対魔ライダーブレン   作:ローグ5

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もう一話出来たので投稿してみます。
なお今回の話は仮面ライダーアマゾンズの劇場版を見ているとより楽しめると思います。


彼は何故、子供たちに変な歌を歌わせたのか?

人と魔の争いが絶えない日本国の首都、東京の郊外。およそ東京近くとは思えない程田舎臭い一面薄に囲まれた道路をトラックが走っていく。戦後からの荒廃により整備が荒くひび割れた道路を走るトラックは外見自体は平凡だが、その法定速度を軽く無視した運転は中の運転手の粗野な性格を表しているかのように尋常ではなく荒い。現に今も乱雑な運転により道を歩いていた歩行者を一人匹殺しかけた。歩行者が素早く避けてなければ人間一人分のハンバーグの具材が誕生していたのかもしれない。

 

「ははっ今の見たっスか先輩?ヒャオッ!だってよウケル~!」

 

「まあでも事故らなくてよかったわ。輸送中にトラブル起こすのはまずいしな」

 

しかしトラックの中にいる者達は反省の色をかけらも見せていなかった。トラックの運転席にいるピアスの頭の悪そうな若い男と助手席の品のなさそうな中年。外見からしてどちらもおよそまともな人間に見えない彼らは歩行者をバカにしたかのような軽口をたたく。

 

彼らが今行っている仕事はとある商品の輸送業務だ。彼らの務めている組織が最近始めた事業において出来てしまった『不良品』を東京キングダムとつながりのある奴隷商人に捨て値で売りに行くこと。機密保持の為の行動であり単純ではあるが重要な仕事ではある。にもかかわらず彼らの態度はチンピラのごとく弛緩した物。これには彼らの程度の低さもあったがただ荷物を運ぶだけという難易度の低さもあるだろう。

 

「しかしあんだけ仕入れから教育まで、徹底的にやっても不良品が生まれるもんなんスねえ」

 

「それなんだけどな…どうやら職員の中に裏切り者がいたらしいんだよ。なんでもガキどもにこっそりとありがた~い個人従業を行ってたとかで」

 

「え?まじスか!!?」

 

「マジだ。園長から直接聞いたから間違いねえ。しかもここからが重要なんだけどな……」

 

そういって中年男は顔を近づける。口臭と加齢臭が強くなるがここは我慢だと運転席の男は思う。この先輩がこういう顔をするときは必ず美味しい思いできる時なのだ。

 

「急な仕事の見返りにな、裏切り者にお仕置きしていいってよ」

 

「お仕置き!?ということは…やったあ!先輩俺後ろを使わしてもらっていいっすか!?前から一度やってみたかったんだよな~!!」

 

「ああいいぞ!しっかしボロい仕事だよ!これで商品の試食も出来れば最高なんだけどな!はははははは!!」

 

彼らは下卑た表情で笑いあう。彼らの会話が何を意味するのかは我々には分からない。しかしどうせろくなことではないだろう。それは彼らの表情を見れば明らかだった。そうして邪悪は誰にも知られる事なくはびこっていく。まるで台所にわくゴキブリのように。

 

「ほんとにね!普段のおさわりだけじゃ満足できないっすから。今日の夜は大ハッスルっスね。はははははは!!」

 

「「はははははは「ハハハじゃないでしょうこの無法者共ー!」はっ!?」」

 

そこで二人は笑いを止める。彼らに割り込んできた声の主はいつの間にか逆さでフロントガラスに張り付いていたのはものすごい形相の眼鏡の男。べったりと顔をガラスに張り付かせた男の顔芸は迫力満点でその上なぜかハンカチを口にくわえていた。

 

「人をひき殺しかけて謝りもしないとは恥を知りなさい!!ヘヤー!」

 

「「うわああああああああああああああああああああ!!!眼鏡だああああああああああ!!!」」

 

