光を求めた   作:猫ちゃん

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こんにちは、こんばんは、猫です。

今回は伊織多めのちょっと長い回となっています。

豆腐メンタルなので読みたい方のみお読みください。



ある平和な日常 その2

 烏野高校体育館。2年生の斉藤伊織は、親友の縁下力と共にアップをしていた。

 周囲も皆ペアになってアップしている。これから始まる過酷な練習にウキウキしている人種Aと、若干窶れて見える人種Bがいた。人種A代表は日向影山、人種B代表は主に月島であることはバレー部の人間であれば誰でもわかる。週に1度の休み以外毎日毎日激しい練習をしているのだ。そして今日は5日目で、人種Bが増えつつある。

 

 そんな中でも、オレンジ色の髪をした日向翔陽、黒いまぁるい頭の影山飛雄は一層元気である。その元気さ、五月蠅さには普段から2人に苛ついている月島蛍もぶち切れ寸前である。案の定日向の頭のてっぺんは、犠牲になろうとしていた。

 

 「おチビと王様五月蠅い。」

 

 頭のてっぺん、言い換えて下痢つぼなる場所を思い切り押された日向は、涙目で訴える。

 

 「いたたたたた!やっめろ、月島!!」

 「おチビが五月蠅いのが悪い。」

 「俺だけじゃないだろ!」

 

 講義する日向に、蚯蚓を見るような細めた目で日向を見下ろす月島。その横には、口元に手をやり何かを深く考え込んだ影山がいた。まるで知らんともいうような態度の影山である。

 考えていた時間はざっと10秒程。意識を浮上させて影山は月島に一言、言った。

 

 「あんまりそこ押すと、さらにチビになるんじゃねぇか?」

 「おいっ!うるさいぞ影山!!」

 「そうだねぇ、おチビ。」

 「影山ずっとそれ考えてたの?」

 「・・・?おう。」

 

 横から山口も参戦してきて収拾がつかなくなった頃、バレー部主将、澤村大地の存在によって止められた。

 

 「おいお前ら・・・。」

 

 ギクッと肩を上げ、恐る恐る振り返る4人の視界には、燃えさかるような炎を背に仁王立ちする鬼が見えた。

 

 「ちゃんとやれ。」

 

 鬼は、ニコっと、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その風景を見ていた伊織は、Tシャツから覗く腕を両手で摩った。なんだか寒気がしたのだ。

 

 (なんか前にも見たことあるなぁ、あの感じ。)

 

 そう、力と2人授業をサボって体育館でバレーしているときにあの表情を見たのだ。あのときは本当に標本に針で止められた虫になったような気分だった。

 

 力を見ると、視線に気づいた彼は、眉を下げて苦笑した。

 

 (まぁ、でも怒って貰えるだけいいのかな。)

 

 そんなことを考えながらしていたアップも終わり、練習が始まった。

 

 

 

 

 

 金髪の髪をヘアーバンドで上げたガラの悪・・・普通のコーチは、伊織の今までの練習風景を思い出していた。

 レシーブでも決して手の抜かないプレー、常に先のことを予測して動いているようにしか感じられない動き、まるで試合をしているような緊張感(プレッシャー)を放っていること・・・、その他にもたくさんあるがこのことから、気づいたことがあった。

 

 (もしかしてこいつ、とんでもねぇプレイヤーなんじゃねぇか?)

 

 そう、一つ一つの完成度が高校生にしては高すぎるのだ。まだ全てのプレーを見たわけではないから断言できるわけではないが、今までの経験と勘がそう、激しく主張してくる。

 

 だからだろうか、伊織を視界に入れた烏養繋心は伊織を指さしながらポロリと口から、言う予定のなかった無意識の言葉が飛び出していた。

 

 「お前、スパイクとサーブの練習もやんねぇか?出来んだろ?」

 

 伊織は、レシーブのポジションに入ろうとしていたが、声を掛けられたことにより立ち止まった。

 出来るが出来ないかもしれない。そんな思考にとらわれそうだった伊織の肩に縁下力の右手が置かれた。まるで、伊織が何を考えているかわかっているかのように違和感なく縁下力は声を発した。

 

 「出来なくても良いじゃん、やってみよう?」 

 「でも・・・。」

 

