「剣姫の弟、冒険者やめるってよ」   作:赤空 朱海

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主人公視点です 感想・評価、誤字報告ありがとうございました


第七話 咲かない花は腐り始める

 ダンジョン探索とは本来数人で潜る方がはるかに効率的である。

 

 頼れる仲間がいることでもしものときの生存率がグッと上がるというのもそうだが、複数の冒険者が各々の役割を理解して連携をすることで、攻撃手段や戦術の幅が大きく広がる。もちろん報酬などは山分けになるのだが、それでも仲間がいるといないとでは 潜れる階層に大きな違いがある。

 

 パーティの重要性を彼自身が誰よりも理解していた。というのも常日頃からソロでダンジョンに潜っていたからだ。同じギルドに仲間や友人が全くいないという訳ではなかったが、自身のレベルの上がらなさにコンプレックスを持っていた彼は、誰にも頼らずレベルを上げようと意固地になって一人で探索をしていた。

 

 昔は姉や他の冒険者と潜ることもあったりしたが、現在ではほとんど一人きりだ。彼自身も非効率的なのは分かってはいたが、自身の弱さを誰よりも理解しているためにどうしても足手まといになってしまうのではという懸念。そして一人で潜りすぎたために連携すること自体が下手になってしまっていた。

 

 そんな彼であったが今日は珍しくロキファミリアの首脳陣の一人である、ガレス・ランドロックと中層ギリギリの上層に潜っていた。倒れてから続いていた不調も遂に完治し、ようやく動けるようになったためにダンジョンに潜りに行こうとしたところ、ガレスの方からたまには一緒に潜らないかと誘われたのである。

 最初は前述の理由から断ろうかと思っていたが、彼自身も復帰一発目のダンジョン探索というのもあり安全を一番に考えて了承したのであった。

 

 普段の彼はいつもならば潜っても10階層、完全装備でなおかつ万全の状態で戦えるときに限り11~12階層に潜るようにしていた。幾らそれなりの技巧を持っている彼でも所詮は、レベル1の低ステータスなので数で押されたり、力で押されたりすると簡単にやられてしまう。

 昔にも何度か死にかけたことはあったものの、毎回窮地を脱することが起こったために何とか今でも生き残ることが出来ているのであった。

 

 だが今回は頼もしい味方であるガレスがいることで多少無茶な冒険をすることが出来た。もしものときには助けてもらえると分かっていると自然と動きにも余裕が出て来る。

 

 現在いるのは上層最後の12階層。彼に迫りくるモンスターは大型の白い猿シルバーバック。普通に一対一で戦った場合にはそれなり苦戦、装備や状況によっては撤退すら考えなければならない相手であるが今回は違う。もしもの時に助けが入ってくれると分かっているので消耗を考えずに戦闘に望める。

 

 今回持ってきたのはガレスと同じ大型の斧である。彼自身は実のところ武器にこだわりがそれほどない。そのときの状況によって変えたりしている。

 

 まずはシルバーバックの顔面に投げナイフを投擲し、牽制をはかる。

 シルバーバックが一瞬ひるんだところですかさず持っていた両手斧をシルバーバックの膝関節に向けて体重と全身の力、そこに両手斧の質量を加えて思い切り振る。肉の厚さから最後まで切断することは出来なかったものの肉を裂き骨まで到達した硬い感触が手に残る。

 

「はぁぁあ!」

 

 片膝を破壊されたシルバーバックは壊された片足を付くような体勢になる。彼はすぐさまにもう一つの地面についていない突き出てた膝関節に両手斧を振るう。肉が裂ける音とともにこちらも骨まで到達させた。両足を潰されたシルバーバックは鳴きながら倒れる。

 

 そして最後に持っていた両手斧でその首を一撃で綺麗に狩った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 死骸は消え魔石だけがその場に残る。前回フィンに放置魔のことで叱られてしまったために仕方なく背負っていたバックパックに魔石を入れる。

 今回の戦いは満足のいくものではなかった。今回使っている両手斧は破壊力はすさまじいものの、やはり彼のステータスでは攻撃が大振りになってしまうため確実に初撃で動きを止める一撃を当てなくてはならない。また自身の気力に見合っていない重い武器は追撃する回数にも限りがあるために、正確に一撃を当てる必要があった。

 

 これらのことを実践で行うことが出来た彼は久しぶりに戦いで満足感を得たのであった。これはもしかしたらステータスがどれか1くらい上がるのでは期待してしまう。

 

「よくやったな!無駄のない三連撃だったぞ!」

 

