蒼の彼方のフォーリズム 天を翔く翼   作:八雲ルイス

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どうも八雲ルイスです。

すみません、また期間空いてしまいました。なのはの方に至ってはもう半年………少しずつでも書いていかないとなぁ………


第5話 ぇ?100周がいい?

side 晶也

 

今日は4月1日。何の日かは分かるな?そう、始業式だ。今日から俺達は3年に進級していわゆる受験生になった。あまり実感は湧かないけどな。

ちなみに式自体はさっきぱぱっと終わったとこだ。で、今はホームルームまでの 少しばかりの空き時間。

 

「ぁ〜ぅ〜………どうしよう〜。一世一代の大ピンチだよ〜」

 

と、そんな俺の横で机に突っ伏して項垂れる窓果。まるで顔の穴という穴から魂が抜けていってるみたいだ。ま、何を言いたいのかはだいたい分かるけどな。

 

「元部長さんが卒業していなくなっちゃいましたからね〜。これで新米部長さん、晶也さん、みさきちゃん、真白ちゃん………わわわっ!4人しかいませんよ!」

「おーい、自分のことカウントしてないぞ〜。明日香退部すんの〜?」

 

代弁ありがとう、明日香。けど、みさきも言うように自身を数えてないな。「辞めませんよぉー」と慌てる明日香を慰めるみさきはどこか眠たそうだ。いつも通りか。

 

「部員はギリギリ5人だから同好会ってことは無いけどな。それより深刻なのは顧問だろ?」

 

そう、今俺達にとって最も深刻な問題、窓果に言わせるところの一世一代の大ピンチは俺達のFC部が顧問不在なところだ。去年は各務先生が引き受けてくれてたんだけど、3月いっぱいで辞職してしまったらしい。何でもFCのプロに復帰するんだとか。これでも本来なら去年の秋大会後に辞職するつもりだったのを3月いっぱいまで引き伸ばした(他の先生方が説得した)らしい。FC部の練習にもほとんど顔を出さなくなってたしな。元々あまり顔出さない人だったけど。

 

「一応誰か空いてる先生に名前だけ借りるって手もあるんだけどね。けどそれだと日向くんの負担が増えちゃうでしょ?」

「そうだな。次の夏大会は本格的に選手復帰するし、そうなるとさすがにみんなのことを指導する余裕はないかもしれない。それ以降は受験が控えてるしな。コーチと選手を兼任していた真藤さんの凄さを痛感するよ」

「そもそも明日香のレベルが高すぎて日向君自身の練習片手間って訳にはいかなくなり始めてるもんね〜。私がコーチも出来たら良かったんだけど………」

 

3月いっぱいはまだ本格的な練習はしなかったから何とかなったけど、年が明けてしまった今はそうもいかない。GWには去年みたいに高藤と合同練習の予定(向こうの新部長の佐藤院さんと話して決めた)だしな。

最悪白瀬さんにお願いするしか………いや、でもお店があるしなぁ………

 

「それはそうと晶也さん、そこの空いた席はなんなんでしょう?」

「さぁ………座席表も空白だったしな」

「もしかして転校生!?」

「片付け忘れてたんじゃな〜い?」

 

片付け忘れはないだろ。

 

「お前らー?席につけー」

 

っとと、そんなこんなと話してたら先生だ。確か数学を担当してる山本先生だったな。

その山本先生の一言で蜘蛛の子を散らすようにみんな席へと帰っていく。………ぁれ?先生の後ろについて入ってきたのって

 

「沙希ちゃん!?!?」

 

そう、明日香の言う通り、久奈浜学院の制服で身を包んだ沙希ちゃんこと乾沙希だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───放課後

 

「なるほどな〜。それでこっち(久奈浜学院)に転校してきたんだ」

「うん。それだけじゃないけど大体あってる」

 

午前中だけの授業を終えて、俺達FC部メンバーと乾は部室たる廃バスで昼飯ついでに急な転校について乾から聞いていた。ライバルたる明日香と一緒に空を飛びたい、一緒に研鑽したい。それだけでは無いらしいけど、要はそういうことらしい。

休み時間に聞かなかったのかって?転校生だぞ?恒例イベント(質問責め)があって聞く機会がなかったんだよ。そういや、隣のクラスか?から黄色い悲鳴みたいなのが聞こえてきたな。きゃーって。語尾にハートが大量につきそうなやつが。他のクラスにも転校生が来たのかな?乾がいるんだからイリーナ………で女子からあんな声は出ないか。じゃあ誰だ?

