光を求めた   作:猫ちゃん

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こんにちは、こんばんは、猫です。

今回から日常を交えて物語を書いていきます(予定は未定)

楽しい感じで書くと言ったけれど楽しい感じとはなんだ・・・?と思いながら書きました。

豆腐メンタルなので読みたい方のみお読みください。



第2章
ある平和な日常 その1


 暗闇から視界が開けた。いきなりの光ではなく、徐々に差し込んでくる光によって()(おり)は目を眇めた。

 段々と目が慣れてきて、最初に目に入ったのは丸いLEDライトの照明器具だ。

 

 「ん・・・。」

 

 ぼんやりと天井を見ながら、夢の内容を思い出そうとするが思い出せない。思い出さなくてもいい内容だったのだろうと考え、起き上がる。ぱさりと掛けられていた布団が落ちた。

 

 「あっつ・・・。」

 

 肌に掛けられていた布団はタオルケット1枚のみであったが、寝間着がしっとりとするほどの汗をかいていた。首筋を流れ落ちる水滴(あせ)や、着崩れた寝間着、目に掛かる髪、元来の顔のせいで色香を垂れ流す男の出来上がりだったが、ここにそれを指摘する人物はいない。

 

 伊織は汗を流さなければ、と思い立ちシャワー室まで足を進める。そのスピードは亀並みであった。

 

 

 ***

 

 

 シャワーを浴びて、簡易的に作った朝食をゆっくりと食べたら大体いつも6時半。それから日課のランニングに勤しむのだ。通常であればランニングをした後にシャワーを浴びるのだが夏の間は大体それが逆になる。何故なら、単純に気持ちが悪いからである。そう、朝食を食べる前に汗をかいたままにしていることが。

 

 ランニングは30分間一定のペースで走り続けるものをしている。伊織は常人とかけ離れた脳の構造をしていることから、あらかじめ距離と時間を計算しなくても最初に決めた一定のペースで走ることが出来るのだ。あらかじめ決めないのも、脳への刺激でちょうど良いと考えているからである。つくづく変人だ。

 

 「・・・あっつ!」

 

 本日2度目、あっついである。伊織は一定のペースで走りながらも脳の大部分で暑い・・・と考えている。暑さは思考を鈍らせるとはまさにこのことだ。飛び出してきた犬を華麗に避けつつ草木が横に並ぶ歩道を走る。

 

 ゴールとしていたところはいつもと同じ場所、30分ぴったりに着いて伊織は笑顔になる。満足だ。そこから歩いて家に帰り学校へ行く準備をする。家を出るのは7時15分である。時間ぴったりに動かなければなんか気持ち悪いと常日頃思っているためなかなか行動を変えることが出来ないが、今は困っていないのでいいか、と独り言ちた。

 

 (そもそも、なんでこんなに早く出てるんだっけ)

 

 登校のため歩道をゆっくりと歩きながら1人考える。

 家にいるとバレーボールのことしか考えられなくなるから早く家を出て遅く帰ることが日課になったことを思い出す。

 

 (昔はバレーのこと考えたくないのに家にいると考えちゃうし思い出しちゃうし最悪だった)

 

 記憶力が無駄にいい脳とバレーボールへの愛が昔は自分に対して攻撃していた。それが緩和してきたのは最近、力とバレーしたり、烏野の試合を見てからだ。そう考えると烏野高校さまさまである。

 

 遠くに烏野高校が見えてくる頃、後ろから呼びかけられた。

 

 「伊織おはよ。」

 

 黒髪に優しそうな表情をした縁下(えんのした)(ちから)が話しかけてきた。伊織は力の姿を見て、蕩けるような顔で挨拶を返した。力だけにこのような表情をするわけでなく、“仲の良い”と認めた人には総じてこの顔をするから勘違いされやすいのだが、本人は気づく気配はないのでずっとこのままだろう。・・・たぶん。

 

 「力、おはよう。」

 「良い天気だけど暑いね。」

 「今日は朝起きたときからずっと暑かったよ、嫌になりそう・・・。」

 

 眉を顰めて辟易とした表情をした伊織は、本当に嫌そうにそう口に出す。もう口癖が「暑い」になりそうな勢いである。

 

 全身から気怠い雰囲気を出しつつもそれが様になっている伊織を見て力は苦笑した。それを見て伊織は首を傾げるが、それもまた周囲の人間の庇護欲をそそってしまう。最早存在が罪であるかのようだ。

 

 

 伊織と力が横に並び話しながら歩くのと同じように、周囲の人間も集団で登校したり1人で登校したりと様々な高校生がたくさんいた。そうして、1日が始まるのだった。

 

 

 ***

 

 

 伊織は1週間に1度だけ、放課後にバレー部がいる体育館に行くようになった。まだ入部はしていないが、足掛かりにでもしてくれという主将である澤村先輩の有り難い言葉と周りの歓迎するような空気に絆されて足を運ぶことになったのだ。主に行うことはボール拾いとマネージャーの手伝いであるが充実した時間を過ごすことが出来ると思う。今日がその1日目だ。

 

 ボール拾いは実は奥が深いもので、ただボールを拾おうとしても確実に拾うことは難しい。しかし、トスの高さ、余裕、スパイカーのジャンプのタイミング、姿勢など諸々を観察しながらどのコースに打ってくるかを予想し処理して身体を動かせばほぼ拾うことが出来るのだ。伊織のボール拾いは、コーチの「うめぇなお前」の言葉からもわかるようにお墨付きである。