 そういって端で見ていたガレスが近寄ってくる。

 

 彼にとってガレスは基本的な戦いを教えてくれた師であった。ガレスの戦いはドワーフの力を生かしており豪快であった。そんな戦いに彼は憧れて彼に弟子入りしたのだ。現在は小手先だけのせこい戦いしか出来なくなったが、それでもいつか花開くときが来ればガレスのような戦い方をしたいと思っている。

 彼にとって力は憧れなのだ。

 

「いや、まだまだだ。一体ずつなら何とかなるが集団で囲まれたら今のような動きをする余裕なんてなかった。それに何よりも大振りを連発してると体力的にも厳しい。二撃で仕留められたら良かったんだけど……」

 

 あくまで冷静に自己分析をする。驕ることすら出来ないステータスである以上、自然と自己評価も低くなる。

 

「やはり戦い方としては剣や槍の方がいいのかもしれんな」

 

「……そうかもしれない」

 

 決して自分が望んだ戦い方が出来るとは限らない。

 低レベル冒険者の辛い所だ。

 

「それよりも今日はもう撤収しよう。ガレスのおかげで魔石が溜まるのも早い」

 

 背中にはそれなりにパンパンに溜まったバックパックがある。

 

「そうか。ここら辺が引き時だな」

 

「ん……ガレス、たまには一緒に飲まないか?今日の魔石なら結構な収入になるし、久しぶりに……何て言うのか、こう、少しだけ飲みたい気分になったんだ」

 

 彼自身、酒はあまり得意とは言えない。だがそれでも飲みたいときぐらいはあったりする。今日は調子も良かったし、何より久しぶりにダンジョンに潜れて少しだけテンションが上がっていたのだった。

 思わぬ提案にガレスは満足そうに答える。

 

「構わんが、ドワーフを酒に誘うと明日の朝が大変じゃぞ?」

 

「そう何度も飲む量は間違えたりなんてしないさ」

 

 今夜の晩酌を決めた二人はダンジョンから地上に戻っていくのだった。

 

 ダンジョンの入り口、ギルドの換金所に着いたところで夜の約束をして二人は別れる。

 ガレスは珍しい彼の誘いということでせっかくならと良い酒を買いに、彼は換金所でドロップアイテムと魔石の換金をしていた。酒代は自分も出すと言ったがガレスに断られてしまったので大人しく換金を待っている。

 

 今日の彼の機嫌はかなり良かった。

 今回稼いだヴァリスが結構な額でありそれも気分を上げる一つの要因になっていた。

 

 バベルを抜け出て町の方に向かって歩きだす。

 着ていた服のフードを深く被ると街の方に向けて歩き出す。

 ホームに戻るには少し時間が早い。戻って鍛錬に励んでも良かったが今日は姉がホームにいると言っていたので、出来るだけ会わないようにしたかった。決して嫌いなわけではないがホームでの療養中にずっとベッタリしていたので少し距離を置きたかったのだ。

 

 立ち並ぶ露店を見て回るだけでもそれなりに楽しめる。

 冒険者になる前の子供の頃の夢はこうした露店で自分の店を持つことだった。そんな自分が今は落ちこぼれ冒険者をやっているのだから人生どうなるのか分かったものではない。

 

 そんな露店の中で一件だけ気になる店を発見した。そこはじゃがいもを潰した物を揚げた商品「ジャガ丸くん」を提供する露店であった。彼自身はそこまで好きではなかったが彼の姉はこの商品のことをいたく気に入っているため、名前だけはよく聞いていた。

 実際に自分で買ったことはなかったために興味本位で店の前に行く。すると、背の小さい黒髪の女の子が呼び込みをしていた。そして一目で神だと分かる。

 

(神がバイトしてる……まあ珍しくもないか)

 

 神がバイトしなきゃならないというのも世知辛いなとしみじみと感じる。そう思いながら注文をする。

 

「すみません、注文良いですか?」

 

「はいはい!何にしましょうか?」

 

「小豆クリーム味二つお願いします」

 

「今揚げるので少し待っててください!」

 

 どうやら作り置きはなかったらしい。まあ揚げたてを貰えるというのならそれに越したことはない。失礼かもとは思いつつも、待っている間につい興味本位で何の神様か聞いてしまう。

 

「店員さんはどこの神さま何ですか?」

 

「ボク?ボクはヘスティア」

 

「あー……あなたが神ヘスティアか……」

 

「む、その反応はもしやロキのとこの子供だね」

 