さっき程まで陰惨な楽しみに輝いていた二人の顔は一点、不条理への恐怖に染まっていった……

 

 

 

 

 

「デラーデラードームドムー、ダリレルタリランダリランリー」

 

恐らく明治か大正あたりの建築物をイメージした和洋折衷の様相を見せる館の中に奇妙な歌が響く。およそ意味のある歌詞とは思えない歌は魔界のものかもしれないがどこか倒錯的で不気味だ。森の中に建てられた館というシチュエーションも相まってカルト宗教的な悍ましさすらある。

 

歌を歌うのは白い服に身を包んだ子供達。まるで道徳の教科書の登場人物のようなアルカイックな笑顔を張り付かせて謡う彼らは一体どこからきてどこへ行くのだろうか?

 

「ラリレルダリランダリランリー、ダリレルダリランラリランリー」

 

「フ~ンフ~ン、フー」

 

不気味な歌を奏でる子供達を意気揚々と指揮するのは高級そうなスーツに身を包んだ男だ。中年に差し掛かる年頃であろう男は自慢げな笑みを張り付かせて子供達の合唱を指揮している。彼はこの館、全世界の恵まれない子供達の為に建てられた孤児院である「御堂聖苑」の園長である御堂準之助である。

 

御堂は目を閉じて子供達の一糸乱れぬ合唱を愉しむ。彼がこの日ごろから手間暇かけて育ててきた子供達は合唱においても優秀だった。常日頃から彼自身が作詞作曲したこの歌を歌っていることもあり、どこに出しても恥ずかしくないだけの歌唱技量を持っている。教養と美しさに満ちた、彼の自慢の作品たちだった。

 

「ふふふ……私の作品たちは実に優秀だぁ……君そう思わないかね?」

 

「くっううう……」

 

御堂は自身満々に後ろを振り向く。彼の後ろにあるのは高級な木材で作られた円卓。そしてその上に縛り上げられ晩餐のように置かれた女だ。女の名前はマリア・ホワイト。

 

某メジャー宗教系列の孤児院御堂聖苑に務める身であるからかマリアは黒い修道服に身を包んでいる。しかし卵型の清楚な顔立ちにアイスブルーの二重の瞳。雪を思わせるような色素の薄い髪、そして細身であるが女性的な体つきとおよそ所によっては10歩歩くうちにハイエースされそうな繊細な美貌の持ち主であった。さらに彼女の姿の内で特筆すべき点は所々破れた修道服の間から見える体にフィットしたコスチュームは一見対魔忍のそれに見える。しかしそれは対魔忍の物とは違う。米連が対魔忍スーツを解析して作った量産型の戦闘服だ。耐熱対弾など様々な効果を備えたそれを纏っていることが意味する事実はただ一つ彼女は米連のエージェントであるという事。

 

「繰り返し言うが私の子供達は優秀だ。無論私がそう育てたからだがね。朝夕晩、日々の三度の食事から気を使い心身の教育にも手間暇をかけている……牛肉で言えばどの子もA5ランク。私の自慢の子供達なのだよ。なのに――――」

 

そう言った花咲の手には太い乗馬鞭。鞭を握る引き締まった腕の間からはちらりとUSBメモリのコネクタのような刺青が見えた。

 

「余計な事しやがってよぉ!この損害はどうしてくれんだよあーっ!!?」

 

「ひぎいっ!」

 

突然激発した御堂は乗馬鞭でマリアを叩く。強い腕力で容赦なくたたかれる女の修道服はさらに破れが酷くなり、その下にある戦闘服や肌をも傷つけていく。

 

「椋は高値でヨーロッパの富豪に売れるのが決まってたのによぉ!お前が余計な事をするからよぉ!!」

 

「あうっ!ひぐうっ!やあ!」

 

怒号を上げながら御堂は女を叩き続ける。彼は己のビジネスが女の手で汚されたことに激怒していた。

 

