光を求めた   作:猫ちゃん

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こんにちは、こんばんは、猫です。

今回で第2章終わりの予定です。
烏野1年生少し多め、伊織さんちゃんと出てきます。


豆腐メンタルなので読みたい方のみお読みください。

注:BL小説ではありません。



ある平和な日常 その3

 「うおおおおすげぇ!どうやったんだ!?」

 

 若干濃い蜂蜜色の髪を持つ町内会チームのスパイカー、(たき)()(うえ)祐輔(ゆうすけ)は相手コートにボールを落とした後、興奮のあまりあのトンデモ速攻をレシーブした斉藤伊織に詰め寄った。

 ボールに触れる瞬間、威力をいなし身体全部でボールを殺す、緩い回転。そして、超速攻が来ることを読んだ位置取りに、タイミング。全てにおいて完璧だった。

 

 完璧にレシーブした伊織は、滝ノ上に向き直り、言った。

 

 「ずっと、待っていたので。」

 

 その言葉を言い切った伊織の黒い髪から覗く双眸は、驚くほどに凪いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手コートを見ていた烏野高校チームは、驚き固まっていた。

 今まで、デディケート・シフトでコースを絞られることやたまたまレシーブされたりで、止められたことはあった。だが、完全に読まれてレシーブされるということはこの夏までに一度もなかったのだ。そんな簡単に止められていい代物ではないことは全員一致の認識であったから、余計に驚いているのだ。

 

 影山は、レシーブするときの伊織を見て、まるで心臓を握りつぶされるのではないかと錯覚するほどのプレッシャーを受けていた。そう、口元は笑みを形取っていたのに、いつも優しげな双眸で周りを見ている伊織の瞳が全く笑っていなかったのだ。

 そして、自分の才能を活かしたと言われている、取るのが難しいと思っていたセットからのスパイクが、子どもを甘やかすように柔らかく取られたことに茫然自失となった。

 

 周りのメンバーが呆気に取られている中、1人だけ違う人間がいた。

 

 「斉藤先輩すっげぇな!な!?影山!!」

 

 オレンジ色の髪を持つ背の低い先程のスパイクを打った少年は、満面の笑みとテンションが最大限高くなったような声音で影山に詰め寄った。日向にとって、今まで綺麗にレシーブされることのなかったスパイクが取られたことは、確かに驚くことであったがそれ以上に素直に凄い、と思っていたのだ。

 だからこその言葉に、影山は漸く身体の強張りから解放された。

 

 「・・・おう、すげぇ。」

 「・・・?どうしたんだ?影山。」

 

 いつもより元気がないように感じる影山の返事に、訳がわからないといったように首を傾げる日向。

 

 (そうか、俺は緊張していたのか。・・・こわい、と思っていたのか。)

 

 影山は漸く気づいた。初めて、あの先輩を怖いと思ったのだ。だから緊張していた。

 誰でも、訳のわからないものは怖いのだ。

 

 こんなことを思ったのは、オイカワさんを相手にしたときだけだ。まだ、心臓がドクドクいっている。血が逆流しているかのように身体が熱い。

 

 「もっと、もっと、強くならないと。」

 

 影山は、斉藤伊織をじっと、強い瞳で見つめた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 練習終わりに、月島は山口と2人、帰宅路を歩いていた。

 頭の中は、さっきの試合での苛立ちとなんだかよくわからない焦燥感、モヤモヤでいっぱいだ。

 

 「・・・あぁ、イライラする。」

 

 いきなりイライラすると言った月島に驚いた山口。山口は、刺激しないようにイライラの理由を聞く。

 ツッキーとは小学生の頃からの仲、ツッキーに合わせた話し方などとっくにわかりきっているのだ。

 

 「なにがイライラするの?ツッキー・・・。」

 

 月島は、ちらりと山口を見て、大きく溜息を吐き、気怠げにぽそり、ぽそりと呟いた。

 

 「・・・斉藤センパイのサーブとかスパイクとか殆ど僕か日向に打たれたし、日向と同じレベルに見られてた。それになにより、・・・全然取れない自分に、腹が立つ。」

 

 そう、狙われたのも、日向と同じレベルに見られたのも、レシーブできなかった自分にも、全てに腹が立つ。

 斉藤伊織という人物を相手にして最初に狙われた後、静かにじっと見つめられ、大きなナニカに飲み込まれてしまうと思ったのだ。遠くにいるのでまるで近くにいるかのように、そして敵うはずのないバケモノのように大きく、・・・怖く、感じた。日向が小さなケモノであるならば、斉藤伊織は成長しきって獲物を虎視眈々と狙っている怪物だ。

 

 「あの人はきっと、僕が取りづらいと思ってる角度とか、癖とか全部見切って、理解してゲームを作ってた。他の人も同じ、だから皆動きづらそうにしていたんだ。」

 

 (しかもそれを味方と共有しないで1人でやってた。コートにいた僕たちは、全部操られているかのように動いて、1つ1つ攻略されていったんだ。どんな人だよ、ホントに僕と同じ人間?)

