ガーリー・エアフォース Re:feathered Star   作:カデクル/けーで

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けーでです。
前回以上に時間が経ってしまいましたが、ヤリベル二次創作・第三話です。

人により近い存在として、新たな生を得た彼女。
今回は、そんな彼女が過去と繋がる話になります。
お付き合いいただけると幸いです。


第3話「Su-47」

「彼と、もう一度星を見上げたい」

その思いと共に人としての輪郭を取り戻し、歩き出そうとするベルクト。

しかし、距離や境界というものを持たぬ「本質の世界」の前に、

芽生えたばかりの意思と輪郭は再び溶けてしまいそうになる。

 

その時、ベルクトの決死の呼びかけが届き目を覚ました「彼」、ヤリック。

ヤリックもまた、最後の記憶のその続きにたどり着くため、ベルクトの名を呼ぶ。

 

ヤリックの声が届き、そこに込められた意識を感じることで自己を取り戻したベルクト。

これまで感じられなかった「重力」の感覚を取り戻すと共に、「本質の世界」に無いはずの「方向」を見出す。

 

瞬間、記憶に浸る間も無いままに、彼女は「本質の世界」から投げ出される―

 

 

=============================================

 

完全な世界にあり得ないはずの「方向」が生まれたことに気付いた瞬間、画一化された風景に現れた、確かな変異。

 

私の思考は「下」へと吸い込まれる感覚に断ち切られ、気付いた時には全身を駆け巡る気流の間隔が襲い掛かりました。

抗いようのない重力の手で引っ張られるのを感じながら必死に目を開けると、そこに広がるのは、青い空と眼下の雲。

間違いなく、私はこの大空の中を「落ちて」いました。

 

ですが、アニマとして空を翔けていた日々のせいでしょうか。

恐怖といった恐怖は私の中には無く、むしろ安心感すら覚えます。

見渡してみると、開放感のある綺麗な空が、雲をステージにしたダンスホールのように思えました。

あの時よりもずっと穏やかで、広く感じるこの空。でも、その色彩そのものはあの時とさほど変わりません。

だとすれば、きっと変わったのは私の方なのでしょう。

役に立ちたかった。

守りたかった。

そんな風に、一方的な憧ればかりを抱いてばかりだったけど。

最後の最後に、果たすべき役割と果たしたいと思ったことが重なって、ようやく自分で空を飛べた気がします。

そんな感慨を覚えながら、私は目の届かぬ空の奥を目指し―

 

 

―ええ、私、生身でした。非常に危機的な状況です。

人として生まれ落ちたこの体には、重みを支えるだけの推力も揚力もありません。

当然、飛ぼうと思って飛ぶことなど出来なくて。

あの時確かに私は「飛んで」いたのに。

せっかく、また生まれることが出来たのに。

 

こんなところで落ちたくないのに。彼にも会えないで。

恐怖ではなく、悔しさが私の中を駆け回ります。

 

まだです。まだ死ねません。

こんな時こそ、落ち着いて考えなくてはいけません。

彼の元へ行くために、何が必要なのか。

 

空にあるための、私のもう一つの体、ドーター。

持っていたのは風に乗るための翼、重力を振り切るエンジン。

人はそれらを纏め上げて、飛行機という器を作り上げてきました。

人が決して持ちえないものを以て、空へと舞うために。

 

でも、それだけじゃ足りません。

きっと人としての私にもあるもの。それでも、飛行機という器に無くてはならないもの。

それは―

 

おぼろげにその存在に行きついたとき、風でもない、青空でもない何かをふと感じました。

目で見えるはずもない、耳で聴こえるわけでもない、ましてや触れることなど叶わない、あなたの存在。

それでもきっと、この感覚をくれたのはあなたですよね、ヤリック。

 

そうです。

人の感覚だけでは届かない場所を見通すためのセンサー。

人の五感の外にあるものを知覚するための機能。

あの頃は当たり前のように使っていたものが、人の身にとっては千里眼のような感覚に思えます。

もちろんそれは、人の身では知るはずのない感覚。

今、彼の存在を感じたのは、紛れもなくドーターとしての感覚でした。

 

