凄まじい破壊音が爆裂した。
上空から飛来した何かが恐ろしい勢いでリングに着弾し、石造りのリングが放射状にひび割れる。
弾かれるように振り向いたステラの目の先で飛散する瓦礫と、視界を覆う石と土の塵。
その向こうにゆっくりと立ち上がるシルエットが見えた。
言葉を失う観衆。
脳が空白になる者たち。
やがて停止した思考が動き出した時、空白は困惑に変わり、困惑は強く拍動した心臓に押し流された。
晴れていく煙。
ゆらりと立ち上がる丈高き影。
ざわりと揺らいだ心の水面は、姿を顕したその影の言葉に一気に沸騰した。
「・・・・・・あァ。間に合ったか?」
会場が一気に沸いた。
間に合った事に安堵する者にギリギリの入場を責める者、あるいは良い演出だと喝采する者。様々な感情が渾然一体となった大声の渦に割り込むように、拳を握った実況がマイクに叫ぶ。
『っっっ来たァァアアッッ!! この土壇場で現れましたどこに行ってた王峰選手!! 主審のコールとほぼ同時! ギリギリ、本っ当にギリギリのタイミングでリングに直接入場です!!!』
『しかしタイミングとしてはかなり微妙なところです。確かに主審のコールが終わる前には間に合いましたが、しかしコールは不戦敗が決定した上で行われるもの。これをどのように判断するかは───』
「問題ないわ」
ごう、と炎が渦を巻く。
その異様だけで会場の声が静まった。
光度を増していく爆熱の光がステラの手に集い、そして一本の大剣となる。
《
彼女の戦意と魂の結晶が、来るこの時に喜びと共に顕現した。
「来たならいいのよ。始めましょう」
「悪いな」
一真の両脚から紫白の光が燃え上がる。
全身を覆うほどに溢れた光の奥で圧縮された魔力が爪先から結晶化を始め、やがて漆黒の
破壊の象徴《プリンケプス》。
揺らぎ諍い折られた意思が、もう一度地面を踏み締めた。
『・・・・・・どうやらその必要は無いようです。王峰選手が現れてステラ選手が遅刻を問題としていないなら、不戦敗が成立するか否かの審議は無粋なだけでしょう』
試合は成立した。
しかし刀華達は目を見開いて身を乗り出していた。
彼が戻ってきたのもそうだが、彼の様子が最後に見た時とは目を疑う程に違っていたからだ。
諸星の時のように敵意に燃えているのではない。
刀華の時のように
『敵』を前にして殺意を滾らせているのでもない。
ただ静かに、深く覚悟を決めている。
あれは与えられた義務を全うする兵士ではない。
己が命を賭してでも為すべき事を為さんとする、我が道を貫く戦士の静謐だった。
何があったかは分からない。
ただ一つだけ断言できた。
───今の王峰一真のコンディションは、絶好調に整えてきたステラに全く劣らない程に滾っている。
『さあ! 大変長らくお待たせしました!《七星剣武祭》準決勝第二回戦、絶対強者の二人が今こそ雌雄を決します!!
赤コーナーは並み居る全てを鎧袖一触に焼き払いここまで無人の行くが如く歩みを進めてきました《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン選手!! 神話の頂点捕食者は王すら燃やして平らげてしまうのか!!
そして青コーナー! 敵を砕き己を砕き、自他を問わない凄絶な破壊を撒き散らし嵐のように進撃してきました《
頂点たるAランクが二人、しかし栄光の席は常に一つ! 今大会最大の膂力と暴力が激突する!!
最強同士なれど矛盾は無し!!
どちらかが勝ち!! どちらかが斃れる!!
運命の時はいま訪れました─────
───
そして宣言された試合開始の合図。
絶対強者の二人は各々の
のんびりとした歩調で気軽な言葉すら交わす様は、まるで散歩でもしているかのような風情だった。
「思えばアンタと戦うのは転入初日以来かしら」
「あん時ゃ迷惑かけたな」
「お互い様よ。アタシはコテンパンにされたけど」
段々とお互いの距離が縮まっていく。
「色んな事があったわね。アンタに負けてイッキに負けて、それで大会直前になってイッキもシズクもアンタもめちゃくちゃになって」
「そうだなァ。ついでにあんたとイッキが好き合ったりもしてな」
「ふふ、そうね。それが一番大きいかも。本当に色んな事があったわ。破軍学園に来てから今までの自分が壊れて、また新しい自分を創り上げていってる気分になるくらい」
およそ試合の様子ではない。
しかし誰も声を発さない。
圧倒されていたからだ。
二人の距離が縮まる度に指数関数的に跳ね上がる、巨大な爆弾を火で炙るような破滅的な緊迫感に。
「だけど」
ざり、と同時に足を止める。
二人はもう、お互いを自分の間合いに入れていた。
「アンタにリベンジするって気持ちを忘れた事は無かったわよ」
「そうかい」
撃ち合った。
前触れなく激突した大剣と
観衆が悲鳴を上げる間にも重なっていく
膂力の極地。暴力の究極。
そう言って差し支えない破壊の暴風が一瞬止まる。
一真が振り下ろされたステラの剣を踏んで地面に押さえ込んだからだ。
そして。
「《
「《
紅蓮と紫白の大爆発が観客席の結界に阻まれて互いを喰らい合いながら天へと昇る。
どちらが勝ってどちらが負けても、きっとここは無事では済まない。
スタジアムは今、二つの頂点が極限の熱で相剋する坩堝となった。