ハリー・ポッターと継ぎ接ぎの子   作:けっぺん

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不和と策謀と

 

 

 アーテーに連れられて部屋にやってきたアルテに視線が集まる。

 クラムは興味なさげに、セドリックは何かに気付いたように、そしてフラーは驚いたようだった。

 

「えーと、その人がー、四人目の代表でーすか?」

「ええ。年下だけど、手加減はいらないわ。一人の選手として、彼らと変わらないライバルとして扱って構わないわよ」

 

 フラーの問いに、アーテーは変わらず蕩けたような笑みを浮かべたまま返す。

 

「当然でーす。絶対に、わたーしが優勝しまーす」

 

 この場に、四年生が選手として選ばれたとて手を抜く者など一人もいない。

 それは打倒すべき敵だ。

 寧ろ、自分たちを前に委縮しないアルテを侮ることなく見返した。

 

「さて。この四人で試合を戦ってもらう訳ね。先生方が遅いけれど、どうしたのかしら」

 

 アーテーはまるでどうでも良いことのように疑問を口にしてから、白衣の下から試験管を取り出す。

 中の液体は、普通の飲料とは思えない水色をしている。

 その中身を飲み干すアーテー。

 あまりに危険そうな色に、思わずセドリックが聞いた。

 

「あの……その薬は?」

「んー? 考えを纏める薬、かしら。あまり他の人には勧められないわぁ」

 

 空になった試験管を仕舞いながら説明するアーテー。

 それ以上言う気はないようで、胸の下で腕を組んで部屋の外へと目を向ける。

 ちょうどその時、部屋に一人入ってきた。

 ダンブルドアら教師ではない。

 

「どうしまーしたか?」

 

 ハリーだった。フラーがシルバーブロントの髪を後ろに振り、ハリーに近付いていく。

 アーテーに目を向けていたアルテは一瞬、彼女の表情が消え去ったのを見た。

 ハリーの後から慌てた様子で駆け込んできたのは、ルード・バグマン。

 彼はハリーの腕を掴むと、興奮を隠さない様子で部屋の面々に告げる。

 

「いや、素晴らしい! ご紹介しよう、信じがたいことだが……君たち四人に次ぐ、五人目の代表選手だ!」

 

 特に反応を見せていなかったのはアルテくらいのものだった。

 アーテーはハリーに背を向け、もう一度白衣から薬を取り出す。

 そんな中で、フラーは冗談だと思ったのだろう。すぐに笑みを作った。

 

「とてーも、おもしろいジョークです。ミースター・バーグマン」

「いやいや、それがジョークではないのだよ。ハリーの名前がたった今、炎のゴブレットから出てきたのだ!」

 

 アーテーが試験管二つを空にする。

 そうしている間に、バグマンの言葉が本気であると悟ったのだろう。

 フラーが顔を顰めた。

 

「ゴブレットからどういう訳か、ハリーの名前が出た……この時点で逃げ隠れは出来ないだろう。これは規則であり従う義務があると……」

 

 言葉を遮るように、大勢の大人たちが入ってくる。

 ダンブルドアを先頭に、クラウチ、カルカロフ、マダム・マクシーム、マクゴナガル、スネイプ。

 去年の終わりからすっかりスネイプを嫌うようになったアルテは目を細め、彼を睨みつけた。

 

「ダンブリー・ドール、これは、どういうこーとですか?」

 

 部屋に入って早々、マダム・マクシームはダンブルドアに威圧的に問う。

 隣にいたカルカロフも不満を隠さず、迫った。

 

「私も是非とも知りたいものですな? ホグワーツの代表選手が三人もいるとはどういうことですかな。開催校のみ代表選手を増やしてもいいとは知りませんでしたぞ?」

 

 暇を持て余したように、特に感情を乗せずにアルテはハリーに目を向ける。

 ――またか、と何となく、思った。

 他の寮でありながら、彼の姿はよく見る。

 炎のゴブレットから名前が出てきたと言っていた。

 年齢線があって名前を入れることが出来ないと聞いていたが、アルテは特段何とも思わなかった。

 彼が五人目の代表選手となったことに、疑問を感じるほどの興味もなかったのである。

 