で、今日は午前中だけ授業があって、午後からは俺らみたいに部活がある人だけ弁当持参で部活ってわけだ。ま、俺はこの後着替えに校舎に戻らないといけないんだけどな。

 

「ごきげんよう、皆さん。お早いですね」

「こんにちは〜………ぁ、やっぱり沙希さんもいたんですね」

 

おっと、これは珍しい組み合わせ。乾がいるからそうだろうな、とは思ってたイリーナ(もちろん久奈浜の制服だ)と真白。恐らく真白がここまで案内してきたんだろうな。ここ、知ってないとまず来れないし。

 

まぁ、それはそれとして、当面の問題は顧問………出来ることなら指導の出来る人がいいよなぁ。最悪は窓果も言ってたように空いてる先生に名前借りるしか。俺の個人練習時間、取れるかなぁ………

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、やってるやってる」

 

転入の手続きやクラスでの自己紹介、それから午前中の授業を終えて今はFC部の練習風景を眺めてる。自己紹介が地味に疲れた。まさか「師匠は神代龍月です」って言ったら女子全員が悲鳴あげるんだもん。師匠人気すぎでしょ。

場所は久奈浜学院近くにある海岸、久奈浜学院FC部はそこで練習してる。地上ではマネージャーの子がデータ取り、上空では日向君がコーチとして練習を進めてる。

ただ、このままだとダメだな。いや、練習方法がダメとかそういう意味じゃなくてな。さっき職員室行った時にも言われたんだけど、顧問がいないこと。的確な指導者がいないこと。それが1番の弱点と言える。

今は日向君がコーチをやっている。以前はそれでよかった。日向君はコーチに専念できたからな。けど、その日向君が選手復帰した今はそうも言ってられない。自身でも練習しないといけないからな。複数人を教えると言っても、そこに自分自身を含めると何かと難しくなる。客観的に見れなくなるからだ。マネージャーの子とリーナちゃんがいるからそれでもまだマシな方みたいどけどね。

見たところマネージャーらしき子はコーチに向いてないっぽいし、リーナちゃんも複数を見るとなると難しい。ずっと沙希ちゃんだけ見てきたわけだから無理もない。

さらに明日香ちゃんという俺に匹敵する世界レベルのプレイヤーがいるとなると、ブランクの長い日向君自身の練習片手間だと難しいよな。

 

「かと言って俺が加わっても事態が悪化するだけだしなぁ………俺はコーチングは出来ないし。個人練習だけしてたらチーム内の士気にも関わるしな」

「簡単なことだよー。何の為におねーちゃんが来たと思ってるの〜?」

「ぇ?そりゃあ追々くる師匠の補佐………ってえぇぇ!?!?」

 

姉貴!?何で?いつの間に?

 

「空翔くんの言うことだと半分正解。もう半分は………今思ってる通りなんじゃないかな?ほら、行くよー?」

「ぇ?ちょっ………待っ………姉貴!?」

 

気付いたら俺の隣にいた姉貴は、そう言うと俺の手を取り、リーナちゃん達の元へ。それに気付いたリーナちゃんは………うん。だろうな。完全に絶句してる。隣のマネージャーの子はポカーン。うん、だろうな。

 

「やっほー、イリーナちゃん。久し振り〜」

「ぇ?えぇ!?ツバキさん!?空翔まで!?」

「ぇ?ぇ?ぇ?」

 

