pray,and play   作:錯乱墓

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まえがき

天上で踏ん反り返る。

他人に指示だけ出して、自身は暇を持て余し寝こける。

たったそれだけが、神に許された所業だった。

 

エスペランサ。

そう呼ばれる、旧い神霊種がいた。

それは、『希望』の概念をその神髄に宿す神だった。

 

――――しかし、彼女は神霊種らしきことなど何一つとして行わなかった。

否。行わなかったのではなく、行えなかった。

大戦によって疲弊する星――――そこに希望など一つとしてありはしない。

たとえ神霊種に生まれた身であれど――――信ずる者がいなくては、いる意味のないお飾りである。

希望のない世界で、誰が希望(わたし)信じ(うん)だのか。

彼女の疑問に、答える者はない。

確かなことは、彼女が神霊種でありながら願われることのない存在であること。

そしてそれ故に、彼女が神霊種として最弱ということだけである。

 

だから彼女は戦乱に関与()()()()()()

新たな種族を創る力など当然ない彼女は、だが自ら直接戦っても他の神霊種には勝てない。

ゆえにどれだけ唯一神の座が欲しくても――――戦えなかった。

そして――――戦えないまま、ついに大戦は終わりの時を迎える。

 

しかし、彼女はあることに気付いていた。

大戦の終わり際――――誰かが、強く希望を抱いていたことに、気付いていた。

希望の神霊種であるところの彼女は、それを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それによって、ようやく戦う力程度は確保できたエスペランサ。

しかし、そこで彼女は、戦うよりも希望を抱いた種族の発見を優先した。

 

人間。

それが、彼女のたどり着いた答えだった。

唯一、神に作られず生まれた知性を持つ獣。

彼女の中で、人間とは概ねそのような認識だった。

神霊種の中で最弱である彼女からしても弱い幻想種。

その幻想種からしても弱い龍精種。

その龍精種からしても弱い――――

そんな序列の天下りを15回繰り返して、ようやくたどり着く弱者の中の弱者。

それが人間。

そんな弱さに愛された種族――――否、()()()()()()()()()()()()()

なぜ、己に知覚できるほど強く希望を抱くのか。

それほど弱いのなら、大戦に関与していなくとも生きた心地はしないはずなのに。

ただの流れ弾一つで、ただの気まぐれ一つで、種が根絶されることさえあり得るのに。

 

――――人間の希望の源泉は、いったいどこにある?

 

その疑問が、エスペランサの頭を支配するのに時間はかからない。

当然、彼女はその答えを知りたがった。

大戦などどうでもいい。

結末など知れたようなもの。

そんな大戦(もの)より――――人間のほうがよほど重要だ。

エスペランサは、そう結論を出した。

その瞬間から――――彼女は、大戦に関する一切の思考を棄却した。

そして。

 

その日から――――エスペランサは、人間を観察することにした。

唯一人間が強く発した、希望の出所を探るために。

 

そして、神は筆を手に取る。

これは神の手記である。

人間の連綿と続く営みの記録である。

見向きもされなかった種族を、見続けた神の話である。

よって――――これを、神が綴る物語と。

 

 

 

神話と、呼ぶことにしよう。


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