 まだ乗り気ではない伊織の背中に強い衝撃が走った。そう、西谷が思いっきり背中を叩いたのだ。一歩踏み出して何とか堪える。

 

 「やってみてできねぇってんならいいじゃねぇか!やってみよう!!」

 

 前髪の一部が金色に近い色に染められている小さいのにでかい男、西谷夕は歯を見せて元気よく言った。

 

 伊織は、少しだけ目を見開いたが、その後はにかんだような笑顔を見せた。

 唯々嬉しかった。そうやって声を掛けて貰えることが。甘えていると言われるかもしれない、周囲の人間に甘やかされているのかもしれない。でも、その甘さが、未だに傷だらけの伊織の心に蜂蜜を塗りたくられるように、優しく傷口を塞ぐのだった。

 

 「・・・うん、やってみます。」

 「おう!入れ!」

 

 こうして、練習は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (おいおい、まじかよ・・・。)

 

 コーチ、烏養は目の前で起こっている光景を見て冷や汗を流しながら唖然とした。

 細いと思っていた身体から繰り出されるスパイクは、まるで隕石のようにボールを力強くコートに落ち、更には打ち分けも出来ている。

 この調子だとサーブも強烈だろう。これが天才と呼ばれる奴なのだと、烏養は漠然と思った。

 

 (これは欲しいプレイヤーだな。)

 

 「斉藤!ちょっとこい!」

 「・・・?はい!」

 

 なんでしょうか。そう言いながら近寄ってきた伊織の頭のてっぺんから足のつま先までじっくり見て、烏養は言った。

 

 「ちょっと脱いでくれ、筋肉が見てぇ。」

 

 目の前の伊織は固まったが、烏養は知ったことか、と言わんばかりに考える。

 ここまで良いプレイヤーの筋肉の付き方を見たかったのだ。悪い付き方をしてるなら治さなきゃいけない。これはコーチのやるべきことだ。

 

 伊織は、僅か数秒の間に烏養の言葉の真意を理解したのか、徐にTシャツを脱いだ。

 

 そこには、細いながらも身体に無駄な部分などないかのように、黄金比のバランスで美しくつけられた筋肉があった。

 

 「ほう・・・、すげぇな。毎日筋トレやってんのか?」

 

 烏養は、目の前の整えられた筋肉を見て感動した。自分の現役時代であってもここまで美しいのは見たことがない。

 

 「はい、毎日してます。・・・あの、もう着ていいですか?」

 

 伊織は右手に持っていたTシャツを持ち上げて、なぜだか感動している烏養に聞く。

 

 「あぁいいぞ、ありがとな。」

 

 (ほんとにこいつ、なにもんだ・・・?)

 

 もう何が何だかよくわからなくなってきた烏養は、若干目眩がしたが気を取り直して前を見た。

 

 西谷や田中に筋肉すごい、ということを連呼されている斉藤伊織。それを横で笑いながら見ている縁下力やその他部員。

 

 (徹底的に観察してやる。)

 

 烏養は、気合いを入れた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 その日の練習、最後に町内会チームとの練習試合が秘密裏に組まれていた。知っていたのは先生と、コーチと、主将だけである。秘密にしておいた方が後々びっくりする顔が拝めるだろう?と烏養コーチは言っていた。

 

 伊織は、いつも通りスコアボードの位置についてそれをやろうとしていた。

 

 今日の練習はサーブもスパイクもすることが出来た。これはきっと、やってみて出来ないならいいじゃないか、という言葉によって、自分を責める自分の気持ちが少しでも緩和されたからであろうと予測することが出来た。

 

 (やっぱり、仲間って大切なんだな。)

 

 仲間。前までは聞くだけで過呼吸になるほどストレスを感じてしまう言葉であったのに、2年生になってから自分は一体どうしてしまったのだろうか。次々とトラウマを克服しつつある。

 やらないで後悔するより、やって後悔した方がいい。この言葉はまさにその通りだな、と自分の経験と照らし合わせた結果、漠然と思った。

 

 スコアボードの横で立っている伊織を、遠くから大きな声で呼ぶ声があった。烏養コーチだ。

 

 「斉藤!数足んねぇから入ってくれ!!」

 

 よく見るといつもいる町内会チームの人が1人足りない。

 

 (やって後悔した方が、いい。そうだよね・・・?)