 主神であるロキが前にヘスティアの名前を言っていたことがあった。何でもライバルらしい。何のライバルかは教えては貰えなかったが。

 

「はい、前にロキが話をしてたので。チビだの、何だのと……」

 

「まったく!ロキは子供たちにまでそんなことを話しているのかい!」 

 

 話をしてみるとヘスティア様は気の良い普通の神様であった。バイトも生活費を稼ぐためだと言うので真面目な神様だなと感心してしまう。神と言えば自分勝手なイメージがあるが一概にそうだとは言えないらしい。 

 

「ヘスティア様は眷属とかいないんですか?」

 

「うーん……一応探してはいるんだけどね。やっぱり中々みつからないんだ……」

 

 まあ知名度の問題もあるのかもしれない。眷属が欲しいとつい愚痴を言ってしまうヘスティア様の話を聞いているとジャガ丸君が出来上がる。

 俺は出来立てのジャガ丸くんを受け取ると代金を払う。 

 

「ありがとうございました、また来ますね」

 

「うん、いつでも来ておくれよ」

 

 ヘスティア様はそう元気よく声を掛けると彼を見送った。

 気の良い神様だなと感じた。

 彼はジャガ丸くんを魔石がなくなって空になったバックパックにしまうと、ホームに向けて帰路につくのであった。

 

 ホームの門前まで来ると何か揉めているのか一人の男の子が追いだされトボトボと歩いていった。彼は門番にさっきの子が誰なのかを尋ねると、どうやら入門希望者だったらしいが体格的にも貧弱そうだったので門前払いしたのだと言う。

 少し前の彼であればどうでもいい事と切り捨てたが、今回は偶然にも眷属を募集している神様にあったばかりだ。入るファミリアを探している子を紹介ぐらいしてやっても良いだろうと彼は思った。

 

 すぐさま歩いていく白髪の少年の後を追う。

 

「おーい、少し待って貰えるか?」

 

「……えっと、僕ですか?」

 

「ああ、そうだ。入れるファミリアを探してるんだよな?」

 

「……はい、でもなかなか見つからなくて」

 

 そう言って少年は赤い目を下に向ける。どうやらかなり断られ続けてきたらしい。それならなおのこと丁度良かった。

 

「実は眷属を募集している神を知っているんだ」

 

「本当ですか!?」

 

 さっきまで落ち込んでいた顔は一気に花が咲いたように明るくなる。というか少しぐらい疑いそうなものであるがきっと純真なのだろう。

 

 そうして彼を連れて再びヘスティア様のところまで戻る。

 名前はベル・クラネルというらしい。冒険者になることを誓って故郷の村から出てきたというのだ。彼はその話を聞いて冒険者になりたてだった頃のことを思い出す、自分にもこんな風に若い時があったのだと。まあ、話を聞けばベルとはそこまで年は変わらなかったのであるが。

 

「あの……どこかのファミリアに所属の方なんですか?」

 

 話している最中にベルが唐突に聞き始める。そう言えばどこの所属かも言ってなかったな。というか名前も知らない相手に付いてきたベルはかなりのお人好しなのではないだろうか。

 

「俺は……さっきのロキファミリアの所属だよ…………下っ端だけど……」 

 

 自分で下っ端というのは恥ずかしかったが、まあ隠すようなことでもないので正直に答える。

 

「えっと……それじゃあ僕が冒険者になれたら先輩ってことになりますね!」

 

「うーん、まあ先輩っていうよりはライバルって感じかな。それに今から紹介する神様とうちのロキは仲が良いわけではないし。いや、ある意味では良いのかもしれないけど……」

 

「そうだったんですか……出来ればで良かったんですけど、冒険者について教えて貰ったり出来たらなあって……」

 

 確かにベルがヘスティアファミリアの第一号冒険者になったとすれば先輩から色々教えてもらえると言ったことが出来ない。ギルドからのサポートがあるとは言えやはり心配なのだろうか。 

 何度も言うが今日の彼は機嫌が良かった。だから…… 

 

「あー、それなら少しの間、一緒にダンジョンに潜る?臨時のパーティとして」

 

「本当ですか!ぜひお願いします!」

 

 そう言って笑顔になるベルを見ていると自分も嬉しくなる。

 最近は笑うことすらなかったが、ベルを見てると自然と元気と笑みが出て来る。

 何だか久しぶり笑った気がした彼だった。

 

 その後にベルをヘスティア様に紹介して自分のホームに戻ったのだった。

 




ベル君が登場しちゃいましたね。
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