セルリアンの女王はヒトの子をその身に取り込んだ。
なんのために。それは今や誰にも分からない。
女王は倒れ、結晶体が残された。
そんな危うい物を看過できる程、人には力も余裕もありはしなかった。

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けものフレンズ▢

女王セルリアンの残滓によるヒトの子の吸収騒ぎ。

一応の解決はみられたが、女王の体は結晶体となり、

職員はその対応を迫られた。

現在は、最も近い研究施設に移され、厳重に保管されている。

 

その結晶体の解剖、分析がやっとの事で開始された。

議論が紛糾した結果、時刻は深夜となっている。

 

解剖を行わずに焼却処分する案も出されはしたが、

最後には今後のために分析は不可欠という結論に落ち着いた。

 

 

解剖が開始されて程無くして、解剖班から緊急連絡が入る。

結晶体の中には、取り込まれかけた子と全く同じ見た目をした少年が。

 

――――――――――――――――――――――――

 

職員達が駆け付けた時、

少年は既に自分の力で立ち、そして歩行していた。

 

研究員をはじめ、職員が少年を取り囲む。

 

顔には一様に不安の色が滲む。

 

その内一人が堪らず少年に声をかける。

 

「あ・・あなたは・・・」

 

 

「ぼくはけものじゃないよ」

それが少年の第一声だった。

 

思いがけない発言にどよめく職員達。

 

 

少年は職員の顔を見回しながら続ける。

「ぼくはセルリアンじゃあない」

 

職員達はざわつきながらも、二の句のその内容に、

心なしかほっとしたような顔を見せ始める。

 

そして少年は、それを嘲笑うかのように言い放つ。

 

「そして・・ヒトでもね!」

 

ドォォォォォォォン!!!

 

突如施設の壁が爆音を立てて吹き飛んだ。

一体の大型セルリアンが施設内に侵入する。

 

「っっっっっ!!!!」

 

突然の騒ぎの中、職員達が気付いた時には、

少年はセルリアンの上に鎮座していた。

 

「さよなら。人間様」

 

少年を乗せたままセルリアンは空へ飛び上がる。

地上をあっと言う間にはるか下方にして。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

セルリアンは上空を移動している。

行く先は決まっているのか定かではない。

 

少年の、胸の内には空虚さが、

そして言葉では言い現わせないほどの疎外感が渦巻いていた。

 

「ハハハ、見たかよ。僕を見るアイツらの怯えきった顔」

「あのままあそこに居たら何をされていたか分からんぜ」

 

しかしセルリアンは何の反応も返さない。

 

「ちぇっ。これじゃ独り言じゃないか・・」

 

「僕はさしずめ・・・名無しのフレンズってところだな。

 ハハッ、とんだ「のけもの」だ」

 

 

少年は女王の記憶を曖昧ながらも受け継いでいた。

そして少年は自身に備わる力を認識していた。

セルリアンを強化する。自分にはそれができる。

 

自身の内に蓄えた、濃縮されたサンドスター・ロウ。

 

「奴らはセルリウムとか勝手な名前で呼んでいたっけな。けっ!」

 

少年の掌から零れ出すソレが眼下のセルリアンに沁み込んでいく。

 

それにしたがってセルリアンの飛行速度がいや増していく。

 

「うぉぉっ。速い速い。はははっ。どこまで速くなるんだお前。

 ちょっと楽しくなってきたじゃないか」

 

「行け行けーーーっ。ハハハハハハ―――

 

少年の無邪気な笑い声と共に、

猛スピードのセルリアンは夜の闇へと消えていった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

いつ頃からか数と力を増し、即時の自動修復機能まで備えたセルリアンに、

人もフレンズも劣勢を強いられた。

 

パークは当然のように閉鎖され、職員も数名を残し退去を余儀なくされた。

 

戦闘機や戦艦が幾度も幾度も現れては、その度セルリアンに破壊されている。

 

戦いの陰にはいつも件の少年の姿があった。

 

「全然張り合いがないじゃないか。もっと工夫して攻めてくれなきゃ」

 

最初はゲームのように楽しかったこの戦いも、段々と飽きが生じて来た。

 

「島ごとエッッッグい爆弾でも落として焼き払えばいいのにさ。

 そうしないのはサンドスターやフレンズとやらが惜しいからだろう。けっ」

 

少年が飽きを感じ始めるのと時を同じくして、

人類のパークへの侵攻も、それに伴う戦闘も頻度を減らしていった。

 

「最近は前にも増して退屈だな。

 奴らを滅ぼしにこちらから出向くってのも面倒だ。

 それに、もしかしたら勝手に滅んでるんじゃないのか?」

 

少年は寝ころびながらひとりごちる。

「けもの共はヒトが居なくたって平気で暮らしているじゃあないか。

 奴らだっていつも通りけものの尻を追っかけ回してる。全く以て気楽なもんだ。

 もう退屈過ぎて寝てしまいそう・・だ・・・・」

 

 

(あのずーっと眠っている子。いつになったら起きるんだろ・・・・)

 

 

まどろみの中、いつしか少年は永い眠りにつく。

 

 

そして20××年の時が流れた。

 

 



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