もしこの感覚が間違いでないのであれば。ドーターとしての機能もまた、私の中に存在しているはず。

つまり、今この世界において、私は航空機でもあるはずです。

 

私のやるべきことは決まりました。

 

 

(ヤリック、そこに居るのですね。)

彼の元へと向かうために。今一度彼の姿を確かめるべく意識を集中。

センサーを通して強めたこの意識を軸に、今一度ドーターとしての自分を思い浮かべます。

揚力を生む翼、推力を生むエンジン。それらを繋ぎ、思考を伝えるアビオニクス類。

そして、それら全てへとアニマとしての私を繋げるダイレクトリンク。

ドーターと一体化するプロセスを追体験するように、記憶の中へと自分を浮かべるように。

暫くして、その記憶が私の四肢に染み渡るかのように、あの感覚が戻ってくるのを感じました。

 

―ですが、まだ足りません。

身体としてのドーターの感覚は思い出せても、重力を振り切るに至らず。

まだ、欠けているもの。ドーターという身体を動かす鍵。

それはきっと、ドーターという形になる前の、さらに本質に近い部分にあるのでしょう。

私が飛ぼうとするとき、その奥底にあったもの。

 

 

『こんな感覚を味わったのは、私が初めて人の感覚を得る、そのまた前の―』

あの世界の、最後の感覚が脳裏に浮かびます。

人の感覚を得る前の記憶。それはSu-47としての、ただ一機のみ作られた実験機としての記憶。

私自身の記憶と思考で飛ぶドーターとは違い、人の手でただひたすらに空を飛ぶ航空機械。

主体を違えてもなお変わることの無い航空機としての感覚が、奥底にあるシンプルなものを呼び覚まして。

 

瞬間、点と点が繋がったような直感と共に、重力以外の「力」が、私の身体に宿ったのを感じました。

ただ真っ逆さまに落ちるだけの感覚とは違った、風を切り裂き進む方向を操るような感覚。

飛びたいという思いを改めて強く抱くと、それに応えるかの如く別の力が身体を押し上げます。

その勢いで上昇し空に大きな弧を描いたり、あえて空気を振り切るように、その場でくるりと一回転してみたり。

空を自由に舞う、この感覚。まさに航空機そのものの力が、私の中に宿ったのです。

 

 

私の身体そのものが航空機になったのでしょうか。そう思うのはごくごく自然な流れでした。

でも、腕を前に出して見えたのは、人としての手指。

おかしいです。これで飛べるはずがありません。

そう思って「主翼を眺めて」みると、白く大きな翼が見えました。

ドーターとアニマという在り方ですらない、完全に同じ存在のはずなのに、それは二つの見え方で私の前に姿を現したのです。

 

どちらも、私の持つ側面だからこそでしょうか。

自分を人と思えば人の形、航空機と思えば航空機の形。私の意識そのものが、見え方を決定するかのようです。

人の姿で生まれた輪郭のまま、二つの在り方が、同時に存在している感覚。

不思議なようで、この世界における私の在り方としては相応しいような、そんな感覚を覚えました。

 

 

あとは、「彼」の居る場所へ行くだけ。

私に向けられた彼の意識は、航空機としての感覚を取り戻した今の私にとって、更に明瞭なもので。

でも、彼がいるのがどんな場所なのか、彼がどうしているかまでは、私には分かりません。

『少しでも早く、たどり着きたい。』

彼を感じられるその方向へと感覚を集中して、加速度を上げていきます。

 

今、あなたの元へ。

待っていてください、ヤリック。




お付き合いいただきありがとうございます。

人の姿だけでは飛べなかった彼女。
自分の奥底にある航空機としてのルーツに触れ、この世界を飛ぶ力を手に入れました。
翼を得た彼女は、いよいよヤリックの元へと向かうことに。
二人の再会の時は、すぐそこまで迫っています。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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