うん、そりゃあそうなるか。俺にもわかってないし。そんなこんなしてる内に空にいた人達全員降りてきた。真白ちゃんやっほー。

 

「ぉ、ちょうどいいタイミングで集まってくれたね。軽くミーティングしよっか〜」

「ミーティングは良いんですけど………誰ですか?隣にいるのは………もしかして天野空翔!?」

「ぁはは………久し振り、日向君。みんなも練習お疲れ。まだ始まって大して経ってないっぽいけど」

 

とりあえず降りてきた5人には姉貴が持ってきてたスポドリを渡しておく。

 

「天野さん!?ということは神代さんも!?」

「空翔、でいいよ、明日香ちゃん。知らない仲じゃないだろ?というかやっぱり日本では俺がいる=師匠(神代龍月)がいるって認識なのな」

「空翔くんは有名だけどジュニア止まりだから仕方ないよ〜。ほら、そんなことよりミーティング。まず私はツバキ·カミシロ。件の神代龍月の従姉妹だよ。一応MIZUKI社、明日香ちゃんや龍月くんのグラシュのメーカーね、の社員で出向扱いで彼のマネージャー業務もやってるの。今は龍月くんの要請で臨時の外部コーチに来たんだよ」

 

ぇ”………マジで?師匠そんなことしてたの?聞いてないよ?1週間くらいでこっち来る、とは聞いてたけど。

 

(まぁ、でも姉貴が来るって連絡すらなかったしなぁ………)

「空翔さん空翔さん」

 

師匠は連絡が行き渡る前に行動起こすからなぁ………とか考えてたら隣から俺のシャツの袖を引っ張られる感覚が。振り向くといつの間にか真白ちゃんがそこまで来てた。

 

「あの人大丈夫なんですか?私みたいなレベルの人相手ならともかく、こっちには世界レベルの明日香先輩がいるんですよ?沙希先輩も間違いなく全国レベル以上ですよ?」

「あぁ、その事か」

 

まぁ、姉貴は普段ほんわかしててどこか抜けてるし、マネージャーがコーチングまでできるとは限らないしな。

 

「とりあえずは大丈夫。姉貴本人の運動神経は並程度だけど、それを補う知識がある。それに俺の師匠がいない時のコーチは姉貴だぞ?自主練のメニューも少し前までは全部姉貴が作ってたし、今でもそれを参考にしてメニュー組んでる。マネジメントの一環とか言ってたっけ」

「ふぅ〜ん」

「ぁ、でも真白ちゃん………ともしかしたらあの黒髪の子「みさき先輩です」………みさきちゃんは少し覚悟しておいた方g「空翔くん。とりあえず今はこの子達に集中するから終わるまでひたすらその辺飛んでて。3倍で50周ノルマね」」

「………つう訳だから行ってくる。クリアードフォー·テイクオフ!」

 

それ以上言うな、ってことか?流石にそれは鬼

 

「ぇ?100周がいい?」

「50周逝ってきまァァァす!」

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 真白

 

空翔さん、飛んでっちゃいましたね。ものすごい勢いで。

 

「3倍を………50周………」

 

ぁ、あれ?沙希先輩震えてません?と言うか3倍50周ってどゆこと?とりあえずものすごい距離飛ばされてるってのだけは良くわかるんだけど。

 

「ん?あぁ、今のは普通のフィールドフライだよ」

「でも、それにしては乾が怯えて………」

「ただし、1辺の長さが3倍のフィールドフライだけどね。ぁー、沙希ちゃんは………いいや、こっちで。1年でどこまで変わってるか見たいし」

 

えっと………普通1辺300メートルだから3倍で900メートル?それを50周だから………わかんない!

 

「………トータル180キロ以上」

 

………ぇ?

 

「「「「「えぇぇぇぇ!!!???」」」」」

「大丈夫だよ。君たちにはまだあのレベルはさせないから」

 

まだ!?てことはいつかはやるの!?