 

 それを聞いた山口は、目を見開き、立ち止まり、全身で驚きを表現していた。それはそうだ、最早離れ業の域なのだから。

 

 「嘘でしょ・・・、ホントに・・・?」

 「なんで僕が嘘つかなきゃいけないの、バカなの?」

 「ツッキーのことは疑ってないけど、だって、それがホントなら、どうやって勝てばいいのさ・・・。」

 

 今の状況で勝つことはほぼムリだよ。

 そう、月島は思ったが、口に出すことはなかった。目の前にいる頭がいっぱいな友人の頭をさらに混乱させるわけにはいかないからだ。

 

 月島はそんな山口を無視して、言葉を続ける。

 

 「それに加えてあのトス。あの王様が完璧って呟くような代物だよ。ブロックだってまさかセンパイがトスするなんて思ってなくて結局間に合わなかったしレシーブなんてぐだぐだ。ホントに何者かと思ったよ。」

 

 最終得点の時、ファーストタッチは町内会チームでセッターをやっている人だった。だから、単調な攻撃しか来ないとどこかで安心した僕たちをせせら笑うかのように、斉藤センパイはトスをした。あの王様が無意識下でも完璧と呟くような代物だ、きっととんでもないのだろう。

 月島は、影山のことを王様と呼びつつも、内心では技術を認めていた。天才だということもわかっている。その天才があれほど感動するのだ。

 

 (きっとあのセンパイも人間離れしちゃった天才なんだろうね。嫌になるよ、ホント。)

 

 天才と呼ばれている人間達が、何の努力もなく天才と呼ばれているわけではないということはわかっている。でも、自分が同じ努力をしたとして、同じ結果になるかと聞かれれば違うと答えるだろう。

 凡才がいくら努力をしたところで、努力する天才には勝つことは出来ないだろう。実際に戦ったことなどないから確実なのかは定かではない。けれど、なんとなくわかってしまう。

 

 「まぁ、僕は適度にやるよ、バレーは。」

 

 そう呟いた月島の表情は、悔しいような諦めたような、何かを我慢しているかのようなものだった。

 

 それを山口は、なにも言わず、横から心配げに見つめていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 所変わり、電灯が立ち並ぶ帰宅路。中には、電球の切れかけた電灯もあるからか、少し薄暗い。

 

 そこを、縁下力とその友人の斉藤伊織が共に歩いていた。途中まで西谷や田中もいたが先程別れたため、今は2人である。

 

 伊織は、右手を胸のあたりまで持ち上げ、唐突に呟いた。

 

 「最後したトス、みんな驚いたり褒めてくれたりしたけど、手はこんなに震えてる。」

 

 よく見ると、細やかに震えている。右手だけでなく、押さえている左手も震えている。制御できていないようだ。

 力は、伊織の顔を見ると、徐に立ち止まった。

 

 「伊織。」

 

 俯いていた伊織はふと顔を上げる。

 その顔は血の気が通っていないように、先程まで動いていたとは思えないほど真っ白で、緩く開かれた瞳の奥は揺れている。

 力は、伊織の手に自分の手を上から重ねて熱を分け与えるように握った。

 

 「こわかった?トスを上げるのが。」

 

 伊織は、緩く開かれていた瞳を大きく開いたあと、目を伏せた。次に力の目を見る伊織の顔は、今にも泣きそうな迷子のようだった。

 

 「・・・こわい、こわかった。信じてるはずなのに、頭ではわかっているのに、心がこわいって言うんだ。信じてる、のに、・・・っ。」

 

 仲間のことを信じているはずなのに。中学の時とは違う人たちだと頭ではわかっているのに。

 それほどまでに、伊織にとってトスというものは、中学のあの試合を思い出す()のようなものとなっているのだ。

 

 「俺、まだちゃんと、信じられてなかったの、かな・・・。」

 

 そう言った伊織の長い睫毛で形取られた美しい瞳から一粒、二粒と水滴が流れ落ちた。

 

 力は、溢れる水滴を指先で優しく掬うように拭い、そのまま両手のひらを伊織の頬へと置いた。

 伊織の瞳が大きく揺れる。

 

 「信じることが出来たから、バレー一緒に出来たんだよ。信じていなかったら最初から何も出来ないでしょ?・・・信じていても出来ないことはある、でも、それをこれからどうにかしていくんでしょ?」

 

 瞳の揺れはもう、ない。静かに、それでいてなにかを思い直したように伊織は頷く。

 涙はほぼ、止まっていた。

 

 「・・・うん。」

 

 力は、伊織の返事を聞き、笑顔で頷いた。頬に置いてある両手の親指でぐい、っと涙を拭い、離した。

 

 「もう、大丈夫だね?」

 

 伊織は、泣いて赤くなった頬のまま、蕩けるような笑みを力に向けた。

 

 「うん、ありがとう、力。」

 

 

 

 月の光がきらきらと夜の闇を照らしている。雲がかかると月の光が遮断されるように、心にも何かをきっかけに唐突に暗くしてしまう何かがあるかもしれない。けれど、雲が風によって流れまた月が顔を出すのと同じように、心も何かをきっかけに晴れていくことがあるのだ。




(1日で一気にお気に入りの数が増えたりコメントが来たりして思いっきりびびった・・・何回も背後を確認してしまった・・・)


第3章では時飛んでインターハイの話ですかね、といっても部員じゃないので伊織さんは試合には出れません・・・。これ以上はネタバレになってしまうので秘密ですが楽しめるように書こうと思います。


(3章いく前に短編とか、書こうかなってちょっと考えてる)

あと、順次前に書いた話を加筆修正しているので、興味のある方は読んでみてください。そんなに変わってないけど細かいところが変わってます。



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