「我々としては貴方の年齢線が年少の立候補者を締め出すだろうと思っていたのですがね? それが規定の年齢に達していない者を二人も出すとは――」

「あら、ミスター・カルカロフ。アーキメイラの推薦枠に今更異論が?」

 

 嘲るように冷たい視線をダンブルドアに向けていたカルカロフは、途中で差し込まれた、どこか無機質な声の聞こえた方向に目を向ける。

 アーテーは半分閉じたような目は、苛立ちを見せるカルカロフをまっすぐ捉えている。

 ふん、と鼻を鳴らし、カルカロフはアーテーに詰め寄る。

 

「文句なら先代のご当主様に十二分に伝えた筈ですがな? 逝去される前に貴女に伝えられなかったようですな?」

「ええ。父はそのような事、気にしない性格でしたから。とはいえ、良いではないですか。我々の推薦する下級生が、そしてそこの……ハリーくんが代表となることに何の問題が?」

 

 皮肉の雰囲気はない。

 アーテーのそれは心底からの疑問のようだった。

 

「問題? そんなこと――」

「貴方がたの学校の代表は下級生にも劣ると?」

 

 カルカロフとマダム・マクシームがピタリと止まる。

 

「それでは仕方ありませんが。フラー・デラクール、ビクトール・クラム。お二方がホグワーツの四年生に劣っていると?」

 

 校長二人だけではない。

 選ばれた代表二人もまた、眉間に皺を寄せてアーテーに目を向けた。

 自分への明確な侮蔑に、フラーなど懐の杖に手まで掛けている。

 

「そうではないでしょう? 学校を代表する貴方たちにとって、下級生などいないも同然、ライバルと見なすにも値しない有象無象である筈です」

 

 クラムにフラー。彼らはダームストラング、ボーバトンそれぞれの精鋭から選ばれた、学校最優秀の生徒と言っても過言ではない。

 そうでなければ、意思もなく平等に決定する炎のゴブレットが選ぶ筈がない。

 二人ともそれを自覚しており、そして彼らを擁する校長二人も彼らを誇りに思っている。

 優勝に足る存在だと、確信している。

 ホグワーツ代表のセドリック・ディゴリーに負けはしない。まして、実力の劣る四年生など敵ですらない。

 カルカロフもマダム・マクシームも、クラムもフラーも、何も言えなかった。

 ここで不満を述べれば自分たちが選手に相応しくないと言っているようなものだ。

 彼らがようやく黙り込んだことで、アーテーは気怠そうに溜息をつく。

 

「さて。どうぞ、ダンブルドア校長」

「うむ……ハリー、君はゴブレットに名前を入れたのかね?」

 

 二人の剣幕で聞きそびれていたダンブルドアは、ようやくハリーに問う。

 それまで何も言っていなかったハリーは、我に返ったようにビクリと肩を震わせると、首を横に振った。

 

「いいえ」

「上級生に頼んで、君の名前を入れてもらったのかね?」

「いいえ。そんなことはしていません」

 

 断固として、ハリーは否定する。

 何も言わないものの、カルカロフやマダム・マクシームは一切信じていない様子だった。

 スネイプは今こそ彼の不正を指摘せんと一歩踏み出し――何を言う前にダンブルドアに手で制される。

 埒が明かないと思ったのか、カルカロフが中立である二人に問いかける。

 

「クラウチさん、バグマンさん? お二方の見解もお聞きしたいものですな。中立の審査員である貴方たちの。こんなことは異例だと思いませんかな?」

「……規則には従うべきです。そして、ゴブレットから名前が出てきた時点で、試合で戦うべき義務がある」

「その通り。バーティは規則集を隅から隅まで知り尽くしている」

 

 魔法省からやってきた二人もまた、ハリーの参戦を肯定した。

 どれだけ異例のことだとしても、選手を見出すべきゴブレットから名前が出た。

 それはその他の規則を上回る契約だ。

 誰が何を言おうとも、ハリーが戦うことは絶対となっているのだ。

 彼らがそう言うならば、これ以上食い下がることも出来ない。

 カルカロフは露骨に舌打ちし、それまでよりも荒々しい口調で吠える。

 