 

「空翔くんのことは脇にでも捨てておいて、練習やるよー。と言っても私は君たちの実力をおおよそしか知らないからね。とりあえず変則フィールドフライ10周から。明日香ちゃんは最初はフォースライン上で妨害。軽く邪魔するだけで本気のディフェンスはしちゃダメ。みんなはそれを避けて飛んでブイタッチ。お互い攻撃は禁止だよ。全員明日香ちゃんを抜いたら最後の人が妨害役交代。窓果ちゃんはみんなの1周毎のタイム計測お願いね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───約1時間後

 

「ひぃ………ひぃ………」

「ぁー、もうダメ。死にそう」

 

件の変則フィールドフライから1対1のドッグファイト連戦やラインダッシュ、ローヨーヨーやハイヨーヨーみたいな基礎練習をみっちり1時間。正直私たちは汗を滝のように流して全員グロッキーになってます。晶也先輩なんかこんな時期なのに頭から水を被ってるし、みさき先輩は顔の穴という穴から魂が出てるっ!?

というか私たちの実力を測るって言ってたけど、ここまでするの!?

 

「高藤の、トレーニングも………ここまでじゃありませんでしたっ」

「しかもこれでやっと1時間………だからな。ブランク持ちにはキツいぞ、これ」

 

ちなみに今は見ての通り休憩中。空翔さん(今更だけど先輩って呼んだ方がいいのかな)はまだ上空をものすごい速さで飛んでます。ツバキさんは今イリーナ先輩や窓果先輩とデータを見てます。

 

「っ、ふぅ………ここまでキツいの、久しぶりだった」

「イギリスにいた時も、沙希ちゃんはこれくらいしてたん、ですか?」

「ここまでするのは、月一くらい。たぶん私たちの体力、の限界を見たいんだと思う」

 

明日香先輩と沙希先輩、晶也先輩はよく会話出来ますね!?

 

「はーい、楽にしたままでいいから話聞いてね〜。とりあえずだけど、大体はみんなのこと分かってきたよ。これから当面の課題を1人ずつ言っていくね」

 

そんなぐてーっとした私たちのところに分析を終えたらしいツバキさんが来る。

 

「まずは………そうだね。明日香ちゃん」

「は、はいっ!」

「明日香ちゃんは少し素直すぎる節があるね。目線や予備動作で次動く方向がバレバレだから相手に動きを読まれやすいの。身に覚えないかな?格上相手にした時に攻撃やフェイントが全く通用しなかったことが」

「ぁ………はい、あります。空翔さんのミラージュに触れませんでした」

「アレは少し例外的なところはあるけど………その時、明日香ちゃんは事前にどこ攻撃するか考えてから行動してたでしょ?で、実際に接触する直前、空翔くんはその一瞬で明日香ちゃんの僅かな体の動きと目線で避ける方向決めてたんだと思うよ。避ける直前に嘘の動作、目線を混ぜることで明日香ちゃんの決断に揺さぶりをかけて動きを鈍らせつつ、ね」

 

ちょっと待ってください?その試合見てましたけど、あの空翔先輩の爆速だと見てから判断するまで一瞬もないんじゃないですか!?

 

「見てたのは目線だけじゃなくて、明日香ちゃんの動きを一挙手一投足くまなく観察してるわけだけどね。その辺は龍月くんが師匠な影響だね。龍月くんのドッグファイトを振り切ろうと思ったら動きを見てからじゃ遅いからね〜」

「ぁ、だから頭真っ白になっちゃってとっさに動いた最後の攻撃は当たったんですね?」

「正解だよ。それを毎回やれってのは無理な話だから、対策は追々していこっか。で、次は───」

 

そこから沙希先輩やみさき先輩、私に晶也先輩のダメ出しがズバズバと飛んできました。ちなみにざっと挙げると………

 

沙希先輩:バードケージに頼りすぎ。悪いことではないけど、それが通用しない格上相手(明日香先輩やみさき先輩みたいな)にはゴリ押しで試合を進めてる感じがある。実際それでみさき先輩には負けかけて、明日香先輩には負けてる。

みさき先輩:そもそも体力不足。あとは自信を過大評価する節があるのと焦ると冷静さを失いやすい。そこさえ改善できれば実力自体はいい線いってる。

晶也先輩:技術は目を見張るものはあるけど、判断がコンマ数秒レベルで遅れがち。ブランクが長いから反復練習していこう。

 

と言った感じです。

ぇ?私?

