一通り泣いた後、あたしは気恥ずかしさに襲われていた。あんな状況だったとはいえ、見知らぬ女の子の胸に飛び込んで泣きじゃくるとは……。
「えっ、と、ごめんね?イエイヌちゃん」
「いえいえ!お役に立てたのなら何よりですっ!」
ぺかーっと眩しい笑顔を見せるイエイヌちゃん。
「それはそうと、ひとつお聞きしたいことがあります!」
「んぇ?」
「あなた、ヒトですよねっ!?」
ずいっ、とイエイヌちゃんが顔を近づけて聞いてきた。どういうこと?あたしの認識が確かならあたしは間違いなくヒトだけど……まるで自分はそうじゃないような口ぶりだ。
「うーん……たぶんヒトなんじゃないかな?」
「わーっ!やっぱりそうでしたか!やっと、やっとヒトに会えました!」
ますます笑顔がキラキラしてきた。……気になる点はいくつかある。この子の「イエイヌ」という名前。飾りには見えないぴこぴこ動く耳としっぽ。
「そういうイエイヌちゃんって……ヒトじゃ、ないの?」
「よくぞ聞いてくれました!私はこの名の通り、イエイヌの『フレンズ』なのです!」
「フレンズ……?」
フレンズ。
その言葉の意味は分からない。けど、なぜかとても聞き覚えのある感じがした。記憶を失う前のあたしはフレンズというものを知っていたのだろうか?
「えーっと、何それ」
「私も詳しく知っている訳ではないのですが……」
イエイヌちゃんからフレンズなるものの説明を聞いた。サンドスターという物質に当たった動物が、ヒトの姿になり、言葉を話すようになる。ここジャパリパーク(というらしい)には、そんなフレンズが何百種類も住んでいるそうな。
ありえない。荒唐無稽だ。……とは不思議と思わなかった。むしろストンと納得できた。やっぱり、あたしはこの場所についてよく知っていたのかもしれない。
「……というわけなので……あっ!」
「うわびっくり、どうしたのイエイヌちゃん」
「私としたことがっ、あなたのお名前を聞くのをすっかり忘れてました!」
「ほえ」
おなまえ。うむむ、そりゃ聞くだろうけど今のあたしに聞かれても困る。なにせ覚えていないのだから。とりあえず覚えてないと伝えて、それからどうするか考えようと思っていたら、ふとイエイヌちゃんの胸元のハーネスのようなものに付いたタグが目についた。イヌの形をしたそれには、ローマ字で何か書いてある。
「……とも、え?」
「ともえさんと言うのですかっ!!」
「え゛」
しまった、声に出すべきじゃなかった!
「いやあのそのそれは違くて」
「ともえさん、ともえさんっ!素敵な名前です!ああもう感激で、イエイヌどうにかなっちゃいそうですとも!」
「えっとそのともえってキミの名前じゃ」
「ヒトに会えるこの日をもう何日待ち続けたことやら!これでスローロリスさんにも自慢話ができそうです!」
「ちょいちょいストップストップ」
「ささ、これ以上立ち話もナンですし私のおうちへ行きましょう!大丈夫です、そんなに遠くないので!」
「せやからちゃうねんてもう話聞いて───」
きゅるるるる……
「……あはは」
「……ともえさん、お腹すいてました?」
ほーりーくらっぷ。なんちゅうタイミングで鳴りよるかね。
「とりあえず、ボスからジャパリまんを貰ってきますね!おうちで一緒に食べましょう!」
「あっこら待たんか」
イエイヌちゃん(ともえちゃん?)は止める間もなくどこかに飛んでいってしまった。訂正するタイミングを見失ってしまったぞ。あとボスって誰だよ。
……まあ自分に関して何も手がかりがないのは確かだし、少しの間だけ借りてもバチは当たらない、かな。イエイヌちゃんはイエイヌちゃんらしいし……。
とりあえず、あの子が帰ってくるのを待とう。