実を言えばこの御堂聖苑はただの孤児院ではない。日本国内だけではなく世界から見目の良い孤児を集めて養育し、機が熟したならば全世界の闇金持ちへと出荷する。ノマドの構成員である御堂が数年前に幹部にプレゼンテーションをしてから地道な努力を重ねてようやく軌道に乗せてきた邪悪ビジネスである。子供達が反抗することはない幼少期からの洗脳教育で「飼い主に尽くすことが自らの存在意義」と刷り込み抵抗という発想そのものを奪っているのだ。

 

今回の損害はこのビジネスを破綻させるほどではない。しかしマリアが余計な事をして椋を唆した結果、自身の環境が異常だという事を理解した椋を急遽出荷せざるを得なくなった。最高傑作の椋を捨て値で奴隷娼館に売らなくてはならなかったのだ。自身をブリーダーとして考えている御堂からすれば屈辱的だった。

 

「どうしてくれるんだよ!あーっ!」

 

「ひ、ぎいい……あ、なたは卑怯な人ね……手を上げて食い物にするのは女子供ばかり……本当に卑あうっ!?」

 

「やかましい!この館では俺がルールなんだよこのアリンコ野郎――――!」

 

御堂は狂気のままに女を叩く。その狂態はしばらく続いた。

 

「はあっはあっまあいい……俺の商品を買う好きものたちは世界中に幾らでもいる。ついさっきもフランスから大口の注文をもらったからなぁ…見ろよ見ろ!ホラホラホラ!」

 

そう言って御堂が得意げに掲げる端末にはフランス語で書かれた文章。米連のエージェントとして高度な教育を受けたマリアには分かる。フランス語の文章はまともな人間なら見るに堪えない下劣な情欲を綴った物。書いた人物の不快な体臭がここまで匂ってくるようだ。

 

「お友達とのパーティ用に男も含めて6人欲しいんだとよ。世の中にはスケベな人間がいたもんだぜぐへへへ。と、いう訳でお前のやったことはほとんど無駄に等しい。残念だったなぁ」

 

「こんなこと、こんなことが許されるわけがない。あなたには神が天罰を下しますよ!」

 

尚も抵抗するマリアの言葉にますます御堂は下卑た笑いを深める。彼は神など元より信じていない。金と力こそが彼の信じる者だ。

 

「ククク…神が居ればこんなことにはならないだろうにつくづく愚かな女だ。罰とは神ではなく人が人へと下す物。そして今この場で罰を下すのは無論、くぉの私だあ」

 

気取った仕草で両手を広げ高らかに宣言すると御堂は上着を脱ぎ捨てる。その行為が意味することに思い当たりマリアは顔を引きつらせるがその様子を見てにやにやと笑う御堂はまたしても気取った仕草で指を振る。

 

「いやいやいや確かに愚かな君への罰は想像したとおりの方向で行う。でもその第一弾を行うのは彼らではない。彼らだ!」

 

御堂が指を鳴らすと何人かの少年たちが前へ歩み出る。その顔はいずれも虚ろだがどこか緊張と不安が見えた。彼らを見てマリアは顔を青ざめた。御堂の悪魔ですらためらう企みが分かったのだ。彼はマリアが守ろうとした子供達に彼女の身を汚させようとしている。あまりにも邪悪な戯れを彼は企画していたのだ。

 

「そんな、そんなひどいことを……」

 

「ヴェアーッハッハッハァ!これからお前は一方的に犯されるんだ!悔しいだろうがそういうものなんだあ!ヘアーッハッハッハァ!!」

 

ああなんという無残な光景なのだろうか!これからただ混迷の世の中でもよき人であろうとした女性マリアは身を汚され、御堂の外道ビジネスは世界中の闇金持ちの需要を満たしながら直も続けられていくのだろうか!これこそが暗黒に包まれたこの世界の真実なのだろうか!神も天使も彼らを救わなわない。この場を満たすのは救いではなく陰惨な悪意だけだ!