 

「そうだね〜………とりあえず、地力上げてこっか」

 

他のみんなとは違って、少し考え込んでからこの一言だけでした。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約2時間弱ほど。姉貴の指導でみっちりと訓練(アレを練習と呼ぶのには少し生温かった)を受け、今日の部活は終了………

 

「まだ終わらないよー?とりあえず着替えたら部室ね。30分あげるよ。それから少しだけミーティングして今日は終わりだよ」

 

なわけないか、まだ16時過ぎだ。これからミーティングを少しだけやるらしい。姉貴は、汗を滝のように流して肩で息をするグロッキー寸前の明日香ちゃん達部員に声を掛けてから部室の方に行ってしまう。

俺は姉貴の訓練はよくやってたし、師匠との訓練だとこれでも温い方だからある程度は慣れてるのもあってまだ余裕はある。まぁ、慣れてるとは言ってもキツイものはキツイんだけどな。

 

「………真白ちゃーん。生きてる?」

「そう………見えますか?………見えるなら、眼科行った方が………良いですよっ」

「………まぁ、だろうな。ほら、これ飲んで水分補給しとけ?」

「ありがとう、ございます」

 

グロッキー寸前のみんなの中でも特に酷い真白に声をかけてスポドリを渡しておく。姉貴はみさきちゃんを体力不足って評価してたけど(その評価自体は正しくて真白ちゃんの次に酷いのがみさきちゃん)、真白ちゃんはもっと体力が足りてない感じがある。要強化ポイントだな。姉貴が真白ちゃんの評価を先送りにした理由もだいたい察しがつくし。

 

「みんな、とりあえず汗拭いたら学院戻ろう。窓果ちゃんはみさきちゃんに、リーナちゃんは真白ちゃんとペアリングしてあげて。自力で飛ぶのはきついだろうから。明日香ちゃんと沙希ちゃんは1人で行けるな?無理そうなら2人でペアリングしなよ?日向君は1人で飛べ」

「俺の扱い雑すぎないか!?」

「男同士でペアリングする趣味はないし、日向君も嫌だろ?」

「男同士のペアリングっ!?」

 

おい窓果ちゃん何故そこに反応する。何なの?まさかそういう人種(腐女子)なの?ちなみに唯一名前を知らなかった窓果ちゃんは鬼のフィールドフライが終わった時に名前を聞いた。

 

「ま、それもそうか。あと俺のことは晶也でいいぞ?他のみんな名前呼びだしな」

「じゃあ晶也は1人で飛べ」

「だから雑だって!?」

「反論する元気があるなら行けるな。それともペアリングして欲しいのか?」

 

うぐぐ………と苦虫を潰したような顔をする日向君改め晶也。そしてそのまま校舎の方へ飛んで行った。

 

「あの〜空翔さん………さすがに晶也さんの扱い酷くないですか?」

「ん?あぁ、今の?別に拒絶したとかそういう類じゃないから大丈夫。真白ちゃんやみさきちゃんみたいに本当にダメそうなら小脇に抱えてでも連れてくよ。まぁ、男同士のちょっとした戯れみたいなもんさね。ほら、のんびりしてる時間はないよー?急いだ急いだ」

 

俺も校舎の更衣室向かわないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、ミーティング始めよっかー」

 

あれから予告通りきっちり30分後。着替えて部室たる廃バスで休憩しているところに姉貴が来た。

1つ思ったんどけど、この学校ってシャワー室ないのな?運動部そんなに活発じゃないのか?そりゃ、高藤とかに比べたらそうなのかもしれないけどな。汗は拭きはしたけど、やっぱりシャワー浴びたい気もするしな。

