童顔系潜入捜査官 作:くりっぷ
延々とやらかしエピソードを流され、おれはいたたまれなかった。生暖かい目や残念なものをみるかのように視線を向けられた。
「飛鳥君、SNSやってたんだね!」
「ウチら、フォローしたから」
「......俺らのクラスメイトってヤバくね?」
「一本の映画撮れそうだな......」
「俺、怪人役やるわ」
「じゃあ、群衆その1に立候補する!」
「脚本は狭間で、衣装は原、カメラは岡島、編集は三村、スタントは岡野で......」
......あろうことか【タバスコ】と【カレー粉】によって、忘れ去りたい過去トップ10に間違いなくランクインする【みりん】の所業をぶちまけられた。おかげでおれのライフゲージは赤く点滅し始めている。......知ってるか?おれもうアラサーのいい歳してるんだぞ......
「ほら、自主製作映画の話はまた今度決めるわよ」
片岡さんがパンパンと手を叩く。......自主製作映画という恐ろしいワードが聞こえたが、スルーしよう......
「よくもまぁこんなに集めたな......律に【飛鳥】のデータは出てこないように鍵をかけたのに」
疲れた表情を隠さずに彼らに呆れ半分、称賛半分で言う。
「あの腹立つロック画面は流石にお手上げだった!」
「......でも、木村と知りあった警察官がいてね」
「その警察官が飛鳥の同期だっていうことがわかってさ」
「人の縁ってわかんないよねぇ......」
しみじみと語られる。おれの知らないところで友好を重ねていたらしい。どんなに情報制限しても、人の口に戸はたてられない。おまけに萩原は【おれ】とも【飛鳥】とも面識があった。
―――「君たちがどれほどの縁に恵まれてきたことか。教わった人、助けられた人、迷惑をかけられた人、ライバルとして互いに高めあい争った人たち......この世で出会った全ての縁が人を育てる教師になる」
文化祭での殺せんせーの言葉を思い出す。この場所だからだろうか......
窓からみえる夕日はすでにオレンジに染まり、辺りはじわりと暗くなっていく。
「......萩原さん、お墓にずっと手をあわせてるんだ」
あの軽薄な男がねェ......
「松田さんは飛鳥の敵討ちするために、訳知りっぽい俺に乗り込んできたんだぜ?」
チンピラ風情の男はあつい仁義を通してたのか......
「伊達さんも居酒屋で話したことあるんだけど、淋しそうな顔してた......」
......それはちょっと良心がいたむな。この豪快な男が凹むなんて、調子が狂う。タフじゃなかったのかよおまえ。
おれは感慨深く浸って、口を閉ざした。そんな端から見たら無反応なおれに彼らの感情が爆発した。
「どうして、黙っていなくなったの?邪魔だから?迷惑だから?......何でそんな簡単に縁を、繋がりをッ......!......切り捨てようとするの?」
「あんたがいなくなったら、さびしいし、つらいし、かなしいってまだわかんねぇのかよ......なにが【やさしくて温かい世界に殺しはいらない】だ!?
月の光が窓から差し込む。孤独を包まれた【おれ】の影を光が反射する。
「護ると決めたものはたとえ
瞳をパッと瞬きすれば、【飛鳥】になる。自然と口角があがる。
「やっと俺らと殺る気になってくれた。今回は逃げんなよ飛鳥」
ぺろりと舌を出しながらも、顎を引いたカルマは悪戯っ子の面影がみえる。サッと周囲の人間がピンッと空気を張りつめた様子をみるに、これはおれをターゲットにした暗殺だと理解した。
意見がぶつかり、衝突したときは、暗殺で決着をつける。それがこの【暗殺教室】だ。
「......待ってみんな」
好戦的な空気に潮田君の静止がかかる。
「僕が殺る......」
一歩、前に進んだ潮田君に皆の視線が注目する。
「勝手な行動で軽率だとわかってる。けど、飛鳥君はつい最近まで前線で走ってた捜査官。僕らが束になってかかったところで勝ち目は低い。なら、あの日できなかった続きを、僕とカルマが一騎討ちをしたあとの、飛鳥の不戦勝になった続きを僕に殺らせて。」
目付きが変わった潮田君に思わず息をのむ。それからニッコリと彼らがよく知る飛鳥君的スマイルを浮かべた。
「 誰であってもいつかは人に忘れられて
わざと煽るように言えば、潮田君はカッと目を見開いた。
「人はいつ死ぬかって問いの答えが
まっすぐな想いをぶつける潮田君に揺さぶられそうになる。
「だから
僕らは我武者羅に必死に生きて、命を抱えて生きて、殺してあがいて笑って泣いて喧嘩して、生きてるんだッ!」
境界線ギリギリで揺れる心を弾く。
―――「君には帰る場所があるのですから、そう易々と命を投げ棄ててはいけません」
きっと誰もがそう願った。少なくともあんたの教え子たちは、あんたの帰る場所になりたかった。
―――「君がいなくなったら、哀しむ人がいるってことを忘れないでください」
震えた手を取って紅く哀しい瞳を写した。触手がそっとやさしくおれの頭に触れた。
――― 「......頼みましたよ、飛鳥君」
心を抉る醜いくらいに眩しく美しい愛情を生徒に遺して旅立った。
始まりは突然だった。おれたちの出会いは偶然で、おれたちの旅立ちは必然だった。運命は気紛れでときに残酷で、出会い別れたかと思えば、また巡り会う。
今日はとくにそんな予感がする。
研ぎ澄まされた指先に目を向ける。
今のおれの
一瞬の表情を見抜けなければ殺られる。
――――パァンッ
潮田君のクラップスタナーが響き渡った。