく男は、幾ばくかの回避できる攻撃で致命傷を負う反応の遅れに、ついに肉体の違和感の正体に気付く。
「ははは、懐かしいな。何故かは分からんが戻ったか」
男の肉体が、千八百年前近くまで基礎レベルが戻っている。
正規な手段で召喚された勇者と違い、波の亀裂を経由した異世界移動は
強さのレベルを引き継いで召喚された勇者。
新たにこの世界に移動したことにより、強さが初期状態に戻されたバフラヴァーン。
故に本来、単純な物理的な攻撃力、つまり殴っただけで相手を原子レベルにまで分解し、恒星級を粉砕する拳は星すら砕けずにいる。
耐久性も、表面重力が人類が居住可能な星の数千億倍という環境下でも耐え、ブラックホールすら踏み砕く全力の突撃を受けても原型を保つ肉体が、星すら砕けない核爆発級の攻撃で破壊される。
ああだが――――――それで?
「わはははははは!!面白い面白い面白いぞ!!楽しい趣向だぁ!!もっと楽しませるんだお前の務めは他にない死ぬな死ねェ!!!」
支離滅裂だが本人の中で筋が通っている祈りの奔流。
「武器作りが得意か。弱体化したとはいえ俺の肉体を金属の塊で傷をつけるとはな。だが、それだけか?他に作れるなら出し惜しみせずに出しきれ!」
回避すらできなかった神の杖の質量を五指で掴み握り潰す。
「いやはや参ったな。地球の兵器では殺しきれんか。終段は使えず、急段の協力強制は条件が達成できんか」
甘粕を天井知らずの強さへと至らしめるには、甘粕の破壊行為やその二次被害を受けながらも、諦めず希望を信じ、甘粕という絶望に立ち向かうという行為が必要。その誇るべき行動をとっている人々の全てが協力強制の対象者となってしまい、敵である甘粕に力を貸すことに繋がってしまうということを意味している。
現状人類の勇者として世界を守るアマカスに、敵対する人類は存在しない。魔物では協力できず、バフラヴァーンは論外だろう。
当初、衛星軌道上から音速の十倍もの速度で金属の棒を叩きつけるロッズ・フロム・ゴッドに対応できず、表面上は動きが鈍るだけに見えるが、ロッズ・フロム・ゴッドの一発は中身を衝撃でグチャグチャニにされている。毎秒数十万の衛星に蹂躙されていたバフラヴァーン。そんな中での英雄と黄金と戦いは至高の喜び。
「破壊力とも違う。切断とも違う。理屈はさっぱりだが、何かしらの概念を崩壊させているな。これ程殺しに特化させた力もあるまい。すべてを殺しに捧げたのか」
「否定はせんよ。俺は殺す事しか能がない。どれだけ正義を掲げ、守りたいものを守ろうと、殺しが俺の本質だ。故にだ邪悪なる者よ――――――滅びろ」
「そうか、ぶち壊してやる!!」
交差する拳と剣。腕を縦に割られたバフラヴァーンは、衝撃でヴァルゼライドを弾き飛ばした。
拳を強く握りしめ、負傷を癒すのではなく、筋肉の収縮で強引に傷口を塞いでから含み笑い、聖槍を振るうラインハルトを指摘する。
「力を抑制するタイプは初めてだ。何を我慢している?俺のために曝け出せ。俺が殺そうとしているのに躊躇するな。お前の過去も今もこれからも、俺のためだけに在ると知れ!!」
黒白のアヴェスターの世界で自分を磨く者はいても、自分から力を下げる者は存在しない。
生き残るのに、勝つために付けた力を抑制する必要性がない。抑制する余裕も発想もない。
持てる力を全力で使う世界。人間賛歌の世界。戦う事が当たり前な世界。
「卿のような生物には理解も共感もされんだろう。…………飽いていれば良い、飢えていれば良いのだ。生きる場所の何を飲み、何を喰らおうと足りぬ。忠告だ。だがそれでよしと、そう思えぬ生物は、その時点で自壊するしかない」
「そうか、よかったな。しかし俺のほうが強い」
正義の魔王、怒りの英雄、黄金の獣―――共に敵が強ければ強いほど覚醒し続ける者同士、発生する相乗効果は両者の激突を果てしない暴凶の宴に変えていく。
消耗という概念が存在しない永久機関こそバフラヴァーン。
戒律『
出会った者とは誰であろうと全力で戦わねばならない代わりに、体力・持久力の消耗しない永久機関になる。
己こそが最強。それを証明するための戒律。消耗がないため死の寸前まで全力で戦える覚醒と成長の化け物。
