光を求めた   作:猫ちゃん

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こんにちは、こんばんは、猫です。

続きました。
今回伊織さんあんまり出てこない・・・かも?

豆腐メンタルなので読みたい方のみお読みください。


2019/9/12 加筆修正しました。




こわいこと 2

 

 春休み明けの試験で赤点を取った西谷・田中は現在、伊織(いおり)からの補講を受けていた。

 今日は2人とも国語の日だ。

 田中は国語が赤点ではないが、ほぼ赤点のような点数だったので西谷と一緒に受けているのだ。

 今週末にバレーの大会があり、それに出るためには木曜日の小テストで50点以上取らなければいけない、らしい。・・・英語と国語の両方だ。今日は火曜日だし俺じゃないから難しいのでは、と思ったのだが2人がやる気を出しているし、縁下も必死に頼み込んできていたので教えないわけにはいかない。

 

 ・・・本、読みたい。

 

 引き受けたのは自分だから、昨日の自分が悪いのでまぁそこは置いておく。

 

 「田中、そこはひらがなで書けって書いてあるよ、答えは合ってるんだからちゃんと問題文読んで。」

 「あ!?まじか!」

 「西谷、メロスは走ってるだけでマラソンはしてないよ。」

 「走るっていうのはマラソンみたいにずっと走るってことじゃねえのか!?」

 「西谷だけずっとマラソンしてくれ・・・。」

 

 初っぱなから珍回答のオンパレードである。

 

 伊織は教えてやって、といわれても、言っても出来ないことを何度言っても出来ないのではないかと思い始めた。

 そして、自分と相手の考えが合わない(理解不能な)部分を見つけてしまった。

 

 勉強において覚えられない・理解出来ないという感覚がわからないのだ。だからどのように教えて良いかわからない。

 

 どうしようか、と思ったところで縁下が教室に入ってきた。縁下は伊織の困っている顔を見るなり苦笑した。

 

 「伊織・・・、なんかごめん。」

 「いや、大丈夫・・・たぶん。」

 

 おい!なにがだ!とか文句を言っている2人はさておき、伊織は最終手段に出ることにした。

 

 「こことこことここ、それとこのプリントの漢字。これ暗記して。一字一句間違いなくね。」

 

 最終手段、ヤマ張りを決行した。

 先生の出題傾向と癖、好みを反映するとだいたい、今指さした問題が出るはずだから、と説明した。

 なぜ、こんなことがわかるのかというと、伊織は相手の癖を読んだり見極めたりすることが得意だった。それに加え今までの試験の傾向もしっかりと記憶してある。テストのヤマを張ることは正直に言って朝飯前なのだ。

 最初からそうしていれば苦労しなくて済んだはずと思う人もいるかもしれない。でも、それは西谷や田中の今後のためにならないと考え、敢えて最終手段としていたのだ。まさか初日から使うとは思わなかった。

 

 「だから、暗記だけ頑張ってね。縁下を怒らせたくなかったら。」

 「いや、おれたち暗記にが・・」

 「お前らこれで点数取れなかったらどうなるかわかってるよね?」

 

 仁王立ちしながら、田中の言葉に被せて発言した縁下を前に、西谷・田中両名は為す術もなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 「伊織、読書の時間奪っちゃってごめんな?」

 

 縁下は、ばつの悪そうな顔をしながら謝る。

 あの2人の成績をどうにかするために頼んだのは良いが、伊織の性格的に、他人に何かを教えることは苦手なはずだ。だって俺以外のやつと楽しげに話しているのとか見たことない。

 ・・・決してコミュ障とかではない、はず。たぶん。

 

 伊織は、眉を下げて謝る縁下を見て、若干目を見開いて驚いた。

 その後、意味を理解して、苦笑いしながら答える。

 

 「別にいいよ。まぁ確かに、あの2人のことはあんまり知らないけど。・・・でも縁下の大切な仲間、なんだろ?」

 

 それなら、良いのだ。

 

 「友達が困っていて、教える相手は友達の大切な仲間。これだけで俺が引き受ける理由になるよ。」

 

 伊織は、柔らかな笑みを浮かべて縁下に返事した。

 

 縁下は、その言葉を聞いて、ほっとしたように息を吐く。

 そうだった、伊織はこういう男だった。

 

 「ありがと、じゃあ明日もおねがいしていい・・・?」

 「うん、明日は英語ね。あの2人にも伝えておいてくれたら嬉しい」

 「わかった」

 

 

 小テストまで、あと2日。

 

 

 

***

 

 

 

 「力ー!」

 「なに?西谷。」

 「斉藤!いいやつだな!!」

 

 ニっと笑いながら言う西谷を見て、縁下も笑う。

 

 「・・・当たり前でしょ。」

 

 部活の休憩時間にて。

 

 友達が褒められたら、嬉しいな。

 縁下がそう思った瞬間である。

 

 「今日もくれぐれも迷惑掛けないように教わって来いよ。」

 「ギクッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「テスト返すぞー、阿部ー」

 

