ガーリー・エアフォース Re:feathered Star   作:カデクル/けーで

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けーでです。
すっかり遅くなりましたが、ヤリベル二次創作・第二話です。

自分なりに、自他の境界が曖昧になっていくような描写を詰め込んでみました。
読みにくくなっているとは思いますが、お付き合いいただけると幸いです。


第2話「Falling Down the Rabbit Hole」

過去も未来も無く、全ての溶け合った「本質」の世界。

その中でベルクトはしばし過去に浸る。

不幸な生い立ちから始まった短い時間の中で、しかしその中で確かに見出したもの。

様々な「意思」に触れ、飛ぶことのできた自分に、彼女は確かな手ごたえを感じていた。

 

しかし、この世界において、そんな感覚を抱くことそのものに疑問を感じたベルクト。

自分に芽生えたものに半信半疑ながら、その胸中に芽生えた確かなものを信じ、歩き出そうとするのだった。

 

 

=============================================

 

“もう一度、あなたと。私にこの思いをくれたあなたと、星を見上げたい”

 

そう思った瞬間、私の景色は一変しました。

何もかもがぼやけて、でも確かにそこに何かがあるような世界。

納得できないような、納得したような。混乱と理解がない交ぜになったような景色が、私を迎えました。

 

一考してみると、景色が一変したというのは少しズレた表現かもしれません。

きっと、視界という感覚そのものが戻った、という方が正しいのでしょう。

 

それまで何の違和感も覚えなかった<本質の世界>の景色を感じるにつれて、

私に枠組みのようなものが芽生えてきたのを感じました。

 

「もしかしたら」

そう思い「頬に手を添えてみる」と、確かな感覚が私の「手」に伝わります。

「手」で触れるこの感覚、それは当然ながら、境界など無いこの世界で感じる必要のなかったもので。

そのまま腕、肩口、腰・・・と触れ、感覚を確かめてみると、徐々に予感は確信へと変わっていきました。

 

そうです。

<本質の世界>、この空間において、私は確かに「身体」というものを獲得したのです。

 

 

取り戻した「身体」という境界を通して、改めて<本質の世界>を見渡してみると、より深い混乱に襲われました。

 

明るくて、暗い。

重くて、軽い。

 

あるはずのものが、ない。

ないはずのものが、ある。

 

あの頃のこと。

これからのこと。

 

確かめたい。

怖い。

 

進みたい。

 

 

止まりたい。

 

 

「ッ...」

ハッとなってふと我に返り、慌てて自分の体を抱きしめて。

指先に感じる感覚の反芻に、安堵を覚えます。

よかった、私の輪郭は、まだ消えていません。

 

全てを内包しているが故の虚無とでもいうのでしょうか。

これまで何も感じなかった「全」。

この身体で受け止めると、相反する概念同士に引き裂かれて、再びバラバラに溶けてしまいそうな感覚に襲われます。

本末転倒極まりない観念までが、私の中に入ってきて。

 

『このままこの世界に居るのは危ない』

そんな感覚が、本能的に私を駆け抜けました。

ここから出なくては。

身体という境界を得た私にとって、この世界はあまりに危険すぎます。

 

そう思うなり、すぐさま「彼」の元へと向かおうとして―

 

―ダメです。

そもそも<本質の世界>に方向も距離もありません。

「彼」はこの世界の一部にして全て。

ここにいないけど、ここにいる。

そんな存在をどうやって探すか、生憎そのような知見は今まで見たことがありません。

 

手足を必死に振ってみても、進んでいるかも戻っているかも分からず。

変わらない景色、感じられない反芻。

自分の行動が何も起こさないことが、こんなにも虚しいなんて。

そう感じるたびに、自分の体を抱きしめる感覚すら希薄になっていきます。

 

嫌。

せっかくもう一度感じることが出来たのに。

すぐ溶けてしまうなんて嫌です。

 

