夏凜ちゃん誕生日おめでとう!

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ここに一輪のツツジがある。神社の鳥居の足元にひっそりと、それでも可憐に咲いている。

 

緋月昇はその日、雨の中その神社に来ていた。

特に用はない上、手に持った袋を渡す相手の顔を思い浮かべては足早に帰るべき場所へ帰りたいと思っている。だが、そのツツジと鳥居は彼の目を釘付けにするには十分なほど、曇天の中で輝いていた。

 

「ツツジ、か。」

 

記憶の中にある赤の少女。

彼が心から愛している少女の戦う姿。

そのモチーフ。

 

「あれ、あまり濡れてない。」

 

鳥居の陰にあるせいか、そのツツジの周りだけ、まだ少し地面が乾いていた。まるで鳥居に守られてるかのように。

 

「鳥居のおかげ、か...よく見るとこの鳥居、色もはげてその上傷だらけか...この木目から見るに...檜の木かな。」

 

古来より檜は神社の構造に使われることが多く、鳥居もまたその例外ではない。

 

「ははっ...」

 

緋月昇は一人笑った。

この鳥居と自分がどことなく同じなような気がしたからだ。傷だらけでも、一輪の花を守っている姿が。たとえそれが偶然の産物であっても。

 

「雨が強くなってきたな...」

 

帰らねば。

傘を持つ手は持ち手を強く握り、鳥居に対して背を向ける。

 

「また来ようかな...」

 

 


 

 

「ただいま、園子、楓花。」

「おかえりなさい、先輩。」

「のぼるんおかえり~にぼっしーへのプレゼントはそれかな~?」

「おうよ。夏凜はいま友奈と東郷とかと犬吠埼家だっけ。さくっと準備してやんないとな...」

 

 

玄関に傘を置き、靴を脱いで家に入る。いつものルーティンなんだ。

なのに。

 

「先輩!?」

「のぼるん!?」

 

いきなり平衡感覚が消えて、倒れたという自覚もないまま、両肩を二人の少女に支えられる。

 

「あ、れ...?」

 

おかしい。なんでこんな感覚が薄れている。

熱はない。寒気もない。

なのにどうして。

 

「のぼるん...そっか、今来ちゃったんだ。」

「園子様、何かご存じなのですか!?」

「のぼるんはね、ずっと無理してたの。それこそゆーゆのように、誰も傷つかないように、たった一人でいろんなことを抱えていたの。」

「たった一人で、ですか...?」

「そう、たった一人。ふーちゃんもわかるでしょ、のぼるんが、見ただけで全部わかっちゃうこと。それを2年から3年、ずっと抱えてたの。ごめんねのぼるん、私が調査隊に行ってほしいって言わなかったら、私が散華のことを話さなかったら、こんなことにはならなかったのに...」

 

やめろ。やめてくれ。

そういう話は、今日はしないでくれ。

 

「先輩...?」

「のぼるん...?」

 

腕の力を強めて二人の少女を抱き寄せる。

両の脚を床につける。

 

「大丈夫さ、まだ大丈夫。嘘でも俺は大丈夫って言うよ。今日は夏凜の誕生日なんだから、こんな話はここまでだ。」

「それでいいの、のぼるん...」

「いいも悪いも...!」

「嘘、嘘だよ...」

 

嘘、か。それもそうだ。

でも、今日はダメなんだ。

 

「せめて、明日であればよかった...」

「先輩...」

「どこまでもつかはわからない、けど、夏凜には黙っててくれ。緋月昇の限界だとしても、今日だけは...!」

 

 

「はぁ、気づいてないとでも思ったわけ?むしろ私がもう後ろにいた事に気づけてないあたり、相当ね。」

「にぼっしー...」

「夏凜さん...」

 

いたのか。という声すら出ない。

バレてたか、とも言えない。

 

「ははっ...」

 

バカバカしい、そんな笑いだけが出た。

 

「昇。あんたは私や園子や楓花、勇者部の知らないことを知っている。私達に話せないようなものを知っている。それが重荷なのよね。それだけでなく、それ以前にもあんたは私に心配をかけないように仮面をずっとつけて。...でもね昇。勇者部六箇条、無理せず自分も幸せであること。あんたは、それを忘れちゃダメよ。」

 

あぁ、そうだ。そうだった。

ここしばらくずっと大赦にいて、四国からも離れていて、色々な情報が頭に入ってきてたから、忘れちゃったんだな、一番忘れちゃいけないことを...

 

「そう、か...」

「無理に話せとも言わないけど、あんたはしばらく休んで、楽になったほうがいいわ。あんただけ、まだ解放されていないみたいじゃない...」

 

 

解放、か。

 

 

「やれやれ、どっちが支えられてるのやら...」

 

まいったなぁ、ほんと。

 

「夏凜、ありがとう。」

「ん、わかればいいのよ。」

 

気づけば両の脚で立てている。

わかりやすい男だ、緋月昇という男は。

 

「これ、誕生日プレゼント。」

「っ...ありがと。ちなみに中身は何なのよ。」

「指輪」

 

「...なんの指輪よ。」

「そこはご想像におまかせ。」

「...そういうところよ。」

「ふふ。それじゃあいつまでも玄関にいるのもあれだし、行くか。」

「もう大丈夫なんですか、先輩。」

「まぁ、な。」

 

乃木家リビングで催される三好夏凜の誕生日パーティー。

それは人数こそ少ないけれど、とても楽しいパーティーであった。

 

「夏凜、誕生日おめでとう。」

「ありがとう、昇。」

 

 

 

 


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