親友。
フレンズ。
パーク。
充実した日々。
事故。
セルリアン。
動物。
鮮血。
痛み。
親友。
言葉。
涙。
そして。
─────────
───気がつくと、あたしはここにいた。
目の前にはいちめんコンクリ打ちっぱなしの壁が続いてる。廊下のように長い部屋みたいだ。照明は半分以上が落ちていて奥の様子はよく見えない。ふと後ろを振り返ってみると、人ひとり入れそうなタマゴ型のポッドが壁一面ズラリと並んでいて……待った。
あたしの真後ろだけ、ポッドひとつ分の空間に何もない。
どういうことだろう?もしもこれがなにかの物語のプロローグだったとして、もしもあたしがこのポッドと同じものから出てきたのなら真後ろにはフタが開いたそれがあるのが自然だ。だったらあたしは気がついた時どこから湧いて出てきたの?そもそもこのポッドは何?あたしって何者だ?
そこまで思考が回ったところで、あたしは自分について何も思い出せないことに気がついた。名前も、思い出も、家族の顔すらも。
急に寒々しい感覚が襲ってきた。無機質で、ヒトの気配がまるで感じられないこの場所で記憶もないまま独りっきりというこの状況が途端に恐ろしく思えてくる。怖い。あたしに何が起こって、これから何が起こるの?あたしはどうすればいいの?どうすれば───
───とにかく、ここを出なくては!ヒトを探そう、そうすれば何か分かるはず!
竦む足に一撃活を入れ、あたしは出口を探して一心不乱に走り出した。
──────
それなりに大きい施設みたいだけど、それほど迷わずにエントランスらしき所までたどり着くことができた。それに、ここまでの道中でこの施設がもともと何だったのか少し推察をつけることが出来た。廊下に並んだ簡素な個室、途中で見つけた案内図、そして椅子の並んだエントランスに受付カウンター……
「……病院、だったのかな」
成程、あのポッドは最新鋭の医療機器なのかもしれないな。あたしは病気か怪我かであれに入れられて治療を受けていたのかな?それでも、ここが全くの無人であることと消滅したポッドの謎は解けない。
さらに言えば、あの部屋は治療室にしては妙に無機質な感じだったのも気になる。他の部屋も少し見て回ったのだが、だいたい温かみのある色合いの壁紙で構成されていた。コンクリ打ちっぱなしというのは、少しシンプルすぎるのでは?
というか、何らかの事情で放棄されたにしても、普通あたしのような美少女を放置していくだろうか?知って置いていったならゲドーですわ、ゲドー。
……状況はまるで変わってないというのに、しょうもない冗談を思いつく程度には心の余裕ができてきたみたいだ。ともかく、ここにヒトはいない。探すとしたら外に出なきゃ。エントランスを過ぎ、ドアを通って外の景色を───
「……え」
目の前に広がっていたのは、ポストアポカリプス物のゲームなんかで見るような、自然に飲み込まれた文明の姿だった。ひび割れた道路、錆びて苔むした自動車、ツタで覆われた建物、そして先の見えない鬱蒼と茂る森……
「……そ、んな」
せっかく少し持ち直してきた心がへし折れた音がした、気がした。時間が経ちすぎている。きっとあたしが生きていることなんて誰も知らない。人っ子ひとりいないような僻地で、一人ぼっち。誰もいない。寂しい。おなかがすいた。助けて。助けて。助け───
「っうぁ、うあぁぁぁぁぁ……」
もうだめだ。一度そう思ったら、涙が止まらなくなってしまった。きっとあたしはここで死ぬのだろう。飢えで?病気で?それとも野生動物に襲われて?もう知ったことじゃない。どうせあたしがここで孤独に死ぬことに変わりはない。おしまいだ。この有様じゃ、ぜったい生きているヒトなんて見つかりっこない。ヒトなんて───
「あ、あのっ!」
───ヒトの。
「もしかして、あなたは、ここから……?」
───ヒトの。声が。聞こえた。
このサイトの勝手がまるで分からないけど初投稿です
'19/6/18 改稿