慣れない意思を使って、自我を保つということはこんなに難しいけれど。

それでも、この衝動だけが私を突き動かす。

もう一度、あなたの名を呼びたい。

私の名前を、呼んでほしい。

 

せめて、この声だけでも、あなたに届けたい。

 

 

「ヤリック」

 

 

=============================================

 

『ヤリック』

 

儚くて、それでも確かな熱を持った「彼女」の声。

その声に呼ばれるように、僕の中にも熱が灯る。

 

「ここは...」

徐々に覚めていく感覚を覚えて辺りを見渡せば、夢のような存在感を放つ光景が広がる。

夢のようで、だが確かに覚えている場所。

 

ゴーリキー公園。

「彼女」と共に束の間の時間を過ごし、思いを交わした場所。

 

だが、それだけではなかった。

彼女の心の奥底に仕舞われた、心の拠所。

出会うはずもなかった緋色の有翼獅子とそのパートナーの少年、彼らに「彼女」の未来を託した、希望の鳥籠。

 

 

それは、ヤロスラフ・ギンツブルクという人間が、決して知覚するはずのない記憶だった。

僕の記憶は「彼女」を送り出した時点で途絶えているべきものなのだから。

それでも今、僕の記憶の果てにあった場所がここであることは、きっと紛れもない事実なのだ。

 

彼女の未来を託した時、確かに僕の役目は終わり、この存在の全ては<あちら側>へ溶けたはずだった。

いつしかそこに「彼女」も混ざって、揺らぎのないまどろみの中で共にあったのだろう。

 

だが僕は今、確かにこの世界に居るのだ。

もし「あの声」と共に目覚めたこの存在に理由というものがあるのならば、答えは一つだった。

 

あの声は、彼女の呼び声なのだ。

彼女が僕を望み、決死の思いを届けようとしてくれた、「意思」の発現。

 

声や意思は、受け止められてこそその意味を成す。

だから、君と再び出会うべきこの場所で、僕はそれに応えなくてはならない。

いや、応えてみせる。

溶け行く前の最後の役割の、その続きを果たすために。

 

 

この思いが彼女に届くよう、僕自身へと自らの意思を言い聞かせる。

情けないことだが、この場所にやっとのことで定義づけられた僕は、彼女を探しに行けはしない。

それでも、僕を呼ぶ彼女の声が、決して空虚なものでないと証明するために。

彼女が進むべき道を照らせるよう、この声を届けなくては。

 

それが僕の役割だと、否、「望み」と信じて、彼女に呼びかける。

 

 

「ベルクト」

 

 

=============================================

 

『ベルクト』

 

自他の境界が再び曖昧になっていく中、それは突然に訪れました。

柔らかく、それでいて確かな強さを持った声。

 

たった一言ではあったけれど。

呼んでくれた。応えてくれた。

 

そう確かに感じられた瞬間、私の中に熱が灯るのを感じました。

自分が自分を意識するだけの曖昧な存在でなく、「彼」に意識を向けられることで、より一層強く感じる私の輪郭。

 

それを意識するほどに、私を引っ張っていく何かが増していきます。

まるで私を縛り付けるような、それでいて人の世に繋ぎ止めてくれるような。

時に振り切り、時に身を任せた、この「重み」。

上から下へ、空から大地へ。

今ようやくになって知覚することのできた「方向」、その実感は星空から戻ったばかりの記憶より一層強く。

 

ああ、こんな感覚を味わったのは、私が初めて人の輪郭を得る、そのまた前の―

 

 

瞬間、私の思考を断ち切るように、「下」に穴のようなものが見え。

 

「きゃあっ!」

 

重さに導かれるかのように、私の身体はその中へと吸い込まれていきました。




お付き合いいただきありがとうございます。

ベルクトとヤリック、二人の意識がようやく繋がりました。
呼び声と共に、<本質の世界>から落ちていったベルクト。
ヤリックの居る世界へとたどり着く彼女が向かう先とは。

次回もどうぞよろしくお願いします。
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