METAL GEAR SOLID 3 : PREDATOR EATER 作:きゅっぱち
そして、時代は動き出す。
時代を創るのは、いつだって民衆と戦争だ。
指導者も、天才も、ただの
その流れる時代の中、"伝説の傭兵"は"失われた輪"の無限螺旋を見る。
ミッシング・リンク=メタル・ギア
鋼鉄の嵐が吹き荒れる時代が、激しい金属音と共に
激しい金属音と共に、唐突に視界が激しく揺すぶられる。敵の放った弾丸は寸分たがわず彼のヘルメット・レーザーサイトを撃ち抜いていた。
混乱する彼に、更に第二射が襲い掛かり、弾丸がショルダー・プラズマキャノンを貫いた。損傷したプラズマキャノンは激しいスパークを散らし、粉々に爆散する。
その爆風をモロに受けた彼であるが、その痛みなど感じてはいなかった。彼の頭を占めていたのは、激しい怒り、ただそれだけだ。虎の子の兵器であり、強さ、戦士としての象徴であるキャノンを吹き飛ばされ、遂に彼の怒りは頂点に達する。
レーザーサイトは破壊されたが、視界に異常はない。
彼に残された武器はリスト・ブレイドのみ。しかし彼は臆しない。彼は恐れを知らぬ戦士で無くてはならない。
彼は決着をつけるため、走り出していた。
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SVDのスコープは敵のレーザーポインターを吹き飛ばす瞬間をスネークに見せていた。
火花が散り、一瞬光学迷彩が揺らぐ。その一瞬でスネークの目は敵の未知の兵器を捉え、身体は反射的に第二射を叩き込ませていた。撃ち出された弾頭は、寸分違わず目標を捉え、その持ち得る運動エネルギーを吐き出す。青白い稲妻の様なスパークを散らし爆発する砲塔、その光の中、スネークは遂に隠されていた敵の真の姿を垣間見ていた。
スネークは
弾倉ワンクリップ分、計10発撃ち込んでも止まらない敵のタフさに舌を巻きつつ、スネークは弾の切れたSVDを打ち捨てた。メインアームであるXM16E1を取り出し、M7
「時は来た」
スネークの目には、もう光学迷彩は効かなかった。
膝を立てた姿勢で銃を安定させ、セレクターをセーフティからセミオートに切り替えた。リュングマン方式を採用し、かつ反動の小さい5.56x45mm NATO弾を使用しているとは言え、フルオート射撃の反動を抑え込み正確な射撃をする事は難しい。向こうが動いているのなら尚更だ。アイアンサイトを通した先の敵を睨みつけ、正確無比な単発射撃を叩き込んで行く。
15発回目の射撃が、遂に敵の左手に装着されているガントレットを撃ち壊し、光学迷彩が破壊される。一際大きい火花が飛び散り、不可視のベールが剥がされた今、遂に"プレデター"がその姿を曝す。
スネークを確認するなり、雄叫びをあげつつ踊りかかる"プレデター"。スネークは閃くような体捌きでそのブレードを躱しつつ、セレクターをセミオートからフルオートに変更。更に躱した反動と遠心力を利用し斬りかかる。
スネークは鋭い攻撃を紙一重で躱しつつ、"プレデター"を2度、3度と素早く斬りつける。しかし、致命傷にはなり得ない。その巨体の割りに、軽々とステップを踏む素早い"プレデター"に舌を巻く。
「やるな!」
リスト・ブレイドが煌めき、振り下ろされたそれが左肩を撫でるように擦る。それだけで野戦服は千切れ、血霧が散った。
凄まじい威力に、スネークはまたしても戦慄し、同時に悟った。スネークに攻撃が当たる事は許されない。それは即死を意味する。スネークの脳裏には、無残に惨殺された敵兵の姿が過ぎっていた。ああはなりたくない。
そして、それはXM16E1も同じだ。本来格闘戦に主眼をおいておらず、更にバヨネット使用すら推奨はされていないこの銃のメインフレームはアルミ合金で出来ている。また、"ブラックライフル"の名の通り、ハンドガードやストックは主に強化プラスチックで出来ている。その為従来の銃と比べ、軽くて持ち運びには便利だが、その分強度はあまり高いとは言えない。銃床で殴り、銃剣を突き刺せば、それだけであちこちは曲がり、割れ、まともに撃てなくなる可能性を孕んでいる。敵のブレードと正面から打ち合わせたら最後、真っ二つになったショットガンの二の舞と化してしまうだろう。
密接するかの様な距離で行われる激しい殺陣の最中、スネークは必殺の一撃を叩き込む隙を伺っていた。
バヨネット、つまり銃剣とは本来切るものでは無い。突き刺し、接射を行うものだ。しかし刺突は隙が大きく、素早い動きの"プレデター"の前では玉砕に近い捨て身の攻撃となってしまう。生物共通の弱点であろう頭部はヘルメットに包まれている。敵のヘルメットは銃弾を弾くほど硬く、尚且つドーム状だ。決して刺さりはしないだろう。身体は今まであれ程弾丸を撃ち込んだ筈なのにこれ程動くという事は、効果が薄いのだろう。