 

 「伊織やろうぜー!!」

 「やろうぜー!」

 

 2年生元気代表、西谷と田中は遠くから伊織に向かって手を振っている。

 それに誘われるかのように、伊織の足は前へといつの間にか動いていた。

 

 「おう!」

 

 

 

 

 

 指示された位置に着く。今回は町内会チームでウィングスパイカーのポジションを指定された。

 ウィングスパイカーとは、ネットの両サイドのポールに近い位置でスパイクを打つことが主な役割。そして、レセプションやディグにも参加する。レセプションというのはサーブレシーブ、ディグは相手のスパイクをレシーブすること。だから、ウィングスパイカーはアタックとレシーブの両方をこなせる総合的なスキルが必要になる。

 スパイク、レシーブ共に安定して出来る伊織にとって、ちょうど良いポジションだ。

 

 伊織は相手のメンツを見て考える。

 相手チームにはレシーブの弱い日向や月島がいる。スパイクは対応されるまであの2人に打った方が得点率が高い。あと、日向影山の超速攻は。

 そこまで考えていると、自分チームの町内会メンバーが作戦を立てようとしていた。作戦と言っても基本的なことは変わらず、日向影山の超速攻をどうするべ、という話であったが。

 

 「あのはえー速攻どうしよっかなー。取り敢えずそれ以外で得点するか?」

 「その方がいいかもな、サーブとスパイクで相手を崩そう。」

 

 それを伊織は聞いていたが、特に何も言わずにまた思考の海に沈む。幸い、自チームのメンバーが気にしている素振りは見せていない。

 

 作戦タイムは終了し、伊織のサーブから始まった。

 

 伊織は、ボールを2回ドリブルし、その後2秒開け、ボールを宙高く上げた。

 高い打点から完璧のタイミングで放たれたボールは、カーブを描くことなく真っ直ぐに月島へと向かっていった。

 月島は、思い切り後ろにボールを吹っ飛ばし、痛そうに、悔しそうに、恨めしそうに伊織を眉間に皺を寄せながら見る。

 

 「・・・は?」

 「おいおいまじか・・・。」

 「すげぇな、おい。」

 「すっげぇ!」

 

 町内会チームの若い方々が次々に驚き、そして褒めてくる。それを嬉しく思いながら、次のサーブに向けて準備をした。

 

 同じルーティンでサーブを打つ。毎回狙うかのように月島か日向の元に行くため、レシーブうまい組がカバーしようと絞ろうにも絞れず、町内会チームが5得点取った。

 6回目のサーブはネットにあたって伊織のターンが切れてしまったが、よく点数を取ったと頭をわしゃわしゃと撫でられる始末。まるで犬っころのあまりの可愛さと利口さに嬉しくなった飼い主、町内会チームメンバーと犬っころ、伊織というなんとも言えない図の出来上がりである。

 

 その後、点を取って取られてを繰り返していた。

 伊織は、超速攻の打ち分け不可能なことは既に見抜いていた。どの角度でどんな確率で落ちるのか、ということを見極めようとしていた。常にコートを把握し、記憶し、解析していくからか若干の頭痛を引き起こしていたが今はバレーが楽しい、バレーがしたいということ以外は二の次だった。

 

 「俺に持ってこい!!」

 

 日向がトスをくれと叫ぶ。

 それに釣られるかのように、影山の意識は日向へと向き、トスの姿勢も日向寄りとなった。

 

 ずっと見ていた。

 見逃さない。この角度、このタイミング、この場所。

 

 とんでもないスピードで繰り出されたスパイク。ブロックは到底追いつけない。

 

 相手コートにボールが落ちる。影山は脳内で確信していた。

 しかし、目を開いて相手コートを見た日向の目には、レシーブしようとしている斉藤伊織が、見えていた。

 影山やその他メンバーは目を見開く。

 

 

 

 ふわっと、町内会チームのコートに打ち付けられそうだったボールが、宙へと上がった。

 

 

 

 今まで読まれたことのなかった超速攻が、初めて完璧に読まれてレシーブされた瞬間だった。

 

 

 




速いだけが強いわけではないのである。


 **


更新頑張ってるけどそろそろエネルギー切れそう。
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