まやかしの奇跡と、本当の魔法   作:カーテンコール

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本当に隣だったんだな

 

 

 

 

 

 疼く脇腹を押さえ、いつもと同じく最悪な気分で目を覚ます。

 今日の運勢は……多少最悪。

 

 幾つか確認したいことがあったから、今日も素直に学校へ行った。

 俺が素行を改める気になったとでも思ったのか、上機嫌な様子で隣を歩くさやか。

 残念だが、そんな気は毛頭無い。

 

 登校中に合流した鹿目と、その肩に我が物顔で乗っていた白饅頭の姿を見とめ。

 昨日の件が夢でもなんでもなく、ただ現実に起きたことなのだと再認識して。

 

「……チッ」

 

 遣る瀬無い思いに、誰にも聞こえないよう舌打ちした。

 

 

 

 

 

 さやか達と別れ、教室に入り窓際にある自分の席に座って、ぼんやりと外を眺めていたら。

 不意に横合いから、おはようと声をかけられた。

 

 珍しいこともあったもんだと思い、俺に挨拶などするような物好きの顔でも拝んでやろうと、声のした方に顔を向ければ。

 鞄を置き、隣の席に腰掛ける巴の姿があった。

 

「……ああ、なんだ。本当に隣だったんだな」

 

 特に何も考えず、思ったことをそのまま口にした言葉だったが。

 あんまりと言えばあんまりなそれに、巴の笑みが少し引き攣っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。学校近所のファーストフード店に集まり、記念すべき第1回となる『魔法少女体験コース』の打ち合わせを行う俺達4人。

 ちなみに各々が頼んだメニューの支払いは、何故か知らないが全て俺に回された。

 実行犯であるさやかをじろりと睨むも、素知らぬ顔で吹けもしない口笛を吹いている。

 

 ……ファーストフードとは言え4人分は少々痛い出費だったが、既に払ってしまったものは仕方ない。1度出したものを返せと言うのも、俺の矜持に反するし。

 まあ、それはさておき、これから魔女退治に向かう訳だ。さやかや鹿目も先日味わったであろう結界の恐ろしさと危険性を再度語る巴に対し、準備は万全だと言わんばかりに持参した金属バットを取り出してみせるさやか。

 どう見ても、学校の備品を無断で拝借してきたとしか思えなかった。意気込みは買うが、方向性が間違っている。

 

 とは言っても、その後に鹿目が持ってきた『魔法少女の衣装』が描かれたノートに比べれば、インパクトには欠けるが。

 思わず笑ってしまった俺達は、決して悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 ともあれ、魔女退治。それをするには、まず結界を探し出す必要がある。

 ごく一部を除き、魔女は基本的に結界の最奥に潜み、出てくることは無い。移動する際も、結界そのものと共に動いている。

 そうして迷い込んだ人間を喰らい、力を得ているのだ。

 

 結界への入り口を探すのは、基本的に足頼み。

 ソウルジェムの感知する魔力の残滓を追い、あちこちを移動する中々に地味な作業となる。

 

 下手すれば移動する結界の行方を捉えられず、何日も無駄にするのはよくある話だが。

 幸か不幸か、結界を探す巴の傍らには()が居る。

 魔女を否応無しに惹き付ける『誘引体質』の持ち主である俺が居れば、寧ろ探さずとも向こうから結界を引き連れてやってくることだろう。

 たまに行く風見野市を縄張りとしているアイツ(・・・)なんかは、探す手間が省けてラクだと笑うが、当人としては全く笑えない。

 

 チカチカと明滅するソウルジェムをダウジングのようにぶら下げ、ここ最近事件や事故の起きた場所を重点的に歩く巴。

 如何に結界内に引き篭もっているとは言えど、魔女は存在そのものが呪いを振り撒くモノ。結界の入り口周辺では、傷害事件や交通事故、自殺などの被害が出やすくなる。

 

 特に、病院の付近を根城とした場合は特にヤバい。元々肉体、精神的に弱った人々が集まっている為、その生命エネルギーを吸い取られればどんなことになるのかは想像に難くないだろう。

 それを聞いたさやかの顔が、幾らか強張ったものになる。

 

 

 

 

 

 歩くこと、小1時間。

 近々取り壊し予定の廃ビル前で、巴のソウルジェムが激しく明滅した。

 

「……ここだわ!」

 

 彼女のその言葉に、ビルを見上げる鹿目とさやか。

 ふと、屋上に目をやると。1人の女性が、フェンスを乗り越え今にも飛び降りようとしていた。

 

「チィッ!!」

 

 女性が飛び降りるのと同時に、俺は飛び出す。

 が、位置が悪い。足はそれなりに速い方だと自負しているが、間に合わない。

 万事休すかと、そう思った瞬間。

 

 何処からか現れた幾重もの黄色のリボンが、女性を絡め取った。

 そしてそのままゆっくりと、地面に優しく横たえさせる。

 

「マミさんッ!」

 

 さやかの叫び声に、身体ごと振り返る。

 そこには何時の間にか見滝原中の制服から、髪の色とよく溶け合うリボンと同じく黄色を基調とした、小洒落た服装へと。

 『魔法少女』の衣装へと転じた巴の姿が、あった。

 