「まったく! あれだけ会議や交渉を重ね妥協したのに、このような事が起こるとは! 次の試合にダームストラングが参加することは決してないだろう! 寧ろ今すぐにでも帰りたい気分だ!」

 

 最早仮面など被っていない。

 へつらい声も取って付けたような笑みもかなぐり捨てた態度だった。

 

「はったりだな、カルカロフ。代表選手を置いて帰ることなど出来まいよ」

 

 そんな、唸るような声と共に床を打つ義足の音が近付いてくる。

 ムーディだった。

 義足を鳴らしながら暖炉に近付き、暖を取りつつ続ける。

 

「選ばれた者は全員、競わなければならんのだ。魔法契約の拘束だ、都合のいいことにな?」

「都合がいい? 何のことですかな、ムーディ」

「簡単なことだ。ゴブレットから名前が出れば、ポッターは戦わねばならん。そうと知っていて、ゴブレットに名前を入れたのだ」

 

 ムーディは迷いなくハリーの無罪を断言した。

 それに対し、カルカロフは何かに耐えるように拳を握り込む。

 

「……見事な見解ですな? 流石、朝から昼食までの間に、ご自分を殺そうとする企てを六件は暴かないと気が済まないお方だ」

 

 声を張り上げていながらも、その口調だけは落ち着いていた。

 

「わしの妄想だとでも? ありもしないものを見るとでも?」

 

 己が妄言を抜かしているなど、微塵たりとも思っていない。

 少なくともムーディの中ではそれは揺るぎない真実だった。

 

「あのゴブレットに名前を入れるような魔法使いは、腕のいいヤツだ。あの、強力な魔力を持つゴブレットの目を眩ませたのだからな!」

 

 炎のゴブレットは試合に際し、三校から一人ずつ、生徒を選出するよう覚え込んでいた。

 それは並大抵の魔法では傷つけることすら出来ない強大な記憶である。

 この記憶を惑わせるには、相当な威力の錯乱の呪文を掛ける必要があるだろう。

 しかし、犯人はそれをやってのけた。

 四校目の選手はポッターしかいないと、ゴブレットに確信させたのだ。

 

「随分とお考えを巡らされたようですな、ムーディ。で? そちらの寛大なスポンサー様も同じ意見で?」

 

 現状、ハリーを疑っていない件についてはムーディと同類であるアーテーに、再びカルカロフは目を向けた。

 既に自身の言い分は終わったと判断していたらしいアーテーは自然な仕草で首を傾げ、数秒考える様子を見せてから口を開く。

 

「ゴブレットに入る筈のない名前が出てきたなら、そういう事なのではないですか? 正直、誰が悪いかなどと考えるのも面倒ですねぇ……」

 

 その時のアーテーは、部屋に入る前と随分と違っていた。

 どこか超然とした雰囲気はそこにはない。

 話を振られることも、それに対し思考を傾けることすら億劫だとでも言うほどに。

 アルテの参戦を促したアーテーと同一人物とは、とても思えなかった。

 

「……どのような経緯でこんな事態になったのか、我々は知らぬ。だが結果を受け入れるほかあるまい。ハリーもまた、試合で競うように選ばれたのじゃから」

 

 そんな不真面目なアーテーの態度で、部屋が静まり返ったのを好機と取ったのだろう。

 ダンブルドアが半ば強制的に場を纏めた。

 不満げな校長たちやスネイプにそれ以上何も言わせないよう、すかさずバグマンが手を打った。

 

「さあ、それでは開始といきますかな? 彼ら五人を正式に代表選手と定めましょう」

 

 これ以上話し合っていても不毛だと判断したのだろう。

 クラウチもバグマンに続く。

 

「よろしい。それでは、君たちに最初の課題について話すとしよう」

 

 クラウチは暖炉の前に進み出た。

 灯りに照らされたクラウチの顔は病気かと思えるほどに白かった。

 

「最初の課題は、君たちの勇気を試すものだ。ここでは、具体的にどのような内容なのかは発表しないことにする。未知のものに遭遇したときの勇気とは、魔法使いにとって非常に重要な資質である」

