世界が緑色に染まった。
別に世界と言っても、そんな地球丸々という訳じゃない。そもそも僕はつい先程、魔法という存在を知っただけの一般の子供だし、世界中がこうなってるなんて知るわけがない。
僕が言ってる世界とは、僕がこの町で生活する上でよく行ったりするところ。僕の日常が綺麗スッポリと収まる世界の事だ。
「その様子からして、どうやらこの現象を見るのは初めてとみる」
「だ、誰!?」
またも唐突に声を掛けられ、反射的に辺りを見渡す。
数秒前から自分の常識が
本当に勘弁して欲しい。
「別に許してくれとは言わない。 恨むのなら恨め、抵抗しようとしまいと、痛いのは変わりないからな」
声はする。と言うか、物騒すぎる台詞だ。しかもさっきから辺りを見渡しても誰も居ない。
そこでふと、声が上から聞こえてくる事に気が付いた。
言い様のない恐怖に体が震えるのを抑えながらも、上を見上げた、見てしまった。
自分の心臓を貫く程の鋭い刃を向けられたような、そんな感覚になるような鋭い視線が、剣のような形の機械を手にして、僕を見下ろす、その姿は―――――――
「頂いていくぞ、お前の魔力」
――――――幽鬼。
体が竦んで逃げることが出来ない。
そんな僕に、白い少女に渡されたのと同じような本を僕に向ける。
――ゾワリ!!
身の毛が立った。
動かなければ、死んでしまうと脳が警告を出す。
「何!?」
本を向けてきた女性は、急に走り出した僕に驚いた声を上げた。
だけどそれだけ、後ろからは恐怖が迫ってるような感覚に襲われ、足に力を込めてさらに加速する。
後から考えても、その時の速力は僕が普段出せないような速度だった。
☆
あれから何れだけ走っただろう。
目的地もなく、恐怖に刈られたまま走り続ける僕の精神とスタミナは限界を超えて、とうとうその足を止めた。
そしてそれを待ってたかのように、強烈な痛みと共に力が抜けていく感覚に襲われた。
「うわぁああああがぁぁああああああっ!!!」
そして僕の何処にでもあるような日常は終えて、魔法が飛び交う日常という物語が始まった。
――ポーン。
『魔法少女リリカルなのは//黄昏と薄明』
第二話 魔法の力
「う、うぅ……」
目を閉じていても分かるほどの強烈な光によって、うっすら目を開けると、そこは不思議な空間に存在する庭園だった。
「ここは、って、ええ!? これはいったい……」
僕は辺りを見渡してると、自分の格好がThe Worldにインしてる時のオレンジ色の冒険者風の格好をしたアバターの姿になってるのに気が付いた。
「キミ、此処が何処だか分かる? それと僕の格好がどうしてThe Worldのカイトの格好をしてるの!? 僕はさっきまで確かにリアルに居たんだ!! それと、キミは誰? さっきも会ったよね? あと、あとっ……」
混乱してる僕の視界の端に、白い少女が此方へとやって来るのが見え、会話が出来る距離まで近付いた白い少女に無遠慮で問い詰めると、白い少女は僕の口元に人差し指を当てて、僕の言葉を遮った。
「私はアウラ。此処は黄昏の書がカイトと私の心を繋いだ時に出来た空間で、カイトがその格好をしてるのは、カイトが戦闘に適した姿がその格好だと思ってるから。そして貴方にさっき会ったのは私の分身。そしてこれから話す事は、世界の危機……どうか力を貸して欲しい」
真っ直ぐとなんの曇りのない目でアウラが言うけど、正直、世界の危機を救うほどの力は僕にはない。
だけど、アウラが困ってるなら助けてやりたい。
出会って間もないけど、会話らしい会話をしてない、ただ問い詰めて答えただけのやり取りだけど、僕の力がアウラを助けるなら、助けたい。
「……うん、僕に出来る事があるなら……でも、世界の危機なんて大事すぎる。プレッシャーに背負えず、押し潰されてしまいそうだけど、アウラの助けになるって言うなら、なんとか頑張って行けそう」
「……………………クスッ、ありがとう、カイト」
僕の言葉に目をパチパチさせて呆気に取られてる顔をしたアウラは、言葉の意味を理解してクスリと笑って、初めて笑顔を見せてくれた。
そしてアウラが話してくれた危機は、意外にも僕らが住む海鳴市で起きるモノだった。
☆☆
「
「そう、この9つの存在を倒さない限り、世界に平和は訪れない」
アウラから与えられた情報は、とても一人でどうこう出来るような問題じゃなかった。
「――僕、一人で?」
今の僕は先程とは違って弱々しく、藁にもすがるような顔をしてるだろう。
それほどまでに、胸に占める絶望感はとてつもなかった。
「一人じゃない。私が居る。――皆が居る!!」
アウラが力強く声を庭園に響かせると、アウラの後ろに5つの光玉が現れ、光玉は一つずつ人の姿となっていく。
「フウゥゥ……」
最初に現れたのは、部族の戦士のような姿をしており、The Worldで泰彦が使ってるオルカに似ている。
「ハアァァ……」
次に現れたのは白い翼に、目元を完全に覆う銀色の髪、銀の鎧を着た剣士。
「……」
3番目に現れたのは帽子を被り、銀の髪を少し出してる、少年のような魔法使い。
「グウゥゥ……」
4番目に現れたのは人ではなく、銀の毛並みをした狼で、蒼い瞳を此方に向けている。
「ウウゥゥ……」
「な、僕?」
最後に蒼い炎と共に現れたのは、蒼炎を纏った僕の姿だった。
驚いてる僕を余所に、ザッザッと僕に近づくカイト。
「そのカイトは、あらゆるカイトの可能性……カイトの進化プログラム」
「進化、プログラム……」
進化プログラムのカイトが、人一人分の距離を置いて立ち止まり、光ったと思ったら蒼い炎の球体となって僕の胸の中へと入り込むと、僕の周囲に蒼い炎が吹き出る。
その炎は、自分ではまったく熱を感じず、意のままに、まるで自分の体の一部として扱う事が出来た。
これが、進化プログラムの恩恵なのだろうか?
