METAL GEAR SOLID 3 : PREDATOR EATER 作:きゅっぱち
生きている、とは何であろうか。
死者と生者の物質的違いは無い。
しかし死者は確実に"死んでいる"。
ゴースト
実態の確証も無く捉えられない、
スネークは"それ"を注意深く観察していた。
おぞましく、なおかつ、何より意味が分からない。それは成人男性の死体だった。ここは最前線では無いとは言え戦場だ。死体が転がっているのも当たり前と言えば当たり前だ。
──ただの死体ならば。
死体は転がってさえいなかった。地上十数mの位置に逆さまに釣り上げられていた。そして皮が剥がれ、目はくり抜かれ、本来臓物があるべきスペースは空っぽだった。
「…………訳が分からない。ただ殺すにしても無駄があり過ぎる…………晒す目的か? いや、なら、もっと大体的に、効果的に吊るすはずだ……」
そのおぞましい死体を眉を顰めながら注意深く観察して行くスネーク。情報は諜報戦のみならず、あらゆる戦場で最も有効な武器になり得るものだ。あっても困らないが、無くては困る。だからこそ、目を背ける訳にはいかない。
死体の損傷は激しく、尚且つスネークは検死のプロでもなく、相応の設備、装備もないためあまり詳細な情報は得られない。しかし、この死体に不釣り合いな余りにも鋭利な断面がスネークの脳裏にこびり付いた。
「パラメディック、ソ連……いや、ロシアの宗教や習慣に詳しいか?」
《いいえ…………何かあったの?》
通信を入れるスネーク。スネークの声のトーンから何かを察したのか、先程までのテンションはなりを潜め、パラメディックは先を促す。スネークはそれに気付いたが、指摘する事無く話を進めた。
「おかしな死体を見つけた。まるで儀式の様な……」
《儀式?お祭りの様な?詳しく教えて。力になれるかもしれない》
「………全身の皮を剥がされ、木から吊るされていた」
《酷い……》
衝撃の事実に思わず黙り込むパラメディックの代わりに、割り込むようにして少佐が応える。
《スネーク、今は何も分からないが、過去の事件などを調べてみる。君も現地の者から情報を引き出してみてくれ。尋問にはCQCを使うんだ》
「分かっている。少佐、一体、何が……」
《それと、"協力者"に聞いてみるのはどうだ、彼女なら何か知っているはずだ》
「了解、少佐」
無線機の周波数を変えようとしたその時……
「あったぞ!!ここだ!!」
大きな声と共に複数の足音が聞こえた。マズい、長居し過ぎたか!?大多数の人間がバラバラと走り近づいてくる音がする。見つかったら情報どころじゃない。
もしこれが見せしめの為の儀式ならスネークがこうもなりかねないのだ。スネークは死ぬ訳にはいかない。任務を果たさなければ世界は全面核戦争という最悪の結末を迎え、それこそ人類の歴史に終止符を打ってしまうだろう。
………それに、まだバックパックには食べてない食べ物もある。某ハチ男のおかげでスズメバチにいい思い出は無いが、巣はきっと美味しいだろうから。
周りを見渡す。崖、無い。木、細過ぎる。下草、無い。隠れられ無い!!しかし足音はすぐそこまで近づいて来ていた。時間が無い。しかし、隠れられる場所も……。
その時スネークの目に飛び込んで来たのは、死んだ男が運んでいたのだろうか、中身が散らばったダンボールで出来た箱だった。
「……くそっ……酷ぇ」「は、早く!降ろ……んだ!!」「まただ!……今週に入っても……三人目…ぞ!!」「リー……ニ………」「奴だ……奴がき……だ!"リェース ジヤヴォール"が!俺たちは………皆殺しにされるんだ!!」「……こ、こんな恐ろしい所に居られるか!!俺…部屋に戻るぞ!!」「落ち着け!このバカ!!」「誰だ!!一体誰なんだ!!」「十年前と……十年前と同じだ!!」「どういうことだ!!それは!!」「落ち着くんだ!!」「うわっうわぁっ!!」「たすけてくれぇぇっ!!」「なんだこれは!?どういうんだ!?」
兵士達は興奮し、我を忘れ、木から死体を降ろすのに躍起になっていた。
その隣の、明らかにジャングルの変死体より浮いているダンボール箱にだれも突っ込まない。こっそり動き始めるダンボール箱。兵士達が死体を地面に降ろし終えた時、既にその場からは消えていた。
「………リェース……ジヤヴォール……?」
聞きなれない単語だ。スネークはこの任務のためにロシア語をマスターしている。ロシアは広く、訛りや地域様大きいが、それら全てをほぼ網羅していた。さらにスネークは数ヶ国語を喋るマルチリンガルだ。猫ともサルとも喋れると本人は豪語しているが定かではない。
………"リェース ジヤヴォール"とは単純に訳せば"森の悪魔"と言う意味だ。このへんないきものはロシアにまだいるのです。たぶん。悪い冗談としか思えない。