 1秒にも満たない間に情報を処理し対応する能力は鍛え続けなければ難しい。一部、そういうのが得意な天さ・・・バレー馬鹿もいるが稀である。

 伊織は更に、スパイクを完全に読んでレシーブし、そのままボール出しをしているマネージャーに返すのだから天才の域に完全に足を突っ込んでいる。

 

 その光景を見ていた日向(ひなた)翔陽(しょうよう)は、すげぇ、と声を漏らした。

 ボール拾いとして参加しているにも関わらず、まるで試合でコートを任されたレシーバーのような動きをしている伊織を見て、ぶるぶると身体が震える。日向がたった1つ年上の男に圧倒されたのだと気づいたのは、後に影山と話しているときである。

 

 「よし!今日はこれで終わりだ、しっかりストレッチしろよ。」

 

 コーチの声かけに、激しい運動をしていた部員達は地面に崩れ落ちる。もうすぐインターハイを控えているため最近の練習は随分ハードなのだ。

 

 伊織は、汗を襟元で拭いドリンクを準備していたマネージャーの下へ走る。

 

 「斉藤くんも飲む?」

 

 黒髪で顔の造形が美しく、また名前も神々しさを感じる清水(しみず)清子(きよこ)が伊織に向かって無表情で話しかけてくる。

 

 伊織は、肺から出てくる熱い息を整えながら首を横に振った。シャツの襟が汗で色が変わってしまっている。

 

 「先に、部員の方持って行きます」

 

 息も絶え絶えで、ふらふらなままドリンクを運ぼうとする伊織の腕をつかみ、ぐい、とドリンクを清水は伊織の胸へと押しつける。そして、きっぱりと言った。

 

 「飲みなさい。」

 

 美しい無表情で命令された伊織は、反発することなくただ1つの答えを口に出した。

 

 「はい。」

 

 

 ***

 

 

 日向翔陽は部活が終わり自主練の時間になって、影山の元へと向かう。当の影山はなんだかそわそわしていた。

 

 「なぁ影山、斉藤先輩ってすごいな。」

 「お前もわかるのか?先輩の凄さ。」

 「なんとなく?」

 

 首を傾けながらなんとなく、と言う日向に溜息を吐きつつ影山は視線を伊織先輩へと向けた。

 質問したいことがたくさんある。レシーブの角度、タイミング、腕のしなり具合などなどたくさんあるけれど、2年生組に囲まれて笑っている先輩を見ていると声を掛けるタイミングが掴めない。

 

 帰るときに聞こう、と思考に区切りをつけて日向に向き直る。

 

 「おい、やるぞ、自主練。」

 

 日向は、きょろりと目を動かして影山を見上げた。二重の大きな2つの目に見つめられた影山は少したじろいだ。

 

 「・・・なんだよ。」

 

 手の指先を腹のあたりでもじもじとしつつ、日向は口を開いた。

 

 「斉藤先輩って、なんでバレーしてないのかなって思ってさ。」

 「それは・・・」

 「なんか知ってんの?」

 「知ってるけど、別にいろんな人が知らなくてもいいことだ。」

 

 影山は、遠くで2年生達と戯れている先輩を見て、そう呟いた。

 トスを無視されたときの気持ちは影山の心の中に重く影を落としているが、同じようにきっと先輩の中にも重く影を落としていると思っている。

 

 影山はボールを持ち直し、日向に目を向けた。

 

 「俺たちは俺たちで強くなるぞ。」

 「おう!」

 

 影山の心に影を落とした出来事は未だに多くを占めているけれど、日向の太陽のような明るさで心が明るく照らされているからまだ救われている。

 先輩はどうなんだろう。そう、思うけれど、確かめるのは俺じゃない気がする。

 

 走り込んでくる日向にトスを渡す。それを打ち切った日向を見て、影山は口角を無意識のうちに上げていた。

 

 

 ***

 

 

 1日の終わり、しんと静まった家に伊織は帰ってきた。何故1人なのか。それは、両親が東京で働いているからである。引っ越してきたときは家族3人であったはずなのに、今は両親が東京に住んでいる。これには色々と訳があるのだが話すと長いので割愛する。

 

 シャワーも浴びて、食事も食べてもうすることもなくぼぉっとしていた。ふと、机の上に置いてある写真を見る。そこには、白いワンピースを着た可愛い女の子と並ぶ少年時代の自分がいた。誰だろう、と毎日思いながら過ごしているが、これを誰かに聞くことも出来ない。

 

 中学時代の頭部強打によって昔の記憶を忘却している伊織は、思い出そうとするたびに頭痛に悩まされ、また親に聞こうにも悲しそうな表情をされたためもう聞くのは止めた。悲しむのを強要するのは好きじゃないのだ。

 

 (きっと、仲良かったんだろうな)

 

 一緒に写っている女の子の表情を見ればわかる。そして自分も。

 

 (それにこの子、可愛い)

 

 可愛いと思うこと自体驚きだけど、本当に毎日見るたびに思うのだ。周りの人には思うことあまりないのに。

 まぁ、でもきっと会うことはないだろうなと思いつつ写真を置いてベッドに横になる。

 

 ゆらりと視界が揺れて、瞼が落ちてくる。それに逆らうことなく伊織は眠りについた。

 

 

 

 

 

 満月が夜の帳を照らす頃、ある場所で伊織が持っている写真と同じものをじっと見つめる人がいた。

 

 「いおりん、どこにいるのかなぁ・・・。」

 

 元気だと、いいけれど。

 

 その子は、写真を胸にそっと抱えながら、瞼を閉じた。

 

 「・・・会いたいなぁ。」

 

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