「話し込んでる内に、随分と時間が経ったみたい。そろそろ起きないといけないけど、最後に彼らの自己紹介を聞いてあげて?」
「……勿論、これから一緒に戦う仲間だ!!」
「……もう良いのか? なら、言うぜ? 俺はオルカ……蒼海のオルカだ」
「蒼天のバルムンクだ。バルムンクと呼んでくれ」
「司(つかさ)。……黄昏の司」
「私は凰花(おうか)だ。銀狼の凰花」
現れた順に、名前を言う仲間達、そして僕の中に居る蒼炎とアウラ。
この6人となら、僕はやっていきそうだと、何処か確信のようなモノがあった。
「彼らとの連携は、The World内で確認して、メンバーアドレスはすでに送ったから」
The Worldと聞いて驚くが、すぐにアウラから詳しく説明してくれた。
なんでもプログラム体で、地球上にあるあらゆる演算機器の機能の上を行くアウラが、オルカ達をThe WorldのPCとして存在するようにハッキングしたらしい。
ちなみに、泰彦と同じPC名と被る為か、全員がローマ字での名前となった。
☆☆☆
アウラ達との話が終わり、僕の意識はゆっくりと浮上していき、目の前が光に包まれると、僕は目を覚ました。
「ん、ここは……」
目を覚まして、またこの言葉を使うなんて思ってもいなかったが、本当に見覚えのない部屋のベッドで目覚めたのだから仕方ない。
すぐに辺りを見ると、すぐにアリサと目があった。
…………うん、なんでここにアリサが居るのか、なんでアリサは目尻に涙を溜めてるのか、なんとなくだけどよく状況が分かる構図だ。
恐らく、ここはアリサの家で、この部屋は客室かなにかで、アリサがここに居るのは当然として、僕を発見または看病して何時間または何日も経っているのに、一向に起きない僕を友人想いのアリサの頭に過る不吉な状況を想像してみれば、それが現実味を増してきて涙が出てきたと、こんな感じでOK?
『凄い推理力だね、カイト』
「OKよ、このバカイト!!」
僕の中に居るアウラが僕の推理力に驚き、僕の思考を丸々読んだかのようにアリサが怒声と共に握り拳を物凄い勢いで振り上げ、振り下ろすが徐々に勢いがなくなり、ポスリと軽めのパンチを貰った。
「泰彦もすずかもなのはも、皆心配したんだから……」
「ごめん。 ところで、僕はどれくらい寝てた?」
「はぁ、あんたの感覚では寝てた、のね。3日よ、3日」
3日、その割には体も怠くないし、痛くもない。
お腹はそこそこ減ってる感はあるけど、一日食べなかったくらいの感覚かな。
「取り敢えず、何か軽いものでも鮫島に用意させるわね。 私はなのは達にあんたが目覚めた事を電話で教えとくから」
「あ、うん、ありがとう……」
僕がお礼を言うと、アリサは「気にしないで良いわよ」と、言って部屋を出ていった。
それを見計らって、僕は自分の中に居るアウラへと意識を向ける。
『頭で言いたいことを私に向ければ会話が出来るわ』
『こう?』
『そう、それは念話と呼ばれる魔法で、魔導師なら誰でも出来るの』
それからアウラに役に立つ魔法を幾つか教えてもらい、さらにアウラ自身の事も教えてもらった。
aura(アウラ)。
製作者、エマ・ウィーラントとハロルド・ヒューイックが生み出した。
黄昏の書と共に主と認めた者に、大いなる力を与える存在で、その性質故か何者にも曲げる事がない正しい心を持った人物の前にしか現れない。
その大いなる力とは、魔法と魔法とは違うアウラが自ら造り上げた能力を持った腕輪。
その腕輪の力が以下の通りだ。
データドレイン……他者の魔法を使う源のリンカーコアと呼ばれる力を吸収する力。
データハッキング……魔導師が魔法を使う時に補助の役割をするデバイスをハッキングして改竄(かいざん)したり、閉鎖された世界や結界にハッキングを掛けて、侵入したりする力。
データリセット……相手の魔法を初期化して、魔素まで分解して無効化したり、他者のデバイス内のデータを全て初期状態に戻す力。
以上の3つが腕輪の力なのだけど、確かにこんな力は悪い心を持った人に渡ったらダメだ。
考えただけでも恐ろしすぎる。
『だけど、その力は使えば使うほど、使う相手が強ければ強いほど、カイトに負担が掛かる』
そう言ってアウラは必要以上に、腕輪の力を使わないで欲しいと言ってきた。