 田中はドッキドキである。50点取れなかったら試合に出られないどころか、力と大地さんから雷が落ちる。

 だが不思議と前のような絶望感はない。何故なら、

 

 「言われたとこ全部でたんだよなぁ・・・。」

 

 問題を解いているときに思った。もしかして俺たちはとんでもないやつに勉強を教えてもらっていたのではないかと。

 

 いやいやイケメンにはだまされねぇ・・・、と思いながら返された答案の点数を見る。

 

 「は、80点・・・だと・・・!?」

 

 そこにはなんと、赤ペンで80と書かれた文字が四角い枠の中に鎮座していた。

 初めて見た点数で驚きが隠せない。もう2度と取れないかもしれないと思いながら、クラスの違う盟友へと思いを馳せた。

 

 

 「のやっさんはどうだったかな・・・。」

 

 

 

 ***

 

 

 

 西谷は、ドンと男らしく構えていた。

 今更何を言ったって結果は変わんねぇ、そう思いながら。

 

 「しかも言われたとこ全部出たし50点取れないわけがねぇ。」

 

 そう、言われたとこが全て出た。全部を覚え切れたわけじゃないから満点ではないけどそこそこ点数は取れていると思う。

 

 あいつ、やっぱやべぇやつだったんだな。そう、伊織のことを認め直した。

 

 (女の子にキャーキャーいわれてんのは気にくわねぇけど。)

 

 「西谷ー!」

 「はーい!!」

 

 返された答案の点数。そこにはなんと、83点というこれまた見たこともない数字が書いてあった。

 

 「俺すげー!!」

 「西谷お前そんな点数取ってどうしたんだ?頭大丈夫か?」

 「おう!教えてもらったとこ全部出た!」

 「は!?誰に教えてもらったんだよ?」

 「斉藤伊織ってやつ!イケメンなのはいけ好かねぇけどいいやつだ!」

 「まじかよ・・・!?お前それっ、学年1位のやつじゃん・・・!いいなぁ・・・。」

 

 (学年1位ってまじか。それは知らなかった。)

 

 「でもこれで、バレーが出来る!!」

 

 西谷は、授業中と言うことも忘れて、両手を挙げて叫んだ。

 

 もちろん、怒られたのは、言うまでもない。

 

 

***

 

 

 目の前に立ちはだかる高く強固な壁。

 その壁は、時に厳しく訴えかける。

 

 お前にこの壁は、崩すことが出来るのか?と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総合体育館。そこでは、バレーの大会が開催されている。

 伊織は縁下とその他2名に、見て欲しい!と言われ半強制的に体育館に足を運んだのだった。

 

 「ここに来たの、何年ぶりかな・・・」

 

 来たのは中学2年生のあの、大会以来だ。

 

 ここに来ると、中学時代を思い出して、手が震える。

 場所が悪いんじゃない。自分の記憶の中で勝手に、嫌な場所として認識しているだけなのだ。

 

 今はもう、俺には関係ない。

 

 

 そう、思いながら、眼下で行われている、烏野高校対伊達工業高校の試合を見た。

 

 伊達工業のブロックにエースの攻撃が悉く、止められている。たぶんあれは的を絞られているな、と思った。伊達工業のブロックはリードブロックが主で、ほんの少しセッターが崩れたりして、いや崩れなくても、ボールの行く先がわかってしまうと即座に誰に上がるのか予測されてしまう。そして見ている感じだと、伊達工業のブロッカーには、エースの攻撃を絶対に通さないという固い意志を感じる。

 つまり、セッターが焦ってエースに上げても、冷静に上げても、止められるのだ。見たところ堅実なセッターだから、点差が大きいこの状況で危うい行動はしない。だから、エース以外には何かない限り上げないだろう。例えば、・・・エースが打てなくなるまで心を折られてしまう、とか。

 

 「烏野、苦しいな。堅実なセッターは安定感があるけどそれだけじゃ手練れのリードブロックには勝てない。それに、打ったボールが全て自陣に返ってきて、それで失点するのが続くと、打ちたくなくなるよね。ブロックフォローも難しいし。」

 

 ブロックフォローというものは例え練習をしていても全て取れるわけではない。

 

 俺にはわからないけど、きっと打ちたくなくなるだろう。どんなに無神経なやつでも、目の前を塞ぐブロックは気にするし、全部が返ってきて失点するのはきついのではないかと思う。

 

 「そうして精神力を削られたエースは、きっと・・・」

 

 打つことを、諦めてしまう。

 

 

 今の烏野の、エースのように。

 

 

 伊織の眼下にはセッターから捧げられようとしていたトスを、呼ばなくなったエースが、いた。

 

 

 

***

 

 

 

 目の前に立ちはだかる高く強固な壁。

 その壁は、スパイカーの心を折るだろう。

 そして、その壁は嘲笑うかのように囁いた。

 

 お前にこの壁を、崩すことは出来ないだろう?と。

 

 

 




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