 

「ああ……神よ……」

 

「神なんていないって言ってんだろうがよー!ギャハハハハハ「トウッ」ハ!?」

 

だが神かどうかは知らないが救いの手を差し伸べる者はいたらしい。館の三階にあるステンドグラスが砕けるとともにマントを纏った人影が降り立つ。その姿はエメラルド色の鎧をまとった騎士の様だ!

 

「貴様…何者だ!?」

 

「私の名前は仮面ライダーブレン。優秀で誠実で――――仲間思いの『チェーンソ―!』へ?」

 

仮面ライダーブレンの名乗りの途中で渋い男性の声が響く。声の主は御堂が腕の入れ墨に突き刺したUSBメモリから。それはガイアメモリと呼ばれる人類だけでなく魔族からしても常識の範囲外にあるアイテム。人を魔性へと変える禁断の力だ。その力の起動時に起こる音声によりブレンの名乗りはかき消されたのだ。残念だったね。

 

「どいつここいつも邪魔なんだよぉ!私の素晴らしい商売を邪魔ばかりしやがって!」

 

御堂が変身したのは両腕にチェーンソーを携えた鈍色の怪人。『チェーンソードーパント』だ。度重なる自身への邪魔に身勝手な激怒を抱く彼は轟音を響かせる両腕のチェーンソーを振り回して突進する。

 

「キ~ッ!私の名乗りをよくもぉ!」

 

「眼鏡が夢見てんじゃねえ!」

 

双方怒りの声を上げながら二つの異形が衝突する。マリア達を置き去りにしながら。

 

 

 

 

 

マリア・ホワイトは道徳が腐敗しきったこのご時世には珍しい敬虔な教条主義者であり、正義感の強い女性だった。幼い頃から敬虔な神の信徒である両親に育てられた彼女は景教の価値観に親しみ、神を信仰し日々混迷を深める世の為に己ができる事を探し求めるようになった。長じて成人後に米連の軍に入った彼女は魔族の干渉により混乱の中にある日本での活動を苦しめられる人々を救う為に志願し、彼女は数年の間米連のエージェントとして日本で活動してきたのだ。今回この御堂聖苑に潜入したのもその一環だ。

 

この数年の間、彼女は「御堂聖苑」の子供たちを含め多くの人々が魔族や人間の悪党に苦しめられるのを見てきた。彼ら犠牲者を時に見捨て時に利用しながらもすべては秩序の為と自身に言い聞かせて彼女は活動を続けてきた。魔族がいるなら神もいるはず。いつかは神が降臨し悪に裁きを下し良き人々達に福音をもたらすのだと。

 

「………」

 

しかし、マリアの希望的観測は裏切られつつある。ひょっとしたら、もしかしてひょっとしたら神はいないか、そうでなくばいても人々に対して何もしないのではないかという思いが育ちつつあった。何故なら危機に陥った彼女の基に現れたのは神でも天使でもなく―――――

 

「ヒョホハハハハハハ!どうです自分の持ち出した兵器を利用されるのは!感想を述べなさいヘアハハハハ!!」

 

なんか変なのだったからだ。少なくとも天使とかそういう彼女の想定していたサムシングはこんな笑い方をしないだろう。

 

「先生……」

 

何か言いたげな顔で椋がマリアを見る。余計な事を知ったとして捨て値で処分されようとしていた彼女はたまたまあったあの奇妙な男ブレンに救われたのだという。ブレンとしてはわざわざ人間を救う気はそんなになかったが何でも御堂が彼の探し求める物を持っていたらしい。適当に倒した御堂の部下から奪ったトラックでこの館へ突撃を駆けたとか。

 

「言いたいことは分かるわ……」

 