僕としてもどんな風に負担が掛かるのか分からないから、あまり多用はしたくないし、負担がなかったとしても目を付けられるような事はしたくないので、そのつもりだ。
「篠崎様、お食事をお持ちしました」
コンコンッとノックと共に鮫島さんが、食事を持ってきたみたいだ。
思考を分割して、念話と鮫島さんとの対応を分けることにして、鮫島さんにどうぞと言って、アウラに僕を襲った人について聞いてみる。
「アリサお嬢様から、軽いものと言われましたので、玉子粥をご用意しました」
『彼女は闇の書の守護騎士プログラムで、主を守護する騎士。 カイトから見たらオルカやバルムンクのような存在』
「ありがとうございます」『成る程、ね。 でも、オルカ達が居るからってあの人の実力は凄かった。 正直、未だに勝てるかどうか……』
鮫島さんにお礼を言い、アウラには今後の事を言って不安に駆られるも、すぐ近くから漂ってくる美味しそうな匂いに思考がさらに分割され、玉子粥の香りがお腹にダイレクトアタックしてくる。
どうやらかなり空腹と言うのに、自覚が足りなかったようだ。
まぁ、もともと3日は何も食べて無かったんだから、当然と言えば当然か。
玉子粥を土鍋から器に移して、僕に渡してくれる辺り、なんだか申し訳ないような、自分でやろうと手を伸ばそうとしても、鮫島さんから待ったと言うジェスチャーをして、止められる。
これが、金持ちと庶民の考えで、出来る執事と言うモノなんだろうか?
「味は少々濃いめにしましたが、如何でしょう?」
『それは大丈夫、闇の書の元の姿である夜天の書は、黄昏の書と私の力を劣化させたコピーに過ぎない。 彼女らとオルカ達の実力差も一割にも満たないから』
「大丈夫、美味しいです」『……それって僕要る? なんか、彼らだけで倒してしまいそうな気がするんだけど』
衝撃的な事実に僕は本当に要るのかどうかさえ危ぶまれたが、アウラが言うには腕輪の力を十全に使うには人間でなければいけないらしいし、闇の書はともかくスケィスらを倒せるのは、人間が使う腕輪の力が必要不可欠との事。
「お褒めに頂きありがとうございます。それでは、食べ終わりましたら、こちらの机の上に置いておいてください」
『それとカイトの中には蒼炎が居る。その子はカイトのあらゆる可能性を見せ、あらゆる脅威を退ける』
「わかりました。ありがとうございます」『そっか、ありがとうアウラ。そしてごめんね、まだ始めてもないのに愚痴みたいな事を言って……』
二人にお礼を言うと、鮫島さんもアウラも、笑顔で気にしないでと言って部屋を出ていき、アウラとの念話も終わった。
そして玉子粥を食べ終わった頃に、友達に連絡し終えたアリサがやって来て、明日に泰彦達が見舞いに来ることと、暫くは学校を休んで安静にしてることと言われた。
本当に、僕は友達想いの良い友達を持って幸せだ。
☆☆☆☆
――深夜。
バニングス邸のとある一室、一人の少年がゆらゆらとベッドから降りると、蒼い炎を纏い、着てるものはパジャマからオレンジ色の冒険服へと変わり、両手には3つの刃が付いた双剣を持って、窓の外を復讐の色で染まった目をして睨んでいた。
「……サクジョ、スル」
そう言って少年はアウラにも、仲間にも、主になにも告げずに外へと転移した。
これは究極の融合騎アウラの演算機能ですら、予想出来なかった事態。
カイト自身、襲われた時に生まれた負の感情は、アウラと主を守る純粋な蒼炎にとって行動するには十分なモノだった。
もし、アウラがカイトの奥に秘めた負の感情を知っていたら――
もし、カイトが自分で生み出した負の感情を理解していたら――
純粋な蒼炎は、復讐騎に成ることはなかっただろう。
しかし、すでにそれは解き放たれており、蒼炎はより強く成ろうと進化し始めた。
双剣を極め武神へと至った姿へ――
魔導を極め蒼炎の魔法使いへと至った姿へ――
双剣も魔導も極め、腕輪の力を完全に開放させた英雄へと至った姿へ――
――そして3つの姿が合わさった守護神へと至った姿が誕生した。
これだけ聞けば、ヴォルケンリッターにしか同情しか沸かない――が、蒼炎が異常進化を見せた事でアウラですら恐れる存在が目覚めた。
しかし、ソレは目覚めただけ――現界までは至れず、只々自身を現界させる為の供物を待った。