光を求めた   作:猫ちゃん

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目標は週末に更新と言いました、あれは(半分)嘘だ!(週末以外にも更新する)

お久しぶりです。お気に入り登録、閲覧してくれてどうもありがとうございます!

今回も縁下くん回ですが最後にドンが出てきます。

それではどうぞ。


こわいこと 4

8

 

 

 ぽーん、ぽーんと緩やかなカーブを描いて上がるボール。

 それを維持しているのは、斉藤(さいとう)()(おり)縁下(えんのした)(ちから)だ。

 

 目を盛大に腫らした縁下を教室に戻すわけにもいかず、堂々と授業をサボってしまった。今日が午後1つしか授業ない日で良かった、ホント。

 

 誰もいない体育館で、対人パス。

 縁下は目が腫れているからか偶に崩れることはあるけれど、伊織のレシーブするボールは一寸の狂いもなく縁下の手元に返ってくる。ここまで来るとまるで精密機械のようだ。

 

 そんなことを考えながら、ふと思ったことを縁下は口に出した。

 

 「伊織はすごくレシーブ上手いよね」

 「・・・バレーしてたからね」

 

 今まで2年間友達していたのに知らなかった。

 

 「ポジションどこだったんだ?」

 「…やってたのはスパイカーだよ」

 

 そこまで言って、ボールを持った伊織は何かを決めたかのような表情で縁下に切り出した。

 

 「俺の昔の話、聞いてくれる?」

 

 

 まぁ、いろいろあったんだけど、俺練習したら大体のことは出来るようになってたんだ。それでも練習は毎日欠かさずやっていたし、目標まで出来るようになったら次はもっと高くってやってた。

 それだけでも十分楽しかったのだけれど、チームを信じてバレーすることがもっと楽しかった。

 だから小2の頃からずっとチームプレーをしてきたんだ。

 

 「それで、中学は北川第一に行ったんだ、家から近かったから」

 「え、伊織北川第一だったの!?」

 「うん、そうなんだよね」

 

 言ってなくてごめん。

 中3の情報はほぼないから俺のことはあんまり知られてないっていうのも、縁下がバレーやっていたけれど知らなかった理由かもしれないな。

 まぁ、いろいろあったんだけど、先輩に及川(おいかわ)(とおる)っていう人がいたんだ。先輩はセッターでね、俺もセットが上手かったらしくてライバル認定?みたいなのされていたんだ。・・・俺はそのときあんまり気づいていなかったけど。

 それで、練習したらすぐ出来る俺のことを“天才”って呼んで、結構嫌っている感じに接していたからそれに同級生とかも引っ張られていたのもあるかもしれない。そのときあたりからきっと、みんなそう思っていたんじゃないかなぁ、色々可笑しくなっていったんだ。

 

 「もしかしていじめとか・・・?」

 「いや、そういう方向には行かなかったんだよね」

 「そっか」

 

 俺が試合とか練習でコートに入ったときに、斉藤だったら何でも完璧に出来るだろう?って目で見られたり言われたり。でも俺にも出来ないこととか完璧なんてほど遠かったりとかすることがあって、そういうのが露見すると攻められているような態度取られたり。・・・まぁ、あのときの俺は純粋無垢って感じで他人の悪意とか全然わかってなかったんだけどさ。ただ純粋に出来ないことに対して出来るように練習することで精一杯だった。

 そんなのが続いて、2年になったときに後輩が出来て、その中に及川さんが言うには天才がいたみたいで、俺から目は逸れた。その子は黒いまん丸の頭で可愛かったよ。いかにもバレー愛していますって感じで、可愛かった。

 

 「そうして時間が進んで及川さんが卒業して・・・って感じ。4月だったかな、そのくらいの時に新人戦みたいな大会があったんだ」

 「うん、覚えてる」

 

 そのときに俺はセッターとして試合に出たんだ。及川さんがいなくなってやる人がいなかったから、だけど。

 試合やっているときにね、相手から返ってきたボールでレシーブ崩れてダイレクトで叩かなきゃいけない場面が来て、そのときに近くにいるスパイカーの人が打ち返してくれると思ってたんだ。でも、近くにいたそのスパイカーが俺に、ダイレクトで叩いてくれって言ったんだ。・・・勝敗を決めるかもしれない場面の時にね。