「情報が足りない……………飯も」
今の結論はそれだけだ。もしかしたらまた使えるかもしれないダンボールをしまい込み、スネークは行動を開始する。ターゲットは、最外周を警戒している敵兵だ。
"スネーク、CQCの基本を思い出して……"
今は敵だ。頭の中にリフレインする声を追い出し、影の様にスルリと背後に回り込む。敵兵は落ち着かない様に周りを見渡してオドオドしていた。
スネークには、気づいていない。
「動くな…決して声は上げるな。少しでも妙な真似をしてみろ…」
後ろから敵を拘束する。右手で銃を無効化、ナイフを持った左手で首を抑えつつ頸動脈にナイフを当てる。
「言え、さっきの死体はなんだ?」
しかし敵は震えながらボソボソ呟くだけだった。震えが尋常じゃない。軽いパニックとショック症状を起こしていた。
「………助け………嫌だ………助けて………まだ死にた………死ぬ…リーヴェニ…………嫌……………」
………これ以上は無駄だろう。それに、錯乱し大声を上げられてはマズいと判断したスネークは敵を絞め落とす。
また、耳慣れない単語だ。気絶した敵兵を藪の中に引き摺り込みながら、先程聞いた言葉を考える。
──"リーヴェニ"、暴風という意味だ。しかし、暴風でこんな事になるはずがない。パラメディックに気象情報を聞いても竜巻などは起きてはいないらしいし、もし仮になっていたのならとっくにオクラホマでは日常茶飯事だ。パラメディックは他にもソ連製の直立したようなカエルの様なロボがどうだかと言っていたがめんどくさくなったので通信を切った。
スネークは行動を開始する。目標はペンション。そこで情報を得よう。土地の状況が変わってきたので迷彩服、フェイスペイントを変更する。スナイパーがその土地の植生に合わせた偽装を行う様に、周りに溶け込む為にはそれ相応の対応がいる。真っ赤な服で走り回る訳にはいかない。
『突撃してくる敵の白眼が見えるまで引きつけろ』という言葉があるように、顔で最も目立つ部位は白眼だ。なのでフェイスペイントは目の周りから段々色が濃くなる様に馴染ませる。これでグッと白眼が目立たなくなるのだ。更に、敵に人の顔と認識させない為、顔の起伏とは逆の色を重ねていく。鼻や頬骨には暗い色を、逆に目尻や鼻の下等は明るい色だ。こうする事で、人の顔の形が判別し辛くなり、認識が難しくなるのだ。
もうすぐ昼時だ。雲が出てきて、少し、風が騒がしかった。
いくら昼時と言えどロシアのジャングルは冷える。迷彩服に湿った泥がへばりつく。
流石にペンションに入る気はない。ブザーを鳴らして、バルトスズメバチの巣とウラルの美味しい水を手土産に入れというのか。ならばと転がり、全身に満遍なく泥を付けて行く。今スネークを見つけられるものは少ないだろう。例え、それが狩人でも。
ペンションに辿り着く。やはり巡回が厳しい。スネークは床下に潜り、聞き耳を立てる。
……盗聴器でも貰えばよかった。こんな変な変装マスク持たせるのなら盗聴器の一つや二つ持たせてくれよとUMA野郎に内心毒ずく。
気配を殺し、ゆっくり………ゆっくりと…………。獲物に刃を突き立てる。のたうつ獲物を抑え込み、トドメを刺す。
「よし、まぁ、落ち着いてこれを食べよう」
スネークは蛇を採っていた。共食いである。あんなものを見た後なのに、食欲の尽きない男である、陸の食欲魔人というべきか。手早く蛇を捌く。死体が何だ、蛇が何だ。
「美味い。もっと食わせろ」
実に美味しそうである。実際美味しいらしいし。
……あの死体も、と考えて考えるのをやめた。人を丸呑みし、皮や内臓だけ食べ木に吊るす蛇など聞いたことがない。どこぞの映画大好きっ子なら知っているかも知れないが……前もゴジラがどうとか放射能がどうとか言ってたし………。
実際スネークはゴジラを欠片ともリアルと思わなかった。放射能なんかで大きくなるのなら、実際被曝した自分だって大きくなるハズだ。もし大きくなったら、美味しいものをいっぱい食べよう。
「…………被害………応援………でさ………」
「ならん!!……………の……々々…わ…」
「しかし!リーヴェニは!」
「……………」
「……………」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
何かを裂く音とともに真上から悲鳴が響き渡る。床の隙間から血が垂れている。かなりの量だ。急所を突かれたのだろう。早急な手当てをしても助かる確率は低いだろう。
しかしスネークは冷静だった。気配、足音を感じ、"何か"を追う。床下からは出ず、"何か"を探す。
「………居………た?」
透明な、しかし見えないわけでもない靄のようなものが、胸から血を流す将校を抱えている?