…ならば、狙いは決まった。後は、その時を待つのみ………。
「喰らえ!!」
──その時は意外にも早く訪れた。
スネークは叫び、大きく振りかぶった敵の右腕を突き刺し、フルオート射撃による接射を敢行する。引き金が引かれ、撃針が雷管を叩く。弾頭が撃ち出され、発射ガスが遊底を動かし薬莢を弾き飛ばし、次弾を装填する。その次弾も直ぐ様吐き出されて行く。瞬く間に行われたその連続が、莫大な効果を発揮した。マズルから迸る5.56x45mm NATO弾の、20連発マガジン内の残弾5発が、敵のブレードの二本のうち一本を内側から吹き飛ばしていた。
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銃声が轟き、身体を痛みが駆け巡る。しかし、その音を頼りに、プレデターは敵に突撃した。弾丸が降り注ぎ、左腕のコンピューターガントレットが吹き飛ばされ、光学迷彩が使用不能になる。
それを気にも止めず、プレデターはついに敵の影を捉えた。短めの槍を持ち、比較的小柄な獲物だ。走る勢いのまま、雄叫びを上げ斬りかかる。敵はほぼ動かず足を支点に大きく回転するように攻撃を避け、手にした槍で切りかかってくる。その姿に興奮を覚え、一層奮い立たせられる。その後二度三度と振るも敵を捉えられず、リスト・ブレイドは空を切る。
敵が何かを叫び、一層自分を切りつけてくる。やっと捉えたと思った一発も擦るのみ、徐々に焦り始めていた。
………今度こそ。右腕を振り上げ、今まで数々の獲物を葬り去ってきた必殺の一撃を繰り出そうとする。
その瞬間を狙われた。振り上げたその腕に敵の槍が突き刺さり、火を噴いた。
右腕が焼ける様に熱い。今までに無い激痛が身体を駆け巡る。しかし負けるわけにはいかない。
腕の内側からリスト・ブレイドの脆弱な稼働部位を破壊されるとは思わなかったが、吹き飛ばしたのは二本のうち一本のみだった。力に任せその腕を振り切る。槍が更に深く刺さるも気にしない。これで仕留める。絶対に。
敵の槍が砕け、
必殺の一撃が敵を捉えた。
ヤッた。遂に奴を捉えた。手強い奴だった。
その刹那、
腹に激しい衝撃を喰らい、思わずよろめく。
何故だ!?何故だ!!何故だ!!!
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スネークは戦慄していた。
突き刺し、内側から発砲したはずの腕で敵はそのまま斬りかかってきた。尋常じゃない精神力と力だ。腕の中は骨までぐしゃぐしゃなはずにも関わらず、敵はXM16E1ごとスネークを叩き斬るつもりらしい。化け物だ。
"プレデター"が放つ怪力の前に、手の中でXM16E1が悲鳴をあげ圧壊する。たった一瞬の出来事でメインアームを破壊されたスネークは死を覚悟しつつ、しかし、決して生を手放そうとはしなかった。
時間が永遠に引き延ばされた様な、奇妙な感覚。
振り下ろされるブレードが煌めき、スネークを捉えた様に思えた刹那、スネークは身を屈め捨て身の体当たりを敢行した。
振り下ろされたブレードは、スネークの頭に刺さっていた矢だけを斬り飛ばしていた。
低い姿勢のまま、右肩で渾身のショルダータックルをする。体格、体重、筋肉量の全てが敵が上回っているため有効打とはならず、逆に先程切り裂かれた左肩から出血する。しかし、突き上げるような一撃は、敵の体制を崩すには十分過ぎるほどの威力だった。
よろけた敵と素早く距離を取り、向かい合うスネーク。手元に残った最後の武器、サイドアームのM1911A1、ナイフを抜き、CQCの構えをとる。
そのまま油断無く相手との距離を測り、ジリジリと距離を詰め接近していく。その時、眼前の敵が不可解な動きを見せた。動きを止め、突然右腕のブレードを捨て去ったのだ。その後、頭に手をやり、チューブを外し、ヘルメットを取った。
その下には恐ろしく、醜い顔があった。明らかに人の顔でも、地球上の生物の顔でもない。
驚くと同時に理解する。彼は、"戦士"なのだ、と。
ニヤリ、と唇を歪め、スネークは構えを解く。ナイフを鞘に収め、M1911A1も同様にホルスターに仕舞い込む。
──そして、
再び、
CQCの構えをとった。
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生きて、自分の前に立ち、自分を睨みつける敵を見て、プレデターは本能的に悟った。敵は、最大限の敬意を払い相手するに値する存在だと。
身体が打ち震える程の興奮に包まれる。こんなに嬉しい事は初めてだった。
