ガーリー・エアフォース Re:feathered Star 作:カデクル/けーで
すっかり遅くなりましたが、ヤリベル二次創作・第二話です。
自分なりに、自他の境界が曖昧になっていくような描写を詰め込んでみました。
読みにくくなっているとは思いますが、お付き合いいただけると幸いです。
過去も未来も無く、全ての溶け合った「本質」の世界。
その中でベルクトはしばし過去に浸る。
不幸な生い立ちから始まった短い時間の中で、しかしその中で確かに見出したもの。
様々な「意思」に触れ、飛ぶことのできた自分に、彼女は確かな手ごたえを感じていた。
しかし、この世界において、そんな感覚を抱くことそのものに疑問を感じたベルクト。
自分に芽生えたものに半信半疑ながら、その胸中に芽生えた確かなものを信じ、歩き出そうとするのだった。
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“もう一度、あなたと。私にこの思いをくれたあなたと、星を見上げたい”
そう思った瞬間、私の景色は一変しました。
何もかもがぼやけて、でも確かにそこに何かがあるような世界。
納得できないような、納得したような。混乱と理解がない交ぜになったような景色が、私を迎えました。
一考してみると、景色が一変したというのは少しズレた表現かもしれません。
きっと、視界という感覚そのものが戻った、という方が正しいのでしょう。
それまで何の違和感も覚えなかった<本質の世界>の景色を感じるにつれて、
私に枠組みのようなものが芽生えてきたのを感じました。
「もしかしたら」
そう思い「頬に手を添えてみる」と、確かな感覚が私の「手」に伝わります。
「手」で触れるこの感覚、それは当然ながら、境界など無いこの世界で感じる必要のなかったもので。
そのまま腕、肩口、腰・・・と触れ、感覚を確かめてみると、徐々に予感は確信へと変わっていきました。
そうです。
<本質の世界>、この空間において、私は確かに「身体」というものを獲得したのです。
取り戻した「身体」という境界を通して、改めて<本質の世界>を見渡してみると、より深い混乱に襲われました。
明るくて、暗い。
重くて、軽い。
あるはずのものが、ない。
ないはずのものが、ある。
あの頃のこと。
これからのこと。
確かめたい。
怖い。
進みたい。
止まりたい。
「ッ...」
ハッとなってふと我に返り、慌てて自分の体を抱きしめて。
指先に感じる感覚の反芻に、安堵を覚えます。
よかった、私の輪郭は、まだ消えていません。
全てを内包しているが故の虚無とでもいうのでしょうか。
これまで何も感じなかった「全」。
この身体で受け止めると、相反する概念同士に引き裂かれて、再びバラバラに溶けてしまいそうな感覚に襲われます。
本末転倒極まりない観念までが、私の中に入ってきて。
『このままこの世界に居るのは危ない』
そんな感覚が、本能的に私を駆け抜けました。
ここから出なくては。
身体という境界を得た私にとって、この世界はあまりに危険すぎます。
そう思うなり、すぐさま「彼」の元へと向かおうとして―
―ダメです。
そもそも<本質の世界>に方向も距離もありません。
「彼」はこの世界の一部にして全て。
ここにいないけど、ここにいる。
そんな存在をどうやって探すか、生憎そのような知見は今まで見たことがありません。
手足を必死に振ってみても、進んでいるかも戻っているかも分からず。
変わらない景色、感じられない反芻。
自分の行動が何も起こさないことが、こんなにも虚しいなんて。
そう感じるたびに、自分の体を抱きしめる感覚すら希薄になっていきます。
嫌。
せっかくもう一度感じることが出来たのに。
すぐ溶けてしまうなんて嫌です。
慣れない意思を使って、自我を保つということはこんなに難しいけれど。
それでも、この衝動だけが私を突き動かす。
もう一度、あなたの名を呼びたい。
私の名前を、呼んでほしい。
せめて、この声だけでも、あなたに届けたい。
「ヤリック」
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『ヤリック』
儚くて、それでも確かな熱を持った「彼女」の声。
その声に呼ばれるように、僕の中にも熱が灯る。
「ここは...」
徐々に覚めていく感覚を覚えて辺りを見渡せば、夢のような存在感を放つ光景が広がる。
夢のようで、だが確かに覚えている場所。
ゴーリキー公園。
「彼女」と共に束の間の時間を過ごし、思いを交わした場所。
だが、それだけではなかった。
彼女の心の奥底に仕舞われた、心の拠所。
出会うはずもなかった緋色の有翼獅子とそのパートナーの少年、彼らに「彼女」の未来を託した、希望の鳥籠。
それは、ヤロスラフ・ギンツブルクという人間が、決して知覚するはずのない記憶だった。
僕の記憶は「彼女」を送り出した時点で途絶えているべきものなのだから。
それでも今、僕の記憶の果てにあった場所がここであることは、きっと紛れもない事実なのだ。
彼女の未来を託した時、確かに僕の役目は終わり、この存在の全ては<あちら側>へ溶けたはずだった。
いつしかそこに「彼女」も混ざって、揺らぎのないまどろみの中で共にあったのだろう。
だが僕は今、確かにこの世界に居るのだ。
もし「あの声」と共に目覚めたこの存在に理由というものがあるのならば、答えは一つだった。
あの声は、彼女の呼び声なのだ。
彼女が僕を望み、決死の思いを届けようとしてくれた、「意思」の発現。
声や意思は、受け止められてこそその意味を成す。
だから、君と再び出会うべきこの場所で、僕はそれに応えなくてはならない。
いや、応えてみせる。
溶け行く前の最後の役割の、その続きを果たすために。
この思いが彼女に届くよう、僕自身へと自らの意思を言い聞かせる。
情けないことだが、この場所にやっとのことで定義づけられた僕は、彼女を探しに行けはしない。
それでも、僕を呼ぶ彼女の声が、決して空虚なものでないと証明するために。
彼女が進むべき道を照らせるよう、この声を届けなくては。
それが僕の役割だと、否、「望み」と信じて、彼女に呼びかける。
「ベルクト」
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『ベルクト』
自他の境界が再び曖昧になっていく中、それは突然に訪れました。
柔らかく、それでいて確かな強さを持った声。
たった一言ではあったけれど。
呼んでくれた。応えてくれた。
そう確かに感じられた瞬間、私の中に熱が灯るのを感じました。
自分が自分を意識するだけの曖昧な存在でなく、「彼」に意識を向けられることで、より一層強く感じる私の輪郭。
それを意識するほどに、私を引っ張っていく何かが増していきます。
まるで私を縛り付けるような、それでいて人の世に繋ぎ止めてくれるような。
時に振り切り、時に身を任せた、この「重み」。
上から下へ、空から大地へ。
今ようやくになって知覚することのできた「方向」、その実感は星空から戻ったばかりの記憶より一層強く。
ああ、こんな感覚を味わったのは、私が初めて人の輪郭を得る、そのまた前の―
瞬間、私の思考を断ち切るように、「下」に穴のようなものが見え。
「きゃあっ!」
重さに導かれるかのように、私の身体はその中へと吸い込まれていきました。
お付き合いいただきありがとうございます。
ベルクトとヤリック、二人の意識がようやく繋がりました。
呼び声と共に、<本質の世界>から落ちていったベルクト。
ヤリックの居る世界へとたどり着く彼女が向かう先とは。
次回もどうぞよろしくお願いします。