……何かが、2つ。まるで眼の様に黄色く光った様な気がした。
「居たぞぉ!!居たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォおおお!!!!」
兵士の一人が叫び、手にしたライフルを乱射する。それに呼応し、周りの兵士達も撃ち始める。それはまさに、鉄の雨だ。
AK-47、7.62mm アブトマット・カラシニコバ突撃銃はその威力を発揮、毎分600発の7.62x39弾による破壊の暴風が吹き荒れる。
その特徴的なバナナマガジンに入っている装弾数は30発。僅か数秒程度で撃ち切ってしまう。しかしマグチェンジをし、それを数人で行えば、その威力は正に鉄の暴風となる。
AK-47の
そもそも、本来アサルトライフルはその様な使い方をするものでない。フルオート機能は緊急時や接近戦時の補助でしかないのだ。それでも、火力とは銃弾の瞬間投射量とその継続時間に他ならない。正面戦闘において、火力は重要だ。その為の兵士が個人携行し、敵に向かって短時間に大量の弾を投射する仕事は、後の
「どこだ!!どこに消えた!!」「まだ近くに居るはずだ!!狩り出すぞ!!」「HQ、HQ。至急増援を求む!!出せないだと!!ふざけるな!!」「本当に居たんだろうな!!嘘ならぶん殴るぞ!!」「見ました………みたんです…………目だけが光っていた………」「ええい!クソ!ヤられたのは誰だ!!」「なんてこった、ケニーが殺されちゃった!」「この人でなし!」「落ち着け!!」「うわぁぁぁっ!!もう嫌だ!嫌だぁ!!」
魔女の鍋の様な大パニックだ。その喧騒の中、スネークは冷静に目の前に見たものを分析していた。
「少佐、聞きたい事がある」
《どうしたスネーク!何か分かったのか!!》
「ザ・フィアー、覚えているよな」
《ああ。その彼を倒したのは紛れもなく君だろう》
「それは………本当なのか?」
絞り出す様なスネークの声に、少佐が思わず聞き返す。
《………どういうことだスネーク?》
「少佐、透明人間って映画、知ってる?」
《パラメディックのマネか?よすんだ。今はふざけている場合じゃ……》
「ザ・フィアーは特殊な迷彩を持っていた。周囲と同化し、半分近く透明になるものだ。…………奴も、それを持っている可能性がある」
《しかし、ザ・フィアーは……》
「俺が倒した。しかし、最期や、死体を確認したワケではない。爆発に紛れ逃げ出した可能性も無視できない」
《……ううむ……》
「とにかく、状況は逼迫している。切るぞ」
通信を終了する。辺りはさっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。
「皆!おい!起きろって!俺を嵌めようとしてんだろ!!おい!!」
否、違った。生き残ったのが一人だけだった。スネークはその一人を観察する。倒れた仲間を揺すっている。その仲間の下半身がない事に気づいていない。
「おい!ダニー!返事をしろって!いつもお前と俺とグレッグは生き残ってきただろ!『あぁ、何とかな!』といつもの声で言ってくれよ!!おい、起きろって!!ダニー!朝よ!おっきろー☆」
その時スネークは気づく。敵兵の身体に赤い光が照射されている。レーザーポインターのようだ。
正体不明の眩い光りが
……聞いた事の無い射撃音に……何だ?アレは………?
──にわかに信じられない。雷にでも打たれたのか?青い光る何かが飛来し、その兵士の頭を消し飛ばした。理解が追いつかない。全く未知の兵器だった。
「シギント、何か、雷のようなものを飛ばして相手を攻撃する兵器はあるか?」
《雷ぃ?実体弾ではなくてか?………
「違う。もっと、凄まじい、人の頭を吹き飛ばす様な……」
《あるわけないだろうスネーク。冗談はよしてくれ。聞いてみたところ一種のエネルギー兵器の様だが、そんなもの戦車に積んだって人を焦がすのさえ無理だろうな。……………夢で見た、クソッタレな"歩く戦車"なら分からなくもないが………》
「………何なんだ?奴は……一体………」
「………パラメディック」
《今日は七時から空手の稽古があるの。付き合えないわ》
「今日は休め」
《分からないわよ!!資料に載ってないもの!!》
「使えん資料だ」
そう吐き捨て無線機を切り、スネークはその地獄の惨状である虐殺現場に立ち上がる。あちらこちらに四肢が散らばり、血と焼け焦げた肉の匂いを嗅ぎなから、奴との戦いは、避けられないだろうと何故か確信していた。
今回はパロディ多めです。筆者としてはパロディが好きなもので。メタルギア本編もそうですし。不快になられた方には申し訳ありません。因みにロシア語は知り合いから聞いた物で、あっているかどうか分かりません。