血は止まらない。既に手遅れだ。永くはなさそうであったが、そんな事は関係なかった。今はただこの一瞬を生き、楽しみたかった。
生の果てに、最強の敵と合間見える幸運。その幸福感に身を任せ、リスト・ブレイドを外し、ヘルメットを脱ぎ捨てる。"戦士"である自分が持ち得る、誇りと最大限の敬意の作法。
始めてだった。
クラクラする程に激しく"生"を実感する。この感覚………この感覚だ。
そこで、彼は更なる興奮と幸福感に包まれた。
自分の行動を見守っていた敵が驚くべき行動を起こしたのだ。
敵も武器を仕舞ったのだ。
これ程の存在が、この星に居たのか。
最期の戦いで、これ程の存在と合間見える事が出来るのか。
彼は、先祖、家族、戦友、そして、頭上を流れゆく星々の輝きに感謝した。
改めて、目の前の"戦士"と向き合う。
後は、全力を尽くすのみ、彼は雄叫びをあげ目の前の"至高の存在"へと戦いを挑んだ。
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彼が殴りかかってくる。あの腕力だ。一撃喰らっても骨折は避けられ無いだろう。最悪内臓破裂の危険もある。
彼のパンチを円の動きでいなし、クロスカウンターの様に蹴りを叩き込む。
尋常じゃない筋肉だ。下手に殴ると指を折るかも知れないほどに。
更に襲いかかってくるパンチを鮮やかに躱し、風を切るような右ストレートを彼の顔に叩き込む。渾身の一撃に敵は怯むも、お返しとばかりに容赦の無い一撃を加える。彼のボディーブローが脇腹に刺さり、みしり、という音とともに骨が歪む。
確実に折れた。だが、気にしない。
今は、ただ、この時を愉しみたい。
鋭いカウンターの肘が彼をよろめかせる。お互いによろけ、距離をとる。
目が合った。戦士の目だった。
彼が全力を持って振りかぶる。その一撃を躱しつつ懐深くに入り込み、勢いを利用し全力で投げ飛ばす。
力だけでは不可能な、まるで合気道の様な投げは、彼を地面に叩きのめした。
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何が起きたか、分からなかった。気がついたら、頭から真っ逆さま、だ。
度重なる激戦をくぐり抜けてきた彼の自慢の肉体は、もう限界だった。
近づいて来る"彼"が語りかける。同じ言葉を返してみる。
"彼"は片膝をつき、こちらを覗き込んでくる。
いい生を送った。だが、死体を残すわけにはいかない。
………しかし、"至高の存在"である"彼"を巻き込みたくは無かった。
火花を散らし、煙を噴いている左腕のコンピュータガントレットを操作する。壊れているのは表面の透明化装置だけだ。カバーを解放し、自爆コードを打ち込み、"彼"に爆発のジェスチャーを出し、遠くを指差す。
"彼"はゆっくり首を縦に振る。
拳を眉に当てる。そこで彼は力尽きる。
薄れ行き、昏くなって行く視界の中、
彼が最期に見たものは、輝く星々の煌めきを背に、直立不動で敬礼する、"彼"の姿だった。
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スネークは倒れ、動けなくなった、"プレデター"に、近づいて行く。
「お前は、誰だ?」
『オマエハ,ダレダ?』
オウム返しに帰ってくる。スネークにその意図は分からなかった。
彼、"プレデター"の側に片膝をつく。
"プレデター"は左腕の機械を操作し、そのボタンを押して行く。甲高い電子音があがる。
"プレデター"は左腕を指差し、グーをパーにするジェスチャーをした後、遠くを指差す。どうやら、甲高い電子音をあげる左腕の機械は爆弾で、逃げろ、と言っている様な気がした。
ゆっくり頷くと、"プレデター"は拳を眉に当てていた。
スネークはゆっくり立ち上がり、敬礼をした。同じ戦士として、死力を尽くして戦った相手に敬意を払いたかった。
彼は振り返り、ゆっくりとその場を後にする。心に、確かな何かを得た事を実感しながら。
そしてスネークは走り出した。振り返る事は、無かった。
遠くで腹の底から響くような轟音が響き渡る。
そちらに一瞥をくれるスネーク。
その横顔を、輝く朝陽が祝福するように照らし出す。
──不意に通信機が鳴り響く。
「こちらスネーク、只今より任務に戻る」
"英雄"は、光輝く暁の陽射しの中、未来に向かって歩き出した。
完結です。拙い文書ですみません。ここまで読んで下さった皆様と、メタルギアシリーズを作った小島秀夫監督に感謝を、そしてスネークに、彼の人生に幸あらん事を。
2015/9/2 メタルギアソリッドV ザ・ファントムペイン発売。
小島監督、そして、スネークへ。本当にお疲れ様でした。
最高のストーリー、感動をありがとうございました。
いつかまた逢える日を願って。