あと、なんで俺自然とここに混ざってるんだろう?部員じゃないのに。

 

「とりあえず大きな連絡事項は2つ。1つ目が新入生歓迎会、そこの部活紹介。これに関しては部長の窓果ちゃん、明日部長会議あるらしいね?そこでアナウンスあると思うからお願いね。詳しい内容は知らないけど、何ならミニゲームでも見せれば興味持ってくれると思うし。チラシとかも任せるよ。その時はイリーナちゃん、手伝ってあげてね」

「おぉぉ!やっと部長らしいことが出来るっ!」

「わかりました、新人マネージャーとして私も協力しましょう」

 

むしろ今まで部長らしいことしてなかったんかいっ!

 

「1つ目はこれで終わり。2つ目、これがかなり重要なんだけど………FCそのものに関係する話だよ」

 

FCそのものに………?ルールが変わった、とか?まぁ、去年の秋の大会でそれが起きても不思議じゃない程度には色々あったからなぁ………

 

「今のFCの試合、これの主な形式はわかるよね?晶也くん」

「ぇ?ぁ、はい。今現在の公式試合は地方単位から世界単位のものまで全て個人戦による勝ち抜きトーナメントで統一されてます」

「正解。まぁ、これは実際やってる君達ならわかるよね。でね、今年はそれが少し変わって、夏の大会から試験的に導入されるんだよ」

 

となると新しい形式………?

 

「もうここまで言えば何となくはわかるんじゃないかな?夏の大会から試験的に導入される新ルール。それはズバリ!『団体戦』だよ!」

 

姉貴は部室内にあったホワイトボードを裏面にひっくり返す。するとそこにはいつの間に書いたのか、上半分くらいを占める大き字で『団体戦』と書いてあった。トゲトゲの吹き出しとバーンという擬音語と一緒に。

ぇ?これ仕込むためにさっさと部室に引き上げたの?姉貴のノリについていけてないのか、みんなポカーンとしてるし。とりあえず師匠なら何か知ってるだろ。コールしてみよ。

 

「………団体戦だよ!」

『いきなりやかましいぞツバキ!』

「ハイゴメンナサイ」

 

俺らが無反応だったからか、姉貴は最後のとこだけまた繰り返す。そしてタイミング良く(悪く?)それが師匠に繋がったのと被ってしまい早々に怒鳴られる姉貴。

 

『ったく………まぁ、今ので何となく察した。とりあえずツバキ、俺の説明終わるまでそこに正座。空翔、ツバキの膝になんか重り乗せとけ。あとついでにツバキに持たせた資料配ってくれ』

「あいよー」

「そんな殺生なぁ………」

 

んーと………とりあえず中身が満タンのペットボトル(2L)3本ほどでいいか。姉貴の持ってる資料………これか?ホワイトボード横に引っ掛けてるヤツ。あぁ、これだ。団体戦要項って書いてある。

 

「ヒザイダイ………」

「師匠には逆らえんのです、すまん姉貴」

 

半泣きの姉貴が少し可哀想だけど、相手が師匠だから………ごめんね?

 

『資料は行き渡ったか?………ぁー、最初に言っておくが、この後説明出来ないくらい騒いだらツバキと同じ刑だからな?まず自己紹介だ。俺は神代龍月。そこにいるツバキの従兄弟で空翔と沙希の師でもある。こっちはまだ忙しいから、細かいことはまた後ほどになるが………』

 

師匠が用意していた資料は色々と難しいことが書いてあって師匠の説明も15分くらいかかっていたけど、それを簡単にまとめるとこうなる。

 

①1チーム6人にて3人制で試合を行う。試合は順にを先鋒戦、中堅戦、大将戦と呼称する。

②レギュラーメンバーは予め登録しておき、緊急の場合を除いて交代は認めない。

③無効試合等の理由により引き分けとなった場合、試合に出場した3名より代表1名選出し、追加の試合を行う。

④第2試合においてのみ、第1試合目未出場メンバーのみで構成すること。それ以降の編成は自由とする。また、第3試合目までにメンバー全員が必ず試合をすること。

⑤試合そのもののルールは個人戦と同様。

 