 俺はボールから遠い位置にいて、なんでだ、とも思ったけど取り敢えず相手コートに返さなかったら負けるから走って突っ込んで返したよね。

 でも、バランス大きく崩して無理な体勢で打ち返したから、着地もままならなくて、そのまま地面に落ちたんだ。頭打ったみたいでその後見た景色は病室の天井だった。

 

 「まぁ、俺が返したボールは拾われてその後負けたみたい。俺はそのとき意識なかったからわかんないけど」

 「どうして味方、ダイレクト自分でしなかったんだろう・・・」

 「きっと怖かったんじゃないかな、自分の返したボールが壁に阻まれるかもしれない、返されるかもしれない、それがきっかけで負けるかもしれないっていうのが」

 「それでも遠いところにいた伊織に頼むって言うのは違うよね」

 「うん、確かにね」

 

 それで、俺が病院にいる間は誰も見舞いとか来なかった。・・・あ、飛雄は来てくれたっけか。

 そのとき寂しかった記憶あるなぁ。悲しいって言う感情が沸いたの、そのときが初めてかもしれない。

 

 その後、退院して学校に行ったんだ。廊下歩いてて、チームメイトがいて声かけようとしたんだ。

 そうしたらね

 『あいつ、退院したんだってよ』

 『あぁ、斉藤?ずっと入院してれば良かったのにな!』

 『いっつも澄ました顔していらつくんだよなぁ、マジで』

 『最後あいつのせいで負けたしな!ざまーねぇわ』

 

 って、話してて。そのとき、初めて、あぁ疎まれてたんだな、って思った。そして同時に、こわいって思うようになっちゃったんだよ。・・・誰かを信じるということが。

 

 

 

 「俺の話はこれだけ。・・・なんか重いこと話してごめん」

 

 伊織は眉を下げて申し訳なさげに謝った。

 それを見た縁下は、怒ったような、安心したような、嬉しいような表情で伊織を見た。

 

 「・・・聞けて、良かった」

 

 だって、友達の辛いこと、1人で抱えさせたくないじゃんか。

 

 その言葉を聞いて、伊織は目を僅かに見開いた。

 そして、泣きそうに、返した。

 

 「・・・ありがと、(ちから)

 

 

 

__________

 

 

 

 

 こわいこと。

 それは人によって違うだろう。

 

 こわいこと。

 それは、抱え込まずに吐き出すことによって、楽になることもあるだろう。

 

 そのこわいことをどうするかは、自分がどうしたいかで、変わってくる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 希望と怖れとは切り離せない。希望のない怖れもなければ、怖れのない希望もない。

 

 

 ジョン・ラスキン「現代革命の考察」

 

 

 

 

9

 

 

 重たい話をした後に空気を変えるため、縁下力と斉藤伊織は、どちらともなく立ち上がった。

 最早どちらの目元も薄らと赤みがかっており、泣いたことがバレバレであるが、2人ともすっきりとした表情をしている。

 

 「俺、サーブしたい」

 「じゃあサーブ受ける」

 

 サーブをしたいと言い出した伊織に、力はレシーブするという答えを出した。

 

 「行きます!」

 

 伊織は一連のルーティーンである、ボールを2回ドリブルしその後2秒構える、ということをして、ボールを宙に高く上げた。

 

 力は思った。

 え、ジャンプサーブ!?と。

 

 力の予想通り、伊織は高く上げられたボールに対して、キュッキュっとステップを踏み、ドンピシャの角度で手のひらに当てたボールを勢いよく、力の方へと打ち下ろした。

 

 あまりの強さのサーブに、力の腕に当たったボールは大きくはじけ飛び、体育館の入り口の方へと勢いよく飛んでいった。

 そう、飛んでいったまでは良かったのだ。

 飛んでいった先の扉が開き、そのボールがバレーボール部主将、澤村大地の顔面にクリーンヒットしてしまったのだ。

 

 勢いを失ったボールが落ちる頃、顔面にボールを受けた男は、それはそれはにこやかな表情で、力の方を向いていた。

 

 

 「・・・ちょっといいかな?縁下」

 「・・・・・・はい」

 

 澤村ににこやかな表情を向けられた縁下は、鬼から逃げる術を考えていた。

 勿論、思いつくことはなく、連行されたのだった。

 

 

***


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