なんのために。それは今や誰にも分からない。
女王は倒れ、結晶体が残された。
そんな危うい物を看過できる程、人には力も余裕もありはしなかった。
女王セルリアンの残滓によるヒトの子の吸収騒ぎ。
一応の解決はみられたが、女王の体は結晶体となり、
職員はその対応を迫られた。
現在は、最も近い研究施設に移され、厳重に保管されている。
その結晶体の解剖、分析がやっとの事で開始された。
議論が紛糾した結果、時刻は深夜となっている。
解剖を行わずに焼却処分する案も出されはしたが、
最後には今後のために分析は不可欠という結論に落ち着いた。
解剖が開始されて程無くして、解剖班から緊急連絡が入る。
結晶体の中には、取り込まれかけた子と全く同じ見た目をした少年が。
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職員達が駆け付けた時、
少年は既に自分の力で立ち、そして歩行していた。
研究員をはじめ、職員が少年を取り囲む。
顔には一様に不安の色が滲む。
その内一人が堪らず少年に声をかける。
「あ・・あなたは・・・」
「ぼくはけものじゃないよ」
それが少年の第一声だった。
思いがけない発言にどよめく職員達。
少年は職員の顔を見回しながら続ける。
「ぼくはセルリアンじゃあない」
職員達はざわつきながらも、二の句のその内容に、
心なしかほっとしたような顔を見せ始める。
そして少年は、それを嘲笑うかのように言い放つ。
「そして・・ヒトでもね!」
ドォォォォォォォン!!!
突如施設の壁が爆音を立てて吹き飛んだ。
一体の大型セルリアンが施設内に侵入する。
「っっっっっ!!!!」
突然の騒ぎの中、職員達が気付いた時には、
少年はセルリアンの上に鎮座していた。
「さよなら。人間様」
少年を乗せたままセルリアンは空へ飛び上がる。
地上をあっと言う間にはるか下方にして。
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セルリアンは上空を移動している。
行く先は決まっているのか定かではない。
少年の、胸の内には空虚さが、
そして言葉では言い現わせないほどの疎外感が渦巻いていた。
「ハハハ、見たかよ。僕を見るアイツらの怯えきった顔」
「あのままあそこに居たら何をされていたか分からんぜ」
しかしセルリアンは何の反応も返さない。
「ちぇっ。これじゃ独り言じゃないか・・」
「僕はさしずめ・・・名無しのフレンズってところだな。
ハハッ、とんだ「のけもの」だ」
少年は女王の記憶を曖昧ながらも受け継いでいた。
そして少年は自身に備わる力を認識していた。
セルリアンを強化する。自分にはそれができる。
自身の内に蓄えた、濃縮されたサンドスター・ロウ。
「奴らはセルリウムとか勝手な名前で呼んでいたっけな。けっ!」
少年の掌から零れ出すソレが眼下のセルリアンに沁み込んでいく。
それにしたがってセルリアンの飛行速度がいや増していく。
「うぉぉっ。速い速い。はははっ。どこまで速くなるんだお前。
ちょっと楽しくなってきたじゃないか」
「行け行けーーーっ。ハハハハハハ―――
少年の無邪気な笑い声と共に、
猛スピードのセルリアンは夜の闇へと消えていった。
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いつ頃からか数と力を増し、即時の自動修復機能まで備えたセルリアンに、
人もフレンズも劣勢を強いられた。
パークは当然のように閉鎖され、職員も数名を残し退去を余儀なくされた。
戦闘機や戦艦が幾度も幾度も現れては、その度セルリアンに破壊されている。
戦いの陰にはいつも件の少年の姿があった。
「全然張り合いがないじゃないか。もっと工夫して攻めてくれなきゃ」
最初はゲームのように楽しかったこの戦いも、段々と飽きが生じて来た。
「島ごとエッッッグい爆弾でも落として焼き払えばいいのにさ。
そうしないのはサンドスターやフレンズとやらが惜しいからだろう。けっ」
少年が飽きを感じ始めるのと時を同じくして、
人類のパークへの侵攻も、それに伴う戦闘も頻度を減らしていった。
「最近は前にも増して退屈だな。
奴らを滅ぼしにこちらから出向くってのも面倒だ。
それに、もしかしたら勝手に滅んでるんじゃないのか?」
少年は寝ころびながらひとりごちる。
「けもの共はヒトが居なくたって平気で暮らしているじゃあないか。
奴らだっていつも通りけものの尻を追っかけ回してる。全く以て気楽なもんだ。
もう退屈過ぎて寝てしまいそう・・だ・・・・」
(あのずーっと眠っている子。いつになったら起きるんだろ・・・・)
まどろみの中、いつしか少年は永い眠りにつく。
そして20××年の時が流れた。