『とまぁ、ざっと説明したがこんなところだ。申し訳ないが、今は質問は受け付けれないから、ツバキにしてくれ。ツバキでも答えられないことは後ほど俺の方から答える。急ぎ足になってすまないが、これから会議があるんだ。切るぞ?』

「了解。ありがとう、師匠」

『あぁ、それとウチの空翔とポンコツ従兄妹のことをよろしく頼むな』

「「師匠(龍月くん)!?!?」」

 

師匠爆弾投下して通話切っちまった!?

………まぁ、いいか。とりあえず姉貴を解放しておこう。

 

「ぁーぅー………お膝真っ赤だよぉ」

「まぁ、ここは元々バスだし基本土足らしいし………」

 

練習中はMIZUKI社で販売してるジャージだったけど、今は私服で下は膝くらいまで隠れるタイプのスカートだからな。

 

「ぁー、コホン。とりあえずみんな、龍月くんの説明でわかったかな?質問あれば聞くよー?」

「はいっ!」

「はい、明日香ちゃん」

 

出た、姉貴の得意技(?)の瞬間真面目モード早変わり。この切り替えの早さはいつ見てもすごいよな。

 

「3人制ってどういう意味ですか!?」

ズデーン

 

そっからかいっ!?

いや、見事にずっこけたよ。明日香ちゃん以外全員。ある意味で明日香ちゃんらしいか。

 

「ぇーっと、剣道の団体戦はわかる?」

「わかりませんっ!」

「簡単に言えば、チームから3人選んで1人ずつ試合をして、2勝先取でそのチームの勝利ってことだよ」

「ぁー、なるほどです」

 

ま、小難しく書いてはいるけど、要はそういうことだからな。剣道とかテニスとかの団体戦と同じ様なルールだね。

 

「でもこのルール、よく出来てるよ。この手の団体戦でよくあるチームの切り札の温存を認めない仕様になってる」

「さすが窓果さんも気付きました?」

「ぇー?どういうことよ?」

 

ぉ、マネージャー2人組は面白い所に目をつけてる。みさきちゃんはそこまで分からないって風だね。見たところ真白ちゃんと沙希ちゃんもかな。

 

「晶也さんはわかりまして?」

「あぁ、面白いよ。このルールは。第4項、ですよね?ツバキさん」

 

さすが晶也もずっとコーチしてただけある。この第4項はこの団体戦で戦略的にも大きい意味を持つ………と俺は勝手に思う。そういうルールだ。

 

「ツバキさん。どういうことですか?」

「えっとね、この手の団体戦は特定のメンバーを温存するって戦略は鉄板だよね?先に見せたら対策されるから。窓果ちゃんが言うように切り札として温存するんだよ」

「うんうん。スポーツ漫画とかでもよくあるよね。某アメフト漫画の神〇寺ナ〇ガ戦での雪〇みたいな」

「例えがものすごくアレだけど、正解だよ。で、このルールだとね、メンバーは全員で6人で試合は3人制でしょ?単純計算で2試合目で総入れ替えすれば全員試合に出たことにはなるよね。そこまではわかる?」

「確かにそうですね。1試合3人なので2試合すれば全員出場しま………ぁれ?でも2勝先取だと大将は試合しない場合もありますよね?」

 

ぉ、真白ちゃん面白い所に気づいたな。ま、ここで俺が口出したら姉貴が拗ねるから黙っとこ。

 

「だからこう書いてあるでしょ?『第3試合目までにメンバー全員が試合に出ること』って」

「ぁ、なるほど!もしストレート勝ちして大将戦がなかった場合でも大将が第3試合の先鋒か中堅になれば」

「そうだよ。全員平等に試合に出るから温存はできない。けど、それ以降は自由だから、あえて圧倒的な力を先に見せておいてこいつもいるぞって圧力をかける作戦も取れる。ある意味で戦略性が高いルールなんだよ。これは余談だけど、実際に選手を何人も招集してテストプレイはしたみたいだよ。その中にみんなの知ってる選手もいるね」