「大丈夫よ、気絶してるだけ。魔女はビルの中に居るわ、追い詰めましょう!」

 

 

 

 

 

 結界の入り口を通り抜け、怪奇的な空間を駆け。

 俺達を先導しつつ、立ちはだかる無数の使い魔を自らの作り出した古式ゆかしいマスケット銃で以って屠り。

 

 そして辿り着いた結界の最奥部にて、異形の姿をした巨躯の怪物、『魔女』と相対した巴は。

 

「未来の後輩と、クラスメイトに……カッコ悪いとこ見せられないもの!」

 

 無数のマスケット銃と、相手を括るリボンを駆使して魔女を追い詰め。

 

「――ティロ・フィナーレッ!!」

 

 必殺と讃えるに相応しい一撃で、いっそ鮮やかなまでな手並みで魔女を倒した。

 

「…………」

 

 強い。今まで何人もの魔法少女を見てきたが、明らかに一線を画す使い手。

 アイツ以外に、ここまでの力を持った魔法少女が見滝原に居たのか。

 

「すっごい……」

 

 巴の力量に圧倒されたさやかと鹿目が、半ば呆けたように塵となって消え行く魔女の残骸を見つめていた。

 

 

 

 

 

「これがグリーフシード。魔女の卵で、私達魔法少女にとってはとても便利なアイテムなの」

 

 決壊ごと消え去った魔女の座していた辺りに落ちていた黒い球体を拾い上げ、それをさやか達に見せつつ巴はそう言った。

 魔法少女は戦いなどによる魔法の使用で、魔力を消耗する。それによりソウルジェムは徐々に濁って行き、最終的には真っ黒になってしまうのだ。

 そうすればもう、魔法は使えない。それを避ける為の手段が、グリーフシードによるソウルジェムの浄化。

 

 これこそが魔女退治の見返りで、同時に魔法少女同士が徒党を組まない理由でもある。

 当然だが、グリーフシードが浄化してくれる濁りには限度があり、故に魔法少女達の多くはそれらを独占するべく動く。

 魔女の遺物により魔法少女は皮肉にも自己の力を保ち、魔女が消えれば今度は同じ魔法少女(もの)同士がグリーフシード(それ)を求めて争う。

 

 ハタから聞けば複雑な話だが、これでさやかも鹿目も多少は魔法少女に対して見方を改めただろうか。

 こうして実態を知り、こんな戦いに身を投じることを諦めてくれれば良いのだが……。

 

「……あと1回くらいは使えそうだし、このグリーフシード貴方にも分けてあげるわ」

 

 そんな思案に心を割いていたら、ソウルジェムを浄化し終えた巴がふと物陰に向けてそう言った。

 ついさっきまで結界の只中だった、誰も居ない筈のその場所から。

 しかし巴と同じく魔法少女の衣装に身を包んだ、黒髪の冷淡な印象を感じさせる女が姿を現す。

 

「ほむらちゃん!?」

 

 声を上げ、驚いたように女の名を呼ぶ鹿目。

 横のさやかも顔を顰めた辺り、彼女らは顔見知りなのだろう。

 

 グリーフシードを差し出す巴を一瞥し、しかし「いらない」と一蹴したその女、暁美ほむらは。

 巴から鹿目へと、思考の読めない無機質な目を向けて。

 

「……?」

 

 そして何故か、最後に俺を睨み。

 尖った空気を纏いながら、静かに去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝の疼きは、首の付け根だった。

 ああ……いつもよりはマシな程度に、最悪。

 

「よう」

 

 病室の扉を開け、リクライニングベッドの背を起こして座っていた部屋の主に、軽く手を上げて挨拶する。

 

「あ……あやかさん」

 

 黄昏た風に外の景色を眺めていたそいつ……俺とさやかの幼馴染であり、妹の想い人でもある男、上条恭介が、こちらを向いた。

 こうしてこいつの見舞いに来ることも久々だ。前に比べ、少し痩せた印象がある。

 

「飯は食ってるのか? 顔色、良くないぞ」

「え……? あ、大丈夫ですよ……最近、あまり外に出てないだけで」

「息の詰まりそうな生活だな。さっさと治して退院しろよ」

「……はい」

 

 ベッドの方へと歩み寄り、傍の棚に積み上げられたCDケースがふと目に留まった。

 その内幾つかには、見覚えがある。半強制的にさやかに付き合わされ、選ばされた物だったから。

 

「……それ、あやかさんが選んだのも混ざってるんですよね……? さやかもそうですけど、兄妹揃ってレアなCD見付けるの、上手ですね。どれもこれも、ネットでも手に入らない廃盤ばっかりですよ?」

 

 そう言って、どこか空しそうに笑う恭介。

 久々に会う俺でも明らかに様子がおかしいと分かるほど、意気消沈していた。

 

「何か、あったのか」

 

 俺の問いに対し、恭介はしばらくの間答えなかったが。

 やがて顔を俯かせ、消え入りそうな声で呟いた。

 

「……諦めろって……今の医学では、どうしようもないって……」

 

 段々と、声に震えが混じって行く。

 最後は嗚咽交じりになりつつ、告げられた恭介の言葉に。

 

 俺は……目を、見開いた。

 

「バイオリンは……っ、諦めろって……! もう……動か、ない、って……!」

 

 

 

 

 

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