つけ入る隙間はないか模索するマシュの盾が青白く輝きだす。
出現するは召喚陣。
"あの怪物をどうにかしなければならない"そんな思いに応え、マシュの盾が別の世界に召喚された事象をもとに、勇者を召喚の触媒としてその世界の人を召喚しようとしていた。
本来なら、不可能な所業。召喚できたとしても、本人ではなく一部の側面を持つサーヴァントが召喚される。その機能を、この世界の神かよく分からない何かが円卓の盾へ力を注ぎこむ。
今回だけのイレギュラー。
召喚陣を起動させた『何かが』格勇者の世界において、勇者を止められる実力を持つ者を求めた。
規格外の勇者でも勝てるか怪しい敵を前に、規格外の勇者を止めれる実力者がいれば可能性が生まれる。
召喚陣の立体サークルが高速で回転し、輝きが増す。
「この悪寒は!?べんぼうちゃん来ます!!」
其は冥府の底から現れた闇の
死神の鎌を振う最悪最凶の
絶叫する奈落の使徒。
あらゆる勝者を呪いながら邪悪を氾濫させていく
「英雄め、バケモノ共め。勝手にやってろもうたくさんだ。好きなだけやってりゃ良いだろ、俺らの知らない何処かでよ」
――――――ゼファー・コールレインの反粒子が、バフラヴァーンを飲み込んだ。
時よ止まれ――――――おまえは美しい。
この言葉はまさしく愛の証明。永遠に女神へ捧げた一人の男の鎮魂歌に他ならない。
二人目は覇道の神。
異なる世界を侵食しないよう完全では召喚されなかった永遠の刹那。
創造以上流出以下の超越する人。
「久しぶりだなラインハルト。人として凡人としてどうだった?」
「ふ、存外悪くなかったぞ」
「そうかよ……よかったな」
――――――藤井蓮のギロチンにより、バフラヴァーンを処刑執行する。
三人目は静かに甘粕正彦の隣へ並び立つ。
第一盧生 :『魔王』甘粕正彦。最初にして最強の盧生を倒すべく誕生した第二盧生 :『英雄』。
自身の指針として仁義八行を掲げ、自身の生き様を後続の者達に見せることによって未来を少しずつよりよいものに変えていく「継承」を理想とする唯一まともな盧生。
彼だけは、マシュは何故か安心感を覚えた。
「久しぶりだな甘粕。相変わらず馬鹿をやらかしているのか?」
「はっはっは、なるほど実に明快だ。ああ、大好きだ。お前はお前たちはなんと素晴らしい!!世界は越えて人の愛と勇気に満ちている!素晴らしい、実に実に素晴らしい! すべてが光り輝いている!……やっていいんだな?」
「好きにしろよ。熱心な馬鹿ほど手に負えん者はない。おまえのことは自然現象のようなものだと理解している。だが、それでこちらの障害となれば、言うまでもない。二度とお前のような奴と戦いたくはなかったが、そういうことだ」
ロッズ・フロム・ゴッドを超える超兵器を次々に創形。味方ごと巻き込む兵器群もお前たちなら大丈夫と信頼している。
――――――柊四四八。ただそこに立つ人間は対話すら不可能なバフラヴァーンを前に再び盧生として力を揮う。
最後に召喚された四人目。
マシュは土煙で姿も確認できない人物と自分の繋がりを感じ取る。
影からも分かる跳ねた髪型。
男性で、懐かしさを覚え、特別な繋がりを感じる人物は一人しか思いつかなかった。
マシュは走る。
まだ会えないと思っていた。世界を隔て別れてしまったあの人に会いたい。
この先にいる。
会いたくて。
寂しくて。
力になりたくて。
守りたくて。
"私の……大切な、大切なマスター"
「――――――先輩ッ!!」
「ああ、パパだよ!!」
「空気を読んでください!!」
ゴッ!!
「イタイッ!!?」
そう、召喚陣を起動させた『何かが』格勇者の世界において、勇者を止められる実力を持つ者を求めた。
そう、マシュより強くて、深い繋がりのある人物。
そう!マッシュを実力で止められる実力者で異世界に来てもおかしくのない繋がりを持つ人物!
「た、助けを求められ召喚されたのに。まさか、私は叱られているのか?」
セイバー:ランスロットが助けを求める声に応え、召喚に応じた!!
バフラヴァーンの素晴らしさや、他のキャラクターの素晴らしさを引き出せるように頑張っていきます!!
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