 

姉貴の最後の一言。これを聞いて配られた資料に釘付けになる久奈浜の面々。そのリストの中にあったのは真藤一成、青柳紫苑の2人の名前だった。

 

「真藤さん!?」

「お兄ちゃんも!?3月になって東京行ったと思ったらこれだったの!?」

 

実の妹の窓果ちゃんすら知らなかったらしい。まぁ、機密だろうし仕方ないか。

………まぁ、それはそれとして1つ気になる。

 

「なぁ、姉貴。確認なんだけど、団体戦って6人1チームだよな?」

「そうだよ〜。書いてあるとおり」

「………人数足りなくね?」

 

俺の一言でハッと気付き、メンバーの人数を改めて数える晶也、明日香ちゃん他数名。マネージャー2人を除いて、晶也、明日香ちゃん、みさきちゃん、沙希ちゃん、真白ちゃん。5人しかいない。

 

「ホントだ………1人足りない」

「はわわわわ………どうしましょう!?こうなったら部長さんが選手になるしか!」

「ならないよ!?」

「ぇ?人数足りてますよね?」

 

晶也と明日香ちゃん、窓果ちゃんが慌てる中、比較的落ち着いてる真白ちゃん、沙希ちゃん、みさきちゃん、あとリーナちゃん。

ぇ?足りてる?そんなバカな。

 

「晶也〜。誰か除け者にしたんじゃないの?」

「いや、待てみさき。さすがにこの人数でそれは無いだろ」

「晶也さんにみさきちゃん、真白ちゃん………沙希ちゃん………4人しかいません!」

「明日香ちゃん、そろそろ自分をカウントしよ?」

 

だよな?足りてないよな?

 

「空翔は飛ばないの?」

「そうですよ!空翔先輩を数えてませんよ!」

 

………………………はい?

 

「いや、俺そもそも部員じゃ………」

「あ、それなら空翔くんの入部届けは私が出しておいたよ〜」

 

姉貴ぃぃぃ!?!?

 

「それにね?見てみて?」

「ぇ?」

 

姉貴に言われて指さす方向、みんなの方を向いてみる。

 

「「「「「「「じー………」」」」」」」

「このみんなの期待を裏切る勇気はあるのかな?ジュニア世界チャンピオンの天野空翔くん?」

 

ぐぁぁぁ………みんなの視線が痛いっ!まさか師匠はここまで読んだ上で俺の転入を計画したのか!?しかも実行犯は姉貴!

 

「謀ったな姉貴っ!!」

「ふっふっふー。あんな師匠を持った己の不幸を呪うがいいっ!」

 

やられた………完全にしてやられた。ここでNoって言ったら明らかに俺悪者じゃないか!断る理由も特にないから余計にタチが悪い!よし、こうなったら………

 

「よし姉貴もう一度言ってみろ!」

「空翔くんにしては生意気だなー?あんな師匠を持った己の不幸を呪うがいい!」

 

よし、録音完了。姉貴ってこういう厨二っぽい言葉何かと使いたがるからな。あとは師匠に送って、と。

 

「くっそぉ………考えてみれば不自然過ぎたんだよな、俺が転入する意味が全くないし。こういうことか」

「空翔先輩………その………ダメですか?」

 

まぁ、してやられたこと何も思わない訳では無いけど………とりあえず姉貴のことはスルー。

 

「だぁぁ!わかったよ。俺も入れてくれ!」

 

この後部室内が歓声に包まれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで私はあれを2回言わされたのかな?」

「ん?『あんな』師匠って言ってたこと、録音して師匠に送っておいたから」

「に”ゃ”っ”!?」




高藤組も早く出してあげたいと思う今日この頃。

………というか久奈浜がチートすぎる気がしなくもない()
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