 

 この場で課題が何であるかを発表すれば、それに対し五人は対策を取るだろう。

 だが、それは第一の課題に求められる要素ではないようだ。

 事前に具体的な対策を取ることなく、相対して初めてその脅威を知る。

 そして、その場でどのような戦法を組み立てるか――それこそが最初の課題で重視される要素だった。

 

「競技の課題を完遂するにあたり、どのような形であれ先生方からの援助を頼むことも、受けることも許されない。勿論、アーキメイラ家の者たちにもだ。選手は杖だけを武器として、最初の課題に立ち向かわなければならない。第一の課題の後、第二の課題についての情報が与えられる」

 

 当然ながら、この課題は代表たる選手一人に与えられるもの。

 競技においては教師たちでさえ、部外者に他ならない。

 たった一人で戦う、だからこその危険性。

 それをクラウチが改めて言葉にすることで、セドリックらは息を呑む。

 

「さて。試合は過酷で時間が掛かるもののため、君たちは今年度の試験が免除される……話すことは話し終えたと思うが、アルバス、まだあったかな?」

「いいや、これで全部じゃろう」

 

 終わりだという言葉で、最初に動いたのはカルカロフだった。

 クラムに顎で合図をして、荒い足取りで扉に向かう。

 

「カルカロフ校長、寝る前の一杯はいかがかな?」

 

 ダンブルドアの誘いを背中に受けつつも、答えることなくカルカロフは部屋を出て行った。

 それに続かんと、マダム・マクシームもフラーの肩を抱いた。

 彼女たちの歩みもまた、この場で起きたことへの苛立ちが籠ったものだった。

 

「では、私たちも。この子と少し話したいので。来てくれるかしら?」

 

 アーテーはアルテの帽子に手を置き、微笑んだ。

 人を気楽にはさせない、今にも崩れて消えてしまいそうな儚い笑み。

 それに対して、何を思った訳でもない。

 アルテは単純にその話とやらを『ヴォルデモートを倒すためのもの』と判断し、頷いた。

 歩み出したアーテーに続く。

 セドリックと――不愉快そうなスネイプと――そして、何かを言おうとしているハリーと目が合う。

 だが、部屋を出るまでハリーが口を開くことはなかった。

 

「……」

「――課題についてのヒントは言えないわ。言う理由がないし、言わない理由があるもの」

 

 部屋を出て、扉の前で立ち止まったアーテー。

 大広間にいた大勢の生徒たちは既におらず、かぼちゃの灯りは大半が消えていた。

 大広間の入口へと歩いていくカルカロフやマダム・マクシームたちが離れるのを待っているようなアーテーに、アルテが声を掛けようとしたのを見計らったように彼女は口を開いた。

 しかし、その言葉はアルテが求めていたものではない。

 

「ヒントなんていらない。それより――」

「分かっているわ。時間も惜しいし、明日から貴女に色々と教えてあげる」

 

 競技など、アルテにとっては二の次だった。

 それよりも求めているのは、参戦を決定した条件に他ならない。

 

「貴女が身に付けなければならない技術の全て。敵意と殺意を食らうための体。ヴォルデモートを殺すための武器。全部、全部、この一年で刻んであげる」

 

 アーテーがこの時、何を思っているか――アルテには分かる筈もなかった。

 だが、例え知っていても、アルテは応じていただろう。

 アーテーが考える『アルテの到達点』を“異常”と思う常識を、アルテは知らない。

 それに対する嫌悪感を、アルテは持っていない。

 万が一、あったとしても――――ヴォルデモートを討つという悲願には及ばない。

 

 ――アルテにとって、己とはそういうものであり。

 

 ――アーテーにとって、己の推薦した■■■はそういうものでない筈がなかった。




※逃げきれなかったハリー。
※薬に溺れるアーテーママ。
※煽りアーテーママ。
※言い争いクッソどうでも良さそうなアーテーママ。
※課題のヒント<<<<<ヴォルデモート。
※物騒なこと言い出すアーテーママ。
※チョロいアルテ。
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