pray,and play   作:錯乱墓

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Prologue3 潜入調査

碧い灰が降りしきる、荒野の中を歩く。

雪に視界を閉ざされた、森の中を歩く。

切り立った崖から僅かに生えた、不安定な足場を歩く。

そして辿り着いた――――崖の麓の最奥にある、洞窟の中を歩く。

 

ここが人間の住処。

なるほどよく考えられている――――エスペランサは嘆息した。

このような穴、他種族からすれば獣の巣にしか見えないだろう。無論、他種族の超感覚や魔法があれば中に生物が潜伏していることなど簡単に露見するが――――そもそも人間は他種族にとって獣同然。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういう意味では、獣を装うこの入り口は非常に理に適っている。

下手に知性の溢れる入り口をデザインした結果、他種族の警戒対象になって滅ぼされたのでは笑い話にもならない。むしろ知恵など欠片も感じさせないその入り口は、他種族の攻撃を避ける為の最善手と言える。

だからといって、()()()()()()()()()()()()()()()()危険性が回避出来るわけではないが――――そもそもそれは人間にとって対処しきれない問題だ。

そしてその危険性も出来る限り低くなるよう、集落は主な戦場から距離を置いた位置に作られている。

確かに、人間が住処とするには絶好の条件が揃っている――――否、揃えられている。

だが、考えてみればそれは当然のことだ。

人間はあまりにも弱い――――それはもはや言うまでもない前提条件だ。そして、そんな前提条件を背負わされた中でなお生き続けているということは――――必然、弱くとも生き延びられる環境を整えたということになるのだから。

 

なるほど、ここまで生きることに執着できるならば――――当然、生き延びて成し遂げたい目的があるのだろう。そして、それを為すべく希望を抱くことが出来るのだろう。

エスペランサは希望に満ちた人間の姿を想起し、期待に胸を膨らませ――――洞窟の奥に設置された門を、力強く叩いた。

 

 

 

――――叩いたが、門の開く気配はまるでなかった。

しかし、神霊種である彼女には分かる。分かってしまう。

門の向こう側に、人間が一人控えていることが――――どうしても分かってしまう。

恐らく、その人間は門番だろう。そして、門番はエスペランサのノックに確実に反応していた。

しかし、門を開けるような素振りは一切ない。むしろ多少の警戒心を持っているようだ。

困ったものだ――――エスペランサはため息をついた。

せっかく人間の姿を真似たというのに、それだけでは集落に入れてもらえないらしい。否、そもそもこの門の構造上、向こうからこちらを覗くことも出来ていなさそうだ。

姿が確認できないのでは、如何に人の姿を繕ったところで意味がない。先ほどのノックも、獣避けの罠を掻い潜った野生動物が門に体当たりした音と思われているかもしれない。

それならば、警戒するのも納得がいくというものだ。だが、そうなると今度はどうやって自分が人間であると伝えればよいのかという問題に直面する。

門はかなり厚い丸太で組まれており、声を届けることは難しい。かといって覗き穴すらない門の中にメモを突っ込み向こう側まで届けるというのも現実味がない話だ。

いったいどうしたものか――――エスペランサが思案に暮れていると、不意にその()()()()()()()()()()()

 

「――――誰だ?」

 

若い、少年の声だった。

エスペランサは、特に怪しい素振りも見せることなく振り返った。そして、声の主――――年若い少年の姿を、その目に映す。

 

 

 

齢は十代前半ごろだろうか?

獣の生皮を被り、目を防塵ゴーグルで覆い、口をマスクで隠した少年が一人、こちらを見ていた。

その目はこの世に存在するどんな黒よりも黒く、心らしきものは欠片も感じ取れない。

こんな目をした生き物が、本当に希望を抱くことができるのか――――?

エスペランサは一抹の不安を覚え――――だが、その思考を少年の声に阻害される。

 

「もう一度聞くぞ。――――お前は誰だ?」

 

少年の声には、大きな警戒心がこもっていた。

――――とにかく、少年の問いに答えるのが先か。

エスペランサは思考を断念して、代わりに集落に来る前から考えておいた『設定』を思い起こした。

 

「エス。――――私の、名前だよ」

 

 

 

後に大戦を終結させる人間(リク)と、それを完全完璧な記録として唯一保持することになる神霊種(エスペランサ)は――――こうして、邂逅の時を迎えた。




要約:うちにはインターホンも覗き穴もないので招いてもいない客は帰ってください。
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