マリアは椋にうなづく。ブレンと御堂の戦闘により予算が大丈夫なのかと言いたくなるくらいの勢いで炎上する館の外に出た彼女や聖苑の子供達はいそいそとブレンに倒されてその辺に転がる御堂の部下(その数は少ない。御堂が人件費をケチったからか見てるこちらが心配に成程人が少なかった)を縛り上げる。彼らの表情は自由への喜びや希望がるものの、どこか釈然としない感じを見せている。その理由は無論少し離れた所で起こる不条理の嵐によるものだ。

 

「ヒャーッハッハッハッハッハッハアア!!!」

 

「ぐおお…ふざけやがってえ!」

 

荒れ放題の草むらの中を縦横無尽に走る̠火線をチェーンソードーパントが必死に回避していく。その姿を追いかけるのは腕を組み仁王立ちするブレン。彼が乗るのはメカニカルな蜘蛛のような多脚戦車。「アラクネー」と呼称される黒いボディに名前の通り蜘蛛のような四つ足を持つ多脚戦車は大口径のガトリング砲二門を携え猛烈な攻撃をチェーンソードーパントに浴びせている。その禍禍しく威圧的なボディと相まって高笑いするブレンはまるで悪役の様だ。

 

 

 

 

……当初はブレンとチェーンソードーパントの戦いは魔族である彼の部下の加勢もあり互角なように見えた。が、しかし雑に強いブレンの攻撃と毒は彼らを瞬殺すると、焦ったチェーンソードーパントは大枚はたいて買ったアラクネーを呼び出した。航空機への対空砲火すら可能なアラクネーの火力は圧倒的で一挙に形勢が逆転するかと思われた。しかし、ブレンは尋常ではない不条理の化身であった。

 

「これは面倒ですねライダーハッキング!ウェヒヒヒヒ!!」

 

 

「ハッキングだとぉ…おごぉっ!!?」

 

ガトリングの弾幕を距離をとって躱したブレンは手首からホロキーボードを投影すると、明らかに適当な動きでキーボードをポチポチと押す。するとアラクネーのカメラアイが蒼から赤へ一瞬で変化し、チェーンソードーパントを跳ね飛ばし忠犬のようにブレンの元へはせ参じた。なんという昨今のサイバーパンクに逆行する雑なハッキング描写であろうか。

 

「これでこのドローンは私の忠実なしもべ。残念でしたね~」

 

「……なあ、ハッキングってあんな適当でいいのかな?」

 

「良くないと思うけど…これ、現実だよなあ……」

 

聖苑の子供達は顔を見合わせる。社会経験の乏しい彼らにもこの光景がおかしい事は何となくわかった。そう、この場で暴れているのはサイバーパンク的世界観を不条理ギャグに変える謎の仮面の戦士、仮面ライダーブレンなのだ。

 

そんなこんなで避難が済んだのをいいことにブレンはロケット弾を撃つは火炎放射器まで使うわで容赦なく館事チェーンソードーパントを攻撃し追い詰める。

 

「ライダー……ひき逃げ!!」

 

「あごおっ!て、てめえ何しやがる……どうして俺の邪魔を!なぜこんな手間暇かけて邪魔をしやがる!!」

 

全武装が弾切れを起こしたアラクネーを突っ込ませヒーローにあるまじき技を宣言するブレン。やりたい放題の彼の猛攻に吹っ飛ばされたチェーンソードーパントは怒りと共に疑問を呈する。一体何がブレンをここまで駆り立てるのだろうか?

 

「ふふふ…私の目的はあなたのそのガイアメモリ。それをどこで手に入れたか是非聞きたいですねぇ」

 

「こ、これはヨミハラで粋がっていたチンピラを伸して手に入れたんだ!ノマドから手に入れた物じゃねえ!だから俺は何も知らん!」

 

「何ですその雑な展開は!奪った相手がだれかも知らないなど!私にあんな不衛生で不便で、不愉快な街へ行けというのですか!キ~ッ!」

 

「……園長もあの人に雑って言われたくないよな」

 

「そうだよね」

 

子供達が半目でささやきあうのをよそにブレンはぐるぐると両腕を振る。最早チェーンソードーパントは用済み。あとやることはただ一つ。とどめを刺すだけだ。ブレンは一気に必殺技のエネルギーをチャージする。

 

『ヒッサーツ!フルスロットル!!』

 

「うおおおおお!ブレンヘッドクラッシャー!!!」

 

大ジャンプしたブレンが頭からチェーンソードーパントに突っ込んでいく。回れば威力が高くなるだろうと弾丸のように回転するブレンの脳髄のようなエングレーブの刻まれた頭部にエネルギーが集まり緑色に発光。猛スピードで絶大なエネルギーと共に彼の600を誇る脳天がチェーンソードーパントに叩きつけられた!

 

「ぐああああああああああああああああああ!!!」

 

「殲☆滅!」

 

数十メートルも吹っ飛んだチェーンソードーパントは地に叩きつけられて爆発四散。メモリが砕けるとともに御堂が吐き出された。それをよそにくるくると空中で三回転したブレンはポーズを決める。何故其処までと思う程に彼は得意げだ。

 

「あの、腕を回した意味は?」

 

「ノリです!」

 

「ああそうですか……」

 

得意げなブレンは御堂の使っていたガイアメモリの破片を拾い上げハンカチにしまい込む。そうすると「じゃ、そういうことで」とやけに颯爽と去っていこうとする。その挙動は無駄に速い。と、思ったら別のハンカチを水たまりにぽろっと落して

 

「の゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ハ゛ン゛カ゛チ゛が゛け゛が゛れ゛て゛し゛ま゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

とか叫びはじめ、泣きながら逃げていった。しまらねえな。

 

「「「「……………」」」」

 

奇行を繰り広げるブレンに対して、形容しがたい表情で子供達は彼の後姿を見ていた。なんというかこう、もっとこうあるだろう。それが彼らに共通した思いであった。一方で子供達の傍らに立つマリアは晴れやかな笑顔だ。少々やけっぱちに見えるくらいの。

 

「……先生よーくわかったわ」

 

「先生?」

 

「今回は偶然来たけど世の中待っていても助けは来ない。やっぱり自分から頑張っていかなきゃねヒャフフフ……」

 

「せ、先生!笑い方があのへんな人に影響され過ぎだよ!?」

 

グっと力こぶを作るマリアの目は完全にキマっている。ブレンの不条理な大暴れはどうやら彼女に変な影響を与えてしまったようだ。魔族や人間問わずド外道共には話し合いではなく不条理なまでの力が必要。そうでなくては人々を救う事が出来ないのだ。何事も暴力で解決するのが一番だ。彼女の顔はそのようなかっとんだやる気に支配されていた。

 

 

 

――――――その後の事を話そう。今から十年後ほど後の事、マリア・ホワイトが世界中の弱い立場にある子供たちを保護するために設立したNGOはこの時代では珍しいほど健全な慈善団体として世界各国に支部を持つまでに成長していた。マリアはあらゆる手段(意味深)を使って様々な人々、政財界の大物から対魔忍に魔族まで多くの人々からの協力を取り付け多くの子供を力づくで助けてきた。御堂のような相手にはあの手この手で揃えた武力を以てぶちのめして子供達を救い出し、なんかうるさい人たちは媚薬をかがせて黙らせた。そうして多くの子供達が救われる過程で悪党が大量に死んだがまあ問題ないだろう。この世界悪党の命が平松伸二作品並に軽いし。

 

そんなふうに混沌の世の中においても自身の正義を成す彼女へ興味を抱く者は多い。そして彼らは彼女の来歴を知り驚愕する。一体何が敬虔な教条主義者である彼女を変えたのかと。

 

その問いにはマリアはこう答える。自分を変えたのは不条理の化身、仮面ライダーブレンであると―――――




次回は投稿するにしてもだいぶ間が空くと思います。

にしても何なんでしょうねあの変な歌。

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